《書 評》福田治彦(国立がんセンター臨床情報研究室長/JCOGデータセンター長)
EBMの普及に伴い,近年わが国でも「研究者主導臨床試験」の重要性の認識が高まり,学会においても臨床試験の発表が増えてきた。製薬企業の治験でのデータマネジメントは,本書の著者である辻井敦先生や監修の大橋靖雄教授のご尽力で急速に欧米のレベルに追いつきつつある。しかし,研究者主導臨床試験においては,まだまだデータマネジメントの認知度は低く,ようやく学会で“言葉”として登場するようになってきたばかりである。これは欧米での1980年前後に相当し,日本は“20年遅れ”と言える。その現状を反映してか,わが国の臨床試験関連書で「データマネジメント」は以下のように説明される。
「データマネジメントは,
・製薬企業やCRO(開発業務受託機関)が行う,治験データの処理業務
・SOP(標準業務手順書)に従って行う業務
・CRF(症例報告書)に記入漏れや不整合がないかをチェックし,施設に問い合わせ,データベースを作成し,解析担当者にデータを渡す業務」
最後のものは幾分マシであるが,それでもデータマネジメントの一部を表したに過ぎない。
「データマネジメント」の重要性が「統計」以上に理解されにくいのには理由がある。統計手法の誤りは論文から読み取ることができるが,適切にデータ管理されたかどうかを論文から読み取ることはできない。やっかいなことに,“汚い”データはそれを“きれい”にしてみないと“汚い”ことはわからず,かつデータを“きれい”にするにはそのための知識・技術が必要であるため,論理的必然として「知らぬが仏」になる。さらにやっかいなことに,データを“きれい”にすると,有効性のデータは悪くなり,毒性は増えることが経験的に知られており,“汚い”データのまま解析すると有効性を過大評価し毒性を過小評価する傾向がある。リスク/ベネフィットの判断がデータ管理の質によって覆り得るのである。
「臨床データマネジメント(Clinical Data Management)」は,英文の教科書ですらまだ数えるほどしかない発展途上の学問・技術体系であるが,「臨床医学」,「生物統計学」,「情報工学」の3つの学問を背景に持つ応用科学・実践科学と位置付けられ,工業分野で発展した「品質管理」,「品質保証」の医学への応用とも言える。臨床研究において「正しい結論」を導くために,治療薬・治療法の有効性・安全性に関する「正しい解析」を可能にする「正しいデータ」を確保することが目的であり,単に得られたデータの記入漏れや不整合(データエラー)をチェックするのみならず,データエラーを最少化する予防策としての,症例報告書のデザインや,計画段階でのプロトコル検討も含む臨床試験の全プロセスが守備範囲である。
本書の内容は,薬剤開発の全体像と品質管理・品質保証の基本的な説明にはじまり,「臨床データ」に対していかに品質管理・品質保証を適用していくかの解説が,実際のプロセスに沿って,「臨床データの発生」→「データ収集」→「症例報告書」→「データベース」→「コンピュータシステム」→「モニタリング」→「標準化」と展開される。また,多分野にわたる応用科学であるがゆえに拡散しがちなデータマネジメントの各プロセスの解説を,読者が全体像を失うことなく読み進められるよう,各章の扉には「本章の位置づけ」がマップとして示されている。
想定読者は主に製薬企業の治験に携わる人のようだが,解説されている原理原則は治験に限らず,手術や放射線治療,集学的治療等の研究者主導臨床試験にも共通であり,それらに携わる臨床医やCRCの方にもぜひ読んで欲しい。いかに臨床的意義の高い仮説に基づく臨床試験であっても“汚い”データからは正しい臨床的結論は得られない。統計家やデータマネジャーの人的基盤整備が“20年遅れ”のわが国で,臨床医が自ら臨床試験を率いるには,欧米では不要のさまざまな努力が必要だが,その努力を無駄にしないためにも,正しい結論を導くヒントを少しでも多く本書から得て欲しい。
《書 評》横田俊平(横浜市大教授・発生成育小児医療学)
最近の合計特殊出生率は1.29にまで落ち込み,少子化対策は待ったなしの状況にあるが,この事態は母親から子育ての経験がどんどん奪われていることを示しており,その分小児科医が子育て支援に大きくかかわる状況を生んでいる。したがって小児科医の“質の向上”が期待される世の中となり,小児医療は学問的にも実践的にも身近な症候から病態,診断を探し当てていく姿勢と,一方で高次先端医療に必要とされる知識,医療技術を身に付けていく姿勢との両方が求められるようになった。
学生や研修医が,小児科学の膨大な知識をすべて吸収することは不可能である。教育の場で成し得ることは,診察技術を徹底して身に付けさせ判断の足場を確立させること,病態の説明を論理的に行いその論理に普遍性をもたせること,細かな知識ではなく曖昧な所見や情報からおおづかみに疾患の流れる方向を把握でき,その流れから疾患の細部へ攻め込む能力を磨いていく姿勢を培うこと,などかと考えている。
本書はすでに第4版を上梓し,これまでこのような基礎的かつ実践的知識の辞書的役割を果たしてきた唯一の書物である。本書は初版より大きく2部の構成で,「症候編」と「検査編」とから成り立っており,その内容はさらに充実したものとなっている。さらに今回は,付録として小児疾患に用いられる種々の「診断基準」が加えられていることに特徴がある。現在,諸専門分野で用いられている「診断基準」が一挙に掲載されていることにより,本書の辞書的役割が飛躍的に向上している。編者の方々の慧眼に敬意を表すべきであろう。
