第2513号 2002年12月2日


連載
第16回

再生医学・医療のフロントライン

  

歯科(永久・歯根膜,顎骨)の再生

茂野啓示  京都大学再生医科学研究所・臓器再建応用分野
北山茂野歯科医院




 再生医療の歯科への応用は,基本的な枠組みは医科と何ら変わるところはない。歯科口腔領域において,現在,さまざまな組織再生の試みがなされている。私たちが取り組んでいるのは,歯,歯髄,歯根膜,歯周組織(セメント質,歯根膜,歯肉,歯槽骨)下顎骨,上顎洞,関節円盤,下顎神経,顔面神経などである。それぞれが口腔領域の個々のパーツであり,それら個別のパーツについての組織再生は,動物実験の系では一応の成果を上げている。しかし,歯科口腔領域における再生医療の最終目的としては,「歯牙および歯周組織(Dento-gingival complex)」のコンポーネントの再生が1つの到達点と言える。

歯と歯周組織の再生

 歯と歯周組織についての簡単な解剖学的構造を紹介すると,歯=歯牙硬組織(エナメル質,象牙質,セメント質)はその内部に歯髄-血管と神経組織,そして象牙芽細胞を含む繊維性結合組織を備え,歯根膜を介して歯根周囲は歯槽骨,歯肉粘膜と接続され歯としての機能を営んでいる。つまり歯の再生を考える場合,単純に歯牙硬組織そのものだけでなく,歯とその周辺環境を含む1つのユニット「歯牙-歯周組織」の再生が必要となる。それぞれ少しずつ性質の異なる組織をひとまとめに再生させるとことになるので,その難易度はかなり高い。
 現段階では,歯胚(歯の発生過程における元基であり顎骨の中で発育し歯として萌出する)の組織培養や,歯胚の移植などの研究も行なわれているが,まだ,あまり発展していない状況にあるように思われる。
 それならば,「歯」を捉える際,どこかの部分で,例えば人工材料の歯根が歯根膜を有し,機能を営む状態を「歯」として捉えるというような観点での,歯の再生の研究が先ず必要となるように思われる。現在われわれは,歯髄組織や歯根膜等個別の組織再生や,それらを含む歯周組織の再生について研究を進めている。いずれも「再生の場」を得るのが困難ではあるが,着実な成果は上がっている。また近年「再生の足場-scaffold」の作成だけでなく,そこに直接必要とされる細胞,もしくは,その細胞に分化する細胞,例えば幹細胞などを注入したり,その再生の場に最も適した細胞成長因子を注入したりする方法も併用して研究を進めている。これら,さまざまな観点から捉えた,「歯」の再生を研究することにより,歯とその周囲組織(歯周組織)を含んだ再生医療につながっていくのではないかと思われる。

顎骨の再生

 重篤な歯周疾患に陥り,歯の喪失のみならず,歯周組織,歯槽骨に欠損が生じたり,事故,外傷等で歯槽骨欠損に陥ったりした患者に対して,欠損部歯槽骨や歯肉の再生が行なわれるような生体材料に関しては,すでに多数開発されている。われわれの研究では,さらに生体侵襲が少なく容易にそれらの再生が行なわれるような生体材料の開発(成長因子の使用も含め)を行なっており,すでに動物実験で良好な成績が得られている。今後2-3年の間に,臨床に供されるようになると思われる。また新しいタイプの人工歯根,歯根膜付随型の人工歯根についても同様のことが言える。

今後の課題と方向性

 前述したように,歯牙-歯周組織の再生が歯科口腔領域における再生医療の最も大きなテーマであると思われる。人の顎骨の中で永久歯歯胚を何らかの形で再生させることができれば,自己本来の天然歯を常に獲得できるようになるのである。おそらくこのことが今後の歯科口腔領域における再生医療のめざすところではないか。

図1 歯根膜再生型デンタルインプラントの開発。白色家兎とビーグル犬における実験で,抜去した歯牙周囲に付着した歯根膜をdetergent処理(細胞成分を除去し細胞基質のみを残存させる)をし,無細胞化した歯牙を同種移植することにより,歯根膜の再生に成功した
 
図2 下顎骨の再生 A:ビーグル犬の下顎骨に欠損を作成,B:成長因子TGFβ1を含浸させたコラーゲンスポンジを下顎骨欠損部を埋入,C:埋入後縫合,D:術後2週経過


《第1回 心臓細胞再生の現状と展望(福田恵一)》
《第2回 皮膚の再生(朝比奈泉)》
《第3回 角膜の再生(中村隆宏,木下茂)》
《第4回 血管の再生(日比野成俊,新岡俊治)》
《第5回 末梢血管の再生(森下竜一)》
《第6回 骨の再生(大串 始)》
《第7回 軟骨の再生(開 祐司)》
《第8回 中枢神経系再生の研究戦略(岡野栄之)》
《第9回 脳内成体神経幹細胞を標的とした再生医療(桜田一洋)》
《第10回 肝臓の再生(杉本真一,三高俊広)》
《第11回 膵臓の再生(小島 至)》
《第12回 血液の再生-造血幹細胞の体外増幅(堀田知光)》
《第13回 消化器・呼吸器の再生(中村達雄)》
《第14回 網膜の機能再生(高橋政代)》
《第15回 聴覚機能の再生(伊藤壽一)》