眼瞼・結膜腫瘍アトラス

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眼腫瘍診療のエキスパートとして長年活躍する著者による、待望の本邦オリジナル前眼部腫瘍アトラス。眼瞼・結膜腫瘍の視診力、診断精度を高めるために、良性・悪性・鑑別疾患の肉眼所見をバリエーション豊かに掲載、パターン別に「疑似体験」が可能。疾患理解につながる病理組織像についても適宜取り上げた。悪性の見逃しや誤診が許されない腫瘍性病変への苦手意識を払拭し、明日からの診療に自信を持って臨むための必携書。
後藤 浩
発行 2017年10月判型:A4頁:176
ISBN 978-4-260-03222-3
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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 臨床の最前線で診療をされているご開業中の先生も,大学病院などの基幹施設に勤務されているベテランの先生も,よほど奇特な方や特殊な環境にないかぎり,日常の眼科診療で眼腫瘍を診る機会は限られていると思います.
 眼腫瘍の臨床で最も大切なことは,視診に基づいた臨床診断ですが,その診断精度は過去の経験に大きく依存します.したがって,それまで一度も目にしたこともない腫瘍を肉眼的所見から診断しようとしても,そこには自ずと限界があると言わざるを得ません.
 そこで,多くの先生に眼瞼と結膜にみられる腫瘍をパターン別に「疑似体験」していただくことを目的に,本アトラスを出版させていただくことにしました.
 眼腫瘍のアトラスといえば,世界の眼腫瘍学の頂点に君臨するWills Eye HospitalのJerry Shields,Carol Shields夫妻の執筆による不朽の名著(アトラス)があります.同書はすでに数回にわたり改訂版も出版され,このアトラスを上回る眼腫瘍の教科書はこの地球上にはありません.ただし,肌や瞳の色が日常診療で遭遇する症例とはかけ離れているなど,われわれにとってはややリアリティに欠けるところが難点ではあります.何よりも解説文は当然,英語です.
 本書は,比較的まれではあるものの,日常診療で遭遇する可能性は決してゼロではない眼瞼腫瘍と結膜腫瘍に焦点を絞り,個々の疾患について可能なかぎりの写真を掲載し,良性・悪性を問わず,そのバリエーションを共有していただくことを最大の目標に据えました.また,各腫瘍の本質を理解していただくうえで参考になると思われる病理組織像についても,簡潔に紹介してあります.
 本アトラスを通じて眼瞼ならびに結膜の腫瘍性病変に対する苦手意識が少しでも払拭され,多くの先生に自信をもって臨床診断ができるようになっていただければ幸いです.

 本アトラスに使用されている写真はほぼ例外なく,東京医科大学病院眼科の視能訓練士兼フォトグラファーである水澤 剛氏によるものであり,彼の長年にわたる尽力に深甚なる謝意を表します.また,チーム発足からちょうど10年目を迎えた東京医科大学眼科眼腫瘍グループの諸氏に感謝します.何よりも日ごろ,眼腫瘍をご紹介いただいている諸先生方に,この場を借りて御礼申し上げます.
 最後になりますが,本アトラスの出版に向けて多くのご助言をいただいた医学書院の方々に感謝申し上げます.

 2017年9月
 後藤 浩

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第1部 眼瞼腫瘍
 眼瞼腫瘍の診かたのコツ
 良性腫瘍
  母斑
  脂漏性角化症
  ケラトアカントーマ(角化棘細胞腫)
  嚢胞性腫瘍
  毛包系腫瘍
  汗腺系腫瘍
  脂腺過形成
  黄色腫(黄色板症)
  血管腫
  神経線維腫
  線維腫
  多形腺腫
  IgG4関連眼疾患
 悪性腫瘍
  基底細胞癌
  脂腺癌
  扁平上皮癌
  悪性リンパ腫
  Merkel細胞癌
 鑑別疾患
  霰粒腫
  膿瘍
  涙小管炎
  眼瞼外反
  伝染性軟属腫
  サルコイドーシス
  アミロイドーシス

第2部 結膜腫瘍
 結膜腫瘍の診かたのコツ
 良性腫瘍
  結膜母斑
  原発性後天性結膜メラノーシス
  眼メラノサイトーシス
  輪部デルモイド
  デルモリポーマ(リポデルモイド)
  乳頭腫
  結膜嚢胞
  涙腺導管嚢胞(涙腺嚢胞)
  マイボーム腺角質嚢胞
  血管腫
  リンパ管腫
  反応性リンパ組織過形成
  脂腺過形成
  神経線維腫
  神経鞘腫
  粘液腫
  黄色腫
  骨性分離腫
 悪性腫瘍
  悪性リンパ腫
  上皮内癌,扁平上皮癌
  悪性黒色腫(メラノーマ)
  Kaposi肉腫
 鑑別疾患
  化膿性肉芽腫
  リンパ管拡張症
  球結膜浮腫
  眼窩脂肪ヘルニア
  肉芽腫
  アミロイドーシス
  睫毛による涙腺導管炎
  石灰化強膜プラーク
  結節性強膜炎

