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被災者・支援者のための
災害時こころのケア実践ガイド
101の疑問とその解説

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災害精神対応は、災害が起きてからあわてて身につけるものではなく、平時からの準備が大切である。基礎的な知識を持ち、支援の原則を理解し、連携のあり方や自らのセルフケアについて考えておくことは、いざというとき落ち着いた支援につながる。本書が苦悩や戸惑いの中にある被災者に寄り添い、その尊厳と生活を支えるための一助となり、支援に関わる方々にとって、迷ったときに立ち返ることのできる一冊となることを願って。

編集 高橋 晶
発行 2026年06月判型:A5頁:376
ISBN 978-4-260-06486-6
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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 災害は,ある日突然,私たちの暮らしを大きく変えてしまいます.住み慣れた家やまち,当たり前だった日常,人とのつながり,そして自分らしく過ごせる感覚までもが揺らぐことがあります.その影響は,建物や生活基盤といった目に見える被害にとどまらず,人のこころにも深く及びます.不安で眠れない,気持ちが落ち着かない,何度も思い出してしまう,涙が出る,いらいらする,何も手につかない──そのような反応は,災害という大きな出来事に直面したときに生じうる,ごく自然なこころと身体の反応です.
 被災された方を支えるあなたへ.本書は,災害の現場やその後の生活のなかで生まれる「知りたい!」「困った!」に,できるだけわかりやすく,実践的におこたえしたいという思いから生まれました.避難所,在宅,仮設住宅など,被災された方が過ごす場はさまざまであり,その場ごとに困りごとも必要な支援も異なります.そのような多様な場面を念頭に置きながら,災害時の精神心理的対応に必要な知識と視点をQ&A形式でまとめています.
 また,DPAT・DMATに関わる方々,精神科・心療内科の医療者,心理職,看護職,保健師,福祉職,行政職員,支援者支援に従事する方々,さらにこれから災害精神保健を学びたい方,学生の皆さん,今後関わりたいと考えているすべての方々に役立つ内容を目指しています.絶対正しいという答えがある領域ではありません.そのときにあわせて,ベストを尽くし,評価・批判があれば,それを踏まえて,よりベターな方向を目指す長い長い100kmマラソンのようなものかもしれません.時に休みながら,歩きながらでもゴールを目指します.ひょっとすると自分自身のマインドセットが試され,これでいいのだろうかと悩むときもあります.時に立ち止まり,談笑して,こころの栄養を補給して歩んでいく,そんなイメージかもしれません.災害時の支援は,ひとつの専門職だけで成り立つものではありません.医療,保健,福祉,教育,行政,地域支援など,多くの専門家が互いに力を持ち寄り,連携しながら支えあっていくことが大事です.本書が,そのための共通の土台となり,現場での支えとなることを願っています.
 災害時の精神心理的対応は,災害が起きてからあわてて身につけるものではなく,平時からの準備がとても大切です.基礎的な知識を持ち,支援の原則を理解し,連携のあり方や自らのセルフケアについて考えておくことは,いざというときの落ち着いた支援につながります.またこの知識・経験は平時の皆さまのお仕事や活動に必ず役に立ちます.人生という,谷あり山ありの道は小さい災害の集まりですから,これに向き合うときに力になります.そして,被災された方々の助けになるだけでなく,被災地を支援する皆さまご自身を支える力にもなるはずです.
 本書が,苦悩や戸惑いのなかにある被災された方々に寄り添い,その尊厳と生活を支えるための一助となり,支援に関わる多くの方々にとって,迷ったときに立ち返り,必要なときに開くことのできる一冊となることを,そしてまた,困難のただなかで人を支える方々にとって,暗闇のなかでそっと足元を照らす小さな灯り,静かな光,ひとつのランプのような存在となることを,心から願っております.

 2026年4月
 高橋 晶

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第1部 災害精神医学の基礎と定義
 1 自然災害のことを教えてください
 2 自然災害以外の災害にはどのような種類があるのでしょうか?
 3 人為災害とは何ですか?
 4 日本の災害にはどんな特徴がありますか?
 5 精神医療とは何でしょうか?
 6 精神保健とは何でしょうか?

