現象学でよみとく
専門看護師のコンピテンシー

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6領域9名の専門看護師(CNS)による事例をもとに、現象学者である村上氏が各CNSとのインタビューを実施。現象学的な質的研究により、そこから見えてくるCNSの行動や言葉を体系的に抽出。読者にCNSのコンピテンシーとして「看護師の目線で見えた世界」を示していく。CNSを目指す人へ、CNSを活用したいと考える管理者に向けての格好の参考書。また医療人のみならず看護サービスの利用者にも役立つ1冊。
編集 井部 俊子 / 村上 靖彦
発行 2019年06月判型:B5頁:236
ISBN 978-4-260-03886-7
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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はじめに

 本書『現象学でよみとく専門看護師のコンピテンシー』は,CNS研究会の成果を集大成したものです。この研究会の前身である「専門看護師の臨床推論研究会」では,2015年6月に『専門看護師の思考と実践』を著し,専門看護師(CNS)をめざす大学院生に“バイブルとしています”といわれる程,活用していただきました。
 次にわれわれが企てたことはCNSのコンピテンシーに迫ろうというものです。研究会のメンバー編成を若干変更して,2016年10月から月に1回定例で研究会を始めました。ねらいは,前掲書で課題となったCNSのコンピテンシーを現象学的方法を用いて追究しようというものです。そのため研究会には,新進気鋭の現象学者であります村上靖彦氏(大阪大学)をメンバーとして迎えました。
 CNS研究会は以下のように進められました。
 まず,各領域のCNSから順番に事例報告をしてもらいます。他のCNS参加者との討議をとおして事例の意味を深め,翌月に修正版を発表します(これが基本的に本書のCASE報告の前半部分になります)。翌月までの1か月のあいだに事例報告者は一対一で村上靖彦氏のインタビューを受けます。ここで「The CNS」としての極意が語られます。この語りが現象学的手法によって洗練され,CNSのコンピテンシーとして結実されます。研究会では当事者の歓声があがるほど「リアルな現象」として報告され,これがCASE報告の後半部分となります。現象学による分析の手順については序論で詳述されます。現象学的な分析がなぜ「看護師の目線で見えた世界を描き出す」ことができるのかを解説しています。
 9つの事例(CASE)について私がつけた文学的なタイトルで読者を誘いたいと思います。①夫の最期を迎える直前の「妻だけの1時間」,②自死した母親から離れない姉妹の心の手当て,③猫のミーコからアプローチし,本人が隠していた力を引き出す,④一貫して本人の意思を問い,本人のペースを守る,⑤オブジェのようであった義足,⑥「いつもと変わらず多弁・多動」と申し送られる患者への介入,⑦「触ってもらってよかったね」CNSの触診がもつ効力,⑧がん患者の希望を確定し,かなえるためのがん看護CNSの関わり,⑨外来化学療法室の喧騒のなかの静謐,です。各CASEの終わりには,同僚の医師からのやわらかなコメントがあります。
 CNSが報告する「動画」的推論は,卓越した臨床家の実践を可視化して伝え,そのCNSが身につけ発揮しているクセや特徴(これをコンピテンシーといいたいのですが)を記述した本書は,内容的にも方法論としてもきわめて独創的であり興味深いものとなりました。
 CNSをめざす大学院生の二冊目のバイブルとなること請け合いです。さらに,本書を手に取った看護管理者は,CNSの真価を知ることになります。看護提供体制を整備する責任と権限をもつ看護部長は,どのような布陣をしくかを考える格好の参考書になるでしょう。卓越した看護実践とその実践家について医療人のみならず看護サービスの利用者にも役立つものと確信いたします。

 本書の出版には医学書院に多くのサポートを受けました。雑誌「看護研究」の連載には小長谷玲さんの協力を得ました。研究会の開催には早田智宏さん,木下和治さん,最終的な編集作業は七尾清さんが担ってくださいました。皆さまのご協力に感謝を申し上げます。

 2019年3月
 CNS研究会代表 井部俊子

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はじめに

序論 インタビューと現象学的な分析─そこから見えてくるCNSについて

急性・重症患者看護
 CASE 1 事例:集中治療領域における看取りの支援
        現象学的分析:1.5人称の看護
 CASE 2 事例:初療における自殺企図患者家族への悲嘆ケアとCNSに遺された課題
        現象学的分析:想像を超えたところからやってくる出来事がもつ力を
                  受け止める

