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DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル


原著:American Psychiatric Association 
日本語版用語監修:日本精神神経学会 
監訳:高橋 三郎/大野 裕
訳:染矢 俊幸/神庭 重信/尾崎 紀夫/三村 將/村井 俊哉

  • 判型 B5
  • 頁 932
  • 発行 2014年06月
  • 定価 21,600円 (本体20,000円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01907-1
精神疾患の世界的な診断基準・診断分類、19年ぶりの大幅改訂!
米国精神医学会(APA)の精神疾患の診断分類、改訂第5版。DSM-IVが発表された1994年以来、19年ぶりの改訂となった今回は、自閉スペクトラム症の新設や双極性障害の独立など従来の診断カテゴリーから大幅な変更が施されることとなった。また日本語版については、日本語版用語監修として新たに日本精神神経学会が加わった。
※「DSM-5」は American Psychiatric Publishing により米国で商標登録されています。
序 文
訳者の序DSM-5の病名・用語の邦訳について

訳者の序
 2013年5月の米国精神医学会(APA)の開催に合わせてDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder...
訳者の序DSM-5の病名・用語の邦訳について

訳者の序
 2013年5月の米国精神医学会(APA)の開催に合わせてDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)が刊行された.1994年のDSM-Ⅳから19年後である.これまでDSMの出版は,世界保健機関(WHO)の『国際疾病分類』(International Classification of Diseases; ICD)の出版の1~2年後に,米国国内の精神科診療に適するような追補と小改訂を加えて出版されてきた.
 DSM-5についても従来の版と同様,ICDの編集方針を尊重しながら米国内の医療の実情に応える内容を盛り込むという基本方針に沿って編集されてきたが,WHOのICD-11の出版が予定より大幅に遅れたため,今回に限りDSM-5がICD-11に先行出版される形になった.かといって,DSM-5が独自の疾患分類や診断体系を主張することはまったくない.
 DSM-5作成実行チーム(DSM-5 Task Force)委員長 David J. Kupfer 博士が序で述べているように,DSM-5編集の基本方針は,
1.毎日の診療に役立つ診断分類体系
2.医学の一分科としての精神科
3.神経内科とのつながり
4.歴史的背景をもつ用語を廃止して,各疾患群をうまく記述できる用語に置き換える
5.精神科という特殊性を代表している「臨床的関与の対象となることのある他の状態」の大幅な拡大

