プロをめざす医療人に読んでほしい一冊
書評者:黒川 清(政策研究大学院大学教授・内科学/日本医療政策機構代表理事)
この数年,「プロ」という言葉がどこの職業分野でも簡単に使われてきた。しかし,「プロ」とは誰か,その資格のありようは何か,誰が決めるのか,そんなことはお構いなしに安易に使われていたところがある。
では,「プロ」の職業人のありようとは何か。ひと言で言えば,その集団の一人ひとりが,自らを律し,そ...
プロをめざす医療人に読んでほしい一冊
書評者:黒川 清(政策研究大学院大学教授・内科学/日本医療政策機構代表理事)
この数年,「プロ」という言葉がどこの職業分野でも簡単に使われてきた。しかし,「プロ」とは誰か,その資格のありようは何か,誰が決めるのか,そんなことはお構いなしに安易に使われていたところがある。
では,「プロ」の職業人のありようとは何か。ひと言で言えば,その集団の一人ひとりが,自らを律し,その集団全体が「内」からも,「外」の社会からも,どれだけ信頼されているか,評価されているか,であろう。グローバル時代になっては,この「内」も「外」も国内だけでないところも,この問題の背景にある。
このような自覚と意識と,日常的な行動に裏打ちされた職業人の集団をめざす個人の集合であることが「プロフェッショナリズム」ということもできよう。
医師は,歴史的にも一人ひとりが「プロ」であることを求められてきた職業といえる。しかも,仕事のありようは内科,外科,小児科,脳外科など多岐にわたり,また勤務形態も開業している者,病院勤務や管理職の者,大学で教育や診療,また研究に携わる者もいる。
しかし,医師以外の人たちからは,いろいろな見方をされる。「Dr.コトー」「ブラックジャック」「神の手」「赤ひげ」などのイメージで受けとられ多様な医師像がある。社会から見れば,多くの人は自分や身内がかかわった身近な経験や,そこから比べてみる一人ひとりが持つ医師,医療機関などの実感と期待するイメージとの乖離もあろう。社会の変化もあって「クレーマー」「モンスター」患者も増える。「医の倫理」に始まり,この10年の「To Err is Human」などの「医療事故」に関する報告書や「医療訴訟」の急増,さらには「医療崩壊」などの背景にはこのような社会からの医師への作られたイメージと実態との乖離もあろう。
素晴らしい臨床医は後進の育成にも熱心だ。それは自分たちがそのような人たちに遭遇し,育ててもらってきたという潜在的な意識があるからだ。優れた臨床指導医のお手本は多いが,「メジャーリーガー」とも呼ばれる優れた海外の臨床医が知られるような世の中になっているのは,プロ野球と同じグローバルな情報時代が背景にある。世界に通用するお手本が若者たちに見えるようになったのだ。
しかし,医療も医師も「医師全体」として一般社会の評判が形成され,定着してくる。多くの場合,医師会とか,病院とか,大学の名前などで評判,名声などが定着してくることが多い。その「評判」はどのように形成されてくるのか。これは医療や教育制度が重要な社会基盤的なものである以上,医療制度も医師育成制度も,その社会の文化や価値観,歴史的,経済的背景などを受けたものであり,かなりの部分は個人的な経験の積み重ねから出来上がる。「プロ」といっても,このような枠組みでの「自己」の評価であったことは否定できない。
テレビ,インターネットなどのメディア情報が双方向に世界に広がり,大勢の人が海外を見る,知る,住む,働く機会が増えれば増えるほど,それぞれの社会の文化や価値観,歴史的,経済的背景などを受けたいろいろな違いに気がつく。これらの背景の違いには考慮しなくても,人の命のことであり,不満や,羨望が生まれる。いわゆるグローバル時代に必然的な社会の変化の一つである。
どのようにして「プロフェッショナリズム」が育成されるか。これはお題目ではない。医学教育,臨床研修のカリキュラムでもない。これは医師になる過程,医師になってからの臨床教育,研修,診療の現場で,日常的に周りの同僚,先輩医師,指導医,ロールモデル,反面教師,メンターなどと,多くの現場で出会い,感じ取り,仕事を振り返り,成長していくものであろう。とすればできるだけ多くの,多様な医師,指導医と臨床の現場で出会うこと,出会う機会を増やすことが若手育成の基本であろう。従来からの「タテ社会構造」での教育研修だけでは,将来への人材育成には不十分であろう。世界の医学教育研修の趨勢を見ればこのことはすぐにも理解できる。
グローバルな世界がどんどん進んでいくからこそ,若いときから,多くの現場を知り,交流し,出会いを増やすことで,お手本となる「プロ」に遭遇する機会が増える。共通の目標となる,医師の世界,医療人の世界に「プロフェッショナリズム」が形成されていく。しかも世界から見られてもおかしくないものになっていく。このような医療人が多いことは,開かれた社会の,国民の誇りになる。これが理想であろうが,「プロ」は一人ひとりが理想をめざし,より高みへと研さんするのである。
本書の編者とその仲間の若手を中心とした医師たちが,重層的に数年の交流,議論,研究,実践,行動を通じて築き上げてきた成果を,「この一冊」としてまとめてくれた。とても素敵な構成と内容に出来上がっている。この多くの方たちの問題意識と活動貢献は,私もよく知っており,いつも敬意を表してきた。この一冊の上梓はとてもうれしい。
「プロフェッショナリズム」について,「今,なぜプロフェッショナリズム?」に始まる3部構成。Part 1「プロフェッショナリズムって何だろう」では経過や指針について,Part 2「プロフェッショナリズムについて考えてみた」では,日常的に遭遇するようないくつもの場面を提示し,論ずる。「フムフム」とうなずいて,「なるほど」,「でもねえ」と考えさせる例示が多い。Part 3「プロフェッショナリズムを究める」ではいくつかの興味深い考察と,納得させられる行動を促すメッセージがこもっている。
わかりやすく実践的,医師にも,医学生にも,広く医療人(皆それぞれが「プロ」をめざしているのだから)の皆さんにもぜひ読んでほしい一冊である。「問題を認識する敏感さ,多様性や変化を受け入れる柔軟性,重要なことをやりぬける堅い意志が必要」なのであり,そのような人が周りにいる,遭遇する機会を増やすことも大事であろう。
なぜ「ポケットの中」なのか? これは読んでのお楽しみとしましょう。