在宅看護
 CASE 3 事例:今患者に起きていることに関して,あまりにも不足する情報への違和感
        現象学的分析:願いと力

老人看護
 CASE 4 事例:「何とかやってます」─その人の流儀を重んじた関わり
        現象学的分析:「私が入りたいのは風呂おけじゃなくて棺おけです」
                  ─意思の確認とユーモア

慢性疾患看護
 CASE 5 事例:患者が水遊びをしていた頃の足の感覚の体験を捉え,“感じない”
           “離れている”足をEさんに近づける
        現象学的分析:糖尿病の悲しい体

精神看護
 CASE 6 事例:健康的な行動を強化することで,無力感を抱えた看護師のケアする
           意欲を引き出す
        現象学的分析:薬に勝つケア

がん看護
 CASE 7 事例:隠された痛みを掘り起こし対処する
        現象学的分析:見えなくなる看護とスイッチを作るナース
 CASE 8 事例:患者が自分らしさを取り戻すプロセスに寄り添うこと
        現象学的分析:「意思決定を支援する」って簡単に使えない言葉だな
 CASE 9 事例:患者が予測した嘔気のつらさを見過ごさない
        現象学的分析:システム変革の黒子としてのCNS

おわりに

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専門看護師を活用したいと思っている看護管理者に(雑誌『看護管理』より)
書評者: 井上 由美子 (三井記念病院 副院長・看護部長)
◆CNSとの出会い

 20年程前のことになりますが,当時所属していた組織で初めての専門看護師(以下,CNS)が誕生した時には,特に深い感慨を覚えました。

 私は病棟看護師長として,そのCNSと仕事を共にしました。複雑で介入が困難な患者を前に,現場の看護師の持てる力を十分に発揮させるとともに,医師や多職種も上手に巻き込み,「心地よいチーム活動と患者ケア」を実現したことに,大きな感銘を受けたものです。患者や家族が抱える問題を,疾患とその背後にある精神的苦痛,不安や葛藤をさまざまな角度から捉えて判断する力と広い視野を持ち,自らの実践と適切な介入をしていたことは言うまでもありません。

 同時に,CNS自身が持ち合わせていた人としての魅力や人間力が,看護師も多職種も引き寄せたように記憶しています。その魅力や人間力とは以下のような要素でした。看護の心「マインドセット」が軸にあり,実践が伴っていること。現場に出向いていること。臨床の看護師がいかに複雑で煩雑な業務をしている中で日々の看護ケアを実践しているのかを理解し,指導のタイミングや承認と不足部分の明確な提示,この人に相談したい,聞いてほしい,調整に介入してほしいと思わせること。

 CNSとの質の高い仕事の経験を経て,その後,看護部長として転職した組織では,大学院に進学しCNS取得を目指すスタッフを支援するために新たな教育予算を獲得しました。これは組織にとって意義深いことでした。

◆CNSを支援するためのヒントになる1冊

 一方,多くの看護部で以前から「CNSの活用」が課題になっています。1人ひとりのCNSには発達段階があり,内面的な成長プロセスを経て役割を獲得していくことを,看護部長が認識し,継続的に支援する必要があると思います。過去には,私自身にその認識が不足したために,全てのCNSと十分な関係性を築くことができなかった経験もありました。

 本書は,看護管理者にとってなかなか見えづらいCNSの特性を,気鋭の現象学者がインタビューを通じて解き明かしていくもので,急性・重症患者看護,在宅看護,老人看護,慢性疾患看護,精神看護,がん看護の6領域7事例が取り上げられています。インタビューは事例の分析だけにとどまらず,時としてなぜ看護師になったかにまで及び,巧みな質問によって,各領域のCNSが臨床の現場でどのように患者と向き合っているのか,その質の高い倫理的なケアとその根底にある思考が手に取るように伝わってきます。

 現場の看護師が考える益と組織運営者である看護管理者が考える益とは,時として異なります。その異なる部分をつなぎ,紡ぐ役割もCNSには期待されます。また,地域包括ケア時代となり,地域全体で切れ目なく質の高い看護サービスを提供するためにも,やはりCNSによるつなぎや紡ぎが重要です。

 本書は,CNSを活用したいと願いつつ,どう活用してよいか迷いを抱く看護管理者にとって,大きなヒントになる1冊だと思います。

(『看護管理』2019年11月号掲載)

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