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今日の神経疾患治療指針 第2版

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『今日の治療指針』シリーズの神経疾患版が“よりコンパクトに、わかりやすく”なって全面改訂。総論として「症候と鑑別診断」「治療総論」の章を新設。日常診療で遭遇するものから希少なものまで収載された疾患各論では、病態、症候、検査、診断など臨床の流れをつかみながら、処方例を含む具体的な治療指針がわかる。全321項目で網羅性は抜群。神経内科医、脳神経外科医のほか一般内科医も手元に置いておきたい1冊。
シリーズ 今日の治療指針
編集 水澤 英洋 / 鈴木 則宏 / 梶 龍兒 / 吉良 潤一 / 神田 隆 / 齊藤 延人
発行 2013年03月判型:A5頁:1136
ISBN 978-4-260-01621-6
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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第2版 序

 亀山正邦先生,高倉公朋先生のご編集による『今日の神経疾患治療指針』が発行されたのは1994年のことである.神経疾患の治療法を網羅した本書は,当時としても,また現在においてもほかに類を見ない大規模な治療マニュアルであった.このたび19年の時を経て,第2版発行の運びとなった.
 初版発行から現在に至る間の神経学の進歩は目覚ましいものがある.かつては“神経難病”とされていた疾患にも,新しい薬剤や治療デバイスの登場により,根治療法,対症療法を含め,多くの治療法が用いられるようになった.また,昨今各種診療ガイドラインも多数整備されており,各疾患においてエビデンスに基づいた医療を行うことが可能となりつつある.治療の選択肢が幅広くなる中,各疾患の標準的な治療法に素早くアクセスできることを編集方針に,今回の改訂を行った.
 本書の改訂に当たり,大きく方向転換した点は,書籍のスリム化をはかることを主な目的に,神経内科医を読者対象の中心に据えたことである.脳神経外科領域に関しては,神経内科医が最低限知っておくべき知識が得られるよう留意している.ただ脳神経外科医にも,知識の整理,また神経疾患の内科的治療の現状を知っていただくために,ぜひ手に取っていただきたいと考える.
 総論的な章として新しく,神経症候に対する緊急処置や診断・鑑別のポイントをまとめた「症候と鑑別診断」,各種薬剤や治療法の解説をまとめた「治療総論」を設けた.これらの章は神経症候を呈する患者を前にしてどのような治療を選択するのかという,臨床的アプローチを大づかみに理解していただくのに役立つと思われる.
 また疾患各論の章も,初版から大幅に変更した.各項目は,「疾患概念」「症候」「検査」「診断」の項で各疾患の特徴をつかみ,「治療指針」の項で処方例を含む具体的な治療法を解説する形式を統一するよう心掛けてある.またこれも時代の流れであるが,初版発行時と比較して画像診断が大きく進歩した.第2版では各項目で症例画像が多く提示されているため,結果としてよりビジュアル的にわかりやすいものになったと考える.
 神経疾患は,治療のみならず,病因の研究も途上という段階にあるものも多い.そのような状況で,本書において紹介された最新の治療法の数々は,執筆者の先生方による日々の臨床・研究のまさに賜物といえる.ご多忙のなかお力添えをいただいた先生方には,この場を借りて改めて深甚の謝意を表する.
 最後に,本書が読者の皆様の診療の一助となることを切に願う次第である.

 2013年2月
 編者一同

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1 症候と鑑別診断
  意識障害/認知症/頭痛/てんかん/めまい,耳鳴り,難聴/失神/
  視力・視野障害/眼球運動障害,瞳孔障害/嚥下障害/筋力低下,筋萎縮/
  感覚障害,しびれ,神経痛/不随意運動/運動失調/急性横断性脊髄障害/
  歩行障害/髄液圧異常/睡眠障害/排尿障害,排便障害,性機能障害,
  発汗障害(自律神経障害)

