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心理社会的プログラムガイドブック

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デイケアで40年以上にわたり精神疾患リハビリテーションに取り組んできた著者が、心理社会的プログラムをどのように実践すればよいかを丁寧に解説する。さまざまなプログラムを「対人交流-課題達成」「身体活動-言語」の軸で分類・整理し、その使い方を伝授。急性期病棟、慢性期病棟、外来、デイケアなど場面別での使い分けについても詳しく手ほどき。これから始める人も、現場で困っている人も誰が読んでも気づきがある1冊。

池淵 恵美
発行 2024年04月判型:A5頁:216
ISBN 978-4-260-05591-8
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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まえがき

 心理社会的プログラム(心理社会的治療)というと,皆さんは心理教育やSST(社会生活スキルトレーニング)などをすぐに思い浮かべると思います。さまざまなプログラムが開発されて効果が検証されていますし,日常的に見聞するありふれた実践と感じているかもしれません。ですが,多様な心理社会的プログラムがそれぞれどのような目的を持っていて,どのようなプログラムを選択したらよいかについては,今まで体系的に整理されてこなかったように思います。特に食事会や,絵画などの芸術療法(アートセラピー),園芸療法などのように,古くから行われ,おなじみの活動にもかかわらずエビデンスが不十分なプログラムについては,その意義がわからないと感じる人が多いと思います。身近なプログラムでありながら,どのような目的や効果を期待できるのか,これまでの教科書では明確に書かれていませんでした。そうした曖昧さのために,薬物療法や個人精神療法が精神障害の治療の中で明確に位置づけられている一方で,心理社会的プログラムは「余裕があればやったほうがよいと思うが,忙しくて人手がないので無理」などと軽視されていないでしょうか。薬物療法が1日3回の基本の食事だとすると,心理社会的プログラムはおやつのような扱いに甘んじているように感じられます。
 なお,本書で取り上げるプログラムは心理社会的治療と総称されることが多く,心理社会的プログラムという言い方はなじみが薄いかもしれませんが,必ずしも狭義の医学的もしくは心理社会的な治療には分類されていないけれども,リカバリーに役立つ活動がいろいろあるところから,それらを含むものとして,本書では心理社会的プログラムとしています。そして,必ずしも「おやつ」ではなくて,豊かな回復を目指す大切なプログラムであることを強調しておきたいと思います。
 ここ20年で急性期病棟が増え入院期間が短縮され,外来ではアウトリーチが盛んになるにつれ,集団で実施することが多い心理社会的プログラムは影が薄くなってきています。本書ではまず「誰のために」「何を目的にして」「どのような内容」のプログラムを行うのか,筆者なりの整理をお目にかけようと思っています。皆さんが,現場で心理社会的プログラムを根拠を持って選択し,明確な目的を持って実施できるようになることが本書の目標です。そのためにプログラムを4種類に分類して,それぞれの使い勝手やエビデンスなどをまとめてみました。皆さんの普段の実践に役立つことを切に希望しています。ぜひ読後の感想を教えてください。

 2024年2月
 精神疾患を持つ人たちを日々支えている多くの人たちへ
 池淵恵美

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まえがき

第1章 心理社会的プログラムは何のために必要なのでしょうか?
 A 心理社会的プログラムと精神障害リハビリテーションはどこが違うのでしょうか
 B 初めから「仕事がしたい」といっていた雅子さん
 C 皆に認められることで力を伸ばした芳雄さん
 D 運動がきっかけで意欲を取り戻した竜太さん

第2章 どんな心理社会的プログラムを知っていますか?
 A 心理社会的プログラムを分類してみましょう
 B わかりやすく2つの軸で分類して考えてみましょう
 C グループのサイズ(参加人数)
 D 運営の主体
 E ジェンダー,年齢

第3章 プログラムのそれぞれの特徴を押さえましょう
 A 「身体活動-課題達成」プログラム
   1 作業療法
   2 運動
   3 料理
   4 大人の塗り絵,ちぎり絵,コラージュなど
   5 音楽(合唱・合奏など)
   6 俳句
   7 書道
   8 オセロ,トランプ,麻雀などのゲーム
 B 「言語-課題達成」プログラム
   1 心理教育
   2 服薬教室,服薬自己管理モジュール
   3 SST
   4 退院支援プログラム
   5 症状自己管理プログラム
   6 疾病管理とリカバリープログラム(IMR)
   7 認知機能リハビリテーション
 C 「身体活動-対人交流」プログラム
   1 運動会
   2 ほかの施設とのスポーツの交流試合
   3 カラオケ大会
   4 ひな祭り,お花見などの季節の行事
   5 ゲーム大会
   6 おやつ作りと会食
 D 「言語-対人交流」プログラム
 E 家族支援プログラム
   1 集団家族心理教育(当事者は含まず,支援者と家族のみ)
   2 単一家族心理教育
   3 複合家族心理教育
   4 家族による家族心理教育
   5 きょうだいの集まり,当事者の子供への支援
   6 家族会

