DSM-5 診断トレーニングブック
診断基準を使いこなすための演習問題500

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精神疾患の世界的な診断基準DSM-5の米国精神医学会オフィシャルシリーズの1冊。DSM-5に関する約500題の問題とその解答・解説を掲載。診断分類・診断基準に関する問題はもとより、経過や有病率、併存疾患などに関連する問題や症例の要約を提示して診断を問う問題など、バリエーション豊かな構成。DSM-5マニュアル、手引への参照ページを掲載。問題を解きながら楽しくDSM-5診断が学べる必携サブテキスト。
※「DSM-5」は American Psychiatric Publishing により米国で商標登録されています。
シリーズ DSM-5
原書編集 Philip R. Muskin
監訳 髙橋 三郎
染矢 俊幸 / 北村 秀明 / 渡部 雄一郎
発行 2015年05月判型:A5頁:400
ISBN 978-4-260-02130-2
定価 5,280円 (本体4,800円+税)
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訳者の序原書の序

訳者の序
 本書はPhilip R. Muskin著“DSM-5 Self-Exam Questions-Test Questions for the Diagnostic Criteria”(2014)の全訳である.米国精神医学会の出版部であるAmerican Psychiatric Publishingは2013年にDSM-5の親本(日本精神神経学会日本語版用語監修,高橋三郎,大野裕監訳『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院,2014)を刊行して,その診断基準だけを集めたいわゆるミニD(高橋三郎,大野裕監訳『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引』医学書院,2014)を刊行したのち,その関連書6冊を出版したが,これはその中の1つである.本書の著者はコロンビア大学教授として同大学病院コンサルテーション・リエゾン部部長を務めているが,本書が,問題集であるという特徴から,コロンビア大学精神科で教育に携わっている8名を含み10名の執筆協力者を得て編集されている.
 本書には,DSM-5の診断分類による22疾患群のそれぞれにつき約10~70問,総計で約500問が収められており,それぞれの問題についての正答と解説も書かれている.
 読者におかれては,すでにDSM-5を手許において毎日の診療に活用されていることであろう.ご存知のように,DSM-5はICD-11(2018年発表予定)の各疾患群の編成替えに対応して22の疾患群にかなりの変更を加えた.また,各疾患群の中のおのおのの疾患やその下位分類にもかなりの変更を加えた.例えばDSM-IVの気分障害については「双極性障害および関連障害群」と「抑うつ障害群」の2群に分けられ,DSM-IVの「今後の研究のための基準案と軸」に入れられていた「月経前不快気分障害」が抑うつ障害群の中の正式の疾患となった.不安症群からは「強迫症および関連障害群」が独立した.これらの変更の大筋は親本DSM-5マニュアルの付録「A. DSM-IVからDSM-5への主要な変更点」(日本語版801~809頁)に概説されているが,それを通り一遍読むだけではそう簡単に頭に入らないだろう.
 DSM-5の新しい診断分類,診断基準,特定用語の使用法などを能率よく学ぶためには,まず,毎日の診療で遭遇した症例ごとにDSM-5ミニDをその場で開いて診断基準を満たしているかを確認することと,後でDSM-5マニュアルを開いてその疾患についての関連情報を読んで理解を深めるという地道な努力が実を結ぶ.しかし本来,DSM-5は単なる診断基準集ではない.今回のDSM-5マニュアル刊行のもう1つの目的は,診療に必要な付加的情報をたっぷりと盛り込んだことだろう.すなわち,診断基準のほかに,診断的特徴,診断を支持する関連特徴,有病率,症状の発展と経過,危険要因と予後要因,文化に関連する診断的事項,性別に関連する診断的事項,診断マーカー,自殺の危険,その疾患の機能的結果,鑑別診断,併存症などが詳説されており,これらはDSM-IVで疾患の定義がほぼ現在の形にまとまって以来の19年間に蓄積されたエビデンスに基づくものである.本書での設問はこれらの付加的情報にも触れてDSM-IVからDSM-5への変更をよく理解できるように編集されており,解説の内容はマニュアルの記述をそのまま忠実に引用している.いわば,マニュアルの各ポイントを拾い読みできるような編集がなされている.
 例えば,第1章「神経発達症群」の75問の内容を分析してみよう.診断基準の内容と鑑別すべき他の疾患について26問,経過について8問,有病率や性別の数値について7問,併存症について3問,マーカー,重症度などについて3問があり,さらに症例の短い要約を提示してその正しい診断や下位分類などを問う問題が28問ある.
 第2,3,4章の「統合失調症スペクトラム障害および他の精神性障害群」,「双極性障害および関連障害群」,「抑うつ障害群」の計80問中には,診断基準の内容について28問,鑑別診断について14問,有病率と性別の数値について9問,遺伝負因について1問,特定用語について1問があり,一方,症例の要約による診断を問う問題は27問が用意されている.第5,6,7章の「不安症群」,「強迫症および関連群」,「心的外傷およびストレス因関連障害群」についての69問中には,診断基準の内容について29問,文化に関する診断的事項について2問,環境要因について2問,性別や有病率の数値について6問,薬物治療有害反応との症状鑑別について2問があり,症例の要約による診断を問う問題は27問ある.
 なかなか凝った問題が並んでおり,そのため,翻訳作業もクイズを解きながら進んだので飽きがこなかった.この問題集は,今後,日本精神神経学会専門医試験や精神保健福祉士国家試験の格好の予想問題集となるだろう.
 本書の翻訳作業は新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野の染矢俊幸教授と北村秀明准教授,渡部雄一郎准教授以下33名の方々の手によるものであり,最終的に監訳者が手を入れたものである.なお,本書には読者の勉学に役立つようDSM-5マニュアルとDSM-5ミニDの対応頁をそれぞれの問題の解答部分に示しておいた.本書が諸兄姉の勉学,ことにDSM-IVからDSM-5への変更点をよりよく理解するためのトレーニングブックとして,お役に立てばまことに幸いである.

