失語症学

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言語聴覚士を目指す学生のための教科書シリーズの1冊。本巻では、言語と脳の関係や、失語症の原因疾患を解説したのち、失語症の症状および失語症候群、さらにそれぞれにおける評価・診断・訓練を具体的に解説する。言語病理学を初めて学ぶ学生のために基礎的な解説から、臨床の視点までをも網羅した、総合的なテキスト。第一線の執筆陣が、各専門領域について詳細に解説しており、臨床家の知識の再整理にも役立つ。
シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 藤田 郁代 / 立石 雅子
発行 2009年03月判型:B5頁:336
ISBN 978-4-260-00769-6
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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 失語症の症状と思われる記述は,古代エジプトのパピルスにまで遡り,失語症は脳とことばの関係を解き明かす緒として,長き時代に渡って研究者の関心を集めてきた.失語症の病態の解明が飛躍的に進んだのは19世紀であり,BrocaやWernickeの活躍に負うところが大きく,すでにこの時代に現在へと続く失語症理論の基礎が築かれた.その後,失語症の病態や発現機序に関する研究は,神経心理学,脳科学,画像診断技術などの進展もあり,着実に進んできた.一方,失語症からの回復に焦点が当てられ,失語症がある人々への言語治療が始まり,本格的な治療研究がみられるようになったのは第二次世界大戦後のことである.このように,失語症の治療研究の歴史は比較的に浅いが,言語治療を専門的に担う職種(言語聴覚士)が誕生することにより治療に関する研究はめざましく進み.現在では失語症の評価・診断・治療について多くのことが学べるようになった.
 本書は,失語症研究の発展の歴史を踏まえ,失語症の基礎と臨床に関する主要な理論と技法を体系化し,臨床に役立つようわかりやすく解説してある.特徴的なことは,評価・診断・治療に多くの頁を割り当て,機能,活動,参加といった幅広い視点から失語症がある人にどのような治療を提供できるかが解説されていることである.特に,評価結果をもとに方針を設定し,治療を実施するプロセスについては,できるだけくわしく説明し,事例を通して具体的に理解できるよう配慮した.治療理論や技法に関しては,現在の臨床で広く用いられている主要なものを整理して網羅した.これらには,適用や効果について科学的検証を経たものだけでなく,その検証が現在,進行中のものも含まれる.学ぶとは,すでに解決され,共通認識となっていることを理解すると同時に,これから解決すべき問題と向かうべき方向を見極め,新たな知と技を創出できるようになることであるので,このような方針をとった.
 本書は,言語聴覚士を志す学生のテキストとなることを念頭において著されており,内容は基本的知識から最先端の情報までを含んでいる.本書は初学者のほか,専門分野の新しい知識を得たいと願っている言語聴覚士,関連職種,近接領域の学生や研究者にも役立つことと思われる.
 執筆者は,失語症に関する研究や臨床に第一線で取り組んでこられた医師,言語聴覚士,近接領域の研究者である.本書をお読みになれば,治療法の究明は,病態や発現メカニズムの解明が終わってから始まるのではなく,両研究は緊密な関係にあり,相互に影響を及ぼし合いながら進むことがおわかりいただけるであろう.
 最後に,失語症臨床への科学的な眼差しと,熱い思いをもってご執筆いただいた方々に心から感謝申しあげたい.同時に,本書の刊行にご尽力いただいた医学書院編集部の方々に深謝申しあげる.

