防衛看護学

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看護師の資格を有する自衛官である「看護官」。本書は、これまで看護官が実践してきた看護、および防衛看護研究の実績から得られた知見をまとめたものである。看護師としての専門能力と自衛官としての任務遂行能力とを兼ね備えた看護官の本質と幅広い活動について、本書を通して理解を深めることができる。災害時や国際平和協力活動時など様々な状況下での危機管理を学ぶ上で、さらには看護官との連携を行う際にも役立つ1冊。
監修 安酸 史子
編集 志田 祐子 / 平 尚美
発行 2013年12月判型:B5頁:180
ISBN 978-4-260-01916-3
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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『防衛看護学』刊行にあたってはじめに『防衛看護学』について

『防衛看護学』刊行にあたって
 2006(平成18)年4月に出された「防衛庁・自衛隊における看護師養成の在り方に関する懇談会」の最終報告書において,「人道復興支援活動や国際緊急援助活動における看護活動は,厳しい環境下で,言語・風俗・習慣などの違いを克服しなければならず,強い精神力や人間的包容力が求められている。さらに,有事の際には,最前線から送り込まれる傷病者のための野外病院の中核を担うこととなるため,外傷患者に迅速かつ適切に対応する実践力も求められる。これら防衛庁・自衛隊の看護師の役割を効果的に,円滑に果たすためには,一般看護大学とは異なる防衛庁・自衛隊の特徴を教育内容に反映する必要がある」と提言し,防衛庁・自衛隊の看護師養成として4年制化に向けて具体的に動き始めました。看護教育の4年制化は防衛庁・自衛隊の看護師たちの積年の願いでありました。
 私は上述した「防衛庁・自衛隊における看護師養成の在り方に関する懇談会」に委員として参加しました。自衛隊中央病院高等看護学院は私の母校ですが,卒業後3年間しか勤務実績のない私は,災害派遣や国際平和協力活動などに参加した経験はありません。しかし,縁あって初代の看護学科長候補となり,現在の防衛省・自衛隊の看護官の看護活動の実態を見聞きするにつれ,自分のミッションとして,後輩たちが地道に作り上げてきている防衛看護の活動を“防衛看護学”として体系化したいと考えるようになりました。
 そうしたときに,1年後輩で当時自衛隊中央病院の看護部長をしていた志田祐子氏より,すでに防衛看護学の本を企画しているがどのようにしたら出版できるだろうか,という相談がありました。執筆者は看護学科の教員候補者たちということでした。本の執筆経験のほとんどない後輩たちでありましたが,忙しい臨床の合間に時間を作って執筆し,原稿を持ち寄って,話し合いを持つことを幾度となくおこなっていました。私は監修者として全体の内容を俯瞰し,コメントを出す作業をしながら,防衛省・自衛隊の看護官の地道な活動実態をつぶさに知ることに感動を覚えていました。文献検討が十分とはいえず,まだ書き込めていないところはありますが,自然災害だけでなく人的災害としてのテロ,戦傷病看護や国際平和協力活動の実際なども具体的に紹介されていて,災害看護を学ぶ看護師にとっても十分に読み応えのある本に仕上がったと思っています。私は,後輩たちの努力の成果がようやく1冊の本として日の目を見ようとしていることに素直な喜びを隠しきれないでいます。
 2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波,及びその後の余震により引き起こされた大規模地震災害では,これまでに経験したことのない大規模な被害と原発問題などで複雑化し被害が長期化しており,今尚,復興途上で多くの人が苦しい生活を余儀なくされています。直接的にあるいは間接的にこうした大災害の経験は,我々に多くの教訓を与えました。もはや,自然災害やテロなどの人災を想定外だといって済ますことはできない時代だと感じております。本書『防衛看護学Introduction to Military Nursing』を,わが国で初めて防衛看護学を学ぶ教科書として刊行する意義は極めて高いと感じています。これまでは,防衛省・自衛隊の看護活動はアカデミックな分野で紹介されることはほとんどなく,地道な活動として防衛省・自衛隊内部でのみ周知されている状態でした。4年制化を機会に,これまでの防衛省・自衛隊の看護活動を防衛看護学として1冊にまとめ,その内容を世に問うことは,極めて重要なミッションだと考えています。防衛省・自衛隊の看護活動への関心が高まり,防衛看護が学問として発展していく礎となることを願っています。
 わが国初の“防衛看護学”の教科書として,看護学生,医療関係者,災害看護に関わる人たちに活用していただければと願っています。

