第2594号 2004年7月26日


NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


エンパワーメント実践のための知恵袋

糖尿病ケアの知恵袋 よき「治療同盟」をめざして
石井 均 編集

《書 評》瀬戸奈津子(日本看護協会看護研修学校)

 糖尿病ケアにおいて,患者の主体性を重んじるエンパワーメントの意義が唱われる一方で,言葉のみが一人歩きしている懸念があった。そのようななか本書では,臨床現場に即したかたちでエンパワーメントアプローチを具体的に紹介している。

 冒頭で編者は糖尿病ケアに携わる私たち医療者の陥りやすい状況について述べ,医療者と患者が“治療同盟”として,ともに問題解決に取り組む仲間としてお互いを確認できることが大切だと語りかけている。これらの言葉1つひとつが,エンパワーメントの基盤として説得力がある。

“生の声”でエンパワーされる本

 本書は事例編と解説編の2部構成で,事例編では医師,看護師,理学療法士,管理栄養士らのディスカッションによる“生の声”がそのまま掲載されているというオリジナリティがある。

 事例編では参加者の発言で特に重要なものを色文字で強調し,チェックポイントとしてそのパラグラフごとに要点がまとめられている。さらに吹き出しのコメントで解説編の参照ページが挙げられ,ディスカッションについてのより詳細な解説や補足の情報が述べられており,随所に理解を助ける工夫が見られる。コラムでは,インスリンの効果を体感してもらったエピソードなど興味深い記事とともに,糖尿病ビリーフ質問表や変化ステージモデルなども解説されていて便利である。

ケースディスカッションを見直したい

 チーム医療が不可欠な糖尿病ケアにおいて,多職種間でケースディスカッションを行っている施設が少なくないものの,実際のところ話し合われた内容や問題解決に向かうプロセスを振り返る機会がないように思う。本書にならって,ディスカッションをテープに録音し,逐語録に起こして振り返ってみてはどうだろうか。

 行き詰まっていた問題が打開されたり,方向性が見えたりした場合には,その方法を確固たるものにしていくことでそのチームやチームメンバーの実践力向上につながるだろう。あるいは医療者がバーンアウトしそうになっている時,その状態を客観的に見つめ直すことで打開できることがあるのではないだろうか。

 本書のケースディスカッションでは,何よりも事例を提供した看護師の方々の実践力に敬意を表したい。どうすれば患者に療養に取り組んでもらえるかと試行錯誤しながら,患者の言葉に耳を傾け,きめ細やかに観察し,たくさんの情報を包括して捉え,患者の生活上の問題を把握し,解決をめざしている。

 特に「これこそエンパワーメントアプローチだ」と心に染み入ったのは,妊娠したい若年女性の事例である。事例提供者である看護師の,常に患者がどうしたいかを問いかけるというねばり強く,そして暖かい援助の臨場感が十分に伝わる。患者が本当に言いたいことを言うまで,その人のペースにあわせるという優れた技を用いている。小さな変化が確実に積み重なり,患者と援助者がともに成長し,お互いにエンパワーされていくプロセスは,まさに糖尿病ケアの醍醐味といえる。

 またファシリテータの役割を担っている編者の石井均氏の功績が大きい。参加者の発言に対し肯定的にレスポンスを返すことで,援助を支持・強化し,あるいは援助者がそのようにかかわった意図を確認し,詳細を尋ねることで援助を意味づけている。つまり,よいファシリテータの存在によってディスカッションが生きたものになり,チームメンバーがエンパワーされているのだ。糖尿病ケアにかかわる医療者は,チームマネジメント技術としてファシリテータのトレーニングを積むことも必要なのではないかと思った。