 2009年3月
 編集
 藤田郁代
 立石雅子

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第1章 言語と脳
 1 言語の構造
 2 言語の情報処理過程
 3 言語の神経学的基盤
第2章 失語症の定義
第3章 失語症研究の歴史
第4章 失語症の原因疾患
第5章 失語症の症状
 1 言語症状
 2 近縁症状
 3 随伴しやすい障害
第6章 失語症候群
 1 症候群の成り立ち
 2 ブローカ失語
 3 ウェルニッケ失語
 4 伝導失語
 5 健忘失語(失名辞失語)
 6 超皮質性失語
 7 全失語
 8 交叉性失語
 9 皮質下性失語
 10 純粋型
 [1 純粋語聾]
 [2 発語失行]
 [3 純粋失読]
 [4 純粋失書]
 [5 失読失書]
 [6 失語に伴う失読・失書]
 11 原発性進行性失語
第7章 評価・診断
 1 評価・診断の原則
 2 情報収集
 3 鑑別診断
第8章 失語症の言語治療
 1 言語治療の原則
 2 各期の言語治療
 3 言語治療の理論と技法
 4 失語症の回復
 5 言語治療計画の立て方
 6 急性期の訓練・援助
 7 回復期の訓練・援助
 8 維持期の訓練・援助
 9 社会復帰
第9章 小児失語症

参考図書
索引

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この本に沿って学べば,一流の臨床家になれる
書評者: 柴田 貞雄 (日本福祉教育専門学校校長)
◆本書刊行の意義

 失語研究ほど広い学際的分野・領域を包含するものはない。本書は,それら関連する諸科学も取り入れ,失語を失語症学として体系化の枠組みを具現している。端的に言えば広大無辺,茫漠としていた失語に「学」として明確な輪郭が描かれたことになる。失語を学ぶ上で必要なあらゆる,しかも先端をいく関連科学の進歩と知見も取り入れて見事に編纂されている。

 失語臨床は失語症学の実践であり最たる目的であるから,失語を担当する言語聴覚士はもちろんのこと,これを志す学生にとって本書はめざすべき学習の広がりと深みのレベルにminimal requirementを設定しているとも考えられ,それが“標準”の意味であろう。本書は1970年代に始まるわが国の本格的な失語臨床の勃興から約40年にわたって,失語臨床を主導した言語聴覚士たちの今日までの集大成でもあり,後進に継承される発展への願いでもあるだろう。したがって,後進はひたすらこの本に沿って学べば,間違いなく一流の臨床家,研究者に成長できるはずである。臨床と研究のタフな研鑽の道のりではあるが,実りは大きい。

◆本書の特徴,工夫

 さて,この本は実によくできている。全体の構成,各章,各項の細部にわたるそれも,内容とともによく練り上げられ,学習がはかどりそうである。第4章までは基礎学として専門分野を読み進める上での必須事項を描き出し,失語臨床に関わる内容理解を深く導く。繰り返し立ち返り確認されることを勧めたい。

 第5章以下は,自身の臨床研究の成果と幅広い考察に基づく言語聴覚士ならではの精細な記述でこの本のハイライトである。失語臨床の世界的レベルを思わせる。失語臨床は出現する症状の的確な把握から始まる。この精度が診断と治療の質を決定するといっても過言ではないが,実に要領よくまとめられ,次章への入念な準備となっている(第5章)。

 失語のタイプ分類(失語症候群)は,言語症状の発現機序を解明し言語機能回復への合理的アプローチを提示する「言語診断」そのものではないが,最初に到達すべき不可欠の失語診断である。各症候群の概念に始まり,言語症状の特徴,病変部位,鑑別診断,予後・回復に進む記述は,初心者にも混乱のない掛け値なしのわかりやすさで,確かな診断技術を体得できよう。

 言語治療は,言語症状の発現機序の論理的解明と失語症者の可能性を探る評価に基づいて,働きかけの対象機能や方法などを合理的に決定し(適応),実施することである。言語機能回復に近年の理論と手段を総動員して着々と成果を挙げつつある本書の著者らの労作が書き込まれ,将来への大きな可能性を予感させる。また,失語症患者の生活と人生を支援するリハビリテーションの包括的な活動も網羅してすきがない。言語聴覚障害治療学こそ究める道である。

 本作りにも配慮が行き届いている。随所にTopics,Side Memoを配して理解とその広がりを助け,得した気分にさせてくれる。図と表も適切である。特筆すべきことは,本書の記述を学問的に裏付ける豊富な文献が身近に配されて,確かめやすく将来の検索に極めて便利なことである。Key Pointは,内容の理解を試すところだが編者の親切な姿勢がありがたい。