 2015年5月
 埼玉江南病院にて
 訳者を代表して 高橋三郎


原書の序
 この自習問題集は1つの手引きであって,DSM-5を完全に読むことに代わるものではない.その診断マニュアルの最新版は,多くの慣れ親しんだ診断を保持すると同時に,一連の新しい診断を導入している.DSM-5には診断への新しい方法がいくつも用意されている.この自習問題集を準備する際のわれわれの枠組みとは,読者が新しい診断について学び,DSM-IVからの変更を理解し,そして診断をする努力について新しい方法を自己学習することを願わくは促すことであった.答えが明らかまたは簡単に思える質問もあるが,かなり難しい質問もあるだろう.この本に取り組むことで,この本は読者がすでによく知っている分野について再確認させてくれると同時に,より多く学びたい診断領域の案内書になる.協力者は困難な作業を引き受けた.すなわち,それ自体すでに書かれた本についての本を書くということである.この本の協力者は,他の人達が自主学習をする支援をするために,DSM-5について学ぶという課題を引き受けてくれた臨床家と教育者のグループである.この学習の手引きには,診断に関する注釈や背景的立場はまったくない.協力者らはこの本からの収益を進んで慈善財団に寄付している.

 ニューヨーク州 ニューヨーク市
 Philip R. Muskin, M.D.

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訳者の序
翻訳協力者
原書の序
Contributors

DSM-5 Introduction

CHAPTER 1 神経発達症群/神経発達障害群
CHAPTER 2 統合失調症スペクトラム障害および他の精神性障害群
CHAPTER 3 双極性障害および関連障害群
CHAPTER 4 抑うつ障害群
CHAPTER 5 不安症群/不安障害群
CHAPTER 6 強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
CHAPTER 7 心的外傷およびストレス因関連障害群
CHAPTER 8 解離症群/解離性障害群
CHAPTER 9 身体症状症および関連症群
CHAPTER 10 食行動障害および摂食障害群
CHAPTER 11 排泄症群
CHAPTER 12 睡眠-覚醒障害群
CHAPTER 13 性機能不全群
CHAPTER 14 性別違和
CHAPTER 15 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
CHAPTER 16 物質関連障害および嗜癖性障害群
CHAPTER 17 神経認知障害群
CHAPTER 18 パーソナリティ障害群
CHAPTER 19 パラフィリア障害群
CHAPTER 20 評価尺度
CHAPTER 21 文化的定式化,苦痛の文化的概念の用語集
CHAPTER 22 パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
CHAPTER 23 専門用語集

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精神医学そのものの理解を深めるツールとなる一冊
書評者: 松崎 朝樹 (筑波大診療講師・精神医学)
 「DSM-5の問題集」のひと言で言い表せるこの一冊。大学の頃に受けた試験や医師などの国家試験のような選択式の質問が多数詰め込まれ,その内容は全てDSM-5についてのものだ。この本を最初に手にしたときの印象は,診断基準の細かな点を扱った無機質なつまらぬ本ではないかというものであった。しかし,ページをめくり,問題を解き,解説を読み始めると,その印象はすぐに覆された。この本には,他の医学書とは違った特別な価値が見いだせる。

 臨床的にDSM-5を用いる上で,目の前の精神障害が典型的なものであれば診断に困ることはない。しかし,典型的ではない症例を目の前にしたとき,DSM-5では何と診断したものか困ることがある。また,DSM-5を用いて操作的に,すなわちアルゴリズムに従って診断されるはずのものが,細かな基準について曖昧な理解のまま,大まかな疾患のイメージである理念型に合うかどうかで診断されてしまっているのを見かけることは少なくない。この本の問題を解く中,その曖昧な点を鋭く突いた良問に時折ドキリとさせられる。