第2部 支援体制と組織・チーム
 7 災害フェーズによってどんな「災害時の精神心理に関わる団体・組織」が携わるのか知りたいです
 8 災害時にMHPSSという言葉をよく聞きますが,これは何でしょうか?
 9 DPATとは何ですか?
 10 DPAT隊員になるためには,どんな条件がありますか?
 11 DPATの研修ではどんなことを習うのでしょうか?
 12 DPAT隊員になるために,事前に知っておいたほうがよいことはありますか?
 13 DPATなどで患者さんの搬送が求められたら何に気をつけますか?
 14 DMATについて教えてください
 15 DMORTについて教えてください
 16 災害時の福祉とは何ですか? DWATについて教えてください
 17 災害時の産業医学と精神的支援について教えてください.またDOHATとは何ですか?
 18 その他の災害時の派遣チームなどはありますか?

第3部 専門職の役割
 19 精神科医には,こころのケアに対して,何が求められますか?
 20 災害時,心療内科医には何が求められますか?
 21 災害時にプライマリ・ケア医には,どのような身体・精神的な対応が求められますか?
 22 精神科,心療内科,プライマリケア医以外の医師には,何が必要でしょうか?
 23 看護師に求められる役割を教えてください
 24 保健師に求められる役割を教えてください
 25 心理師・心理士に求められる役割を教えてください
 26 薬剤師に求められる役割を教えてください
 27 精神保健福祉士に求められる役割を教えてください
 28 災害時の精神保健福祉センターの役割を教えてください

第4部 災害時の精神・心理反応と病態理解
 29 災害時にはどのような精神的な問題がありますか?
 30 災害後の心の変化について教えてください
 31 災害急性期に起こる心の変化について教えてください
 32 災害中長期に起こる心の変化についても教えてください
 33 惨事ストレスとは何ですか?
 34 PTSDについて教えてください
 35 トラウマティックストレスとは何ですか?
 36 災害後のうつ病について教えてください
 37 災害時のアルコールの問題には,どんなことがありますか?
 38 災害時にみられる医学的に説明困難な身体症状について教えてください
 39 遷延する悲嘆とはどういう状態のことでしょうか?
 40 遷延性の悲嘆は,ほかの悲嘆と比べて何か違いがあるのでしょうか?
 41 ポリヴェーガル理論について教えてください.災害精神医学やPTSDに役立ちますか?
 42 心的外傷後成長とは? 災害後に心が成長するということですか?
 43 レジリエンスという言葉をよく耳にしますが,何でしょうか?
 44 災害時の精神対応が災害関連死を防ぐことがありますか?

第5部 評価と初期対応
 45 精神心理の状態の評価はどうしたらよいですか?
 46 トリアージとは何ですか? 精神面でのトリアージもあるのでしょうか?
 47 サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)とは何ですか?
 48 トラウマインフォームドケアとは何ですか? 災害時にどう役立てたらいいのでしょうか?
 49 災害精神医療のニーズと評価はどう考えたらよいですか?

第6部 具体的な治療と介入手法
 50 災害時の薬物療法の注意点を教えてください
 51 被災地で漢方薬は有用ですか? 何を持っていったらいいですか?
 52 災害時に役立つ心理療法があれば教えてください
 53 災害時のPTSDにEMDRは有効ですか?
 54 災害時のPTSDに認知処理療法(CPT)は有効ですか?
 55 災害時の精神・心理の遠隔医療は有用ですか?
 56 災害精神医療にAI,アプリを活用したいです

第7部 対象別アプローチ① 子ども・高齢者
 57 子どものこころのケアはどのようにすればよいでしょうか?
 58 災害時の子どものための心理的応急処置とは何ですか?
 59 TF-CBTは,災害後の子どものこころの傷にどのように効果的なのでしょうか?
 60 災害時に,高齢者はどんな反応をしますか?
 61 災害時,認知症の介護者にはどんな苦労があるのでしょうか?
 62 災害時,認知症の人はどんな反応をしますか?