 2013年12月
 安酸史子


はじめに
 本書は,現時点における国内外の自衛隊看護活動と防衛看護研究の実績から得られた知見を「防衛看護学」としてまとめたものです。
 自衛官である看護師は,衛生科隊員として全国の自衛隊病院,部隊,医務室,自衛隊の学校等で働いています。自衛隊看護師の歴史は,1952年「保安隊」初の婦人自衛官に始まります。その後60年を超える歴史の中で防衛省・自衛隊を取り巻く環境は変化し,自衛隊病院や部隊で勤務するほか,災害時の被災者支援や国際平和協力活動など国内外で活動してきました。その任務は,自衛隊医療を支え,国防,災害派遣,国際平和協力活動,人道的な貢献など多岐にわたります。自衛隊看護師は,自らの使命を自覚し,強い責任感を持って行動します。そのために看護師としての専門能力と自衛官としての任務遂行能力の2面を持ち合わせ,いかなる状況でも任務を完遂できるように成長を続けることが望まれています。
 本書を通して,看護を通しての危機管理や使命感に基づく行動について学ぶことができます。また,自衛隊看護師の本質と幅広い活動について理解をしていただくことができます。更に,防衛看護学の情報が共有され,いずれかの場面で自衛隊看護師と連携する機会にも活用できるものと思います。
今後も国内外の状況へ対応しつつ防衛看護研究を積み重ね,研究結果を防衛看護学に反映させ実践科学として深化させる所存です。
 医療関係者の皆様には,危機管理の対応として手にとって読んでいただけましたら幸いです。
 最後になりますが,本書を刊行するに当たり防衛医科大学校の竹村俊哉先生,堂本英治先生,西山靖将先生,藤田真敬先生,廣岡伸隆先生に多大なご支援を賜りました。この場をお借りして感謝申し上げます。

 2013年12月
 志田祐子


『防衛看護学』について
 看護師たる自衛官,つまり看護師の資格を有する自衛官を「看護官」といいます。
 看護官が行う看護の特徴は,防衛省・自衛隊の任務にもとづき,常に自衛隊の部隊とともに行動し,劣悪な環境においても最適な看護を提供することにあります。1952年自衛隊の前身である保安隊に,初めて階級を持った看護師が入隊して以来,自衛隊において看護官は重要な役割を果たしてきました。防衛省・自衛隊の任務は,わが国の平和と独立を守ることであり,看護官はその任務を遂行するために,平時においては病院および部隊で看護業務を行うことで技能をみがき,“もしものとき”に備えています。そして,“そのとき”がきたならば,危険を顧みず責務を完遂する看護官としての矜恃と覚悟を持って常日頃から勤務しています。
 「防衛看護学」は,防衛看護に資する理論的・実践的研究を行う学問です。本書をまとめるにあたり,これまで看護官が実践してきた看護について,その実績や教育訓練で培ってきた知見を,看護実践の場や機能という側面から5つの章に構成しました。第1章「災害看護」は,自衛隊が災害派遣活動を行う際の看護の特性についてまとめ,一般的な災害看護に更に積み上げる内容となっています。第2章「国際平和協力活動における看護」は,自衛隊の本来任務となった国際平和協力活動における看護官の役割や看護の特性について,これまでの派遣実績から得られた知見をもとにまとめました。第3章「戦傷病看護」は,有事における看護官の役割と看護の特性についてまとめています。看護官には交戦下での実務経験がないことから,諸外国,特に米軍の研究成果を参考にしました。第4章「健康管理」は,自衛隊員の健康の保持増進を支援することで,人的戦闘力の維持増進に寄与するという自衛隊における健康管理の意義について記述しています。第5章「メンタルへルス」は,平時におけるメンタルへルスに加えて,特殊状況下(災害時,国際平和協力活動時及び有事)におけるメンタルへルスの重要性について記述し,わが国の防衛という任務を遂行する自衛隊員の心の健康を保つ意義について理解できるようにまとめました。また,巻末に用語集を入れ,自衛隊特有の用語についても理解が進むように工夫しました。
 防衛看護学は端緒を開いたばかりで,さらに研究を積み重ね実践科学として発展させていかなければなりません。本書の内容は,今後深化させていくべきものと考えておりますので,看護官のみならず,全国の看護師の皆様に本書を手にとっていただき,ご意見を頂戴できれば幸甚に存じます。

