ベナー看護ケアの臨床知
行動しつつ考えること

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看護師は臨床場面で何を感知・予測して、行動しているのか? 看護師はどのようにして臨床知を身につけるのか? 本書では、その答えを解明すべく、ベナーをはじめとする研究者たちが直接看護師たちから話を聴き明らかにしていく。看護師たちのドラマティックな物語から、臨床知をめぐるさまざまな事柄がわかってくる。
シリーズ 看護理論
監訳 井上 智子
発行 2005年01月判型:A5頁:812
ISBN 978-4-260-33370-2
定価 5,940円 (本体5,400円+税)
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  • 目次
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第1章 行動しつつ考えることと推移を見通すこと 概観

 研究の背景

 対象と方法

 卓越した判断と思考,臨床でのふるまいのスキル

 行動しつつ考えることと推移を見通すこと

 熟練したノウハウ

 反応に基づく実践

 発動力

 鋭敏な知覚と関わりの技能

 倫理的推論と臨床的推論のつながり

 情動と判断とナラティヴによる説明のつながり

 経験的学習におけるナラティヴの役割

 実践の論理とナラティヴによる教育法

 まとめ

第2章 臨床把握と臨床探求

・問題の特定と臨床での問題解決

 質的な識別をすること

 臨床状況を探求し,思索し,そのパズルを解くこと

 臨床的重要性の変化を認識すること

 特定の患者集団に関する臨床知を深めること

 臨床把握と患者の反応に基づく実践

 臨床把握,推移を見通すこと,および探索的思考の教育と学習

 まとめ

第3章 臨床における先見性

・潜在的な問題を予測し予防する

 先を考えること

 特別な疾患や傷害についての臨床における先見性

 特別な疾患や傷害のある患者の危機,危険,脆さを予測すること

 予想外の出来事を発見すること

 まとめ

第4章 状態が不安定な患者の生命維持機能の診断と管理

 診断とケアの深いつながり

 緊急で命に関わる状況を診断し管理すること

 診断し,モニターし,見極め,状態の不安定な患者に迅速なケアを提供して生体機能と身体的安定を維持すること

 重要だが緊急でない身体機能の不安定さを診断し,モニターし,予防し,管理すること

 同時に行われる複数の治療・処置を調整し管理すること

 生命維持装置から離脱する患者を指導し支援すること

 まとめ

第5章 熟練を要する危機管理能力

 危機を管理するための環境を整えること

 危機に対応するために迅速で多様な治療の実務を順序よく管理すること

 危機の中でチームを編成しチームメンバーの行動を調整すること

 医師がいる場合,患者の管理をする上で経験に基づいたリーダーシップを発揮すること

 医師が不在の場合,危機管理に必要な医療行為を行うこと

 臨床能力と熟練臨床家を見極め,特殊な状況に配備すること

 情緒的反応を調整し,職場の雰囲気を円滑にすること

 まとめ

第6章 重症患者を安楽にすること

 安楽の源としての身体的ケア

 人間関係やつながりを通じて安楽にすること

 邪魔にならないようにして適度な刺激と気晴らし,休息を提供すること

 先端医療の環境をやわらげること

 でしゃばらずに応じること

 鎮痛薬や鎮静薬,筋弛緩薬の使用と安楽の方法との倫理的な緊張を調和させること

 痛みを伴う処置の影響を抑えること

 日々の日課や習慣が安楽をもたらすこと

 まとめ

第7章 患者の家族へのケアリング

 家族が患者と一緒にいられることを保証すること

 家族に情報や援助を提供すること

 家族がケアに参加できるようにすること

 まとめ

第8章 技術的環境での危険防止

 実践的な技術アセスメントを行うこと

 安全措置を行うこと

 機器を活用することとその性能を理解すること

 まとめ

第9章 死と向き合うこと

・終末期ケアと意思決定

 意思決定のポイントと移行

 ケアの妥当なレベルをアセスメントし計画すること

 治癒から緩和ケアへの移行を認識し伝えること

 思いやりのある緩和ケアを計画し実行すること

 死と向き合うこと

 終末期医療と意思決定についての現在の倫理的議論

 まとめ

第10章 多様な臨床的・倫理的・実践的な考え方について話し合うこと

 臨床的な移行を伝えること

 臨床経過の中で予測の逸脱と予想外の変化を伝えること

 実践を変えることと新たな臨床知識を身につけること

 実験的な治療についての臨床知識を身につけること

 チームを作ること―注意深く,有能で,協力的な集団を育成すること

 まとめ

第11章 質のモニタリングとブレイクダウン管理

 ブレイクダウンを管理する際の仲介者の役割

 最前線での質の改善とモニタリング,危機管理

 差し迫ったブレイクダウンと実際のブレイクダウンを建て直すこと

 ブレイクダウンが生じている中でのチームの構築

 今後のブレイクダウンを予防するためにシステムを改善したり設計し直すこと

 事例の比較:大きな困難に立ち向かいブレイクダウンを受けとめること

 不安定な職場環境で医療システムの欠陥を最小にすること

 適切な看護ケアや社会サービスのないところで高度な医療を提供すること

 まとめと解説

第12章 臨床リーダーシップのすぐれたノウハウと他者を指導し助言すること

 他者の臨床的成長を促すこと

 患者の経過を解釈し,予測し,対応するに際して他者をコーチングすること

 患者ケアのギャップを埋めること

 協力関係を築き,維持させること

 ケア提供システムを作り変えること

 まとめ

付録A 研究デザインおよびデータ分析について

付録B 教育方法と提言

用語解説

参考文献

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優れた看護実践に欠かせない思考のあり方とは (雑誌『看護管理』より)
書評者: 川島 みどり (日本赤十字看護大学教授)
◆新人看護師から熟練看護師までのあるがままの看護実践を記述