であるが,これらは1980年のDSM-Ⅲ以来の長年の経験で到達した結論ではなかろうか.
 振り返ってみると,DSM-Ⅲでは,疾患の定義を要約した3~4項目の診断基準にまとめることと,それに基づいた信頼性という数値目標にこだわったため,あたかもDSMとは診断基準のことだという誤解を与えてしまった.しかし,これを出発点として,米国では,診断基準を用いて選別された各疾患の病因,予後,心理的要因などの臨床研究が進み,DSM-5はこの33年間に蓄積されたエビデンスの集大成であるという印象である.その流れはDSMマニュアル各版の頁数を見ても明らかである.DSM-Ⅲ(1980):494頁,DSM-Ⅲ-R(1987):567頁,DSM-Ⅳ(1994):886頁,DSM-Ⅳ-TR(2000):950頁,そして今回のDSM-5(2013)では947頁だが,活字を小さく行数を増やして,膨れ上がった内容をやっと1000頁に収めた.これは各疾患小委員会の集めた臨床研究を分析して最も信頼性のある代表的なデータを記述した結果である.読めばわかるように,その内容の濃密さは前の版の30~40%増しであろう.各疾患については,初めに掲げた診断基準に続いて,その解説は,下位分類,診断的特徴,鑑別診断だけでなく,診断を支持する関連特徴,有病率,症状の発展と経過,危険要因と予後要因,文化に関連する診断的事項,性別に関連する診断的事項,診断マーカー,自殺の危険性,機能的結果,併存症など,多岐にわたり,いわば,歴史的記述と治療の項目だけがない精神科疾患の大教科書という印象である.
 DSM-5の翻訳作業は2013年早々,医学書院と監訳者高橋が協議して始まり,同年6月24日に京都で開催された第11回世界生物学的精神医学会連合(WFSBP)の学術集会にて,監訳者,訳者の7名,滋賀医科大学名誉教授・高橋三郎,国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター・大野裕センター長,新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野・染矢俊幸教授,九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野・神庭重信教授,名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野・尾崎紀夫教授,慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室・三村將教授,京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)・村井俊哉教授が集まり,翻訳作業の具体的プランを決定した.作業の詳細なスケジュールは染矢教授が下案を作成した.7月には各訳者の大学精神医学研究室で始まり,当初の予定どおり10月末までには第1次訳,11月末にはこれらの監訳も終了した.
 こうして,精神科の診療に先進性を掲げる5大学精神科の参加を得て,強力な翻訳作業チームができ上がった.約110名の参加者は巻頭にリストアップさせていただいた.今回の作業がきわめて円滑に行われたことを強調しておきたいし,各大学の分担をうまくまとめていただいた各訳者の教授方に謝意を表したい.
 今回の翻訳作業の最大の課題は用語の統一である.日本精神神経学会では神庭教授を座長とする「精神科病名検討連絡会」が組織され,ここ2年の間議論を重ねてきた.その結果「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」(2013.11.29作成)が完成した.これは13の精神医学の各分野の学会代表と日本小児科学会用語ワーキンググループ代表を加えた33名からなる方々の努力の結果である.DSM-5の翻訳にあたっては,このガイドラインの用語を尊重して作業を進め,病名の問題は解決したものの,DSM-5では病名以外の専門用語,説明用語が無数にあるので,それを統一するため『精神神経学用語集改訂6版』〔日本精神神経学会・精神科用語検討委員会(編),2008〕に準拠することとし,これ以外の新しい用語については監訳者の責任において訳語を選んだ.第2回の編集会議は2014年2月2日に医学書院において開催,この場で訳語に関する確認と,今後の作業スケジュールを協議した.第2次の監訳作業は3~4月に監訳者高橋がすべて行い,最終稿とした.
 このように,前の版と比較してDSM-5の翻訳作業の進め方の大きな違いは,第1に日本精神神経学会の全面的なバックアップを得て進められたことである.振り返ってみると,私はDSM-Ⅲ出版以来33年もの間DSMシリーズの翻訳にかかわってきたことになるが,ことの始まりは1977年,ちょうどカナダのトロント大学にいたときにたまたま出席した米国精神医学会でDSM-Ⅲの最終案の紹介とField Trialへの呼びかけが行われており,これからの精神科診療にはこれが必要だと感じたことである.初版のDSM-Ⅲの翻訳については,京都大学故藤縄昭教授,滋賀医科大学故花田耕一講師の協力で『精神疾患の分類と診断の手引』(いわゆるミニD)のみを出版した.DSM-Ⅳからは慶應義塾大学大野教授,そして染矢教授の協力を得た.ケースブックほかのDSM関連書の出版も十数冊に及んでいる.そして今回のDSM-5では日本精神神経学会の全面的支援を得たことになり,時代の流れを感じながらこの稿を書いている.
 第2には,精神疾患の用語についてのスティグマへの配慮である.日本児童青年精神医学会からの要望で,知的能力障害(Intellectual Disability),日本老年精神医学会からの要望で,認知症(Major Neurocognitive Disorder)などの用語とした.他の疾患名についてもなるべく「障害」を排除して「症」と呼ぶことにした.しかし,同じような動きはDSM-5原著でもみられており,Dementia,Neurosis,Mental Retardation,Hypochondriasis,Gender Identity Disorderなどが廃止された.
 第3には,2014年出版予定のICD-11と訳語について統一性が得られるような動きのあったことである.もちろん,米国精神医学会はWHOのICD-11委員会に委員を送っており,緊密な連絡をとりながらDSM-5の作成にあたっている.わが国では,1992年のICD-10と1994年のDSM-IVがそれぞれ別々に出版されてから,用語統一の重要性が認識されてきたという経緯がある.今回の出版にあたっては,原稿の段階でいち早く用語統一委員会が招集されガイドライン案が作成され,しかもDSM-5翻訳作業が進むにつれて問題の出てきた用語についてもこの委員会で検討が重ねられたことは大きな進歩といわねばならない.その座長を務められた神庭教授に感謝したい.また,この事実は,わが国においても疾患分類や診断基準が精神科診療の基本問題であるとの認識が広まった結果である.
 最後に,今回の企画を担当された医学書院の方々にはきわめて的確に作業を進めていただいた.訳者を代表してここに感謝の意を表したい.