 2013年12月
 平 尚美

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序章
 第1節 防衛省・自衛隊を取り巻く環境
  1 防衛省・自衛隊に期待される役割
   (1)防衛省・自衛隊の活動基盤
   (2)わが国を取り巻く安全保障環境
   (3)国際社会における安全保障上の主な課題
   (4)防衛省・自衛隊に期待される役割
  2 自衛隊衛生に期待される役割
   (1)自衛隊衛生の意義
   (2)自衛隊衛生を取り巻く環境の変化と自衛隊衛生に期待される役割
 第2節 看護官の地位・役割
  1 看護官制度の歴史
   (1)自衛隊における衛生の編制
   (2)看護官制度発足の経緯
   (3)自衛隊における養成開始までの経緯
   (4)陸上・海上・航空自衛隊における看護師の任用
  2 看護官の地位・役割
   (1)看護官の職務
   (2)看護官を取り巻く環境の変化
   (3)看護官に期待される役割
 第3節 防衛看護学とは
  1 防衛看護とは
   (1)防衛看護の特性
   (2)看護に関する概念についての考え方
  2 防衛看護学とは

第1章 災害看護
 第1節 自衛隊看護における災害時の看護活動の規定要因
  1 法と制度
   (1)災害対策基本法
   (2)自衛隊法
   (3)災害派遣計画
  2 任務
   (1)災害派遣と要請
   (2)災害派遣と態勢
   (3)任務の要素
  3 災害の種類
   (1)災害の種類の特性
   (2)災害の種類と医療活動の特性
  4 災害サイクル
   (1)災害サイクルと特徴
   (2)災害サイクルと医療活動の特性
  5 看護の対象
   (1)派遣隊員・派遣部隊等
   (2)被災地域の隊員
   (3)被災地域の住民およびコミュニティ
  6 災害時の看護活動における規定要因の構造
 第2節 災害時の看護活動における役割と機能
  1 看護官の地位
   (1)災害派遣の任務について
   (2)災害派遣チームの構成要員として
   (3)被災地域の医療機関の要員として
  2 看護官の役割
   (1)自隊救護
   (2)民生支援
   (3)自治体・機関との連携
  3 被災状況下における看護活動の機能
   (1)任務・地位・役割の理解
   (2)職務の理解と組織化
 第3節 災害時の看護活動における組織行動
  1 看護活動における組織化
   (1)目的・目標の共有
   (2)専門性に基づく采配
   (3)相互支援体制
   (4)フィードバック機能
   (5)CSCATTT
  2 看護活動における介入プロセス
   (1)介入プロセスの要素
   (2)自衛隊における災害看護の介入プロセス

第2章 国際平和協力活動における看護
 第1節 国際平和協力業務における看護
  1 国際平和協力業務における看護とは
   (1)編成部隊における看護官の位置づけ
   (2)看護官が担う役割
  2 国際平和協力業務における看護の特性
   (1)看護を取り巻く特殊な環境
   (2)医療リスクマネジメント
   (3)ストレスマネジメント
 第2節 国際緊急援助活動における看護
  1 国際緊急援助活動における看護とは
   (1)編成部隊における看護官の位置づけ
   (2)看護官が担う役割
  2 国際緊急援助活動における看護の特性
   (1)看護を取り巻く特殊な環境
   (2)医療リスクマネジメント
   (3)ストレスマネジメント
 第3節 国際平和協力活動に関連した感染症問題と看護
  1 世界の感染症の動向
   (1)マラリア(Malaria)
   (2)エイズ(AIDS / HIV感染症)
   (3)結核(Tuberculosis)
  2 感染症問題における看護官の役割
   (1)標準予防策の遵守
   (2)派遣隊員の健康管理
   (3)他の医療活動チームとの協働及び連携

第3章 戦傷病看護
 第1節 作戦地域における看護の特性
  1 看護官の任務・役割
  2 看護を展開する場の特性
   (1)作戦第一主義
   (2)劣悪な環境
   (3)看護管理上の困難
  3 作戦地域における倫理的ジレンマ
 第2節 戦傷病治療における看護
  1 戦傷病の概念
  2 戦傷の治療
   (1)戦傷治療の原則
   (2)戦傷治療におけるトリアージ
   (3)戦傷の治療と看護(収容所まで)
  3 収容所・野外病院における看護
   (1)収容所及び野外病院
   (2)受け入れ分類・処置
   (3)周手術期看護
   (4)病室における看護
   (5)後送における看護
   (6)後送間または収容中に死亡した傷病者の取り扱い
 第3節 NBC攻撃による傷病者の看護
  1 NBCあるいはCBRNE
  2 生物剤による攻撃・テロへの対応
   (1)生物剤(生物兵器)とは
   (2)生物剤への対応
   (3)看護
  3 化学剤による攻撃・テロへの対応
   (1)化学剤とは
   (2)化学剤への対応
   (3)看護
  4 核兵器及び放射線による攻撃・テロへの対応
   (1)核兵器及び放射線による攻撃・テロとは
   (2)核兵器及び放射線による攻撃・テロへの対応
   (3)看護