第8部 対象別アプローチ② 配慮が必要な方・死別
 63 身体障害のある方には,どう対応したらよいですか?
 64 精神障害のある方には,どう対応したらよいですか?
 65 災害時要配慮者として対応が必要な人について教えてください
 66 災害時のがん患者への対応,緩和ケアについて大事なことを教えてください
 67 ジェンダーに配慮した避難所等での生活・心理的支援はどうしたらいいですか?
 68 災害時,特に女性に配慮すべきことはありますか?
 69 死別を経験された方への対応について教えてください
 70 災害時,災害後のグリーフケアは,どのようにしたらよいですか?
 71 記念日反応について教えてください

第9部 支援者支援(Supporter Support)
 72 支援者支援とは何ですか? 何をしたらいいのでしょうか
 73 被災者支援のために必要なことは何でしょうか?
 74 被災地で役立つ支援者はどんな人でしょうか?
 75 支援者が被災地に入る準備としては,何がありますか?
 76 被災地に持っていったほうがよいものはありますか?
 77 支援者も心がつらくなると聞きましたが,それは本当ですか?
 78 共感疲労とは何ですか?
 79 災害時の燃え尽き症候群とは何ですか?
 80 被災地で心がつらくなってしまったら,どうしたらよいですか?
 81 支援者が自分の心を守るための準備,事前の知識はありますか?(マインドフルネスなど)
 82 心の守り方はあるのでしょうか
 83 被災者の話を聞きすぎてはいけないというのは本当ですか?

第10部 社会・倫理・マネジメント
 84 被災地域への介入はどうしたらよいですか?
 85 災害時の社会的介入には,何がありますか?
 86 災害時のリスクコミュニケーションについて教えてください
 87 災害時のメディア対応について教えてください.メディアとのよい付き合い方はありますか?
 88 災害時に守るべき倫理はありますか?
 89 災害時の医療行為の法的責任についてはどのように考えればよいでしょうか?
 90 災害時のロジスティックスとは何でしょうか?
 91 災害精神対応として,生活の支援も必要なのでしょうか?
 92 スフィア基準に基づく災害時の行動や人道支援の基準を教えてください
 93 スフィア基準に基づく精神保健対応は,どんなことですか?
 94 災害時,災害後の自死があったらどうしたらよいですか?

第11部 その他・災害精神医学を学ぶために
 95 被災時にできるストレスケアについて教えてください
 96 災害時のマインドフルネスは大切なのでしょうか?
 97 心は鍛えられますか?
 98 これから災害精神医学を学ぶためにはどうしたらよいでしょうか?
 99 災害精神医学の歴史について知りたいです
 100 世界における災害精神対応のシステムについて知りたいです
 101 世界において災害精神医療の対応をした事例について教えてください

索引

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現地の力を損なわずそれを支えるようにかかわる
書評者:小西 聖子(武蔵野大学学長)

 本書を読んでまず感じたのは,日本の災害支援,とりわけ災害時の「こころのケア」が,ここまで現実的に整理されてきたのだということである。

 日本における災害時のこころのケアは,1995年の阪神・淡路大震災を一つの大きな契機として始まった。当時,「こころのケア」という言葉は広がったが,その実践にはまだ誤解や戸惑いも多かった。被災した人にどう介入するのか,悲嘆やトラウマ反応をどのように理解し,どのように支援するのかについて,現在ほどの共通理解があったわけではない。善意によるかかわりであっても,被災者の体験を不用意に聞き出したり,回復のあり方を支援者側が決めつけたりすることで,二次被害に近い事態を生んだこともあったと思う。この領域の展開を長く見てきた者として,本書には,災害支援がこの30年で経験を積み,少しずつ実践知を蓄積し,洗練させてきた過程を感じた。

 本書で印象的なのは,DMAT,DPATをはじめ,災害時に派遣される専門家チームの種類や役割が丁寧に整理されていることである。医療,精神保健,保健師,福祉,行政,教育など,多様な職種がそれぞれの専門性を持ち寄りながら支援にあたる。その全体像を見ると,災害支援は一部の専門家の熱意や経験だけに依存するものではなく,多職種による組織的な実践として,二次被害をできるだけ避けながら,より適切に機能するよう整備されてきたことがわかる。