 2014年5月
埼玉江南病院にて
 訳者を代表して 高橋三郎


DSM-5の病名・用語の邦訳について
 DSM-5の病名と用語の邦訳を決めるため,日本精神神経学会として,「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(以下,ガイドライン)」を作成することが決定され,日本精神神経学会精神科病名検討連絡会(以下,連絡会)が設置された.本書はこのガイドラインを遵守して訳出されたものである.
 連絡会は精神科関連15学会・委員会(次々頁に掲載)の代表者で組織され,平成24年2月に行われた第1回連絡会から総計17回にわたり連絡会議を重ねた.会議では,各学会・委員会から提出される病名の邦訳案をメンバー全員で検討し,それを受けて各学会・委員会が案を練り直し,さらにそれを連絡会で検討するという作業を繰り返した.同25年10月には,ガイドライン(案)に関して代議員の意見を求めた.またホームページに案を掲載して一般会員からも意見を寄せてもらい,これらの意見を参考にしてさらに議論を重ねガイドライン(初版)を作成した1
 病名・用語を決める際の連絡会の基本方針を以下に列挙する.(1)患者中心の医療が行われるなかで,病名・用語はよりわかりやすいもの,患者の理解と納得が得られやすいものであること,(2)差別意識や不快感を生まない名称であること,(3)国民の病気への認知度を高めやすいものであること,(4)直訳がふさわしくない場合には意訳を考え,アルファベット病名はなるべく使わないこと,などである.
 連絡会は,各専門学会が練り上げた邦訳案を最大限尊重した.例えば,児童青年期の疾患では,病名に「障害」とつくことは,児童や親に大きな衝撃を与えるため,「障害」を「症」に変えることが提案された.不安症およびその一部の関連疾患についてもおおむね同じような理由から「症」と訳すことが提案された.さらに,「障害」はすべて「症」に変えるべきではないかとする意見が多かったが,「症」とすると過剰診断や過剰治療をまねく可能性があることも議論され,今回のガイドラインでは限定的に変更することにした.ただし,「症」と変えた場合,およびDSM-Ⅳなどから引き継がれた疾患概念で旧病名がある程度普及して用いられている場合には,新たに提案する病名の横に旧病名をスラッシュで併記することにした.前者の例が,例えば「パニック症/パニック障害」であり,後者の例が,例えば「うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害」である.
 米国精神医学会では,本書を公認のDSM-5日本語版と位置づけているので,DSM-5の日本語病名・用語は今後本書の病名・用語で統一されていくだろう.それは,連絡会が引き続き検討していく予定のICD-11の病名・用語とも整合性をもつ必要がある.したがって連絡会では,今回の病名・用語がわが国の精神医学界でどのように取り入れられていくのかを見定めながら,必要な改訂を提案していく予定である.

 2014年5月
日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会
 座長 神庭重信


1日本精神神経学会精神科病名検討連絡会:DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(初版).精神神経学雑誌 第116巻第6号,429-457頁,2014