第4章 場面別にみる実施してほしい心理社会的プログラム
 A 精神科急性期病棟
   ・ 精神科急性期病棟のスケジュール例
 B 精神科慢性期病棟
   ・ 精神科慢性期病棟のスケジュール例
 C 精神科外来
   ・ 精神科外来のスケジュール例
 D デイケア
   ・ デイケアのスケジュール例
 E アウトリーチ(訪問)
 F グループホーム
 G 就労支援
 H リワークプログラム
 I 恋愛・結婚の支援

第5章 心理社会的プログラムの担当者になったら──スタッフとしてのこころ構えと成長
 A スタッフとしての関わり方
   1 2つの帽子をかぶろう
   2 どこまで自己開示するか
 B 治療的集団の枠を守る役目
   1 安心感のある場を作る
   2 ルールは皆で決める
   3 リアルワールドに即したルールを作る
 C 集団活動のリーダー,コリーダー
   1 リーダー,コリーダーの役割
   2 リーダーになるには
 D 参加者がリーダーとなるときのサポート
 E 集団への適応に困難のある人のサポート
 F スタッフのトレーニング
   1 すでに施設でプログラムが実施されているとき
   2 プログラムを初めて立ち上げる場合
   3 思うようにできなくて自信をなくしたとき
   4 参加する個々の当事者についての検討
   5 グループへの波長合わせ

第6章 実際にプログラムを立ち上げて運営してみましょう
 A 新たなプログラムの立ち上げ
 B 開始までの準備
 C プレミーティング
 D ポストミーティング
 E 集団の記録
 F 個人記録
 G 参加者数・病名などの記録

こんなとき,どうする? Q&A
あとがき
さくいん

column
 「リアルワールド」
 「リカバリーカレッジ」
 「精神疾患からの回復ステップ」
 「自己価値感」
 「病識」

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さあやってみよう,と著者が背中を押してくれている
書評者:岩根 達郎(京都府立洛南病院リハビリテーションセンター)

 私は当事者のより良いウェルビーイングに向けて,心理社会的プログラムを生業にしている。どうすればより良い実践となるだろうかと,心理社会的プログラムを実施する中で日々迷い,悩み,模索し,ブラッシュアップを繰り返している。それは臨床家として実践し始めたときからずっと続いている。多くの実践者の皆さんも同様であろうと思う。駆け出しのころには,どのようなプログラムがあるのかわからず,伝統的なプログラムや,先輩が実施しているものを踏襲していた時期もあった。プログラムの目的というよりは,プログラムをすること自体が目的になっていた時期もあったかもしれない。当事者の皆さんや,一緒に実施したスタッフと多くの時間を過ごし,多くのことを学ばせていただいた。多分にご迷惑もお掛けしたし,間違ったプログラムも実施したこともあっただろう。本書を拝読する中で,たくさんの経験を思い出させていただいた。

 精神科臨床,あるいは福祉事業所など,多くの場所で心理社会的プログラムが実施されており,多くの実施者がいる。そして,多くの当事者がその恩恵を受けているはずである。おそらく数千から数万人の実施者がいて,当事者はその何倍もの人数であろう。参加する当事者個人にとって,その人生がより良いものとなるよう,あるいはその効果が最大化されるためには,どのような実践が良いのだろうか。本書は心理社会的プログラムについて丁寧に整理されており,そのことについて考える機会を与えてくれる。

 冒頭に事例を通じて心理社会的プログラムが紹介されており,具体的なイメージがつかみやすく,どのような回復の時期に,どのような人に有用かが明記されている。近年,重要視されているエビデンスについても,プログラムごとに丁寧に記載されている。多様な実施方法があるため,実際にはエビデンスが示されていない(示すことが難しい)プログラムも多く,エビデンスが示されていない=効果がない,のではなく,研究デザインとして特定のプロトコルが明確な効果研究が組み立てにくく,実証しづらいことが丁寧に説明されている。エビデンスは示されていないものの,楽しかったり,達成感があったり,安心安全の感覚が満たされるプログラムは臨床では有用であることが述べられている。

 本書の前半は心理社会的プログラムについて概観され,後半はより具体的に場面別に例示され,スタッフとしてのかかわり方などの細やかな配慮点まで記載されている。どのように行うべし,というdoingも記載されているが,おそらく著者が伝えたいどうあるべきか,というbeingもうかがえる。巻末のQ&Aでも,多様な実践場面での思考が記載されており,非常に示唆に富んだ内容となっている。常に筆者らしい優しく穏やかな言葉で書かれており,読み心地の良さも特筆すべき点である。読み終えたときに,さあやってみよう,と筆者が背中を押してくれている。