2 治療総論
 薬物療法とその副作用
  脳保護薬,脳循環代謝改善薬/抗血小板薬/抗凝固療法/血栓溶解薬/降圧薬/
  脳浮腫治療薬/全身麻酔薬/催眠鎮静薬(睡眠薬),抗不安薬/抗てんかん薬/
  抗精神病薬/抗うつ薬/抗めまい薬/片頭痛治療薬/パーキンソン病治療薬/
  認知症治療薬/その他の神経(変性)疾患治療薬/自律神経系作用薬/
  昇圧薬(低血圧治療薬)/抗痙縮薬/ビタミン製剤/抗菌薬/抗ウイルス薬/
  副腎皮質ステロイド/非ステロイド系消炎鎮痛薬/免疫抑制薬/免疫調整薬/
  免疫グロブリン製剤/小児神経疾患への薬剤使用法
 その他の療法
  血液浄化療法(アフェレシス療法)/ボツリヌス毒素療法(ボツリヌス治療)/
  脳血管内治療/ペインコントロール/外科的療法/放射線療法

3 脳血管障害
  脳血管障害総論/一過性脳虚血発作/アテローム血栓性脳梗塞-内科治療/
  アテローム血栓性脳梗塞-頸動脈狭窄症に対する外科的治療/ラクナ梗塞/
  分枝粥腫病/心原性脳塞栓症/脳動脈解離/高血圧性脳出血/くも膜下出血/
  脳動静脈奇形/硬膜動静脈瘻/脳静脈血栓症/もやもや病/高血圧性脳症/
  大動脈炎症候群,その他の血管炎など/一過性全健忘/特発性正常圧水頭症/
  ポストストローク症候群/無症候性脳血管障害/脳血管障害のリハビリテーション

4 脳腫瘍
  脳腫瘍治療総論
 神経上皮性腫瘍
  神経膠腫(膠芽腫,星細胞腫,乏突起膠腫,上衣腫)/髄芽腫/中枢性神経細胞腫
 脳神経および脊髄神経腫瘍
  神経鞘腫(聴神経腫瘍,三叉神経鞘腫など)/神経線維腫症
 髄膜の腫瘍・その他
  髄膜腫/脊索腫,軟骨肉腫/血管芽腫/悪性リンパ腫/胚細胞腫/
  類皮嚢胞,類表皮嚢胞/くも膜嚢胞
 トルコ鞍部腫瘍
  非機能性下垂体腺腫/機能性下垂体腺腫(プロラクチノーマ,先端巨大症,
  クッシング病)/頭蓋咽頭腫,ラトケ嚢胞
 その他
  転移性脳腫瘍/頭蓋骨腫瘍/眼窩内腫瘍

5 感染性疾患
  ウイルス性髄膜炎/ウイルス性脳炎/単純ヘルペス脳炎/
  その他のヘルペス属脳炎/日本脳炎/インフルエンザ脳症・脳炎/帯状疱疹/
  急性灰白髄炎/狂犬病/HIV感染症に伴う神経障害/HTLV-Ⅰ関連脊髄症/
  化膿性髄膜炎/結核性髄膜炎/脳膿瘍/硬膜下膿瘍/真菌性髄膜炎/神経梅毒/
  神経ボレリア症(ライム病)/レプトスピラ症,神経リケッチア感染症/
  神経原虫感染症/神経寄生虫感染症/破傷風/プリオン病/亜急性硬化性全脳炎/
  進行性多巣性白質脳症

6 自己免疫性疾患・傍腫瘍性症候群
  非ヘルペス性辺縁系脳炎/小舞踏病/急性小脳炎/
  オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群/チャーグ・シュトラウス症候群,
  ウェジェナー肉芽腫症/側頭動脈炎/ベーチェット病/神経スウィート病/
  神経サルコイドーシス/橋本脳症/中枢神経系ループス,抗リン脂質抗体症候群/
  シェーグレン症候群による神経障害/トロサ・ハント症候群/肥厚性硬膜炎/
  結節性多発動脈炎,顕微鏡的多発血管炎/関節リウマチ/リウマチ性多発筋痛症/
  全身性強皮症/傍腫瘍性神経症候群