第4章 健康管理
 第1節 自衛隊における健康管理
  1 健康管理の意義
  2 健康管理の責任
  3 健康管理の指標
 第2節 健康増進・疾病予防
  1 原則と考え方
  2 計画・実施・評価
  3 健康診断
   (1)根拠
   (2)目的
   (3)健康診断の種類
   (4)診断後の指示区分
  4 衛生教育
   (1)定義
   (2)目的
   (3)衛生教育の計画
  5 体力衛生
  6 精神衛生
 第3節 防疫
  1 防疫の目的
  2 防疫業務
   (1)感染症の予防
   (2)発生時の対応

第5章 メンタルヘルス
 第1節 自衛隊におけるメンタルヘルス
  1 自衛隊におけるメンタルヘルスの特性
   (1)隊員構成
   (2)職場環境
   (3)任務の多様化とトラウマティック・ストレス
  2 自衛隊におけるメンタルヘルスの施策
  3 メンタルヘルスにおける看護官の役割
 第2節 基本となるメンタルヘルス対策
  1 部隊におけるメンタルヘルス上の課題
   (1)睡眠障害
   (2)適応障害
   (3)うつ病
   (4)アディクション
   (5)自殺
  2 隊員個人によるストレスマネジメント
  3 部隊におけるネットワークと統制システム
 第3節 特殊状況下におけるメンタルヘルス対策
  1 災害派遣活動におけるメンタルヘルス
  2 国際平和協力活動におけるメンタルヘルス
  3 コンバットストレス
  4 トラウマティック・ストレスへの対応


付録(1) 用語集
付録(2) 年表

索引

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長年培われた防衛看護の知識体系に引き込まれる
書評者: 南 裕子 (高知県立大学長)
 「看護師たる自衛官を『看護官』と呼ぶ」,という著者の冒頭の文章に新鮮な衝撃を受けながら読み続けるうちに,自衛隊の中で長年の間培われてきた防衛看護の知識体系に引き込まれました。自衛隊の任務を遂行する看護官の果たす役割の明確なことに舌を巻くと同時に,災害看護の組織化という点でも,示唆に富む経験知が豊かにあると感じました。

 第一に,本書の第1章が「災害看護」であることです。「災害看護」に続いて「国際平和協力活動における看護」「戦傷病看護」「健康管理」「メンタルヘルス」と章が並ぶのですが,基本的に防衛看護の知識体系は,われわれのいう広義の災害看護なのだということがわかります。加えて,災害看護の観点から見ると,視野が広がる内容が含まれています。

 第二には,組織内での看護の役割が見えることです。阪神淡路大震災以後,災害時の自衛隊の活動は日本においては重要な役割を果たすことが一般人にわかってきましたが,その中の看護の役割についてはあまり知られていないように思えます。この本を読むと,自衛隊の構造と機能がわかるとともに,災害時,有事,平時の看護官の役割が見えてきます。

 看護は組織の中でいつも隠された存在になりやすいのですが,本書によって自衛隊の中の看護の見える化が促進されると思われます。例えば,看護官は,自衛隊員等関係者と地域住民に区別して対象を捉えています。自分が所属する組織の人々を看護の対象としてしっかりと捉えているところは新鮮でした。

 第三には,自衛隊の看護官たちが培ってきた看護の考え方とノウハウが具体的に書かれてあることです。抽象論にとどまらず,制度や体制の中で看護がどの立ち位置にあるのかが見えてきます。「国際平和協力活動における看護」や「戦傷病看護」は,他の看護の教科書には見られない内容です。

 さらに興味深いのは「健康管理」の章です。災害看護の現場では当然支援者の健康管理が大事ですが,自衛隊における健康管理はかなり組織的に定義されていて,具体的に何を意味するかがわかります。例えば,隊員の衛生教育について,教育目標分類学の認知領域,情意領域,精神運動領域の枠組みを一般同様に用いていますが,情意領域の「価値づけ」では「中隊長は,訓練の合間であっても,隊員の『DOTSによる結核薬内服』に関する権利を擁護する」という明確な目標例を出しています。

 本書にまとめられたこの知識体系は,自衛隊関係者や自衛隊の看護教育機関で活用されるだけではなく,看護界全体にとっても意義があるものと考えます。

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