「巨大こいのぼり」を肯定するために
書評者:木暮 明菜(群馬県立精神医療センター精神科ソーシャルワーカー)

 「トランプやオセロをすることに意味があるのか? 精神障害を持つ人たちのリカバリーに確実に役立つと自信を持って言えるのだろうか?」そのような思いを心の片隅に持ちながら現場の支援をされているスタッフは少なからずいるのではないでしょうか。

 私自身も精神科デイケアで,エビデンスは不確かではあるものの人気のあるプログラムを実施するときに「みんなが好きなのだから続いているプログラムなのだ」と何度も言い聞かせながら,不安を打ち消すように一緒に取り組んでいました。しかし,経験を重ねても確固とした自信がない状態が続いていたのです。

 本書は私のような現場のスタッフに対し,エビデンスのあるものもないものも,意味があると励ましてくれる貴重なものだと思います。

 まずプログラムがタイプ別にわかりやすく分類されています。(1)どんな手段を用いるのかと(2)プログラムの目標がどこに置かれているのかの軸で整理することで,プログラムの特徴がすっきりと整理されていきます(p.16~20)。参加の目的を明確化したほうが参加しやすい当事者にとって,この分類はとても効果的だと思いました。スタッフとしても回復段階に合わせて,支援を組み立てやすいと感じました。例えば,退院後に「体力をつけながら他者と交流を持ちたい」という希望があった場合「一人でできる塗り絵からスタートし,スタッフと1対1で対戦できる卓球で体を慣らしていき,そしてソフトバレーのようなチームで行う競技に挑戦する」というように支援の設計図を描きやすいと思いました。

 この分類を意識するようになってから,現場での支援に行き詰まったときでも,プログラムの幅が広がっていく感覚を味わうことがありました。創作活動のプログラムで,大きなビニール袋で『巨大こいのぼり』を作成したときのことです。お菓子の包装紙や広告,色画用紙を鱗の形に切り,筒状にしたビニールのこいのぼりに鱗をテープで貼っていく作業を行いました。最初,鱗を貼る作業は一人で気軽に取り組めるため,対人交流が苦手なメンバーさんを対象としていました。しかし,鱗貼りは根気の必要な作業ということもあり,疲れてしまう人もいたのです。私は内心「ちょっと失敗したかなぁ? これでは完成できず達成感を得られないかもしれない」と焦りました。しかし,しばらくするとメンバーさん間で「疲れたから休みます」「じゃあバトンタッチしましょう。ここからは私が貼るね」「ありがとう」「色を少しずつ変えてみない?」「そうだね」と言いながら,鱗貼り作業を協力して行う場面に遭遇したのです。作品が個人のものからみんなのものになっていく瞬間でした。個人でできる課題達成を目的とするプログラムでも,協力して一つの作品を完成させるチーム作業にもなり得ますし,鱗の色の配色を相談する対人交流も生まれてくることが見えてきたのです。分類の中で配置したプログラムの位置が展開によって広がりを持ち,新しい目的があることもわかってきます。すると,空間の中で繰り広げられる出来事そのものに意味があり「楽しい」と感じられるようになったのです。

 また,本書では,さまざまなプログラムが丁寧に紹介されています。その中でとても驚いたのが「卒業式」のプログラム(p.145)です。個人的には「え? そのようなお別れのセレモニーをしてしまって大丈夫なのだろうか? その後の生活がうまくいかず,再度デイケアを利用することになったら,気まずいのではないだろうか?」と思いました。そのため,利用最終日も普段と変わらず過ごしていただいていました。しかし,メンバーさんの多くが帰りの会で「今日でデイケアを卒業します。就労に向けて頑張ります。ありがとうございました」と自分から挨拶されていたのです。私は少し心配しすぎだったかもしれないと反省しました。スタッフのほうが失敗することを恐れて萎縮していたのかもしれません。デイケアは「当事者がリアルワールドでどのように社会に参加すればよいかの練習を行える場(p.142)」です。リアルワールドでうまくいかなければ,再度デイケアでシミュレーションしていけばよいのだと気付かされました。

 現場で仕事をしていると,設備,予算,参加人数やグループの雰囲気,回復段階に合わせた支援,スタッフの人数などさまざまなことを考慮して運営することが求められます。デイケア空間を維持するためにスタッフが主体となってしまうことに葛藤することもありましたが,本書を読んで,「次はこの部分を当事者主体で決めてもらおう」というように違ったアプローチも考えられるようになってきたように思います。なんとなく実施していたプログラムに対しても,著者の経験に基づいた利用の実例を読むことで,「次はこのプログラムにお誘いしてみよう」「本人が希望したものを大切にしてみよう」と思い直し,支援を再度組み立てる前向きなエネルギーが自分の中に生まれてくるのです。

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