透析ハンドブック 第5版

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わが国の在宅血液透析のさきがけとなった新生会第一病院のスタッフが、今までの患者指導のノウハウを結集して作り上げた透析の入門書。1985年の初版発行以来、好評を得て多くの読者に親しまれていたが、今回の第5版では紙面をカラー化して装いを一新。より分かりやすくなるとともに、さらに細かな知識を得たい人向けに記述を充実。
監修 小川 洋史 / 岡山 ミサ子 / 宮下 美子
編集 新生会第一病院在宅透析教育センター
発行 2018年02月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-03447-0
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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第5版の序(小川 洋史)/はじめに(執筆者ら) 

第5版の序

 1985年に「透析ハンドブック」初版が刊行され,1991年に第2版,2000年に第3版,2009年に第4版が刊行されました。そして,2018年に今回の第5版の刊行となるわけですが,第5版では今までの「透析ハンドブック」とは全く異なり,対象を透析患者さんではなく学生,医療者向けにシフトしました。
 2009年から2018年の間においてもわが国の透析医療は大きく変遷してきています。わが国の慢性透析人口も2015年12月末では324,966人ですが,日本透析医学会統計調査委員会では,2021年に348,873人で最大となった後は減少に転ずると推計しています。
 1998年に透析導入した患者の原疾患の第1位は慢性糸球体腎炎を抜いて糖尿病性腎症となりましたが,2011年の透析患者総数においても糖尿病腎症は慢性糸球体腎炎を上回りました。慢性糸球体腎炎の導入は減少していますが,腎硬化症の透析導入は徐々に増加しています。2015年12月末での導入患者の原疾患割合は,慢性糸球体腎炎16.9%,腎硬化症14.2%と伯仲してきています。
 糖尿病,高血圧症という,全身の血管に問題をひきおこす疾患が原疾患となり腎臓病をひきおこした場合,脳,心臓,末梢血管にも既に病変が及んでいる状態です。このため透析患者の10年生存率以上の長期生命予後は低下する傾向にあります。また,長期生命予後の低下には高齢化も一因となっています。導入年齢は年々上昇し,2015年12月末で69.2歳です。透析患者の高齢化に伴い,最近では在宅での生活を維持するための筋力低下,筋肉量減少,低栄養の問題もクローズアップされています。
 時代と共に,また社会構造の変化と共に疾病の変化がみられます。変化に対応する能力を獲得するためには基礎能力が大事です。この「透析ハンドブック」では基礎能力を得ることに重点をおいて編集されています。初版からの伝統である簡潔明瞭な記述は変わっていません。この本を十分に活用し,明日の医療を担う人間,医療者になっていただきたいと思います。

 2018年1月25日
 新生会第一病院 院長
 小川 洋史


はじめに

 当院が腎臓病の専門病院としてスタートして,47年が過ぎました。この本は,開院当初から活動していた自主管理透析のチームの実践が基盤となっています。その後,携わるスタッフも世代交代しつつ,セルフケア支援を通じてたくさんの患者・家族の方に関わり,共に成長させていただきながら,今日まで受け継がれてきました。
 初版から第4版までは,患者・家族を対象に,より良いセルフケアのための手助けとなるように願い,また医療者にも活用していただけるように作成してまいりました。今回の第5版は,対象を医療者に変更しました。初めて透析室で勤務する方や,病棟,在宅などさまざまなところで腎不全患者にかかわる医療者の方に,基本的知識を理解するために活用していただきたいと思っております。日々進歩している新しい知識を盛り込み,写真やイラストを入れカラー刷りにするなど,みやすくなるように工夫しました。しかし,これまで通り,私たちは腎不全患者さんに,自分の身体や病気についてよく知り,より良い状態に生活を整え,透析をしながらもその人らしく生活して欲しいと願っております。
 腎臓病領域で働く医療者を取り巻く環境は,変化しています。血液透析だけではなく慢性腎臓病も含めて範囲が拡大しています。透析療法指導看護師も慢性腎臓病療養指導師に名称を変更し,透析看護認定看護師や慢性疾患看護専門看護師も増え,新たに腎臓病療養指導士の資格も創設されました。臨床工学技士会には血液浄化専門臨床工学技士認定制度があります。このように専門性の高い領域ですが,この本は,初めの一歩を踏み出す入門書として活用していただける内容となっています。
 早いもので初版から33年,これまで多くの患者さんや医療者の方々にご利用いただき,執筆者一同感謝しております。
 この本を世に送り出すにあたっては,当事医学書院に在籍されていた乾成夫氏が出版を勧めてくださり,初版から今回の改訂版まで七尾清氏にはひとかたならぬご支援をいただきました。七尾氏とは,本書のシリーズである,「生活と透析」「CAPDハンドブック」「在宅血液透析ハンドブック」「糖尿病ハンドブック」など患者さんや医療者向けの本も共に出版してきました。
 また,初版から今回の改訂版までご指導,ご尽力いただいた,前院長斎藤明氏,元看護部長池井みや子氏,近藤重子氏,稲田清美氏,元看護師長細野容子氏,玉渕恵氏には心より感謝いたします。
 そして,初版から本書の作製,出版に関わってくださった多くの方々に深く感謝いたします。