 同時に,本書には,外部から入る支援者が何かを一方的に提供するのではなく,現地の資源を生かし,地域の支援体制へ上手に引き継いでいくという姿勢も明らかである。災害支援は,支援チームが入っている期間だけで完結するものではない。被災した地域の人々の生活はその後も続き,支援の主体もやがて地域へ戻っていく。そのことを前提に,現地の力を損なわず,むしろそれを支えるようにかかわる視点は,本書の実践性を支えている重要な部分である。

 本書は災害支援の実践的な手引きであるが,続けて読んでいくと,多くのQ&Aを担当している高橋晶医師の,災害に対する姿勢が見えてくる。グリーフやトラウマを特別視しすぎず,しかし軽視もしない。被災者を「壊れた人」と見るのではなく,人が本来持っている回復力や健康な部分を信頼する。深い悲しみや苦痛は当然の反応として尊重されるべきであり,それを急いで治療対象化するのでも,逆に放置するのでもない。その人自身の回復の過程を支え,必要なときには専門的支援につなぐ。そうした穏やかで抑制的で実際的な態度が,本書の底流にある。

 また,本書は「読む本」であると同時に,「引く本」としても使いやすい。例えば,「DPATは何の略語だったっけ」「薬がいらないという人にどう対応すればいいの?」「これはPTSDの症状なんだろうか」など,支援の場でふと確認したくなる基本事項が,逆引きできるように整理されている。災害時には,十分な時間をかけて理論書を読み込む余裕はない。必要な知識にすぐアクセスできる構成は,初学者にとっても,多少経験のある支援者にとっても役に立つだろう。

 災害時のこころのケアは,理念だけでも,技法だけでも成り立たない。人々の生活が破壊され,地域のつながりが揺らぎ,支援者自身も混乱の中に置かれる状況で,何を見立て,何を控え,どのようにつなぐのか。その判断には,知識と経験,制度への理解,そして人間への信頼が必要である。本書は,そのために必要な基本を,現場で使える形でまとめた実践的なガイドである。災害支援にかかわる人が,手元に置いておきたい一冊である。


災害支援を行う時の道標となる書
書評者:大塚 耕太郎(岩手医大教授・神経精神科学/災害・地域精神医学)

 本書は,災害精神医学を専門にされ,DPATでの活動や学会での関連領域の活動を主導されている高橋晶先生が編者となった著作である。先生は2026年より筑波大病院茨城県災害・地域精神医学研究センター教授を担当されている。また,本書の著者は全国の災害現場の最前線にある方や,災害精神医学の権威の方々が務めている。

 まず序文で,支援者に「できるだけわかりやすく,実践的におこたえしたいという思いから生まれた」と,本書の役割を明示されている。そして,Q&A形式でまとめてあることが示されている。つまり,高橋先生と著者らのこれまでに裏打ちされた経験と,学術的な知見により,問いが立てられ,それに対して明確な答えを知ることができるのである。

 本書の章立ては全11部からなる。第1部「災害精神医学の基礎と定義」,第2部「支援体制と組織・チーム」,第3部「専門職の役割」,第4部「災害時の精神・心理反応と病態理解」,第5部「評価と初期対応」,第6部「具体的な治療と介入」,第7部「子ども・高齢者」,第8部「配慮が必要な方・死別」,第9部「支援者支援」,第10部「社会・倫理・マネジメント」,第11部「その他・災害精神医学を学ぶために」という構成である。いずれも災害現場で,支援者が必ず知りたいと思うエッセンシャルな内容である。かつ,読者はどの項目から読み進めても,必要なことをすぐに知ることができ,辞典のように読み進めることもできる。また,DPATやDMATをはじめとした最近の国家的災害精神医療の支援も盛り込み,精神保健福祉医療以外の読者が手にしても,災害精神医学を広く理解できる内容である。

 本書は精神医学の専門家たちにとって,知識を確認することができる良本である。さらにはこれから災害精神医学を学ぶ者にとっても,災害時に直面する問いに対する答えは,災害支援を行う時の道標となるであろう。支援や活動などで大変多忙の中,多くの知見をまとめた高橋先生と著者陣に心より敬意を表したい。

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