7 脱髄性疾患
  多発性硬化症/視神経脊髄炎/急性散在性脳脊髄炎/白質ジストロフィー

8 頭部外傷,脊髄・脊椎外傷
 頭部外傷総論
  頭部外傷治療上の一般的注意点/頭蓋内圧亢進/緊急開頭術の適応と手技/
  頭皮・軟部組織の損傷/頭蓋骨骨折/スポーツ頭部外傷
 頭蓋内病変
  急性硬膜外血腫/急性硬膜下血腫/脳挫傷,外傷性くも膜下出血,
  外傷性頭蓋内出血/慢性硬膜下血腫/頭蓋内異物/びまん性軸索損傷
 頭部外傷後の合併症
  外傷後の髄膜炎・硬膜外膿瘍・脳膿瘍/髄液鼻漏,髄液耳漏,気脳症/
  外傷性脳動脈瘤,外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻/外傷性頸動脈閉塞症,
  外傷性椎骨動脈閉塞症/外傷性てんかん(外傷後てんかん)/外傷性脳神経の損傷
 脊髄・脊椎外傷
  脊髄損傷/脊椎の外傷/脊髄・脊椎外傷の慢性期の治療

9 先天性異常・発生異常
 染色体異常症
  1p36欠失症候群/ウィリアムズ症候群/ダウン症候群/22q11.2欠失症候群/
  ターナー症候群/脆弱X症候群
 脳の形態的異常
  水無脳症,先天性水頭症,ダンディ・ウォーカー症候群/
  二分脊椎(脊髄髄膜瘤,脊髄披裂)と二分頭蓋(頭蓋披裂),キアリ奇形1-3型/
  全前脳胞症,中隔視神経(下垂体)異形成症/脳形成障害(含:滑脳症,
  多小脳回,脳梁欠損症)/孔脳症/係留脊髄症候群/頭蓋骨縫合早期癒合症/
  頭蓋底陥入症/環椎と軸椎の偏位/環椎と後頭骨の癒合/歯突起の分離/
  頸肋,胸郭出口症候群
 神経皮膚症候群
  結節性硬化症/神経線維腫症/スタージ・ウェーバー症候群/伊藤白斑/
  毛細血管拡張性運動失調症
 先天代謝異常症
  アミノ酸代謝異常症/先天性脂質代謝異常症/ペルオキシソーム病/ムコ多糖症/
  糖蛋白質代謝異常症/鉄代謝異常症(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症など)/
  レッシュ・ナイハン症候群/瀬川病(GTPシクロヒドラーゼⅠ欠損症)/
  GLUT-1欠損症/先天性グリコシル化異常症

10 頭痛
  片頭痛/緊張型頭痛/群発頭痛/薬物乱用頭痛,慢性連日性頭痛

11 てんかん
  てんかんの薬物療法/てんかんの外科治療/てんかん重積の治療

12 不随意運動
  振戦/ジストニア/ミオクローヌス,固定姿勢保持困難,下肢静止不能症候群/
  片側顔面攣縮,ミオキミア/舞踏病,アテトーゼ,バリズム,チック

13 変性疾患
  アルツハイマー病の薬物療法/その他の変性性認知症の薬物治療/
  認知症の非薬物療法・ケア/パーキンソン病の薬物療法/
  パーキンソン病の外科治療/パーキンソン病の非薬物療法・ケア/
  その他のパーキンソニズム/筋萎縮性側索硬化症/脊髄小脳変性症

14 代謝性疾患
  ウィルソン病(肝レンズ核変性症)/ビタミンB1欠乏/ビタミンB6欠乏/
  ビタミンB12欠乏/葉酸欠乏/ニコチン酸欠乏/ビタミンD欠乏/
  ビタミンE欠乏/ポルフィリン症

15 筋疾患・神経接合部疾患
  筋ジストロフィー(ジストロフィノパチー)/
  筋ジストロフィー(ジストロフィノパチー以外)/筋強直性ジストロフィー/
  縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー/先天性ミオトニー/先天性パラミオトニー/
  ミトコンドリア脳筋症/急性横紋筋融解症/周期性四肢麻痺/
  糖原病(含:ポンペ病)/カルニチン欠乏症/悪性高熱症/多発筋炎,皮膚筋炎/
  封入体筋炎/全身こむら返り病(里吉病)/stiff-person症候群/
  アイザックス症候群/重症筋無力症(成人)/重症筋無力症(小児)/
  ランバート・イートン筋無力症症候群