 米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)は各精神疾患の分類であり,これらの各疾患に対して,より信頼性の高い診断が得られるように考案された基準がつけられたものである.過去60年以上にわたって継続して出版されたことにより,DSMは精神保健の分野における臨床実践のための標準書となっている.大多数の精神疾患に対して,その基礎となる病理学的過程を完全に記述することが不可能であるので,現在の診断基準が,各精神疾患をどのように表現するかという記述法としては入手できる最良のものであり,経験ある臨床家にも認められているものであるということを強調しておくことが重要である.DSMは精神疾患の正確な診断と治療に助けとなる情報を構成するための,実際的,機能的,かつ柔軟性を備えた指針として役立つように意図されている.DSMは臨床家のための道具であり,学生や診療医にとっても基本的な教育的資料であり,また,この分野の研究者にとっても参考資料となる.
 DSMの今回の版は,当初はもっぱら臨床の診療に有用な指針となるよう企画されたが,公的な専門用語としてさまざまな種類の状況にも応用されなければならない.DSMは異なった背景(生物学的,精神分析的,認知的,行動的,対人関係的,家族/社会的)の臨床家や研究者に使用されてきており,これらの人達の誰もが,患者の提示するさまざまな精神疾患の本質的特徴を伝達するための共通語に苦労している.この情報は,精神保健の治療のさまざまな局面で関連するすべての専門家——精神科医,他科の医師,心理士,ソーシャルワーカー,看護師,相談員,犯罪と法務の専門家,作業療法士とリハビリテーション治療士,およびその他保健に従事する人々——にとって価値のあるものである.基準は簡潔で明確であり,さまざまな臨床状況——入院患者,外来患者,デイ・ナイトホスピタル,コンサルテーション・リエゾン,一般診療,個人クリニック,プライマリケア——において,さらに一般社会における精神疾患の疫学研究においても,提示された症状の客観的評価を促進するよう意図されたものである.DSM-5はまた,精神疾患の罹患率や死亡率についての正確な公衆衛生統計を収集し伝達するための道具でもある.最後に,基準とそれに関連した記述は,精神疾患を理解し診断する構造化された方向づけが必要な精神科初期研修中の学生にとっても,長い経験があるが稀にしかみられない疾患に初めて接する老練の専門家にも,教科書として役立つ.幸いにも,これらの使用の仕方すべてが互いに矛盾しない.
 これらの幅広い要求と関心がDSM-5を企画する際に考慮された.各疾患の分類は,米国において使用される公式のコード体系である世界保健機関(WHO)の『国際疾病分類』(ICD)に同調しており,DSM基準はICDの診断名とコードによって特定される各疾患を定義する.DSM-5では,ICD-9-CMとICD-10-CMの両方のコード(後者は2014年10月に採用される予定)が分類の中の該当する疾患につけられている.
 DSM-5はおのおの独立した疾患のカテゴリー的分類のままであるが,われわれは精神疾患が単一の疾患の境界内に完全に収まると,必ずしも認めているわけではない.いくつかの症状領域,例えば抑うつや不安では複数の診断カテゴリーが関連しており,それはより広範な疾患群に対する潜在的な共通の脆弱性の反映なのかもしれない.この現実を認めたという背景があって,DSM-5に含まれる各疾患は新しい臨床的展望を促進する構成に改編された.この新しい構成は2015年に発表される予定のICD-11に計画されている疾患の編成法に対応するものである.その他,以下のような改善が,すべての状況での使用を促進するために導入された.
 診断に関連する発達的事項の提示:各章の構成は人の一生をより反映する形に変更され,小児期により頻回に診断される疾患(例:神経発達症群)を本書の最初に置き,高齢の成人により多く適用される疾患(例:神経認知障害群)を終章に配置した.さらに,本文の中で,「症状の発展と経過」の小見出しで,その疾患の症状呈示が生涯にわたってどのように変化することがあるかの記述を用意した.診断を特定する年齢関連の要因(例:ある特定の年齢層における症状呈示と有病率の差)も本文中に含まれている.さらに強調されるべきことは,これらの年齢関連の要因が適用可能な場合には,基準そのものに加味されていることである(例:不眠症や心的外傷後ストレス障害の基準の中で,子どもではどのように表現されるかを特定の基準において記述している).同様に性別と文化の事項が適用可能な場合,疾患の中に組み込まれている.
 遺伝学と神経画像の最近の研究から得られた科学的所見の採用:改訂された各章の構成は,神経科学の最近の研究によりわかった各診断群の間の遺伝学的関係に従っている.遺伝学的および生理学的危険要因,予後予測要因,可能性のあるいくつかの診断マーカーなどが本文中にはっきり示されている.この新しい構成は共通の神経回路,遺伝学的脆弱性,環境曝露などに基づいた1つの疾患の連続体の中での診断を特定するため,臨床家の能力を高めるであろう.
