作業で語る事例報告 第2版
作業療法レジメの書きかた・考えかた

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編者らによる「作業で…」シリーズの第1作であり、好評を博した書(通称:事例本)の待望の改訂版。作業に焦点を当てた実践(OBP)の魅力や必要性に気づいてもらうための入門書という初版のコンセプトはそのままに、全項目見開き完結型というスタイルも踏襲。 改訂版では網羅性をさらに高めながらあくまでもシンプルでわかりやすい記載を旨とする。31の事例報告も全面刷新。作業そして作業療法が持つ可能性を実感できる。

編集 齋藤 佑樹
編集協力 友利 幸之介 / 上江洲 聖 / 澤田 辰徳 / 竹林 崇
発行 2022年09月判型:B5頁:212
ISBN 978-4-260-05025-8
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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第2版 序

 初版の刊行からすでに8年が経ち,作業療法を取り巻く状況には様々な変化があった.2018年には33年ぶりに作業療法の定義が改定され,生活行為の名のもとに,改めて作業療法が「作業に焦点を当てた治療,指導,援助」であることが明文化された.臨床実習の作業形態も大きく変化した.臨床参加型実習がより推進されるようになり,特定のクライエントを担当しない実習形態を採用する養成校も増えた.それに伴い伝統的に継承され続けてきたレジメを作成しない実習も増加した.
 これらの変化を踏まえ,第2版を企画する際に最初に議論になったのは,本書の特徴である「見開き2ページ完結」のスタイルを変更するか否かだった.結果として,この改訂版でも初版のスタイルを踏襲することにした.本書を世に出した目的は「作業療法学生や若手作業療法士が本書を通して作業療法を好きになり,作業に焦点を当てた実践を追求することで多くのクライエントの健康と幸福に寄与すること」であり,そのためには,様々な知にアクセスする「入り口」としての機能を有する現在のスタイルが望ましいと判断したからである.同様に,レジメを作成することが必須ではなくなった現在でも,限られた文字数のなかでクライエントとの協働をまとめる作業は意義が大きいと考えたからでもある.
 見開きのスタイルを踏襲しながらも,多くの頁を追加した.実践のポイントについてより詳細な記載を行い,評価や介入手段については初版からの8年の変化を反映した.作業療法の効果判定についても内容を充実させた.作業療法の普遍的内容に触れた頁についても多くの部分をリライトしている.加えて,本書にとって最も大切な事例報告については一新し,31例をリライトした.事例の選定にあたって,今回初めて公募制も導入した.掲載事例の約3割は約100件のエントリーのなかから選ばれた事例である.
 かなりの時間を要したが,ようやく新版を皆様にお届けできる準備ができた.ぜひ各章の内容を入り口にして原著論文や成書にアクセスしながら知見を深め,臨床技術を研鑽してほしい.そして,掲載された31の事例報告を参考に,自身の臨床を言語化してみてほしい.
 改訂にあたり,多くの方々にお力添えをいただいた.ひとかたならぬ尽力をいただいた執筆者の皆様に,事例報告の掲載を承諾してくれたすべてのクライエントに,公募にエントリーしてくれたすべての臨床家に,そして,それぞれのフィールドで常に最前線を走りながらも,クライエントの健康と幸福から決して照準を外さない編集協力者の友利幸之介,上江洲聖,澤田辰徳,竹林崇の諸氏に,いつも私のわがままを受け入れ形にしてくれる医学書院の北條立人氏,池田大志氏にこの場を借りて心から感謝を申し上げたい.

 2022年7月
 齋藤佑樹 

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1章 作業療法士は作業をどのように活用するのか
 ●作業とは何か
  〜 作業療法の中核概念である作業について確認する 〜
 ●作業の形態・機能・意味
  〜 作業の側面を捉える 〜
 ●作業のバランス
  〜 複数の作業が生活を構成している 〜
 ●作業と役割の関係
 ●作業ができるとは
  〜 「作業ができる」を理解できれば作業療法の目的と手段が見えてくる 〜

2章 作業療法の対象,目的,基本プロセス
 ●作業療法はクライエント中心の実践
 ●作業療法の対象は作業遂行
 ●作業療法の基本プロセス
  〜 トップダウンとボトムアップ 〜
 ●同じ事例をトップダウンとボトムアップで表現してみると違いがわかる
 ●トップダウンは「作業」に,ボトムアップは「能力」に焦点を当てている
 ●トップダウンを実践するポイントは,評価の順番と観察にある