16 中毒による神経障害
  有機水銀中毒(水俣病)/無機水銀中毒/鉛中毒/ヒ素中毒/タリウム中毒/
  マンガン中毒/リチウム中毒/エタノール中毒/メタノール中毒/
  n -ヘキサン中毒/トルエン中毒/有機リン剤中毒/スモン/
  薬物による白質脳症/薬物性パーキンソニズム/悪性症候群/
  遅発性ジスキネジア/一酸化炭素中毒/シアン中毒/麻薬・覚醒剤中毒/
  フグ毒による中毒/ボツリヌス食中毒

17 自律神経障害
  シャイ・ドレーガー症候群/純粋自律神経失調症/
  特発性自律神経ニューロパチー/反射性交感神経性ジストロフィー/レイノー病

18 脊髄・脊椎の疾患
  脊髄血管障害/脊髄炎,アトピー性脊髄炎/脊髄空洞症/
  脊髄動静脈瘻・動静脈奇形/脊髄硬膜外腫瘍-脊椎腫瘍を中心に/
  脊髄硬膜内髄外腫瘍/脊髄髄内腫瘍/頸椎椎間板ヘルニア/平山病/
  腰椎椎間板ヘルニア/後縦靭帯骨化症/黄色靭帯骨化症/脊髄硬膜外膿瘍/
  脊椎炎/低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)

19 末梢神経障害
  ギラン・バレー症候群/フィッシャー症候群/
  慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー/多巣性運動性ニューロパチー/
  シャルコー・マリー・トゥース病/家族性アミロイドポリニューロパチー/
  AL型アミロイドーシスによるポリニューロパチー/
  POEMS症候群(クロゥ・深瀬症候群)/膠原病に伴うニューロパチー/
  ハンセン病/三叉神経痛,舌咽神経痛/特発性末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)/
  ラムゼイ ハント症候群/絞扼性ニューロパチー,圧迫性ニューロパチー/
  末梢神経の腫瘍

20 内科疾患に伴う神経障害
  糖尿病/低血糖症/甲状腺機能亢進症/甲状腺機能低下症/甲状腺異常性眼症/
  副甲状腺機能亢進症/副甲状腺機能低下症/肝性脳症/低酸素性脳症/
  過炭酸ガス血性昏睡(CO2ナルコーシス)/尿毒症/全身性エリテマトーデス/
  多血症(赤血球増多症)/血栓性血小板減少性紫斑病/播種性血管内凝固症候群/
  多発性骨髄腫/血管内悪性リンパ腫症/白血病/血友病/癌性髄膜症/
  シデナム舞踏病

付録 商品名→一般名対象表
和文索引
欧文索引

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書評 (雑誌『Clinical Neuroscience』より)
書評者: 望月 秀樹 (大阪大学大学院教授 医学系研究科神経内科学)
 この度,『今日の神経疾患治療指針 第2版』が,医学書院から発行された。本書は1994年に亀山正邦先生,高倉公朋先生らのご編集により発行された初版の改訂版で,神経内科医を対象として出版された治療マニュアルである。前半は「症候と鑑別診断」「治療総論」,後半は「疾患各論」に分け,多くの専門家により解説されている。

 第2版本書の特筆する点としては,「症候と鑑別診断」と「治療総論」を新たに加えたところであろう。外来での診察に当たり,神経専門医でないと診断名だけの記載の本では正解にたどり着かない事もある。適切な治療に行き着くために,症候からの鑑別がいかに行えるかが必須なのは言うまでもない。本項目では,研修医向けの用語解説からアルゴリズムなどを駆使してわかりやすく記載されている。

 また,各疾患の治療薬を具体的に記載されたものはよくあるが,いざ患者さんに使うとなると,作用機序や副作用などが気になり薬の本を手に取ってしまうことがある。「治療総論」の項には,主要な薬剤の薬理作用と特徴や用法,用量と副作用対策などをすぐ確認する事ができ大変便利な一冊になっている。