 自閉性障害,アスペルガー障害,広汎性発達障害を自閉スペクトラム症に統合したこと:これら各障害の症状は,それぞれがはっきりと区別される障害であるというよりも,社会的コミュニケーションの制限,および反復性の行動と興味,という2つの領域における軽度~重度の能力低下という1つの連続体を示している.この変更は,自閉スペクトラム症の診断のための基準の感度と特異度を改善するため,および特定された特異な能力低下に対してより焦点を絞った治療ができるように,作成されている.
 双極性障害群と抑うつ障害群の流線形の分類:双極性障害群と抑うつ障害群は精神科で最も多く診断される病態である.それゆえ,これらの障害群の症状を流線型に作ることは臨床および教育の両面での使用において重要である.躁病,軽躁病,抑うつエピソードの定義を,前版のように双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害,大うつ病性障害の定義から分離するやり方ではなく,われわれは基本的基準のすべてを各障害の該当する基準それぞれの中に含めることとした.こうすることにより,これらの重要な各障害のベッドサイドにおける診断と治療が促進されるであろう.同様に,死別反応とうつ病の鑑別については,脚注の説明が,以前の単純な死別反応の除外基準よりもずっと臨床に役立つ指針になると思われる.「不安性の苦痛を伴う」と「混合性の特徴を伴う」という新しい特定用語は,今回,これらの障害群の基準に附属するいくつかの特定用語ではすべてが記述的な形で示されている.
 一貫性と明確さのための物質使用障害の再編:物質乱用と物質依存のカテゴリーは廃止され,これらをまとめた物質使用障害という新しいカテゴリー——使用された物質が特定の障害を定義する——に取り換えられた.以前は依存の定義であった耐性と離脱が実際には処方された医薬品の非常に正常な反応を起こして中枢神経系に影響しており,必ずしも嗜癖の存在を示すものではないので,「依存」は「嗜癖」という用語と混同されやすかった.DSM-5ではこの基準を改訂し明確化することにより,世に広まったこの問題への誤解をいくらかでも軽減できることを期待したい.
 認知症および軽度認知障害の特異性を高めたこと:過去20年間の神経科学,神経心理学,脳画像の爆発的な進歩があり,かつて痴呆(dementia)または器質性脳疾患と呼ばれていた疾患の特定の病型についての診断において,今日の医療技術水準を伝えることはきわめて重要なこととなった.血管性および外傷性脳疾患の画像によって特定された生物学的マーカーやアルツハイマー病の稀有な病型とハンチントン病についての特異的な分子遺伝学的所見が臨床診断に著しい進歩をもたらしており,これらの疾患および他の疾患は,今や,いくつか特定される下位分類に分けられている.
 パーソナリティ障害の概念化の移り変わり:パーソナリティ障害に対するより次元的な方法の利点が前版で示されていたものの,疾患のカテゴリー的診断体系から,各パーソナリティ特性の相対的分布をもとにした体系へと移ることはいまだ広くは受け入れられていない.DSM-5ではカテゴリー方式のパーソナリティ障害は,前版から実質的には変更がない.しかし,代替的な``複合形式''(hybrid)が第Ⅲ部で提案されており,今後の研究のために,6つの特定のパーソナリティ障害についての対人関係機能の評価や病的パーソナリティ特性の表現を分離抽出するための指針となっている.パーソナリティ特性に限定した解決法として,パーソナリティ特性の表現のよりディメンション的側面の表し方も提案されている.
 第Ⅲ部:新しい疾患と特徴:新しい部門(第Ⅲ部)が追加され,ここでは今後の検討を要するが日常の臨床に使用される公的な精神疾患の分類に加えるにはまだ十分に確立されていない疾患に焦点を合わせている.13の症状領域における症状の重症度のディメンション的尺度も取り入れられており,すべての診断群にわたって症状レベルを定量化することが可能である.同様に,さまざまに変化する重症度を示す尺度として世界保健機関能力低下評価尺度(WHODAS)がすべての医学分野で適用でき,より限定的な「機能の全体的評定」(GAF)尺度に代わるものとして取り込まれた.これは全体的な能力低下の程度を評価する標準的方法であって,国際生活機能分類(ICF)に基づいたものである.われわれは,これらの尺度が長期間にわたって実施され,これらが診断評価における各症状表現と関連する能力低下の臨床的記述の正確さと適応性を増大させるものと期待している.
 オンライン利用の推進:DSM-5にはオンラインでの付加的情報がある.当該の疾患に関連する付加的,横断的な重症度診断の尺度がオンラインで得られるようになっている(www.psychiatry.org/dsm5).さらに,「文化的定式化面接」,「文化的定式化面接—情報提供者版」,および「文化的定式化面接」主要部の補足モジュールもオンラインに含まれている(www.psychiatry.org/dsm5).

