臨床試験関係者必読の一冊
書評者:佐藤 俊哉(京大教授・医療統計学)
◆珠玉の経験知がちりばめられる
もしあなたがこれから臨床研究を行おうとしている臨床医ならば本書の7章「結果の報告」,8章「落とし穴」,9章「探索的な解析」を,臨床試験のデータセンター関係者ならば本書の6章「データマネージメントと品質管理」,5章「中間解析とデータモニタリング委員会」を,悪いことは言わないからただちにお読みになるべきである。
「一般的にいって我々は,通常のがん臨床試験での症例数程度であれば,層別因子は最大3つとすることを提案する(p. 56,最後の文)」
恐ろしい本である。このような記述があちこちにみられる。ランダム割り付けの際にどうしてもバランスをとりたい層別因子を増やすと,いろいろとやっかいな問題が起こることは理論的にはよく知られているのだが,
福田「層別因子はいくつくらいまでにすべきですか?」
佐藤「非常に強い予後因子を1つか2つ,多くても数個が限度かな」
などと言っていた自分が恥ずかしい(福田とは本書の訳者,福田治彦先生のことである)。
著者のひとりCrowley先生は生存時間解析が専門の理論家であるが,1984年からSWOG統計センター長を務めておられ,この20年近くにわたるがん臨床試験の実践経験の成果が本書である。上述のような,理論家が実務経験を積んで得た珠玉の経験知が,本書にはちりばめられている。
通常,この種の本をまとめる際にはどうしても「うまくいった例」だけを紹介したいという誘惑に駆られるものであるが,本書ではうまくいかなかった実例もいくつか紹介されており,これなどにも著者の自信がうかがえるし,うまくいかなかった例のほうが参考になることは多い。5章「中間解析とデータモニタリング委員会」,6章「データマネージメントと品質管理」はがん共同研究グループ,統計センターを運営する上で非常に重要な内容であるにもかかわらず,これまでまとまった紹介の少なかった内容であり必読である。
◆臨床試験の専門書
残念ながら本書は専門書であり入門書ではない。臨床試験の経験のない臨床医や統計家が読んでも,何のことだかさっぱりわからないかもしれないが,一度でも臨床試験にかかわったことがある方には具体的で役に立つことばかりである。しかも単なるテクニックではなく,「なぜそうしなければならないか」が理論面と経験面から解説されている。がんの臨床試験にかかわっているCRC,データマネージャー,臨床医,生物統計家には欠かせない本であり,がん以外の領域の臨床試験にかかわっている方々にも,とりわけ統計センター,データセンターに関係されている方々には参考となる本である。