 非常にコンパクトであるにもかかわらず,本編では321項目,「疾患各論」ではなんと269疾患(および解説)について「疾患概念」,「症候」,「検査」,「診断」,「治療方針」,「予後」,「患者・家族の説明」についてわかりやすくかつ詳細に記載されている。初版の序で編者により述べられているように,正に「神経治療事典」である。治療マニュアルでは,疾患の説明は少なくなるものだが,図表や写真が多く,研修医にもわかりやすくそれぞれの疾患が説明されている。処方例について読んでみると,保険使用外の薬剤に関しては印を付けたり,巻末には商品名に対する一般名対照表をつけるなどの配慮がなされている。特に薬物療法だけではなく,脳血管障害の項目ではリハビリテーションについて,変性疾患の項目では認知症やパーキンソン病で非薬物療法・ケアについて,詳しく記載されているのがうれしい。

 本書の特に臨床に役立つ点としては,「患者・家族の説明」があげられる。各疾患のエキスパートが,その疾患や患者さんに対しての思いを入れて書かれているので,そこだけを読み比較するだけでも面白い。もちろん各著者の患者,家族に対する接し方など,実地にも大変役に立つので一読を勧める。神経疾患の治療選択に関しては,各診療ガイドラインをどう活用しているかが気になるところではあるが,調べてみると各項目とも重要点はガイドラインを参考に記載されていた。そういえば,本書は神経疾患のガイドラインを刊行している医学書院であった。今後は,ガイドライン改正時にどのように対応していくか気になるところではある。実際,各疾患で新薬が次から次にでてくるので,今度は19年後とはいわずにもう少し頻回に改版してほしい。

 本書の書評を頼まれてすぐに,初版の編者のお一人である亀山正邦先生がご逝去された。日本の神経学・老年医学を創設された神経学の巨星のお一人である。心よりご冥福をお祈りする。

(中外医学社発行 『Clinical Neuroscience』 2013年9月号(Vol.31 No.9)1064頁より許可を得て転載)
神経疾患診療の進歩を現した治療指針の辞典
書評者: 柳澤 信夫 (東京工科大学医療保健学部長/信州大学名誉教授)
 このたび『今日の神経疾患治療指針第2版』が上梓された。これは1994年に出版された第1版の続編の形をとっているが,その内容は全く一新され,過去十数年にわたる神経疾患診療の進歩をそのまま現した内容となっている。第1版では,現在の神経内科の診療領域に限らず,精神科,脳神経外科,リハビリテーション科など関連領域のテーマについても,幅広く,各々の専門家によって執筆された。

 このたび全面改訂された第2版では,過去十数年に大きく発展した頻度の多い疾患から希少疾患までの最新の治療が,基本的なガイドラインに沿って丁寧に,かつわかりやすく記述されている。本書の編集者は日本神経学会代表理事の東京医科歯科大学大学院水澤英洋教授を筆頭に,異なる専門分野の神経内科教授5名,脳神経外科教授1名からなり,(1)頻度の多い症候の病態と鑑別,(2)各種治療法の特徴と副作用,(3)個別疾患の治療法に分けて,各々の疾患,病態の専門家によって記述されている。

 第1章「症候と鑑別診断」では,意識障害,認知症,てんかん,頭痛,めまい,失神など,頻度の多い神経症候について,定義,病態,診断,鑑別などが要領よくまとめられ,神経診断学のコンサイスとして大変優れている。そして第2章「治療総論」では,目的別に各種薬剤の作用機序,適応と副作用を丁寧に述べている。例を挙げると,近年新しく開発された脳血管障害に対する各種薬物は,基本的な抗血小板薬,抗凝固療法,血栓溶解薬に加えて,脳保護薬,脳循環代謝改善薬,脳浮腫治療薬などについても,個々の薬物ごとに,急性期の使用法を分きざみに評価し,年齢や基礎疾患への留意事項,全身管理の要点などが具体的に記述されている。そして疾患としての脳血管障害の治療方針は,各論において96ページを費やして,疾患ごとに病態,リハビリテーションに至るまで国際分類も含めて詳述されている。その結果どのような患者に遭遇しても,その治療について十分な情報がこの1冊で得られる構成となっている。これは編者,筆者ともに豊富な臨床経験の上に,個々の診療に必要な情報がどのようなものかを熟知して,文章の構成と内容が定められた成果と理解される。さらにすべての疾患において,家族への説明・指導が独立した項目として述べられており,診療内容のユニークさを高めるものとなっている。