 これらの新しい変化は精神疾患に関する世界の指導的な大家達によって企画され,その人達による専門家的見直し意見,一般市民の意見,および独立して行う内部評価に基づいて実施された.13の作業グループは,DSM-5作成実行チームの指導のもと,他の見直し再検討者達と連携を保ちながら,最終的には米国精神医学会評議員会が全体としてこの分野の全般的な専門性を代表している.DSM-5作成の努力は,膨大な数の助言者,および米国精神医学会の研究部門の専門家達により支持されたものであるが,参加された各氏のお名前はここで述べるには多すぎるので付録に列挙させていただいた.精神疾患の診断を改善するというこの努力のために膨大な時間と価値ある専門性を提供されたこれらの方々に,このうえない感謝を述べておきたい.
 われわれは,本書の冒頭にお名前をあげた各委員長の方々,本文編集者,13の作業グループの各氏に特別の謝意を表したい.これらの方々は,6年間という長期間にわたり臨床実践の科学的基礎を改善するという無償の努力に多くの時間を割いてこられた.Susan K. Schultz 医学博士は,本文編集者として奉仕していただき,科学誌の上席執筆者でDSM-5本文編集スタッフのEmily A. Kuhl 博士とともに,各作業グループが全体的な連携ができるようまとめる努力をしていただいた.William E. Narrow 医学博士・公衆衛生学修士には,この版の基礎的証拠を著しく向上させた臨床試行を含む,DSM-5のための全体的な研究戦術を開発する研究グループを指導していただいた.さらに,われわれは,独立して行った再検討により改訂意見について多くの時間を割いていただいた方々,すなわち科学的検討委員会の共同委員長であるKenneth S. Kendler 医学博士,Robert Freedman 医学博士,臨床および公衆衛生委員会の共同委員長であるJohn S. McIntyre医学博士,Joel Yager 医学博士,米国精神医学会総会見直し再検討手続き委員長のGrenn Martin医学博士に感謝を捧げたい.統計学の専門家として相談に乗っていただいたHelena C. Kraemer 博士には特別な謝意を表したい.Michael B. First 医学博士にはコード法と基準の再検討で価値あるご意見をいただいた.Paul S. Appelbaum 医学博士には法医学的事項についてご意見をいただいた.Maria N. Ward教育学修士・保健情報師・整体運動修復師にはすべてのICDコードを確認することで協力していただいた.全体の統括グループは,これらの協力者,すべての見直し再検討グループの委員長,作業グループ委員長,米国精神医学会代表から構成されるもので,Dilip V. Jeste医学博士を委員長とし,指導性を発揮して妥協と合意が得られるような方向づけに尽力していただいた.こうした協力によって,DSM-5の金字塔であるバランスと客観性がもたらされたのである.
 われわれは特に,米国精神医学会の研究部門の傑出したスタッフ——本書の冒頭に作成実行チームおよび各作業チームの名前をあげさせていただいた——を讃えたい.これらの人達は疲れを知らず,作成実行チーム,各作業グループ,協力者,見直し再検討者と意見を交わし,問題を解決し,各グループ間の連携役として働き,学問的試行および日常診療実践の臨床試行を指示し,実行し,さらにこの重要な過程における決定を記録するという功績があった.特に米国精神医学会理事長のJames H. Scully Jr. 医学博士に,DSM-5作成中の過程で,何年にもわたっていただいたご支持とご指導に感謝の意を表したい.最後に,われわれは,American Psychiatric Publishing 社の編集と製作スタッフに感謝の意を表したい.特に,Rebecca Reinhart 社長,John McDuffie 編集長,Ann Eng 編集主幹,Greg Kuny 編集主任,Tammy Cordova グラフィックデザイン主任に対して,本書の実現へ向けて指導していただき,最終的に出版に至ったことに感謝したい.多くの時間と専門性と情熱を捧げてくれた多数の才能ある方々の努力の積み重ねが,DSM-5を実現可能にしたのである.