参考文献
索引

ひとり言
 ・手術の適応
 ・診断に苦慮することも多い脂漏性角化症
 ・臨床診断の醍醐味
 ・治療のタイミング
 ・注意しなくてはならない類表皮嚢胞の治療
 ・理解しづらい汗腺由来の腫瘍
 ・難しい神経線維腫症への対応
 ・なぜ,こんなになるまで……
 ・繰り返します! 病理検査の重要性
 ・奥が深い霰粒腫
 ・結膜母斑の治療の適応とタイミング
 ・悩ましいデルモリポーマの治療
 ・結膜嚢胞の治療
 ・眼腫瘍の臨床診断における1つの関門
 ・同時に多発する悪性転化
 ・たかが結膜浮腫,されど浮腫

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外来に置いて診療に役立ててほしい一冊
書評者: 溝田 淳 (帝京大教授・眼科学)
 今回後藤浩先生の『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』を読ませていただいて,「やっと出たか」というのが素直な感想です。このような眼瞼・結膜の腫瘍や鑑別が必要な疾患に関する良い教科書が今までありませんでした。
 実際に外来で診療していると,さまざまな眼瞼・結膜腫瘍あるいは鑑別が必要な疾患に出合います。その頻度はそんなに低くないと思われますが,多くの眼科医は,気付かない,あるいはよくわからないので訴えがなければ気付かないふりをしていることもあるのではないかと思います。参考にすべき,良い教科書やアトラスというものは本邦ではなかったということが一因だと思います。もちろんいろいろな教科書や,シリーズとなっている本の中に本書と同様のテーマを扱っているものはありますが,本書ほどまとまってはいません。一つの症例を見て,さてこれは何なのだろうと考えるときには,参考となるような写真がまとまって出ていて,それと比較をするのが最も容易で確実な方法で,このようにまとまったアトラス形式の本というのは非常に有用です。

 後藤先生の序の文章にも書いてありましたが,世界的な観点からはこの種の本はShields先生たちの書いた腫瘍の2分冊の一つである“Eyelid, Conjunctival, and Orbital Tumors:An Atlas and Textbook”(Third ed, LWW, 2015)という書籍が有名です。眼内腫瘍に関しては本邦でも箕田健生先生や大西克尚先生がわかりやすい本をお書きになっていらっしゃいますが,この眼瞼・結膜腫瘍に関してはそのような点からは落とし穴のようなところとなっていりました。実際に眼底写真を撮影することは多くても,前眼部写真を撮影することは実際に少なくまた困難で,写真を集めることも大変ではなかったかと推測します。写真に関してはShields先生たちの本と比較しても勝るとも劣らずきれいで,加えて日本人の症例ですので,肌の色,瞳の色などの関係から,われわれが日常診療で遭遇する症例により近いものとなっています。いわゆる腫瘍とされているものばかりでなく,鑑別が必要な疾患,あるいは注意が必要な疾患や,日ごろ診察する機会が多い霰粒腫や結膜浮腫なども紹介されています。また見落としてはいけない悪性腫瘍に関しては当然のこととして扱われていますし,IgG4関連眼疾患などに関しても述べられており,最新の情報が網羅されているものと思われました。
 個人的な好みですが,ハードカバーでないのも読者からすると扱いやすく,この本自体の本来の使い方は大学病院の図書館にあるのではなく,開業の先生の外来に置いて,必要があった場合に,その都度比較しながら診療するというのが正しい使い方かもしれません。

 最後に,所々に見られる後藤先生のコラム「ひとり言」の部分もお時間のあるときに読んでいただきたいと思います。診療や治療におけるちょっとしたヒントが示されていて,また著者の後藤先生の診察時のちょっとした心の動きなども見え隠れし,面白く読めるものと思います。余談ですが,本棚に入れてみて気付いたのですが,他の教科書などと比較して高さが高く,入らない本棚があるかもしれません。ただ,この大判サイズのおかげで,鮮明な症例写真が大きく掲載されているので,多少の不便は仕方ないかもしれません。
臨床眼科医の悩みを解決させる決定版
書評者: 坂本 泰二 (鹿大大学院教授・眼科学)
 眼瞼や結膜の腫瘍は,眼科外来で頻繁に遭遇する疾患である。しかし,生検以外で確定診断することは難しく,臨床医を大いに悩ませるものではないだろうか。眼科病理学の日本の第一人者である後藤浩教授による本書は,この悩みを解決するための決定版になるものと言える。

