まんが 医学の歴史

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医学の歴史は、人類の誕生とともにはじまり、いつの世もらせん状に続いてきた泣き笑いの人間ドラマがあった。世界初! 臨床医であり漫画家である著者による、まんがでみるわかりやすい医学の通史、堂々の刊行。古代の神々からクローン羊のドリーまで、『看護学雑誌』2003~2005年の連載に大幅描き下ろしを加えた。
茨木 保
発行 2008年03月判型:A5頁:356
ISBN 978-4-260-00573-9
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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まえがき
茨木 保

 「イガクシ」・「イシガク」という響きからみなさんはどのような漢字を思い浮かべられるでしょうか? 「医学士」・「医師学」? うーん,それもアリですが,ここでの正解は「医学史」・「医史学」。「医学史」とは医学の歴史のこと。「医史学」とは医学史を研究する学問のことです。

 医史学は面白い。「研究」や「学問」などと堅苦しい表現をつかうと敬遠されてしまいそうですが,医学の歴史は戦国絵巻さながらの人間ドラマと,知的冒険渦巻くワンダーランドです。ボクが医史学に興味を持ったのは,今から20年ほど前,学生時代のポリクリ(臨床実習)で消毒法や全身麻酔の発見の歴史などのミニレクチャーを聴いたのがきっかけでした。

 医学部の講義といえば,最新の医学知識を学ぶことが中心。「臨床に役立たない歴史の話など,聴くだけ無駄だ」と思う学生もいるでしょう。けれど当時,医学の勉強をしながら同人誌や投稿用の漫画を描いていたボクは(へそ曲がりだったせいか),そのレクチャーがやたら面白くて,「国家試験の勉強が終われば,ゆっくり医学史の本を読みたい」と思ったものです。

 ところが,医者になって当分の間は,臨床や研究(ついでに漫画)の仕事に振り回され,医学史の本など読む余裕はありませんでした。そんなわけで,ボクが月刊誌『看護学雑誌』で「まんが医学の歴史」の連載を始めたのは,2003年の春。このタイミングを選んだのは「あまり若い時に手を出すテーマではない」と自重していたからでもあります。

 「医学の進歩に大きな影響を与えた出来事や人物に焦点をあてて,太古の昔から21世紀の現代までの時の流れをオーバービューしたい……」「医学や生物学の知識のない人にも理解できる漫画にしたい……」そうしたコンセプトで制作を始め,前半を雑誌連載・後半を書き下ろしで,完成に丸5年がかかりましたが,ほぼ連載開始時の構想通りにまとめることができました。なお,登場人物の生没年は,2007年12月現在のものとしました。

 本書は一般の読者の方にも内容が理解できるように,専門知識をかなりかみくだいた表現で描いています。医学や生物学,医史学に詳しい方から見れば,いささか歯ごたえの足りない部分もあるかもしれませんが,「医学史入門のための入門書」という位置づけで,肩の力を抜いて読んでいただければさいわいです。

