標準的神経治療
しびれ感

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“しびれ”を呈する神経疾患に特化した日本神経治療学会作成の治療ガイドライン。しびれの病態機序や検査からしびれの原因である神経疾患の概要とその治療までを、エキスパートらが解説する。
監修 日本神経治療学会
編集 福武 敏夫 / 安藤 哲朗 / 冨本 秀和
発行 2017年04月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-03018-2
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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「しびれ感」発刊にあたって

 この度,神経治療学会神経治療指針作成委員会として標準的神経治療書籍版「しびれ感」を発刊する運びとなりました.この書籍は,日本神経治療学会がテーマを設定して毎年3~4本発行する標準的神経治療の企画中で,特に多くの読者が予想されるテーマについてその一部を書籍化するという初めての試みによるものです.
 標準的神経治療には,わが国の診療ガイドラインの中で希少疾患であるため大規模エビデンスを構築しにくく診療ガイドラインとして成立しにくいものや,疾患横断的に認められる主訴を中心として取り上げるものなどがあり,主要疾患に関する診療ガイドラインの隙間を埋める役割があります.今回取り上げた「しびれ感」は後者の代表的なもので,眩暈,ふらつきと並んで日常診療で最もよく遭遇するものです.本書では脱力など運動麻痺によるものを明確に除外する意味でしびれ感としており,一般的に診療場面で主訴として記載されることの多い「しびれ」のうち,感覚障害によるものを対象としています.しびれ感の病態生理や原因疾患についてもわかりやすく解説し,主訴から鑑別診断,治療にいたるプロセスをエビデンスに基づいて示しています.
 エビデンスレベルの記載は,公益財団法人日本医療機能評価機構の医療情報サービス(Minds)の『Minds診療ガイドライン作成の手引2007』に準拠しました.推奨度とエビデンスレベルは日本神経治療学会治療指針作成委員会のCOIマネージメント規定に従って,治療指針作成委員長,COI委員会委員長,最終的に日本神経治療学会理事長が検討し承認されたものです.執筆者が日本神経治療学会役員の場合には,毎年以下の基準でCOI申告を日本神経治療学会理事長に提出しています.また,それ以外の分担執筆者の場合は,執筆に際してCOIを理事長あてに事前提出して頂きました.COI公表の基準は,役員報酬,株式,特許権使用料,講演料,原稿料,受託研究費,共同研究費,奨学寄附金,寄附講座への所属,旅行・贈答品などの提供について判断しました.なお,申告対象とした企業などの団体は,上記の規定にあるように「医学研究に関連する企業・法人組織,営利を目的とした団体」すべてです.本書籍に関して公開が必要と判断された各執筆者のCOIは各章の末尾に示してあります.

準拠した『Minds診療ガイドライン作成の手引2007』
エビデンス・レベルの分類
I;システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II;1つ以上のランダム化比較試験による
III;非ランダム化比較試験による
IV a;分析疫学的研究(コホート研究)
IV b;分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
V;記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
VI;患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

推奨度の分類
A;行うよう強く勧められる(少なくともレベルII以上のエビデンスがある)
B;行うよう強く勧められる(少なくともレベルIV以上のエビデンスがある)
C;行うよう勧められる(レベルIV以上のエビデンスがないが,一定の医学的根拠がある)
D;科学的根拠がないので勧められない
E;行わないように勧められる

 ただし,稀少疾患については信頼できるエビデンスが乏しいため,科学的根拠に基づいて推奨を提示できない場合が多いことが指摘されています〔『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』の「Mindsからの提言 希少疾患など,エビデンスが少ない領域での診療ガイドライン作成」(http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/Proposal2.pdf)より〕.このため,疾患,症状の種類によりエビデンス,推奨度の記載を省きましたが,ご容赦願います.

 本書の刊行にあたっては,全体の構成に関する監修は亀田メディカルセンター 神経内科部長の福武敏夫先生,各論の監修については安城更生病院 副院長の安藤哲朗先生に大変お世話になりました.また,標準的神経治療の書籍化について,医学書院の松本哲さんにいろいろアドバイスを頂きました.日本神経治療学会治療指針作成委員会を代表し,この場を借りて厚く御礼申し上げる次第です.