 本書の素晴らしい点は,各疾患を理解するために必要な情報が,第一線で働く臨床医に理解しやすいように書かれている点である。腫瘍性疾患の本態を理解するには,病理組織像を理解する必要があるが,一般臨床においてまず得られる情報は外眼部の所見である。そして,臨床医はそれだけの情報に基づいて,ある程度正確な診断を患者に提供する必要がある。そのため,本書では美しい外眼部写真が過不足なく提示されている。海外の成書では,数多くの写真が提示されているものもあるが,それらは研究のためには重要でも,目前の患者を診断するには,むしろ判断を迷わせる。本書で示された写真は,診断のために重要な所見を中心に示されており,診断のためには必要かつ十分であるといえる。さらに,その所見を理解するために,重要なものには病理像が示されている。特に,外眼部写真の横に病理写真が提示されているのが役に立つ。外眼部を診るときには,病理像を頭に描きながら行うようにと教育を受けるが,病理診断は一般臨床医にはなじみが薄く,よほど病理に詳しくない限りは難しい。しかし,外眼部写真の真横にポイントとなる病理写真があれば,2回,3回と本書を読むうちに自然に頭に入るのではなかろうか。

 さらに素晴らしいのは,著者の「ひとり言」というコラムである。臨床の現場では,どのような点で悩むことが多いか,そしてその対処法はいかにすべきかについて,豊富な臨床経験からのアドバイスがなされている。臨床現場では,むしろこの事こそが役に立つポイントであり,これを読むだけでも十分な価値がある。以前は,門外不出として弟子以外には教えてもらえなかったコツも多く含まれており,これを斯界の第一人者から得られることは本書の価値を一層高めている。病理検査ができない臨床医は,患者のためには外眼部疾患の安易な治療を行うべきではないという言葉には,著者の教育者としての矜持や,臨床に対する厳しい姿勢が示されており,感銘を受けたことも記したい。
 各疾患を理解するためのポイントを文章で表すことは容易でも,その証拠となり得る画像を探すのは難しい。そして,その中から説得力を持つほど美しい画像を得ることはさらに難しい。これだけの美しい写真をそろえるには,相当数の写真の中から厳選されたことは容易に想像できる。そのことに深い敬意を表したい。

 本書は,眼瞼・結膜腫瘍疾患の診断のために眼科医にとって有用であるだけではなく,これにより救われる患者は多いであろう。眼科外来には必ず備えておくべき一冊である。
数多くの症例と病理組織像を提示した必携の書
書評者: 福島 敦樹 (高知大教授・眼科学)
 「今日,外来で見た腫瘍はきっとこのなかに載っている!」,魅力ある帯の文言。さっそく本書を開いてみると,昨日診察した結膜血管腫の患者さんとほとんど同じような写真が……さすが後藤浩先生と思いました。これだけ多くの種類の腫瘍の写真がすべて東京医大で撮影されたとのこと,どれだけ多くの患者さんが受診されているのでしょうか? また,全ての患者さんにこんなに美しい写真を撮影されていること,病理組織像を管理されていることも驚愕に値します。

 本書は,眼瞼腫瘍,結膜腫瘍の2部で構成されています。まず,総論として,眼瞼腫瘍,結膜腫瘍に対してどのように診察すべきかを,診察のコツとして記載されています。続いて各論として眼瞼腫瘍,結膜腫瘍の各種疾患が列記されています。総論では東京医大における膨大な数の統計を基に,各疾患の頻度を知っておくことの重要性を強調されています。次に良性・悪性の見分け方のポイントとして好発年齢,腫瘍の見た目,そして経過を記録としてきちんと残しておくことの大切さ(これがなかなか難しいですね)を記載されています。最後にどのように治療戦略を考えるかについて,全摘出,生検,専門施設への紹介,どの手段を選択すべきかを理路整然,かつ誰が読んでもわかりやすく記述されています。

 各論は良性腫瘍,悪性腫瘍,鑑別診断として非腫瘍性疾患を列記する形で構成されています。各論において特筆すべき点は,各疾患についてたくさんの症例を提示することにより,まさに診療における疑似体験ができる点ではないでしょうか。同じ疾患でもさまざまな臨床所見を呈することがあり,診断に自信を持てない場合が多いと思います。本書では数多くの症例を提示することにより,バリエーションの多さを読者が実感できる仕組みになっています。しかも,それぞれの疾患で病理組織像を提示されており,眼科専門医試験にも役立ちます。臨床像,ワンポイント病理学の項目での解説,ポイントを箇条書きにしている点も,読者が頭を整理できるように組み立てられています。「ひとり言」と題するコラム,実はここに伝えたいことが隠されているのかもしれません。

 最近では各種眼疾患で画像を中心とした書籍が増えました。しかし,眼腫瘍,特に一般診療で必ず遭遇する眼瞼腫瘍・結膜腫瘍に特化した書籍はなかったように思います。しかも,昔からアトラスというと,お堅いイメージがあるのですが,本書は読者にとって非常にフレンドリーで,後藤先生のイメージされた通りのアトラスに仕上がっています。明日から,外来診察室で必携の書籍となることは間違いありません。

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