がんユニバーシティ
まるごと人間としての患者と,医者と,私

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「まるごと人間」として、がんに向き合うとはどういうことか。本書は病理医・市原真氏が、仲野徹氏ら第一線の医師、研究者、当事者ら17名との対話を通じ、その本質を探求した一冊。診断・治療の現場から創薬研究、心理的ケア、当事者の経験まで、多彩な視点が交錯し「がん」の真実を立体的に描き出す。医学・医療の枠を超え、人間そのものを深く学ぶ全17講義。がんに関わるすべての人に贈る、希望のカリキュラムである。(イラスト:永田礼路)

編集 市原 真
発行 2026年06月判型:A5頁:488
ISBN 978-4-260-06536-8
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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はじめに──「がんユニバーシティ」に入学願書を提出する
 「がんユニバーシティ」入学願書 [市原 真] 

Chapter 0 学長特別講義
 Lecture 1 [生命科学者:仲野 徹] 曼荼羅の中のがん学

Chapter 1 がんの臨床──がん患者と向き合う医師たち
 Lecture 2 [消化管内科:門馬 久美子] がんの診断──人を観る,人の時間を支える
 Lecture 3 [消化器外科:平野 聡] がんと手術──本道の覚悟と情熱
 Lecture 4 [腫瘍内科:設楽 紘平] がんと化学療法──患者さんをよくする,それが大切な仕事

Chapter 2 がんと研究──メカニズムの解明,創薬への道のり
 Lecture 5 [研究者・病理医:田中 伸哉] がん研究の歴史と広がり──医学大好き人間の旗
 Lecture 6 [研究者:高阪 真路] がん研究の最前線──新薬を切り拓く
 Lecture 7 [研究者:大須賀 覚] がん研究の未来──今,がん研究者はめちゃくちゃ興奮している

Chapter 3 がんを深く観る──がんの診断と登録
 Lecture 8 [放射線診断科:三宅 基隆] がんの画像診断──No CTC, No Life
 Lecture 9 [病理診断科:笹島 ゆう子] がんの病理診断──ガラスの向こうにいる患者さんを観る
 Lecture 10 [病理診断科:寺本 典弘] がん登録──がん診療の羅針盤

Chapter 4 がん患者の声
 Lecture 11 [経験者・当事者:阿久津 友紀] 両側乳がんの経験者・当事者として私が思うこと
 Lecture 12 [取材記者:岩本 進] がんを取材する立場から
 Lecture 13 [がん情報サービス:若尾 文彦] がん情報──国民向けデータサービスの構築

Chapter 5 がん患者の近くに
 Lecture 14 [緩和ケア科:尾阪 咲弥花] 緩和ケア──まるごと人間としての患者さんに出会う
 Lecture 15 [精神腫瘍科:清水 研] がん専門の精神科──無意識を言葉にすることに触れる
 Lecture 16 [看護師:秋山正子] 病院外でのケア──進むべき道を見出すための,聞いてもらえる場所

Chapter 6 がんの少し外から
 Lecture 17 [内科:萩野 昇] リウマチ・膠原病内科医にとっての「がん学」

おわりに
 期末考査 [市原 真] 

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「がん」という現象の全体像が浮かび上がる書
書評者:大塚 篤司(近畿大主任教授・皮膚科学)

 市原真先生とは「SNS医療のカタチ」というグループで長く一緒に活動してきた。医療情報をやさしく伝えるにはどうすればいいか,イベントやSNSで試行錯誤を重ねてきた仲である。だから断言できるが,市原先生は私の知る限り日本で一番よく喋る病理医である。講演会の楽屋でも打ち上げの席でも,彼の話題が尽きるのを見たことがない。正直に白状すると,本書を手に取ったとき少しだけ心配になった。あれだけ喋る男に,聞き役が務まるのだろうか。心配は無用だった。本書の市原先生は,相手の言葉を面白がり,掘り下げ,話し手本人も自覚していなかった本音まで引き出していく。2年半かけて17名の「がんを見つめる人」に話を聞いてまとめ上げた本書は,いわば市原真の「聞く力」の集大成である。

 『がんユニバーシティ』という書名のとおり,本書は大学の講義形式をとる。学長特別講義は生命科学者の仲野徹先生。以降,消化管内科医,外科医,腫瘍内科医といった臨床の最前線から,創薬研究者,放射線診断医,病理医,緩和ケア医,精神腫瘍科医まで,講師陣は実に多彩だ。さらにマギーズ東京の訪問看護師,両側乳がんを経験したテレビ局ディレクター,医療記事を書き続けてきた新聞記者と,医療者以外の視点も並ぶ。

 全17講,488ページの大著だが,身構える必要はない。突然の告白になるが,私は30年以上のB’zファンだ。実感として,良い講義は良いライブに似ている。始まってしまえばあっという間で,終わったあとには,もう一度最初から聴きたくなる。そうやってB’zのライブをリピートし,沼にどっぷりハマった。この本も同じ沼の構造をしている。

 なぜ,もう一度読みたくなるのか。理由ははっきりしている。読むたびに,自分の「窓」の狭さに気付かされるからだ。私は皮膚科医としてメラノーマをはじめとする皮膚がんの診療に携わってきた。がん診療は専門分化の極みにある。気が付けば,自分の臓器,自分の職種という窓からしか,がんを見られなくなっていた。同じ「がん」を見つめているはずなのに,内科医と外科医で,医者と患者で,見えている景色はこんなにも違う。その違いを,市原先生は裁くことなく,面白がりながら丁寧に並べていく。読み進めるうちに17の視点が立体的に組み上がり,「がん」という現象の全体像が浮かび上がってくる。

 副題には「まるごと人間としての患者と,医者と,私」とある。がんになっても,患者は患者である前にまるごと人間である。医者もまた,専門家である前にまるごと人間である。そして「私」――読者自身もだ。2人に1人ががんになる時代,本書はがんにかかわる医療者だけでなく,いずれ患者やその家族になるかもしれない全ての人のための教養課程である。入学に試験はいらない。ページを開けば,そこが教室だ。