 2017年3月
 日本神経治療学会治療指針作成委員会委員長
 冨本秀和

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第I章 しびれ(感)の概念としびれ(感)をきたす原因・病態・疾患
  1.しびれの意味・語源
  2.しびれの意味する範囲
  3.しびれ(感)の原因・病態・疾患

第II章 しびれ感の解剖・生理学
  1.はじめに
  2.しびれ感の神経生理学
  3.しびれの解剖学:性状と皮膚受容器の対応
  4.解剖・生理学を踏まえたしびれの問診
  5.おわりに

第III章 しびれ感の評価
  1.はじめに
  2.病歴
  3.身体所見
  4.補助検査

第IV章 しびれ感の主要な原因疾患
 1 脳梗塞・脳出血
  1.はじめに
  2.脳梗塞・脳出血による障害部位と「しびれ感」
  3.手口感覚症候群
  4.脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)
 2 頸椎症
  1.はじめに
  2.頸椎症性脊髄症
  3.頸部神経根症
 3 腰部脊柱管狭窄症
  1.概念と定義
  2.疫学
  3.診断基準
  4.神経性間欠性跛行の分類と下肢のしびれ感および痛みの特徴
  5.診断サポートツール
  6.治療
  7.下肢のしびれ感の予後
 4 多発性硬化症・視神経脊髄炎・脊髄炎
  1.はじめに
  2.しびれの責任病変と病態
  3.しびれの頻度
  4.しびれの治療
 5 Parkinson 病のしびれ感
  1.はじめに
  2.感覚障害の病態
  3.診療の留意点
 6 restless legs 症候群
  1.はじめに
  2.RLSの診断と自覚症状
  3.RLSのしびれ感
  4.RLSの治療
 7 筋萎縮性側索硬化症
  1.はじめに
  2.ALS以外の病態の可能性
  3.ALSに伴う感覚障害
 8 脊髄空洞症
  1.脊髄空洞症における痛みの特徴
  2.脊髄空洞症における痛みのメカニズム
  3.脊髄空洞症の痛みに対する治療
 9 糖尿病性神経障害
  1.はじめに
  2.頻度
  3.程度
  4.病態
  5.治療
 10 Guillain-Barré 症候群・慢性炎症性多発ニューロパチー
  1.はじめに
  2.臨床症候
  3.検査所見
  4.治療
 11 small fiber neuropathy
  1.はじめに
  2.頻度
  3.病態
  4.診断
  5.治療
 12 遺伝性ニューロパチー
  1.遺伝性ニューロパチーとは
  2.CMTの概念
  3.CMTの治療
 13 アミロイドニューロパチー
  1.はじめに
  2.臨床像
  3.病理像
  4.治療
 14 腕神経叢障害
  1.はじめに
  2.鑑別疾患
 15 手根管症候群・外側大腿皮神経障害・足根管症候群
  1.手根管症候群
  2.外側大腿皮神経障害
  3.足根管症候群
 補 痒みについて
  1.はじめに
  2.痒みには固有の感覚線維がある
  3.痒み線維と痒み線維の相互作用
  4.痒みの中枢神経の伝導路と大脳投射野
  5.痒みの末梢性および中枢性感作
  6.神経内科と痒み
  7.neuropathic itchの治療

索引

COLUMN
 狂言「痿痢(しびり)」のあらすじ
 Tinel徴候
 シガテラ中毒
 代表的な内科的原因によるしびれ(感)
 過換気症候群におけるしびれ
 しびれと視床
 頸椎症性脊髄症診断における単純X線機能撮影の重要性
 頸椎レベルと頸髄レベルの相対的位置関係
 頸部神経根症による「前根痛」
 上肢筋の髄節支配
 「腰部脊柱管狭窄症」という名称の誤解
 神経根障害のレベル診断における注意点
 腰部脊柱管狭窄症におけるMRI診断の限界
 Willis-Ekbom病
 SOD1 遺伝子変異について
 肢端紅痛症

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しびれ感を主軸に診断・治療の標準化を試みた画期的な一冊
書評者: 山田 正仁 (金沢大大学院教授・脳老化・神経病態学/神経内科学)
 本書は日本神経治療学会が作成する標準的神経治療シリーズの中の一冊で,福武敏夫(亀田メディカルセンター神経内科部長)先生,安藤哲朗(安城更生病院神経内科部長)先生,冨本秀和(三重大大学院教授・神経病態内科学)先生の編集による。“しびれ感”といった日常診療で頻繁に遭遇する症状を主題にした診断や治療の標準化の試みはユニークである。本書では,“しびれ感”の病態機序や検査について述べた後,“しびれ感”を呈する神経疾患の概要とその治療について解説しており,知識の整理や診療の実践に役立つ。

 総論部分では,神経症候学や神経生理学のエキスパートが,“しびれ(感)”の概念,解剖・生理学,評価方法について語っており,大変興味深く参考になる。“しびれ”という日本語には感覚異常と運動麻痺の両者が含まれること,本書が対象とする感覚異常としての“しびれ”(=“しびれ感”)においても具体的表現(訴え)にはさまざまなものがあり(“じんじん”“びりびり”など),それらの背景となる原因や病態生理も多様であることなどがわかりやすく解説されている。最もコモンな訴えの一つである“しびれ”についての問診や診察のコツが,基礎になる解剖や生理学を踏まえて理解される。“しびれ感”を訴える患者さんの神経診察時にみられるさまざまなサイン(徴候)について,診断上のエビデンスレベルが示されている点も画期的である。