本書は小児科外来,あるいは病棟の手の届くところに置いて使うものであり,その方法で用いることにより真価を発揮するものである。また必ずしも小児科外来だけでなく,救急医療の現場や,他科専門医が子どもの患者に接してあらためて手にする場面でもおおいに力を発揮するだろう。「症候編」は鑑別疾患を見逃さないためにきわめて有用であろうし,「検査編」は小児に特有の変化を確認するのに必須である。大幅に改善された第4版の本書を推す。
《書 評》富樫かおり(京大教授・放射線医学)
今回翻訳・出版された「MRIの基本パワーテキスト 第2版」は,サブタイトルにあるように基礎理論から最新撮像法までをカバーし,少しは努力を再開しようかという気持ちを起こさせてくれる本である。何と言っても,荒木先生の本はわかりやすい。MRIの勉強が嫌われる原因の一つは数式やフーリエ変換といった非理系人間(私自身も含めて)にはアレルギーの出る原理の項目があることと言えるが,本書では必要かつ最小限の知識がまとめられ,図を多用しわかりやすく説明されている。臨床画像が多く提示され,実際の症例の参照が可能なことにより,非理系人間にも理解が容易となるよう工夫されているのは大変ありがたい。また,各章の最後には懇切丁寧にまとめと問題まで用意され,自身の理解度のセルフアセスメントができる。
基本を知らなくてもMRI画像は撮像できるし読影できる,というのが私の常々の負け惜しみである。決してこれは嘘ではない。しかし,ぜひ若い方たちには,基本を理解し,自由自在にMRIを使いこなせるようになっていただきたい。画像を読影するときにも,パラメーターの意味がわかっていれば,より深い読影が可能となる。ルーチン撮像法でうまくいかなくても,依頼内容や患者さんの状態によって撮像法を変えたりする応用力を身につけ,新しい撮像法を積極的に使いこなし,新しい知見を見つけ,MRI診断をさらに発展させてくれる放射線科医が1人でも増えることを期待する。
《書 評》佐藤俊哉(京大教授・医療統計学)
もしあなたがこれから臨床研究を行おうとしている臨床医ならば本書の7章「結果の報告」,8章「落とし穴」,9章「探索的な解析」を,臨床試験のデータセンター関係者ならば本書の6章「データマネージメントと品質管理」,5章「中間解析とデータモニタリング委員会」を,悪いことは言わないからただちにお読みになるべきである。
「一般的にいってわれわれは,通常のがん臨床試験での症例数程度であれば,層別因子は最大3つとすることを提案する(p. 56,最後の文)」
恐ろしい本である。このような記述があちこちにみられる。ランダム割り付けの際にどうしてもバランスをとりたい層別因子を増やすと,いろいろとやっかいな問題が起こることは理論的にはよく知られているのだが,
福田「層別因子はいくつくらいまでにすべきですか?」
佐藤「非常に強い予後因子を1つか2つ,多くても数個が限度かな」
などと言っていた自分が恥ずかしい(福田とは本書の訳者,福田治彦先生のことである)。
著者のひとりCrowley先生は生存時間解析が専門の理論家であるが,1984年からSWOG統計センター長を務めておられ,この20年近くにわたるがん臨床試験の実践経験の成果が本書である。上述のような,理論家が実務経験を積んで得た珠玉の経験知が,本書にはちりばめられている。
通常,この種の本をまとめる際にはどうしても「うまくいった例」だけを紹介したいという誘惑に駆られるものであるが,本書ではうまくいかなかった実例もいくつか紹介されており,これなどにも著者の自信がうかがえるし,うまくいかなかった例のほうが参考になることは多い。5章「中間解析とデータモニタリング委員会」,6章「データマネージメントと品質管理」はがん共同研究グループ,統計センターを運営する上で非常に重要な内容であるにもかかわらず,これまでまとまった紹介の少なかった内容であり必読である。
《書 評》岩テル子(新潟医療福祉大教授・作業療法学科)
“脳卒中の運動療法”。あまりにも聞き慣れたフレーズである。しかし,今,行っている運動療法が機能回復に対してどの程度有効に働いているのか,無駄なことをしているのではないかなど,真剣に悩んだことはあるだろうか。脳卒中後のリハビリテーションは重要だというが,裏付けとなるデータをもって,各トレーニングの有効性を説明できる臨床家はあまりいないのではないかと思う。きちんとしたデータ,エビデンスがないままに,伝統的(古典的?)なモデルにそって一通り,一定期間やってみて,“いまいち回復しなかったなー”などといってはいないだろうか。
本書はそんな悩める臨床家にとって,日々のトレーニングについての深い反省,そして今後のトレーニングについての自信と課題を与えてくれる本である。
さらに,本書は付録として機能障害と適応(よい適応と不良な適応!),筋力トレーニングと身体コンディショニングについても述べている。その中では,脳卒中後の痙性や筋力強化の捉え方について明確に述べており,従来のリハビリテーション介入方法の問題点をエビデンスに基づき投げかけている。
最後に,本書は,機能回復というリハビリテーションの一面だけではなく,トレーニング,ひいては自分の健康やQOLに対する患者のモチベーションの引き出し方や,トレーニングによってもたらされた改善の退院後の継続についてもヒントを与えてくれるものであることをお伝えする。
B5・頁264 定価5,040円(税5%込)医学書院