公認心理師をめざす学生,精神科医,看護師も活用できる良書
書評者:井村 修(阪大教授・臨床心理学)
公認心理師法が2017年9月より施行される。心理職の国家資格がいよいよ誕生である。心理技術者の国家資格が検討され始め,約半世紀の紆余曲折を経て,ようやく実現した。日本の心理職もやっと国際水準に達したのだろうか。公認心理師法では,公認心理師の業務を以下のように規定している(公認心理師法第二条より)。...
公認心理師をめざす学生,精神科医,看護師も活用できる良書
書評者:井村 修(阪大教授・臨床心理学)
公認心理師法が2017年9月より施行される。心理職の国家資格がいよいよ誕生である。心理技術者の国家資格が検討され始め,約半世紀の紆余曲折を経て,ようやく実現した。日本の心理職もやっと国際水準に達したのだろうか。公認心理師法では,公認心理師の業務を以下のように規定している(公認心理師法第二条より)。
(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察,その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する,その心理に関する相談及び助言,指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言,指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
そして,これらの業務を,医療・保健,教育,福祉,司法・行政,産業などさまざまな分野で実践することが期待されている。とりわけ国家資格が前提の医療・保健分野では,心理職の国家資格化が待ち望まれていた。したがって,本書『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』は,タイムリーな企画といえるだろう。
本書の特徴は総勢122名からなる多彩な執筆陣にある。精神医学と認知行動療法が基盤になってはいるが,精神医学の研究者から臨床医,臨床心理学の研究者から心理臨床の実践家まで幅広い。
また,第1部で「チーム医療と心理師の役割」,第2部で「精神医療の基本」,第3部で「精神医療システム」と医療に関するテーマが扱われ,第4部で「心理師の専門技能」,第5部で「問題別心理介入プロトコル」と,公認心理師としての業務と直結したテーマが扱われている。
第1~3部の中で,これまで心理学系の大学・大学院で教えられてきたことは,第4章「精神症状のみかた」と,第5章「診断とその経過」であり,その他の章の内容はほとんど教わっていない。精神科の病院に就職した卒業生から,医療の現場に行って驚いたことは,感染症予防の手洗いを指導されたことだと聞いたことがあった。第1章にはその手洗いが図解されている。医学の常識が心理の教育では十分でなかったことがわかる。
第7章の「薬物療法」の説明も有用である。処方用量例と副作用も示されているのでわかりやすい。ある程度の薬物療法の知識は,公認心理師がチーム医療を担うためには必要である。
本書の最大の特徴は第5部である。第17章の「抑うつ障害」を例に挙げると,まず抑うつ障害の総論があり,理論と心理的アプローチが解説されている,次に心理的アプローチのプロトコルが示され,症例提示,心理的アプローチの実際,本症例のまとめとなっている。わずか数ページではあるが,うつ病の心理的アプローチのエッセンスが記載されている。統合失調症スペクトラム障害や心身症など,他の精神障害に関する章も同じような形式になっている。
本書は,公認心理師を対象としたものではあるが,公認心理師をめざす大学生・大学院生も活用できる良書である。さらに,第4部と第5部は,精神医療において公認心理師が何ができるのかを示しており,精神科医や看護師に読んでいただければ,より質の高いチーム医療が可能となるだろう。