 各論部分では,“しびれ感”の主要な原因疾患を取り上げている。脳梗塞・脳出血,頸椎症,腰部脊柱管狭窄症,多発性硬化症・視神経脊髄炎,Parkinson病,restless legs症候群(RLS),筋萎縮性側索硬化症,脊髄空洞症,糖尿病性神経障害,Guillain-Barré症候群(GBS),慢性炎症性多発ニューロパチー(CIDP),small fiber neuropathy,遺伝性ニューロパチー,アミロイドニューロパチー,腕神経叢障害,手根管症候群・外側大腿皮神経障害・足根管症候群などが含まれる。それぞれの疾患について,病態から臨床的特徴,診断,治療までまとめられ,可能な範囲で治療法のエビデンス・レベルや推奨度が示されており,診療の参考になる。

 本書のテーマである“しびれ感”を主軸に,疾患ごとにみられる症状を見直すと,患者さんが訴える“しびれ感”の意味するものに大きな違いがあることが改めて浮き彫りになる。例えば,RLSの項で指摘されているように,RLSでみられる下肢の内部に存在する,動きのあるような異常感覚は,患者さんが“しびれる”と表現する場合でも,それは本来の“しびれ感”ではなく,患者さんは自分の感じる異常感覚を“しびれ感”に例えているだけである。また,総論部分で解説されているように“しびれ感”と“痛み”は本来,異なって分類されるべきものであるが,実際には“痛み”を伴う“しびれ感”であることが多く両者を区別することは困難で,両者が一体となった症状を訴える。さらに,本書の末尾には,“痒み”についての優れた解説がある。疾患や病態ごとにみると,“しびれ感”および類縁の症状の基盤となっている病態生理にはまだ不明な点が多く,今後,それらの解明がよりよい治療法につながることが期待される。
しびれの諸問題に初めて正面から取り組んだ意欲作
書評者: 北野 邦孝 (松戸神経内科・院長)
 このたび,日本神経治療学会監修「標準的神経治療」シリーズの一冊として医学書院より『しびれ感』が発刊された。福武敏夫先生ほか気鋭の先生方編著によるもので,診療ガイドラインとして多くの読者が期待するであろうテーマの一つとして選ばれたものである。確かに,日常診療で最も多い主訴は「頭痛」「めまい」「しびれ」と言われるが,前2者については研究や論文も多く独立した書物や神経学書の中で特別に取り上げられ,かなり系統的に記述されることが多い。一方,非常に身近な問題である「しびれ感」は多くは付加的に述べられるにとどまっており,実は十分掘り下げられずに放置されてきた感がある。そのような意味で本書は誠に時機を得た企画であり神経内科医としては非常に興味をそそられる。

 本書では,第I~III章で「しびれ感」の概念,解剖・生理学,臨床的な評価など総論的な問題が記述され,第IV章では15に及ぶ疾患,病態について各論的に取り上げられている。特筆すべきことは,本書がしびれ感を単に末梢神経や中枢神経に起因する問題に閉じ込めることなく,多くの原因疾患を横断的に網羅する形で(例えば,パーキンソン病のしびれ感,ALSのしびれ感など)を項目として取り上げていることである。「しびれ感」を編集,執筆された諸先生方の,神経学の対象としてしびれに正面から取り組むという意欲が読み取れる。「しびれ」は「痺れ」とも書かれる多義語であり,「痺れ」には「運動麻痺」を表現することもあることは本書でも繰り返し注意を喚起されているが,本書では「しびれ感」あるいは「痛み」という「異常感覚」という感覚系の問題に絞られている。

 また,本書は《標準的神経治療》シリーズの一つとして作り上げられているために,症状,徴候,治療に至るまでできるだけエビデンスに基づくということを強く意識して記述されている。もちろん,あらゆる項目(特に症候では)について個人的意見や症例報告レベルを超えるエビデンスが得られるわけではないが,本書では一貫して『Minds診療ガイドライン作成の手引き2007』に準拠したエビデンスレベル(I~VI)と推奨グレード(A~E)が記載されている。今後,「しびれ感」の診療現場で多くの神経内科医の判断に重要な情報を提供するものと期待される。なお,本書では17のCOLUMNが散りばめられているが,そこでも日常診療で陥りやすい誤りなどがいくつか指摘され,面白く読みながら新しい知識が得られる。第IV章(補)の「痒みについて」では,痒みを伝える特定のC線維の同定など痒みの神経科学の進歩などが述べられていて,まさに“痒いところに手が届く”構成になっている。

 本書はしびれをめぐる諸問題に初めて正面から取り組んだ意欲的な好著として広く神経内科医,一般臨床医など神経内科や内科外来診療に携わる全ての方にお薦めしたい。

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