日本版エンパワーメントへの期待

 チームメンバーが知恵を出し合い,共有していくことは,単独の知識を全体の知恵とするための方法やシステムとされる“ナレッジマネジメント”の概念に通ずる。その意味で本書は,医療スタッフ教育の道標を示すと同時に,それぞれの医療専門職の業務にのっとって熟練した療養指導を行っている糖尿病療養指導士たちが,ケースディスカッションを行う際のモデルとしても役立つだろう。

 したがって,それぞれの地域や施設でそれぞれのチームが独自の“知恵袋”をつくり集約していくことが,編者の展望である“日本版エンパワーメント”の育成につながっていくと実感した次第である。まずは臨床現場で糖尿病ケアに行き詰まった時にこそ,本書をお薦めしたい。

B5・頁184 定価2,835円(税5%込)医学書院


これからはじめる人から,運用で困っている人まで

医療記録が変わる! 決定版クリニカルパス
副島秀久 監修
済生会熊本病院パスプロジェクト 編集

《書 評》阿部俊子(東医歯大助教授・保健衛生学)

記録の一元化によって得られるもの

 「チーム医療の実現,医療の質の向上は,記録の一元化からはじまる」。これが,本書の一貫したテーマである。記録は医療者のコミュニケーションツールである。医療の現場での医療事故ではコミュニケーションエラーが多い。それは記録を効率的で適切なものにしていくことでかなり予防できるものである。既存の職種ごとの膨大な記録を整理することが,コミュニケーションの取れたチーム医療を行うときに必須となる。それをクリニカルパスという標準医療計画書を使用しながら行うことができる。この点で記録の整理をチーム医療で行おうという医療者に本書は福音である。非常にわかりやすく解説してあり,具体的な方法論と実例が出されている。

作成と運用の方法,具体例が理解を助ける

 本書には,クリニカルパス(以下,パスとする)の必要性,現状の記録の問題点,パスに対しての医師の抵抗,パスの基本構造(アルゴリズム,オーバービュー式,日めくり式パス,ユニットパス,バリアンス集計表,バリアンス分析),POS記録の問題点,アウトカム志向の看護記録の実際,パス作成支援チーム,パス大会実行チーム,原価計算チーム,パスを使用したチーム医療の実際,医療記録の電子化に向けた医療記録の展開などが網羅されている。

 また,これからパスを使用したいが方法がわからないという医療者のために,パスの作成と運用の仕方がわかりやすく書かれている。パスの運営でどのように医師の協力を得ていくのか,パスの適応基準と除外基準の作成の仕方,ゴール設定の仕方などもわかりやすく解説されている。

 さらに,疾患別のパスの具体例として,糖尿病教育入院,肝細胞癌に対する経カテーテル動脈塞栓術,腰椎椎弓切除術,鏡視下腎臓摘出術などが記入例とともに掲載されている。

 パスを用いた記録の整理をすることで,チーム医療の促進ができるが,同時に,医療の質向上のデータ収集ができるツールともなる。基本的に記録を適切にしていない医療機関では質データ収集はできない。本書では,パスを用いたデータ収集をしやすくするためのクリティカルインディケーターの考え方,その使用方法,さらにはそれを用いたベンチマーキングなどもわかりやすく説明されている。

「決定版」にふさわしい1冊

 パスは標準医療計画であり,標準化ということから画一的になるのではないのか,個別性がなくなるのではないか,という懸念はまだ大きいだろう。パスには患者の個別性は入っていない。しかし「標準」があることで,患者の個別性はわかりやすくなる。

 確かに,標準化できないものもある。医療業務の中でルーチン業務と標準ケアはパスにすることができる。個別性,突発事項などは個別対応となる。標準化できるものを整理して標準化しておくと,この個別性・突発事項対応に時間と労力を十分にかけることができるようになる。

 本書はこれからパスを導入しようとしている,さらにはパスを導入しているが運用がうまくいかず困っている方の,ほとんどの問題に対して対応できるものであろう。「決定版クリニカルパス」という名前がふさわしい本である。

A4・頁144 定価3,360円(税5%込)医学書院