 この本が活用される場として,さまざまな場が想定される。研究には医師や心理職など多職種がかかわるが,DSM-5の操作的診断を使いこなすためには,十分な理解が必要とされる。臨床だけに没頭してきた医師は,実際にはDSM-5の細かな基準を把握せずにいることもあり,心理職の中には医師に比べて経験してきた症例数が少ない者も少なくない。質の高い研究のために,参加する者のDSM-5についての理解を確認するのに有用であろう。また,精神科の各専門医をめざす際に,自分の実力を試す問題集として,さらに強化する参考書として用いるのも手であろう。もちろん,DSM-5の基準を正確に理解して臨床の場に活かすのにも役立つ。そして,それ以上に私自身が意義深いと考えるのは,精神医学そのものの理解を深めるツールとしての役割だ。DSM-5に書かれているのは診断基準ばかりではなく,各々の障害の理解を深める情報が豊富に盛り込まれており,この本も精神障害それぞれについて理解を深めるたくさんの問題が掲載されている。問題を解き,解説を読む過程で,さまざまな疾患の経過や予後,頻度など,障害について多くを学べることだろう。一つ一つの問題は短く,ちょっとした隙間の時間を用いて学びが得られる点もまた良い。

 当初に抱いた印象とは大きく異なり,実際に本を開いて問題を解き始めてみると,障害に対する理解が深まる血の通った内容であり,多くの気づきと知識を与えられた。DSM-5について,そして,精神医学そのものについて,私たちが何を見落としているのか,そしてその答えが何かを教えてくれる良い一冊である。
DSM診断のエッセンスを学ぶことができる
書評者: 井上 猛 (東京医大主任教授・精神医学)
 1980年にDSM-IIIが登場してから,従来診断とDSM診断(ICD診断も含む)の比較,両者の優劣に関する論争が続けられてきた。両者を中立的に考えてみると,精神科診断における重要な問題点,特に診断論理の特性に気づかされる。したがって,論争はとても意味があったと思う。

 従来診断では精神疾患の診断基準はややあいまいであり,診断は個々の精神科医の裁量・力量に任される部分が多く,診断の一致率に問題があり,従来診断を研究に用いることは難しかった。しかし,その良い点は階層原則を設けて,器質性→内因性→心因性の順番に優先順位をつけて診断することを推めていることである。一方,個々の疾患のDSM診断基準を『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』で読んだだけではDSMが階層原則を考慮しているのかどうかはわかりづらいが,例えば『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』の「抑うつ気分の判定系統樹」を読むと,実はDSMも階層原則を考慮していることがわかる。

 従来診断に比べると,DSMでは診断の規則が細部にわたって決められており,個々の症例における診断の手引きを提供してくれる。したがって,入門者にはわかりやすいし,研究者同士の間の合意も形成しやすい。一方,診断基準を作成・変更する際にはその根拠を挙げなくてはいけないので,絶えず研究と議論が必要である。私の恩師である故山下 格先生が指摘されたように,DSMの診断基準の細部を漏らさず読むことは非常に重要である。『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』だけを読んで,DSMを理解したと考えてはいけない『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』を読んで初めてDSMを理解したと考えるべきである。両者には精神疾患のエビデンスと診断についてのとても重要な情報が書かれており,両書を読むことによりDSMの真髄を知ることができる。さらに,DSM-IIIからDSM-5にかけてどのようなエビデンスが蓄積されてきたのかがわかる。だてに『マニュアル』のページ数が増え続けているのではないのである。例えば,DSM-5から初めてうつ病の危険因子の気質要因として神経症的特質が指摘された。DSMの考え方は実に慎重であると思うし,何がエビデンスなのかをわれわれに教えてくれる。

 前置きが長くなったが,本書『DSM-5 診断トレーニングブック』では,問題を解いて,解説を読みながら,DSMが30年以上蓄積してきたエビデンス,DSM診断のエッセンスを学ぶことができる。しかも,解説を読むことにより,『マニュアル』からは読み取りきれなかった微妙なニュアンスも知ることができる。また問題に関する情報が『マニュアル』のどこに書かれているか,該当のページが丁寧に記されているので,本書を通して『マニュアル』の重要性を知ることができる。DSM-5を理解したいと考えている臨床家・研究者や専門医を目指している方には,時々本書の問題にチャレンジして,読了することを薦めたい。そして本書をきっかけに『マニュアル』『鑑別診断ハンドブック』も是非熟読してほしい。

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