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第1話 医学の芽生え
第2話 医学の父 ヒポクラテス
第3話 ガレノスの呪縛
第4話 中国医学と陰陽五行説
第5話 中世の暗黒時代
第6話 ルネサンス--解剖学の夜明け
第7話 奇人ヴェサリウスと名著ファブリカ
第8話 外科医パレ1 外科学のルネサンス
第9話 外科医パレ2 “我,包帯し 神,これを癒したもう”
第10話 血液循環の発見--近代生理学の父ウィリアム・ハーヴェイ
第11話 17世紀--物理・化学と医学との融合
第12話 顕微鏡の発明
第13話 フックとニュートン--科学史を変えた闘い
第14話 レーウェンフックの虫眼鏡
第15話 近代病理学の誕生--病理解剖学の父モルガーニ
第16話 日本医学の歩み1 中国医学の流入~解剖学の目覚め
第17話 日本医学の歩み2 南蛮医学と紅毛医学~蘭学の誕生
第18話 日本医学の歩み3 杉田玄白と『解体新書』
第19話 華岡青洲1 世界初の全身麻酔手術
第20話 華岡青洲2 その妻,加恵
第21話 打診法と聴診器の発明
第22話 18世紀--二大革命の時代~実験医学の誕生
第23話 ジェンナー1 実験医学の父ハンターとの出会い
第24話 ジェンナー2 “種痘の父”
第25話 日本医学の歩み4 シーボルトと鳴滝塾
第26話 日本医学の歩み5 幕末 蘭方医と漢方医の闘い
幕間に ボクが歴史を描くわけ--死者の記憶をたどる意味
第27話 全身麻酔法の発見1 ロングのエーテル麻酔
第28話 全身麻酔法の発見2 ウェルズの笑気麻酔
第29話 全身麻酔法の発見3 モートンの公開実験
第30話 全身麻酔法の発見4 堕ちたカリスマ
第31話 消毒法の発見1 産褥熱--残酷な結論
第32話 消毒法の発見2 ゼンメルワイスの孤独な闘い
第33話 消毒法の発見3 腐ったワインと消臭剤
第34話 消毒法の発見4 リスターの無菌手術
第35話 パスツールとコッホ1 自然発生説の否定
第36話 パスツールとコッホ2 普仏戦争
第37話 パスツールとコッホ3 結核菌の発見
第38話 パスツールとコッホ4 ワクチン戦争
第39話 北里柴三郎1 血清療法の誕生
第40話 北里柴三郎2 “日本近代医学の父”
第41話 野口英世1 野口“英世”誕生
第42話 野口英世2 “私にはわからない”
第43話 X線の発見1 運命の7週間
第44話 X線の発見2 孤高の学者レントゲン
第45話 抗生物質の発見1 不思議なアオカビ
第46話 抗生物質の発見2 魔法の弾丸ペニシリン
第47話 DNAの発見1 遺伝子と核酸
第48話 DNAの発見2 ワトソン・クリックの二重らせんモデル
第49話 移植医療の進歩1 キメラ誕生
第50話 移植医療の進歩2 拒絶反応との闘い
第51話 生殖医療の進歩1 試験管ベビーの誕生
第52話 生殖医療の進歩2 クローン--生命(いのち)を創る
あとがき
参考文献
まんが医学の歴史 関連年表
ノーベル生理学・医学賞 歴代受賞者
人名索引/書名・学派索引

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「数多くの研究者の参画」を正確に紹介
書評者: 諏訪 邦夫 (帝京短大教授・麻酔科学)
 著者のいう「端っこにひっそりおかれる」医学史を,関心の中央へ持ち出すことに「まんが」を使って見事に成功し,それを医師自身が実行しているのが本書の成果です。

 まんが自体が美しく無理がなく,楽しい出来映えで,「医学史の入門のまた入門」のつもりと謙遜していますが,どうしてどうして。内容はヒポクラテス・ガレノスに始まり現代までカバーし,途中では日本の医学史も扱い,最新部分はDNA・移植医療・生殖医療に及びます。特に,この最新領域のカバーが見事な点が特筆に値します。

 「まんが」と別に,著者の学識自体にも感心しました。本書の医学史は記述が正確で,私は不満を抱かず,むしろ感心しました。その例を1つだけ述べます。

 DNAの二重らせんの発見に関し,ワトソンとクリックの業績以外に,ウィルキンスの立場,ポーリングとの争い,ロザリンド・フランクリンの活動など直接の関係者はもちろん,さかのぼって「遺伝子はDNA」と結論したエイヴェリーや「塩基の相補性」を指摘したシャーガフの役割も正確に記述しています。“history”とは“his story”で,記述する人間の見解でしかありえないとの立場を明快にしているのも痛快です。

 「偉大な業績は,1人の天才でなく多数の研究者の基礎や協力や時には争いで達成される」事実を,著者は基本的立場としています。その「数多くの研究者の参画」を正確に紹介するには対象も資料も増えるだけ幅広い学識が必要で,そうした著者の才能と努力が本書を快く読ませてくれます。

 その点で興味深かったのが,評者の専門の全身麻酔の歴史の紹介で,まがりくねった歴史を要領よく,しかもゴシップやエピソードもちりばめて上手に描きます。

 著者は「モートンが好きでない」と述べていますが,この点は実は賛成者が多く,アメリカ麻酔学会が「エーテル麻酔の発見者はモートンでなくてロング」と主張するのも,類似の感覚と計算に基づきます。私は知りませんでしたが,ロングよりさかのぼって,クラークという歯科医がロチェスターでエーテル麻酔で抜歯を施行とあります。それでも,そのエーテルの麻酔作用をファラディが記述している点はさすがに落としています。

