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大人の発達障害ってそういうことだったのか

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近年の精神医学における最大の関心事である「大人の発達障害とは何なのか?」をテーマとした一般精神科医と児童精神科医の対談録。自閉症スペクトラムの特性から診断、統合失調症やうつ病など他の精神疾患との鑑別・合併、薬物療法の注意点、そして告知まで、臨床現場で一般精神科医が困っていること、疑問に思うことについて徹底討論。立場の違う2人の臨床家が交わったからこそ見出せた臨床知が存分に盛り込まれた至極の1冊。
宮岡 等 / 内山 登紀夫
発行 2013年06月判型:A5頁:272
ISBN 978-4-260-01810-4
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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まえがき-宮岡 等

 「大人の発達障害」という言葉を目にする場面が増えました。雑誌や書籍で取り上げられるだけでなく、大人を中心とする一般精神科臨床においても「本を読んで自分は発達障害に当てはまると思う」「『うつ状態が長引いているのは発達障害を合併しているせいだ』と担当医に言われた」「『発達障害の傾向があるから仕事がうまくできないのではないか』と産業医に言われた」などと来院する患者さんは少なくありません。発達障害を少し勉強すると、従来、遷延性うつ病、寡症状性統合失調症、パーソナリティ障害、適応障害などと診断しつつ、なんとなくしっくりこなかった症例のそれまで見えていなかった面が見えるようになり、新たな対応を思いつくことも出てきました。
 そのような私自身の疑問をそのままぶつけるかたちで、二〇一一年の第一〇七回日本精神神経学会学術総会では「大人において広汎性発達障害をどう診断するか」、翌二〇一二年の第一〇八回では「成人の精神障害における発達障害傾向の評価と対応」をコーディネーターとして企画しました。両シンポジウムは予想以上に多くの方に参加していただき、その話から「大人の発達障害」を理解する必要があると考えている精神科医は多いのに、適切なテキストが少ないことを実感しました。
 このようななか、発達障害の専門家である内山登紀夫先生との対談という企画が持ち上がり、実現したのが本書です。児童精神医学の専門家が論じる「大人の発達障害」には物足りなさを感じていた私が、大人の精神科医の視点で、一般精神科医が理解し実践できる「大人の発達障害精神医学」を、発達障害の専門家から聞き出し、接点、共通点、相違点を探ろうとする試みとも言えます。さらに私のなかには、日本ではどこか壁のある大人の精神科医と子どもの精神科医をつなぎたいという野望があったのかもしれません。
 このような視点をもってこの対談を読んでいただければ幸いです。

 二〇一三年四月

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第1章 なぜ大人の発達障害なのか
 [はじめに]
  私が発達障害に関心をもった理由(宮岡 等)
 [大人の発達障害が急激に増えた理由(1)]
  概念が広がって注目度アップ 暮らしにくくなって症状が顕在化した
 [大人の発達障害が急激に増えた理由(2)]
  マスコミをにぎわす事件が契機に 犯行動機が世間の注目を集めやすい
 [疫学、病因]
  発達障害は決して稀な障害ではない 主な原因は遺伝的要因と環境要因

第2章 知っておきたい発達障害の基礎知識
 [定義と分類]
  「生来性」「発達期での特性の出現」「症状の安定」の三点で定義
 [歴史]
  「アヴェロンの野生児」から自閉症スペクトラムまで
 [概念の整理]
  コアとして押さえておきたいのは自閉症スペクトラム障害
 [ASDの典型症例]
  IQは120以上、進学校の出身 不自然な言動などのアスペルガー感が顕著
 [これだけは知っておきたい知識]
  多くは抑うつなど他疾患を合併
  一般の精神科外来に一割程度はいるかもしれない
 [症状(概論)]
  統合失調症的にみられやすい 一対一の診察場面では普通に振る舞える
 [疾患と捉える範囲]
  小学校教諭にASD者は少ないかもしれないが
  大学教員にはたくさんいるかもしれない