2012年12月19日

David J. Kupfer 医学博士
DSM-5 作成実行チーム委員長

Darrel A. Regier 医学博士
          公衆衛生学修士
DSM-5 作成実行チーム副委員長

目 次
   DSM-5の分類

I DSM-5の基本
 1 はじめに
   歴史の概略
   DSM-5の改訂過程
   整合性のある構成
   文化的な問題
   ジェンダーの違い
   他の特定されるおよび特定不能の疾患の使用
   多軸システム
   オンラインの充実
 2 本書の使用法
   臨床症例の定式化の方法
   精神疾患の定義
   診断の要素
   未来を見据えて:評価およびモニタリング尺度
 3 司法場面でのDSM-5使用に関する注意書き

II 診断基準とコード
 1 神経発達症群/神経発達障害群
  知的能力障害群
  コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
  自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
  注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
  限局性学習症/限局性学習障害
  運動症群/運動障害群
  他の神経発達症群/他の神経発達障害群
 2 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
   精神病性障害群を定義する特徴
   本章で扱う障害
   精神病の症状および関連する臨床的現象の臨床家による評定
  緊張病
 3 双極性障害および関連障害群
 4 抑うつ障害群
 5 不安症群/不安障害群
 6 強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
 7 心的外傷およびストレス因関連障害群
 8 解離症群/解離性障害群
 9 身体症状症および関連症群
 10 食行動障害および摂食障害群
 11 排泄症群
 12 睡眠-覚醒障害群
  呼吸関連睡眠障害群
  睡眠時随伴症群
 13 性機能不全群
 14 性別違和
 15 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
 16 物質関連障害および嗜癖性障害群
  物質関連障害群
   物質使用障害群
   物質誘発性障害群
  アルコール関連障害群
  カフェイン関連障害群
  大麻関連障害群
  幻覚薬関連障害群
  吸入剤関連障害群
  オピオイド関連障害群
  鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬関連障害群
  精神刺激薬関連障害群
  タバコ関連障害群
  他の(または不明の)物質関連障害群
  非物質関連障害群
 17 神経認知障害群
   神経認知領域
   認知症(DSM-5)および軽度認知障害(DSM-5)
 18 パーソナリティ障害群
   パーソナリティ障害群の次元モデル
  A群パーソナリティ障害
  B群パーソナリティ障害
  C群パーソナリティ障害
  他のパーソナリティ障害
 19 パラフィリア障害群
 20 他の精神疾患群
 21 医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用
   神経遮断薬誘発性パーキンソニズム
   他の医薬品誘発性パーキンソニズム
   神経遮断薬悪性症候群
   医薬品誘発性急性ジストニア
   医薬品誘発性急性アカシジア
   遅発性ジスキネジア
   遅発性ジストニア
   遅発性アカシジア
   医薬品誘発性姿勢振戦
   他の医薬品誘発性運動症
   抗うつ薬中断症候群
   医薬品による他の有害作用
 22 臨床的関与の対象となることのある他の状態
   対人関係の問題
   虐待とネグレクト
   教育と職業の問題
   住居と経済の問題
   社会的環境に関連する他の問題
   犯罪または法制度との関係に関連する問題
   相談や医学的助言など他の保健サービスの対応
   他の心理社会的,個人的,環境的状況に関連する問題
   個人歴における他の状況

III 新しい尺度とモデル
 1 評価尺度
   横断的症状尺度
   臨床家評価による精神病症状の重症度ディメンション
   世界保健機関能力低下評価尺度第2版
 2 文化的定式化
   文化的定式化の概説
   文化的定式化面接(CFI)
   文化的定式化面接(CFI)-情報提供者版
   苦痛の文化的概念
 3 パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
   パーソナリティ障害の全般的基準
   特定のパーソナリティ障害群
   パーソナリティ障害の記録手順
   パーソナリティ障害の診断
   パーソナリティ機能のレベル
   パーソナリティ特性
 4 今後の研究のための病態

IV 付録  *付録D~Fの訳出・掲載は省略した
  A DSM-IVからDSM-5への主要な変更点
  B 専門用語集
  C 苦痛の文化的概念の用語集
  G DSM-5のアドバイザーおよび他の協力者

索引