 以上,言語聴覚士およびそれをめざす学生はもちろんのこと,失語に広く関心を寄せられる人々に心底から本書を薦めたい。
STの視点で説く失語症の基礎から臨床まで
書評者: 廣瀬 肇 (東大名誉教授・音声言語医学)
 本書はわが国における言語聴覚士教育の充実,言語聴覚士の知識の整理とその向上をめざして企画されたシリーズの第1弾で,失語症という大きなテーマに取り組んでいる。

 失語症は言語に関連する脳領域の損傷に伴う言語機能障害で,脳血管障害に伴うことが最も多い。わが国における患者総数は20万人とも30万人ともいわれ,年間の新患数は3万人程度と報告されている。失語症は言語聴覚士にとって特に重要な疾患で,その病態,評価ならびに訓練・治療についての理解を深めることが必要と考えられる。

 本書では失語症の基礎から臨床までを,言語聴覚士としての視点を重視しながら9章に分けて詳述している。執筆者としては言語聴覚士を主とする33名が参加しており,特に失語症の症候学,症候群としての分類と各群の特徴の記述,評価・診断ならびに訓練・治療に多くのページが当てられている。これら各章の内容もさることながら,すべてを統括した編集担当者に,まず敬意を表したい。

 本書の内容は,知識の標準化をめざしたいという意欲が感じられるもので,古典的な記述から最近の知見,さらには各分担者の経験なども盛り込まれて多彩である。特に症状や評価・診断の章は極めて充実している。

 ただ,失語症というものが単なる一臨床疾患であるだけではなく,人間の言語機能という複雑な背景に立った病態であるだけに,安易な標準化になじまない要因,例えば複数の著者の間で記述の整合性が取りにくい状況があるのはやむを得ないことであると思われる。

 具体的な問題として,例えば現在わが国で使用されている各種の総合的失語症検査法が紹介されているが,それぞれの狙いや相違点,問題点,さらにわが国における使用頻度の違いなどが,本書では必ずしも明確に示されていない。

 また症候群の章などに検査結果のプロフィルが提示されているが,一方で検査用紙の実例,あるいは検査にあたっての具体的な注意のような初学者に必要な記述がない。版権の問題などから引用が難しい面もあるかとも思われるが,巻末に各検査用紙の実例が追補されていれば,さらに教科書としての価値が高まったものと思われる。

 そのほか用語の面では,純粋語唖と発語失行症とを同義とするのか,皮質下失語というような障害部位的分類と症候論的分類を並列させるのが今後の方向であるのか,なども整理してほしいところである。これにも関連して,“失語症の定義”がわずか1頁で独立した第2章となっているが,むしろ序章のような形で疫学的考察や,現時点で編集者らが採用している標準的分類方式などを参考として加え,これを巻頭に呈示されれば,教科書としての“据わり”がさらに増したのではないかとも感じている。

 なお,細かい点として,わが国における失語症研究の歴史の中で日本失語症学会(現:日本高次脳機能学会)の果たしてきた役割,特に失語症実態調査の実施や検査法普及の推進などの実績が紙数の関係からか割愛されているのは少し寂しい気持ちもしている。

 いろいろ注文をつけた形になってしまったが,本書が完成までにかなりの時間と労力をかけて刊行された力作であることに間違いない。それだけに,本書の内容は極めて豊富かつ高度であって,広く教科書として採用されるべき意義を持つと同時に,すでに有資格者として失語症臨床あるいは後進の指導に携わっている言語聴覚士にとって,座右の書としての価値が高いと感じている。上に挙げたいくつかの問題点も,今後の増刷の折などに可能な範囲で考慮に入れていただくことができれば,さらに充実したものとなるのではないかと期待している。

 本シリーズが本書を皮切りに次々と発刊され,稔りある成果をあげていかれることを切望したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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