第3章 診断の話
 [基本となる症状]
  主な症状は、社会性、コミュニケーション、
  イマジネーションの「三つ組の障害」と感覚過敏
 [年齢による変遷]
  認知発達は伸びるが、その伸びに
  社会性やコミュニケーション能力がついていかない
 [とりあえずこれだけは聞いておこう]
  相手の立場に立ち、想像して行動できるかがポイント
  社会性の問題は聞き取りも対応も難しい
 [主な症状-感覚過敏(1)]
  コンビニのおにぎりは食べるけど、お母さんの手作りおにぎりは食べられない
 [主な症状-感覚過敏(2)]
  幻聴ではなく聴覚過敏 典型的な症状との違いを区別することが大切
 [主な症状-社会機能、社会性の欠如]
  タオルや下着と一緒に歯ブラシを置く
  「これぐらいわかるだろう」は通用しない
 [合併と鑑別-統合失調症]
  スキゾタイパル、ジンプレックス、ヘボイドフレニーと
  診断したくなる人がいたら、発達障害・ASDを疑え
 [合併と鑑別-緊張型統合失調症]
  緊張型統合失調症とは違う症状としてのカタトニーに注目する
 [合併と鑑別-妄想型統合失調症]
  「自分はバットマンになった」「聖徳太子である」は
  妄想なのか、ファンタジーなのか
 [合併と鑑別-統合失調症と自傷他害]
  ASDの他害には納得できる理由がある
  イマジネーションが障害し、手加減ができない
 [合併と鑑別-統合失調症か発達障害かの診断]
  症状をよく聞かずに「まあいいや診断」は危険
 [合併と鑑別-うつ病(1)]
  「気分が沈む」の意味が伝わりにくい
  話したことがあまり伝わっていない前提で対応を
 [合併と鑑別-うつ病(2)]
  「ツレうつ」はアスペうつなのか?
 [合併と鑑別-うつ病(3)]
  うつ病の症候学や治療学のなかに「発達障害関連うつ病」の分類が必要
 [合併と鑑別-双極性障害]
  時間単位でバイポーラーなんておかしい 自閉症でも躁に見える人がいる
 [合併と鑑別-境界性パーソナリティ障害]
  相手を困らせる行動をとるボーダー
  困らせるとわからずにやってしまうアスペルガー
 [合併と鑑別-強迫性障害]
  自閉症スペクトラム寄りの強迫と強迫性障害寄りの強迫とでは治療法が違う
 [合併と鑑別-拒食症]
  ASDの合併は昔のシゾイド的な人に多い
 [合併と鑑別-身体表現性障害]
  身体表現性障害の心気的な症状は非常に多いが、
  身体に関するこだわり方が違う
 [合併と鑑別-知的障害と認知症]
  知的障害があっても高齢者でも原則は同じ
  治すのではなく、困らないよう支援する
 [診断-問診のしかた(1)]
  まず四つの特徴のうちのいくつかを聞く
  どれか引っかかったら発達障害や合併を疑う
 [診断-診断基準(1)]
  「物を並べる」などの操作的な診断基準をつくるより
  「こだわり」でくくったほうが本質をつかみやすい
 [診断-診断基準(2)]
  「ちょっと変だな」と感じて
  現在の問題が過去とつながっていたら発達歴を聞く
 [診断-問診のしかた(2)]
  初診の四十分のうち二~三分でもよい 発達障害に関連した問診をしよう
 [診断-テストや評価尺度]
  評価尺度は本来、臨床経験がある人が使うべきもの
  「診断基準にこれだけ当てはまったから」は間違いのもと
 [診断-診断のテクニック]
  自閉症は刺激してその反応をみることが大切
  普通の人と目のつけどころが違うこともある
 [男女差をどう考えるか]
  女性はノーマルに振る舞うのが上手
  潜在例は多いが、症状をなかなか訴えない
 [プライマリケア医、産業医の対応]
  仕事そのものはできる人が多い 適材適所で能力を発揮できる環境整備を
 [学校の先生やカウンセラーの対応]
  精神分析ばかりではかえって症状を悪化させる 教育現場と医療の連携も必要
 [明確な診断はつけられるのか]
  典型例については診断できるが、正常との境界は誰にもわからない

第4章 治療とケア-どう捉え、どうするべきか
 [大人の発達障害は誰が診るべきか]
  ASDは大人になって悩み始めるケースが多い
  大人の発達障害は大人の精神科医が診るべき
 [治療上の注意&アドバイス(1)]
  指示は口頭ではなく、文字情報で伝える
  曖昧な表現ではなく、説明は具体的に
 [治療上の注意&アドバイス(2)]
  罪悪感は感じているが反省の表現が苦手 損得勘定での説明が効果的
 [強迫性障害を合併したASDの治療]
  周囲の環境調整を最優先に 視覚的スケジュールの作成も必要
 [入退院にまつわる問題]
  状況依存的で暴れたりよくなったりの繰り返し
  発達障害を考慮したシステム構築が必要
 [うつの治療に関する注意点]
  「頑張って」「休憩しましょう」は×
  生活の枠組みに関する提案を具体的に行う
 [抗うつ薬処方上の注意]
  量や種類を増やしても効果はない
  薬に敏感で、副作用が出やすいケースも多い
 [発達障害の治療の基本]
  本人にとってより快適な環境を用意する
  患者がいかにできないかを周囲にわからせることも重要
 [告知]
  告知によって自分を知るのも治療の一環 病気の説明というスタンスで対応を
 [大人の発達障害の理想と現実]
  社会全体のサポートがもっと必要 排除と配慮という本音と建前
 [臨床現場でできること]
  発達障害を診ない精神科医は、喘息を診ない小児科医と同じ