 2018年1月末日
 執筆者ら

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1 腎臓の構造と働き
2 慢性腎臓病(CKD)と腎不全
3 腎代替療法
4 血液透析の原理・ダイアライザ・透析液
5 透析液供給システム
6 透析手順
7 バスキュラーアクセス(シャント)
8 栄養と食事療法
9 透析中の症状と対処
10 透析中のトラブルと対処法
11 透析と医療安全
12 透析と合併症
13 検査データの読み方
14 透析と薬
15 リハビリテーション(運動療法)
16 糖尿病腎症患者の観察と指導
17 心の問題と対応
18 患者・家族への日常生活上の指導
19 透析と社会保障

 引用・参考文献
 索引

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「生きた経験と知恵」が結集! 「透析ライフ」に必要な項目を網羅
書評者: 佐藤 久光 (増子記念病院/日本腎不全看護学会理事長)
 『透析ハンドブック 第5版』を手にしました。私は,この書籍の書評を書かせていただくことを,大変光栄に思っています。

 一般に,医療関係の書物は,それを必要とする対象が限局されるものです。「透析」ということに関しては,患者さんやご家族を対象とするものもあります。医療従事者向けに書かれた冊子も沢山あります。しかし,その両者にとって,必要にして十分な内容を網羅した冊子というのはあったでしょうか。

 私は,この「ハンドブック」を,そんなあり得ないことを実現させた書物として興味深く読ませてもらいました。

 本書の最大の特徴は,「患者さんとそのご家族や周囲の方々の生活の質(QOL)をどう高めることができるのか」という視点が貫かれているという点です。腎臓の働き,慢性腎臓病(CKD)の経過,腎機能が廃絶した後の生活の仕方,透析治療の方法や薬物,運動,食事,さらには社会資源の活用の仕方まで,「透析ライフ」にとって必要な項目が全て網羅されているのです。

 そして,その目的のために,医療従事者(とりわけ看護師)は何ができるかということです。ですから,具体的にならざるを得ないのです。「良い看護か悪い看護か」などを評価するのは受ける側です。それは,具体的な行為として表現されます。どんなに立派な理論も「上手な穿刺」には勝てないのです。本書では,実際に行うべき支援の中身が,具体的で実にわかりやすく,図表を交えて記述されているのです。

 なぜ,このような書物ができあがったのか。それは一朝一夕にできることではありません。透析療法の黎明期からかかわった人々が,患者とのかかわりの中から得られた「生きた経験と知識」を結集して作りあげた書物なのです。監修された先生方の高い能力と情熱が伝わってきます。そして,時代の変化に合わせ,CKD対策や療法選択の問題にも触れ,版を重ねてきたのです。

 この「ハンドブック」は,患者さんやそのご家族の手元にも届くと考えなければなりません。とすると,「指導」する側の看護師たちは,「学んでいる患者」「よく理解している患者」もいることを想定して臨む必要があります。

 私たちは,患者さんたち以上によく学んでおくことが必要となります。そして,本書の内容を一通り理解しておけば,透析における看護は標準以上のレベルに到達します。そこからまた新しい考え方を加えていくことが可能となります。そういう意味では,本書は,私たちが成長することを強要する書物という性質も持っています。

 うかうかしていられません。私もしっかり読んで,学んでいかなくてはとつくづく思いました。

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