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看護におけるクリティカルシンキング教育

良質の看護実践を生み出す力

著:楠見 孝/津波古 澄子

  • 判型 B5
  • 頁 162
  • 発行 2017年09月
  • 定価 2,700円 (本体2,500円+税8%)
  • ISBN978-4-260-03210-0
知識・技術の修得をめざす教育から、思考力・学びの態度をはぐくみ支える教育へ
看護師が自ら考え行動し、良質な看護を提供するうえで、クリティカルシンキング(批判的思考)は欠かすことのできない力の1つ。本書では、その思考力と態度の育成方法について、看護学、心理学の両分野から検討し、実践事例にもとづいて解説する。知識・技術の修得を目標とする従来の教育から、思考力・学びの態度をはぐくみ、学生自身の成長を支える教育へ。変わりゆく現場で日々模索を続けるすべての看護教育者、必携の書。
序 文
はじめに

 本書の目的は,看護師が自ら考え行動し,良質な看護を提供するために,どのようなクリティカルシンキング(批判的思考)教育を実践すればよいのかを,看護学と心理学の両分野から検討することにあります。
 クリティカルシンキングとは,第1に,相手の発言に耳を傾け,事実や気持ちを...
はじめに

 本書の目的は,看護師が自ら考え行動し,良質な看護を提供するために,どのようなクリティカルシンキング(批判的思考)教育を実践すればよいのかを,看護学と心理学の両分野から検討することにあります。
 クリティカルシンキングとは,第1に,相手の発言に耳を傾け,事実や気持ちを的確に理解・解釈する論理的思考,第2に,相手の考えだけでなく,自分の考えに誤りや偏りがないかを振り返る内省的思考です。具体的には,より良い看護を行うために,患者の情報を偏りなく集め,アセスメントを正確に行い,計画を立案し,適切な看護介入とその評価をするという看護過程において働いている思考です。こうした思考は心の習慣として身につけることによって,質の高い看護実践を行うことができるようになると考えます。
 こうしたクリティカルシンキングを育成する看護教育については,日本では,1990年代後半からすぐれた翻訳書やオリジナルな本が出版されています。

 本書がこれまでの本と異なる特色は,2つあります。
 第1に,心理学に基づいてクリティカルシンキングのプロセスを看護過程に位置づけ,クリティカルシンキングに基づく思考力と態度の育成方法とその実践事例について述べている点です。とくに,職場に出てからの看護師の成長におけるクリティカルシンキングの役割に注目して,楠見が第1章で解説をしています。
 第2に,米国の看護教育におけるクリティカルシンキング教育の変遷と動向を踏まえて,日本の看護教育に導入する際の困難,さらに,初年次から卒業時までの体系的なクリティカルシンキングを土台とした看護教育について述べている点です。とくに,上智大学総合人間科学部看護学科における実践例に基づいて津波古先生が,第2章から第4章において解説しています。

 本書の対象は,主に,看護教育に携わっている教員,看護とクリティカルシンキング教育に関心をもつ研究者,さらに,看護師,大学院生,大学・専門学校の看護学生を考えています。本書を通して,看護教育に携わるみなさんに,看護においてクリティカルシンキングに基づく考える力と習慣が重要であること,そのためには,クリティカルシンキングを育む教育と評価が必要であることを伝えたいと考えています。さらに,本書を手がかりにして,読者のみなさんが,クリティカルシンキングに基づく実践を行うことによって,授業や看護の質を高め,学生や自らの成長につながることを願っています。

 本書が,心理学者の私と看護学者の津波古先生との共著のかたちで,こうして実現したのは,私が津波古先生に招かれて,看護教育におけるクリティカルシンキングについて,2011~2013年の期間,3回にわたって上智大学総合人間科学部看護学科の教員を対象に講演したことが出発点です。これは本書の第1章のもとになっています。この時期は,同学科がスタートした時期とも重なっており,クリティカルシンキング教育を重視した体系的なカリキュラムがつくられ,その評価研究に協力する機会もいただきました。津波古先生には,看護教育に私がかかわる機会を与えてくださり,さらに共著者になっていただきましたことを,心から感謝申しあげます。
 最後に,出版のきっかけをつくっていただいた七尾清氏,また,編集・制作にあたっては,医学書院の近江友香,野中久敬の各氏にお世話になりましたことを,お礼申しあげます。