第5章 ADHDと学習障害
 [ADHDの概念・歴史]
  国によって概念の広さに差 正常との線引きが難しい
 [ADHDの診断]
  不注意・多動性・衝動性は非特異的
  ADHDであれば学童期から症状があったはず
 [ADHDの治療]
  薬物治療が第一選択ではない 生活指導だけでもかなり改善できる
 [学習障害の概念]
  読み・書き・計算の障害があるか 計算機やワープロで代替が可能
 [ADHD・学習障害のまとめ]
  成人のADHDにも薬が使えるようになったため
  ASDもADHDと診断されやすくなる?

おわりに-一般の精神科医の先生方に望むこと

対談を終えて-内山登紀夫
対談を終えて-宮岡 等

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教科書に答えが載っていない疑問に答える書
書評者: 黒木 俊秀 (九州大学大学院人間環境学研究院教授・実践臨床心理学)
 本書は,今年(2013年)5月に福岡市にて開催された第109回日本精神神経学会学術総会に出店していたすべての書店で最も売れ,ついには完売御礼となった一冊であるという。確かに,このタイトルなら思わず手に取り,この2人の対談なら興味をそそられ,この章立てと構成なら心を動かされ,この装丁と価格なら即購入したいと思うだろう。それほどよくできた対談集である。

 宮岡等氏によれば,この対談は,「大人の精神科医の視点で,一般精神科医が理解し実践できる『大人の発達障害精神医学』を,発達障害の専門家から聞き出し,接点,共通点,相違点を探ろうとする試み」であり,「日本ではどこか壁のある大人の精神科医と子どもの精神科医をつなぎたい」と願った企画であるという。なるほど,本書は,2人の共著ではなく,対談だからこそ成功しているのかも知れない。というのも,「大人の発達障害精神医学」は,今日,なお新興の未開の領域であるからだ。

 それ故,宮岡氏は,大人の精神科医として本音の疑問を,発達障害,とくに自閉症スペクトラムの子どもの精神科医である内山登紀夫氏にぶつける。例えば,統合失調症の幻聴と発達障害の特性である聴覚過敏をいかに見分けるかという問いに対して,内山氏は「『この人は普通とちょっと違うぞ』と感じたときに,発達障害を念頭に置いて考えればよい」と答えるが,宮岡氏は「非常に曖昧ですよね」と満足せず,より具体的に聞き出そうとする。そこで内山氏は「幻聴が非常に一過性であったり,切迫感がなかったり,状況依存的であったり(中略)本人の興味や関心と非常に密接に関係している」と詳述するという具合である。こうした対話のなかから,「コンビニのおにぎりは食べるけど,お母さんの手作りおにぎりは食べられない(注:前者は塩分が一定だから)」「深読みは禁物。本当はアスペルガーとボーダーの判別はしやすい」「拒食症とASDの合併は昔のシゾイド的な人に多い」「女性はノーマルに振る舞うのが上手」等々,注目のポイントが列挙される。その結果,2人は「大人の発達障害は大人の精神科医が診るべき」とし,その「診断や対応には,大人でみられる一般的な精神疾患を適切に理解し,症状をきちんと評価できることが大切である」という至極まっとうな結論に達する。本書を通して大人の発達障害を大づかみできた読者には,続いて,内山氏も執筆している『成人期の自閉症スペクトラム診療実践マニュアル』[神尾陽子(編),医学書院]に読み進むことを薦めたい。