 本書の頁単価は1頁6円強で,医学書の標準1頁20円はもちろん,一般書の標準1頁10円よりも安く,この価格設定にも敬意を払います。
日本の科学リテラシーの普及に貢献する医学史曼陀羅
書評者: 木村 政司 (サイエンティフィック・イラストレーター)
 日本歯科大学新潟生命歯学部に,日本で唯一の医の博物館がある。ここは医学の歴史において残された貴重な古医書や浮世絵,医療器具,道具など約5000点が展示,保存されている。この博物館の特徴は,医の歴史を眺めているうちに,見終わる頃には医の文化が見えてくることだ。

 『まんが 医学の歴史』は,医の歴史が面白おかしく読み取れるだけではなく,偉人たちが伝えた貴重な遺産と,関わった人々の情熱にグイグイと引き込まれる。そういう意味では表現は違うが,医の博物館と本書の感動には,似たところが感じられる。

 科学は,同時代の科学者たちの火花の散らし合で発展してきた。コンプレックスや嫉妬,怒りや悲しみを乗り越えたところに科学の発展があったと言っても言い過ぎではない。

 もうひとつ大切なことは,医学にとってノーベル賞を受賞する研究成果だけが全てではないということだ。科学離れが騒がれて,もうずいぶん経つが,いまだに深刻な問題であり,決して他人事ではない。これは学校教育に限らず,社会全体に問題があることは間違いない。この国の科学技術力は,人々の科学力向上にかかっている。このことを意識して書かれたかどうかよりも,この本を,広く一般,学生,教師,医師,研究者等に読んで欲しいと心から願う。

 漫画は,もはや日本が世界に誇れる文化である。医の探究なくして人類の発展はなかったし,人間が自然の謎にどこまで迫ったかは好奇心を駆り立てる問いであり,文化である。

 著者,茨木保氏は婦人科医でありながら,漫画家である。漫画という手法で書き上げたことよりも,偉人たちのストーリーが,著者の感動を通してそのままヴィジュアルに伝わるパワーに共感する。そういう意味では,本書は医学史曼陀羅と言ってもいい。

 古代ギリシャの医神アスクレピオスの杖には知恵と神秘の象徴である一匹の蛇が絡まり,伝令の神ヘルメスの杖には,医と薬の象徴である2匹の蛇が絡まっていると言われている。いずれも医の象徴として有名だが,2匹の蛇の方は「サイエンスとアート」の調和を表しているとも言われている。サイエンスが技術なら,ここでいうアートとは,幸福と富裕を目指す叡智のことである。蛇は何度も脱皮して若返ることから再生と不死身のシンボルである。つまり,生きものの知恵からイメージし,強い連想へと駆り立てる表現は,まさにアートといっていいだろう。

 本書は,このヘルメスの杖に絡まる2匹の蛇のように,サイエンスとアートの調和が見事に,日本の科学リテラシーの普及に貢献し,医学の知識やものの見方を世代間に継承する方法として,力を授けてくれるものであると確信する。
医学の「入り口」に読者の心をつかむ珠玉の1冊
書評者: 山田 貴敏 (『Dr.コトー診療所』作者・漫画家)
 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが医学の歴史』の著者茨木保という人,その範疇にはないようです。

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう。

 私の著書『Dr.コトー診療所』でも監修をしていただき,それも家庭の事情などまったく考えない理不尽な漫画家による,午前1時の「この場面,医学的に間違ってませんか?」などという電話にも,快く答えてくださる。

 ついでに「この先の展開の医学用語,朝までにメールしてもらえますか?」とずーずーしくお願いしても,「わかりました」と二つ返事で承諾してくださる。つまり,まれにみる“いいひと”なのです。それにつけこんではや8年。たぶんこれからも,頼り続けることになると思います。

 さて『まんが医学の歴史』,ご本人曰く,医学書(参考文献)を読む「入り口」になれば幸いとあとがきに書いておられる。

 私も医学漫画(?)を描いている手前,医学書を読んだことが(ページをめくったことが)あります。なかにはすこぶる面白いサスペンス(推理)小説のような医学書もあるのかもしれません。しかし,この「入り口」以上に面白い読み物がはたしてあるのでしょうか? 「入り口」を読んでひき帰す人も多いのではないか,そう思えてなりません。なぜならば,この「入り口」,良いとこ取りなのです。

 つまり,私たち描き手の仕事に「削り」という作業があります。思うに医学書という書籍には,延々と事実を平坦に並べ立てる,リズムのない音楽のような書物(もちろん私の思い込みも多分に含まれていますが)という先入観があります。事実,たまたま手にとった医学書がその類いのものでしたので。そこから,いかに面白い要素を抽出するか,つまらない(読みにくい)部分を削り取って,読む人の心をつかむ部分を残すか。これ,かなり才能のいる作業だと私は思っています。