 2017年8月1日
 楠見 孝
目 次
はじめに

第1章 クリティカルシンキングの概念
 001 クリティカルシンキングの育成:基礎的知識
  1-1 クリティカルシンキングとは
  1-2 クリティカルシンキングの歴史的背景
  1-3 クリティカルシンキングのプロセスと構成要素
  1-4 クリティカルシンキングの態度と知識
 002 クリティカルシンキングの育成:教育実践と測定
  2-1 クリティカルシンキングの教育がなぜ必要か
  2-2 クリティカルシンキングの教育方法
  2-3 クリティカルシンキング育成のための学習活動
  2-4 クリティカルシンキングの評価
 003 実践知の獲得を支えるクリティカルシンキング
  3-1 仕事の熟達化による高度なクリティカルシンキング
  3-2 熟達化のプロセス
  3-3 仕事の熟達化における振り返り
  3-4 仕事の熟達化に及ぼす経験学習態度
  3-5 実践知を支えるスキル
 004 実践から叡智へ
  4-1 個人の発達における実践知と叡智の獲得
  4-2 叡智の獲得とクリティカルなコミュニティの形成
  4-3 すぐれた看護師を育てるために

第2章 看護教育におけるクリティカルシンキング
 001 クリティカルシンキングの観点から看護教育を思考する
 002 米国看護教育への導入
  2-1 米国看護教育への導入の背景
  2-2 看護実践の可視化
  2-3 クリティカルシンキングと看護過程の類似性
  2-4 米国看護教育評価機構による要請
  2-5 クリティカルシンキングの領域固有性と看護の独自性
 003 米国看護教育のクリティカルシンキング育成の変遷と動向
  3-1 導入-定義と測定方法の模索
  3-2 取り組みの評価-看護の独自性の明確化
  3-3 再評価-習慣と認知スキルの育成
  3-4 米国の取り組みから得られる課題と知見
 004 看護教育のマインドセット
 005 日本の看護教育におけるクリティカルシンキング
  5-1 日本における現状
  5-2 看護教育への定着の困難
  5-3 課題と新しい知見

第3章 看護教育のカリキュラム・イノベーション
     思考習慣・スキルとしての継続学習の推進と育成の方略
 001 カリキュラム変革:クリティカルシンキングの育成をめざして
 002 クリティカルシンキング・カリキュラムモデルの構築
  2-1 カリキュラム作成
  2-2 教育理念の基盤と3つの軸
  2-3 卒業時到達目標の達成プロセス
 003 学年進行に合わせたカリキュラムの構築
  3-1 クリティカルシンキング育成の基盤となるもの
  3-2 段階的な学び-クリティカルシンキングと良質思考
 004 クリティカルシンキング育成の方法
  4-1 汎用(general)アプローチを用いた事例
  4-2 導入(infusion)アプローチを用いた事例
 005 クリティカルシンキング育成を促進する概念-基盤学習

第4章 良質の看護実践とクリティカルシンキング
 001 “問う”アート
  1-1 基盤となる思考力の育成に向けたアプローチ
  1-2 専門職としての思考の育成に向けたアプローチ
  1-3 質問力を高める風土の形成
 002 クリティカルシンキングのツールとしての看護過程がめざすもの
  2-1 ツールあるいは方法としての看護過程
  2-2 看護過程の積み重ねでめざす看護の力
  2-3 看護過程とクリティカルシンキングの融合
  2-4 初学者の段階別看護過程学習と専門家・熟達者の看護実践モデル
  2-5 クリティカルシンキングに基づく看護過程モデル

終章 看護教育を超えて 看護師を支える良質の習慣的思考と良質の看護実践
 001 “良質”とは何を指すのか
 002 実践知としてのクリティカルシンキング

索引