 各種神経疾患の治療の進歩は,医学雑誌の特集として年々発刊されるが,それらは治療の進歩の動向を知る上で有益であるものの,臨床医にとって受け持った個別の患者に適した治療を選ぶエビデンスに基づく十分な知識はなかなか得られ難い。

 本書は文字通り個々の神経疾患患者の治療指針を得るための辞典として,さらに神経疾患の治療を通じて神経学を改めて学び,医療の中で患者をどのように位置付けるべきかを考えさせる内容を含んだ,臨床医の座右に置き安心して参照できる書物となっている。
身近に1冊備えるべき神経疾患治療の教科書的書籍
書評者: 金澤 一郎 (国際医療福祉大大学院長/東大名誉教授)
 この度,医学書院から表題の本が上梓された。第2版である。だが,これがほぼ20年ぶりの改訂であることがすぐにわかる人は少ないだろう。亀山正邦・高倉公朋両先生編集による初版の序にすでに,神経学は「遺伝子レベルの研究が最も盛んな領域」であり,「高齢化によって,わが国では,神経疾患対策が強く要請されている」とある。その他に,この20年間に臨床や研究の内容が縦にも横にも著しく拡がった。例えば,認知症が増加した上にその鑑別診断も細分化したし,MRIをはじめとする画像診断が精緻化し,神経免疫学的病態の知見も増大した。疾患概念そのものが変わったものもある。精密になる一方の診断へのアルゴリズムも均てん化されてきた。当然,それに並行して治療法も進展した。新しい薬物や手術も開発され,治療の選択肢が多くなった。そればかりでなく,EBMの概念も定着し,いくつかの疾患について,「治療ガイドライン」も学会等の責任で作成されてきた。また,20年前にはそれこそ「夢物語」でしかなかった神経変性疾患の根本的治療も,遺伝子治療や細胞治療などによって「もしかしたら」と思わせるような時代になったことを忘れてはならない。

 これほどの大きな進歩が,ものすごいスピードで進行している神経学領域での治療法の教科書的書籍の改訂に際して,東京医科歯科大学大学院脳神経病態学・水澤英洋主任教授をはじめとする6名の編集者のご苦労は並大抵ではなかったであろう。妙なことを言うが,取り上げない項目を決めるには,新幹線のように疾走する列車から飛び降りるような勇気がいるからである。改訂されたことがわかる点を挙げると,この20年間の臨床知見や画像知見を凝集させた「症候と鑑別診断」にページを割いていること,「治療方針」はガイドラインに沿って非常に具体的に記載されていること,薬物の商品名と一般名の対応表などの気配りが随所にあること,などであろうか。取り上げられた項目を見ると,神経内科以外に,脳神経外科,整形外科,小児神経科,神経耳科,神経眼科,など,関連診療科に関わる項目も豊富にあって非常に実用的である。これだけの内容を357名の執筆者が分担して書き上げたことを考えると,これ以上の内容を望むのは気の毒になるが,あえて注文をつけることにしよう。

 1つは心療内科的あるいは精神科的な項目がもう少しまとまってあってもよかったのではないか。例えば「不安」に対する専門家の立場からのコメントや処方例が載っていると心強いだろう。また,個人的なことで気が引けるが,私が苦しんだ腰椎脊椎間狭窄症の項目を立てて,プロスタグランジン製剤による治療を紹介してくれても良かったかと思う。無論,こんな注文にいちいち応えていたらきりがないが,患者の心理だと許して欲しい。いずれにせよ,身近に1冊備えるべき必携の書である。それにしても,改訂までの20年はいかにも長すぎる。今後は,せめて5年に縮めて欲しいとお願いしておきたい。

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