 『まんが医学の歴史』は,まさにその作業を成功させている例だと思います(偉そうですが)。『Dr.コトー診療所』でも,夜中に茨木先生をたたき起こして資料を送ってもらったにもかかわらず,その資料の1割しか使わないなんてこともよくあります。ホントすいません。ただ,十送ってもらったからこそ,一が描けることも事実なのです。

 茨木先生は,膨大な量の参考文献を読まれてこの1冊に集約された。読めばわかってもらえると思いますが,いわゆる“良いとこ取り”な本である由縁なのです。

 本音を言えば,これ以上わかりやすく面白い漫画(本)を描かれると,深夜に電話してももう出てもらえないのではないか,売れっ子にならないでと思ったりもした,珠玉の1冊です。
それぞれの医学者にそれぞれの物語が
書評者: 坂井 建雄 (順天堂大医学部教授・解剖学)
 医学史を飾る先人たちの著作を手に取り,その事蹟を詳しく知ると,それぞれの時代の中で医学を築き上げてきた英智と努力に心洗われる思いがする。古代ギリシャのヒポクラテスは,さすがに紀元前400年頃というだけあって,解剖や病気についての理解は表面的なものにとどまるが,「誓い」の中に記された医師としての倫理には現代にも通じるものがある。ローマ帝国の2世紀に博学を誇ったガレノスの著作には鋭い論理の切れ味があり,解剖学の優れた観察をもとに古代の医学理論を集大成した業績は,あらゆる意味で西洋医学の原点である。16世紀のヴェサリウスが著した『ファブリカ』の解剖図の圧倒的な迫力と人を魅了する芸術性は,人体の観察をもとに近代医学を再出発させた原動力であった。17世紀のハーヴィーによる血液循環論,18世紀のブールハーフェによる医学教育の革新が果たした役割については言うまでもない。19世紀以後には,臨床医学,実験室医学,さらに細菌学と医療技術に携わる数多くの医学者の手により,今日の高度な医学が生み出されたのである。リスターによる無菌手術,コッホによる病原菌の発見,レントゲンによるX線の発見,アイントーフェンによる心電計の開発,フレミングによる抗生剤の実用化が今日の医療にもたらした恩恵がどれほどのものか。日本の医学者では,『解体新書』の杉田玄白だけでなく,細菌学の北里柴三郎,刺激伝導系を発見した田原淳の名も挙げてしかるべきだろう。それぞれの医学者に,それぞれの物語がある。

 医学の歴史については,名著と呼ばれるものがある。小川鼎三『医学の歴史』(1964),川喜田愛郎『近代医学の史的基盤』(1977),Singer & Underwood “A short history of medicine"(1962)には酒井シヅらによる日本語訳がある。これらの名著は,高い学識を有する著者が医学の広い範囲にわたって書き上げたもので,教えられるところが多々ある。また解剖学,生化学,病理学,細菌学,外科学,神経学,血液学,麻酔学など,学問領域ごとに優れた歴史が書かれている。とはいえ領域ごとの医学史は初学者には詳しすぎるし,医学史全体を収めたものはやや敷居が高いうえにかなり古びてしまったように見える。医学の歴史について,医師だけでなく一般の人にもなじみやすい入門書がないものかと,長らく願っていた。

 そんなところへ現れたのが,『まんが 医学の歴史』である。これまで歴史上の医学者に親しむ術といえば,後世の伝記の類,若干の肖像画を中心に,少しがんばって本人の残した著作を読むといったあたりにほぼ限られていた。本書では歴史上の医学者たちが,場面の中で生き生きと会話を始め,当人の考えまでが吹き出しの中に読み取れるのだからたまらない。

 こんなフットワークの軽い医学史入門書を,一体誰が書いたのかと思えば,文章と絵のへたくそな医者でもなければ,医学を知らない漫画家でもない。著者の茨木保先生は,婦人科のクリニックを開業する現役の医師であり,『ヤング・ジャンプ』などにオリジナルのマンガを描く漫画家でもある。なるほどとうなるしかない。

 著者の言にもあるように,歴史を書くにはどうしても主観が入り込む。ヴェサリウスが奇人として描かれていたり,登場人物の善悪がはっきりしすぎていたり,個人的に気に入らないところはいろいろあるのだが,それはあくまでもご愛敬である。この本が医学の歴史の面白さを多くの人に伝えてくれそうなのは,実にすばらしいことである。

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