 ところで,評者は,2人の対談をどこか懐かしく感じながら,楽しんだ。昔の医局では,こんなふうに先輩や同僚と率直に対話し,その耳学問により,精神科臨床のエッセンスを学んでいったものである。こうした古き良き臨床教育の味が今日のマニュアルやガイドライン重視の研修では失われつつあることを惜しむ。宮岡氏には,ぜひ本書のような「○○○○ってそういうことだったのか」をシリーズ化して欲しい。空欄には何が入るだろうか。新型うつ病,抗認知症薬,早期精神病等々,今日,臨床医が知りたいが,教科書に答えが載っていない疑問はとても多い。
精神科医が持つ発達障害の疑問にダイレクトに答える書
書評者: 広沢 正孝 (順天堂大大学院教授・精神保健学)
 近年,成人の精神科医療の現場では,発達障害を持つ患者に出会う機会が多い。そればかりではない。大学のキャンパスや職場においても,発達障害者と思われる人たちへの対応に苦慮しているスタッフの声をよく聞く。主に成人を対象としてきた一般の精神科医も,もはや発達障害の概念なしに診療を行うことが困難になってきているのであろう。本書の著者の一人である宮岡等氏は,この状況を幕末の「黒船来航」に例えている。それほどまでに,(成人の)精神科医にとって発達障害は忽然と現れ,対応を迫られても,その具体的なイメージが浮かびにくい対象なのかもしれない。

 本書は,発達障害に戸惑いを覚えている精神科医や医療関係者の立たされた状況をくんで編集されたものである。どうしても発達障害に対して不安や苦手意識をぬぐいきれない精神科医(医療関係者)には,どのように「黒船」に対する自身の臨床のスタンスを構築し直せばよいのかといった,そもそもの視点を教えてくれる。この点が,既存の「大人の発達障害」をめぐる書籍や雑誌との大きな相違であるといえよう。

 本書は,宮岡氏が,成人の精神科医,および若き臨床医を育成する教育者の視点から,成人の発達障害者に出会ったときの戸惑いを,児童精神科医である内山登紀夫氏にぶつけながら,発達障害[主に自閉症スペクトラム障害(ASD)]に関する「頭の整理」をしていく形で,展開されている。第1章の「なぜ大人の発達障害なのか」に続く第2章「知っておきたい発達障害の基礎知識」では,ASDの診療に臨む際にわれわれがおさえておきたいポイントが,わかりやすく示されている。とくに成人の精神科外来の中にも,相当数のASD者が含まれている可能性があるという指摘は,日常臨床場面で「発達障害をみる眼」を持つことの重要性を喚起してくれる。

 第3章の「診断の話」では,ASDの診断に当たってのポイントが具体的に示されている。まずは,常にわれわれが「社会性,コミュニケーション,イマジネーションの障害」というASDの三つ組みの症状に加え,感覚過敏に注意を払って患者に向かう姿勢を持つこと,さらには統合失調症にしろ気分障害にしろ,典型的な症状,状態像,経過でなければASDを疑う目を持つこと,そのためにも操作的診断を超えた臨床力を身につけておくこと(特に若い医師の場合)が強調されている。その上でこの章では,統合失調症,うつ病,双極性障害,境界性パーソナリティ障害,強迫性障害,身体表現性障害との具体的な異同が述べられ,ASDを疑う際の具体的なポイントがわかりやすく語られている。なお,この章で興味深い著者らの議論は,精神科診断に当たって,外因,内因,心因に加え発達障害因という第4の軸を持つ必要性の指摘であろう。また発達障害においては,たとえ似た症状であっても,従来の症状論をそのまま用いることが必ずしも適切とはいえないという見解は,さらなる議論が期待される精神医学の課題ともいえよう。

 第4章の「治療とケア―どう捉え,どうするべきか」では,ASD者が呈する症状の心理学的な意味を探るよりも,第一に環境調整を考え,たとえ心理的な意味を考えるにしても,ASD者の視点に立った実践的な意味を捉えることが,治療とケアに重要であると述べられている。本文では,その具体的な例も織り交ぜられ,例えば同じうつでも,発達障害の人たちの呈するうつの場合,「休みましょう」は彼らの混乱を招きかねず,具体的な期間などを明確に示す必要があることなどが示されている。

 第5章「ADHDと学習障害」では,ここまでASDで触れてきた事柄が,ADHDと学習障害に関連しても討論されている。

 繰り返しになるが,本書では成人の精神科医が確かめたかった疑問が,宮岡氏からダイレクトに発せられ,それを児童精神科医である内山氏がわかりやすく解説してくれている。何よりもそのやりとり自体に,これまで抱いてきた発達障害に取り組む際の不安を払拭する契機をつかめる読者もいるのではないかと思う。その意味で本書の構成スタイルには,発達障害に戸惑っている精神医療の専門家に対する「優しい眼差し」が感じられる。

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