総合リハビリテーション Vol.51 No.6
2023年 06月号

ISSN 0386-9822
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

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特集 社会的孤立とリハビリテーション

 リハビリテーションの目標の1つは社会参加ですが,リハビリテーションの対象となる患者やその家族は,残念ながら,社会的孤立のリスクを抱えています.一方で,社会的孤立自体が,認知症や運動機能の低下のみならず,さまざまな内科疾患の要因となり,健康の阻害・要介護状態のリスクとなります.コロナ禍で社会的接点の減少を感じている今日,社会的孤立の負の影響力を知り,その対策をさまざまな視点で講じることは喫緊の課題です.本特集では,さまざまな立場の専門家に,社会的孤立の負の影響,それに対する対策・処方までを解説していただきました.

環境要因と健康格差 井手 一茂 氏ら
 ソーシャル・キャピタル(人とのつながり)の豊かさは健康格差の緩衝要因となり得ることは知られているが,身体活動量にも環境要因が関係している.生鮮食料品店の近接性は歩行量に関係し,近隣の歩きやすさ(walkability)が高い地域ではうつの発症が少ない.また,8項目の近隣環境の望ましさはフレイル発症リスクと関係していた.すなわち,環境を整えることで,暮らしているだけで健康で活動的になるコミュニティ(Well Active Community:WACo)が構築できる可能性がある.著者の大学で産学共同で実施している社会実装実験を紹介する.

社会的孤立が健康に及ぼす影響と孤立対策の現状 村山 洋史 氏
 「社会的孤立」(social isolation)は不健康を引き起こすことが知られており,他者との交流頻度が週1回未満を社会的孤立と呼ぶことが多い.コロナ禍により,社会的孤立者の割合は増加したが,男性や高齢者はその増加幅が大きかった.状況が落ち着いてくるに従い,社会的孤立は元に戻りつつある一方で,孤独感は増悪傾向にある.わが国では2021年,孤独・孤立対策担当大臣が設置され,孤立や孤独に至っても助けを求めやすい社会を作ることが企画されている.東京都足立区の「孤立ゼロプロジェクト」の特色を紹介する.

社会的孤立が生活習慣病の発症に与える影響 和田 高史 氏
 生活習慣病予防の複数の健康スローガンの効果を比較検証すると,「多接」を入れている池田のスローガンのみが有効であった.糖尿病の頻度,血糖コントロールも社会参加頻度と関係する.孤立による健康障害は,健康に関する行動の実施,ストレス要因への消極的対処,睡眠時間短縮などの要因のほかに,末梢血管抵抗が高くなり,収縮期血圧,尿中アドレナリン値が高く,コルチゾール値が上昇し,感染症にかかりやすくなるためと推測されている.

障害のある人のいる世帯の社会的孤立に伴うリスク 大村 美保 氏
 障害のある人たち,なかでも知的障害や精神障害のある人たちは社会的孤立のリスクが高い.社会経済・心理的に不利な状況が複合的に影響している.社会的孤立は,孤立死,虐待,犯罪にもつながるが,「健康」および「選択とコントロール」が注目されている.日本は障害者権利条約を批准しており,障害のある人のインクルージョンに関する実態把握の実施,地域で利用可能な社会的ケアの量的な確保,アクセシビリティを高めること,地域を基盤とした支援拠点の設置とアウトリーチが求められている.2012年に開発された「障害のある人のいる世帯のハイリスク状態を確認するチェックリスト」は,社会的孤立のスクリーニングに活用できる.

「通いの場」を通じた社会的孤立の緩和・予防効果 斉藤 雅茂 氏
 人づきあいがまったくないといった極端な状態像ではなく,他者との交流頻度が週1回未満でも要介護や健康状態に影響があり,介入としては,個別介入よりも集団介入のほうが効果が高い.「通いの場」への参加群は,非参加群と比べて,健康度自己評価や抑うつ傾向の改善,活動能力の維持・改善,認知症発症リスクや要介護認定を受けるリスクの低下,医療費・介護費の減少・増加抑制といった相違が報告されている.また,住民主体の「通いの場」づくりを積極的に推進した地域では,対照地区と比べて,地域単位でみて口腔機能や認知機能の低下者,うつ傾向の高齢者が減少するとの報告がある.社会関係や社会参加の変化を検証した研究はまだ少なく,研究の蓄積は今後の重要課題である.

リハビリテーションにおける「社会的処方」とは──リハビリテーション専門職への期待 西岡 大輔 氏
 社会的孤立が健康に及ぼす影響が大きいことが紹介され,その知見が普及していくとともに,医療機関においても患者の社会的孤立改善のために非医療的な社会資源につなぐことの重要性が提唱され,骨太方針2021でも,「社会的処方」として紹介されている.「社会的処方」は,医療機関が住民にとって強固なつながりになっている場合に有効であり,また医師にとっても,多職種連携,住民の社会背景,地域の社会資源に関心を寄せるきっかけになり得る.しかし,医療従事者による支援には権威性が伴う欠点があり,そのギャップ解消に,医療機関のリハビリテーション専門職やソーシャルワーカーの活躍が期待される.

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特集 社会的孤立とリハビリテーション

環境要因と健康格差
井手 一茂,他

社会的孤立が健康に及ぼす影響と孤立対策の現状
村山 洋史

社会的孤立が生活習慣病の発症に与える影響
和田 高士

障害のある人のいる世帯の社会的孤立に伴うリスク
大村 美保

「通いの場」を通じた社会的孤立の緩和・予防効果
斉藤 雅茂

リハビリテーションにおける「社会的処方」とは──リハビリテーション専門職への期待
西岡 大輔


●巻頭言
リハビリテーション科医師の専門性
新見 昌央

●入門講座
小児リハビリテーションに必要な評価法 ⑥
日本版Vineland-II 適応行動尺度
黒田 美保

●実践講座
精神科作業療法のエッセンス ②
うつ病
早坂 友成

●症例報告
採血後に前腕から手指の感覚障害と運動麻痺の訴えがあり手根管症候群と診断した1症例
井上 菫,他

左視床出血後の余剰幻肢に対し映像による一人称的運動観察治療を併用した1症例
中村 学,他


●研究費獲得への道 ①
研究費申請書の書き方
佐伯 覚

●スポーツ用義足の最新事情 ①
「歩く」から「走る」への機会創出
岩下 航大,他

●専門職からみた第49回 H.C.R.(国際福祉機器展)レポート vol.4
⑦福祉車両等自動車関連
鈴木 基恵

⑧小児用福祉用具──小児に使用すると便利な用具
清水 陽一

●Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
斎藤茂吉の『つきかげ』──血管性認知症発症前後の状態
高橋 正雄

●Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「さかなのこ」──さかなクン的人物に宿る光と影を描く
二通 諭

●学会報告
第53回中国四国リハビリテーション医学研究会
木下 篤


「総合リハビリテーション賞」決定

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