 卓越した看護ケアによって,世界中の人々がどれだけ生命を救われ,その先のQOLを高めたことだろう。本書は,そのクリティカルな現場での新人看護師から熟練看護師までの看護実践について,あるがままの姿を記述したベナー博士らの研究の集大成である。研究は,卓越した実践に埋め込まれた実践知を明らかにし,看護実践での技術習得の本質と,技術習得を促進する資源および障害するシステムを明らかにしたうえで,専門技術教育の方法を明確にする目的で行なわれた。

 原書600頁,それを翻訳した本書は800頁近くもあり,短文で評価すること自体無理とは知りつつ,「看護ケアの臨床知」というきわめて魅力的な書名に惹かれて読み進めた。

 第1章では,全体を通して流れる基本的なコンセプトと,研究の背景を知ることができる。絶えず流動し変化し続ける臨床において,看護師らがどのような判断を行ない対処するか,またその両者の結びつきを明らかにするために,「クリティカルケア看護師の臨床判断,臨床知の開発,日々の熟練したふるまいの様相を示す」ものとして,「思考と行動の2つの習慣」と「看護実践の9つの領域」を明らかにしたと述べられている。

 その柱が第2章以下各章ごとのテーマとなり,具体的なインタビューを通して看護師らが語ったナラティブと解説により構成されている。読者は,さまざまな臨床場面で起きた出来事と,その場での看護師らの思考や行動,そして根拠などについて,自分の体験と重ねながら読むことができ,随所に述べられたベナー博士の哲学的な,しかし,きわめて実践的な視野からの解説によって,臨床知の世界に導かれるだろう。

◆すべての看護師の想像力を刺激するに違いない

 昨今のわが国の看護現場の繁忙さは,行なった実践を振り返る余裕さえ与えず,看護師らが自己のケアを語ることはきわめて少ない。まして生命の危機的状況下では,救命のための医師の判断や行動と重なることもあって,熟練看護師といえども,看護独自の即時的な判断や対応を表出することは,かなり至難であると想像できる。それゆえにクリティカルな現場に身をおく看護師らが,何を考えどのように行動しているかを,観察とインタビューによる記述を通して明らかにした研究方法にも興味がもてた次第である。

 文化や医療制度の相違を超えて,「臨床」と「看護ケア」という共通のキーワードに支えられた多数のナラティブスは,すべての看護師の想像力を刺激するに違いない。「もし,私だったら……」と仮定しながら読むと,理解がいっそう深まると思う。邦題にあえて「クリティカル」という用語を用いなかった訳者らの意図もそこにあるようだ。ずしりと重く部厚い本書を読了したときの喜びを,一人でも多くの看護師らが体験すれば,わが国の臨床看護実践の質は飛躍的に進歩するに違いない。

(『看護管理』2005年5月号掲載)
すべての看護師にとっての「宝物
書評者: 舟島 なをみ (千葉大学看護学部教授)
 本書は,『ベナー看護論』(井部俊子ほか訳,医学書院,1992)で知られるパトリシア・ベナーを中心としたグループによる研究の報告書『Clinical Wisdom and Interventions in Critical Care』の翻訳書である。全12章,792頁からなる壮大な書であるが,全編にわたり,研究対象となった看護師が語る豊富なデータを織り込んでいる。いったん読み始めると,読みやすく臨場感あふれる翻訳がその内容へと引き込み,あっという間に「読まされ」,読み終えていた。また,看護師が人々の健康と幸福に貢献する価値ある仕事であることを再確認するとともに,自分自身がその看護師であることを改めて誇らしく思った。

 第1章は,研究方法とその理論的基盤を概説している。その表題「行動しつつ考えることと推移を見通すこと」は,患者自身や患者を取り巻く人的・物的環境が常に変化し,不測の事態が多発する中,看護師が,決まり切ったことを決まり切ったようにするのでも,計画を計画通りするのでもなく,「常に行動しつつ考え」判断していること,その背景には「推移を見通す力」が存在すること,さらには,それが看護の質を支えているという前提を象徴している。

 第2章以降は,研究結果として創出された臨床知をテーマ毎に概説している。そこには,検査の数値には表れない患者の微妙な変化を察知し,様々な情報の統合からその重要性を読み解き看護に結びつけていく看護師,他の看護師や医師を巧みに巻き込みながら患者や家族の希望を叶えていく看護師,患者の意欲や家族の協力をさりげなく引き出し両者の悔いのない闘病や臨終を支えていく看護師等,様々な看護師の姿が描かれている。のべ285名から収集した膨大な面接データ,観察データの分析からこのような看護師の思考や行動を臨床知として言語化することに成功した著者等に敬意を表さずにはいられない。

 本書の邦題は,原題の「Critical Care(クリティカルケア)」という用語を用いておらず,監訳者は,その理由を,「本書の内容がクリティカルケア領域にとどまることなく看護全般に通じる財産であり,領域を越えて一人でも多くの看護職にこれを伝えたいと感じたから」と述べている。同感である。本書は,私たち看護師自身が学ぶべき,また,学生や後輩に伝えたい宝物に満ちている。様々な場,領域で活動するすべての看護師の皆様に本書をお勧めしたい。

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