3章 作業に焦点を当てた実践のポイント
 ●作業療法は「説明」と「面接」から始まる
  〜 作業療法を知らないクライエントとクライエントを知らない作業療法士の出会い 〜
 ●面接評価はいつ実施するべきか
  〜 面接は情報収集ではなくお互いを知り合う時間 〜
 ●面接評価は「聞き取り」か
  〜 面接評価の目的を考える 〜
 ●観察評価:作業遂行分析
 ●作業療法士が行う検査・測定の目的とは
  〜 作業の可能化を妨げる原因を多面的に考える 〜
 ●個別性の高い目標を設定する
 ●目標は誰が決めるのか
 ●目標をモニタリングする
 ●目標指向的な協働の基盤になるものとは
 ●クライエントの認識は変化する(レスポンスシフト)
 ●柔軟に介入手段を選択する
 ●介入戦略:クライエントと協働する

4章 作業に焦点を当てた実践を支える学問,理論,評価,介入手段
 ●作業科学
 ●行動変容理論
 ●CMOP-E(作業遂行と結びつきのカナダモデル)
 ●MOHO(人間作業モデル)
 ●OBP2.0(作業に根ざした実践2.0)
 ●OTIPM(作業療法介入プロセスモデル)
 ●OTPF(作業療法実践の枠組み)
 ●MTDLP(生活行為向上マネジメント)
 ●ADOC(作業選択意思決定支援ソフト)
 ●ADOC-S(作業選択意思決定支援ソフト学校版)
 ●ADOC-H(作業選択意思決定支援ソフト上肢版)
 ●COPM(カナダ作業遂行測定)
 ●OSA(作業に関する自己評価)
 ●VQ(意志質問紙)
 ●CEQ(包括的環境要因調査票)
 ●CAOD(作業機能障害の種類と評価)
 ●STOD(作業機能障害の種類に関するスクリーニングツール)
 ●ACE(作業遂行に関する認識差異の評価)
 ●GAS(目標達成スケーリング)
 ●AMPS(運動とプロセス技能の評価)
 ●School AMPS(学校版運動とプロセス技能評価)
 ●ESI(社会交流評価)
 ●CO-OP(日常作業遂行に対する認知オリエンテーション)
 ●MAL(麻痺手の日常生活での使用頻度と動きの質の評価)
 ●Task-oriented Training(課題指向型訓練)
 ●Transfer Package(麻痺手を日常生活で使うための行動戦略)

5章 作業療法の効果をどう示すのか
 ●作業に焦点を当てた実践のエビデンス
 ●作業療法の効果測定
 ●事例報告の目的と重要性
 ●CAREガイドライン(for CAse REports)

6章 作業に焦点を当てた事例報告
 ●成功体験の積み重ねが真のニーズの共有につながった一事例
 ●多職種連携により自宅復帰とその生活継続が実現できた事例
 ●麻痺手での食事動作を獲得し独居生活に復帰した事例
 ●AMPSを用いた関わりによって退院後の役割再開に至った事例
 ●重度失語症者に対して,Shared Decision Making を重視した目標設定を試みた事例
 ●復職を希望する橈骨遠位端骨折事例に対する価値に基づく作業療法実践
 ●生きがいであった運転の再獲得に至った脊髄損傷を受傷したタンクローリー運転手
 ●対話を重視した関わりで最期まで主体的な生活を継続することができた直腸がん事例
 ●再開を希望する作業に焦点を当てた関わりで活動性と自己効力感の向上を認めた急性期頸髄損傷の事例
 ●脳梗塞左麻痺を呈した事例に対する作業に焦点を当てた急性期作業療法
 ●全失語クライエントに対しVQにて意志を捉える試みを行った事例
 ●「この人は芸術家なんです」という妻の思いに対して作業機能障害に着目して介入した認知症事例
 ●ICTを活用したコミュニケーション支援に取り組んだ筋萎縮性側索硬化症の事例
 ●目標達成に向けて協働的な関係性を重視した訪問作業療法
 ●慢性期脳卒中患者の麻痺手を使用した食事動作の実現に向けてADOCによる目標設定と上肢への複合療法を実施した一例
 ●補助箸の難易度調整により食事介助量が軽減した両側頭頂葉損傷の一例
 ●目標の具体化と実動作練習,環境調整から独居再開に至った事例
 ●作業に焦点を当てた心理教育を通して,リカバリーの促進および作業機能障害の改善がみられた精神科救急病棟の一事例
 ●精神科訪問支援により本人が望む社会生活が可能となった事例
 ●作業機能障害の評価に基づいた支援により地域移行につながった精神科長期入院者の事例
 ●就労支援を通して介護される人から自立する人へと変化した事例
 ●学校作業療法の実践
  〜 届けたい教育の実現と学校と家庭の連携 〜
 ●粗大運動と津軽手踊りを通して書字能力が向上した事例
 ●問題を可視化することで遅刻を減らすことができた事例
 ●のど自慢出場を実現した事例
 ●祖母としての役割を再獲得した介護老人福祉施設に入所する事例
 ●短期集中予防サービスの利用者に対し作業を用いて介入した事例
 ●クライエントの言動に注意した評価の見直しや多職種連携によって取り組んでいる作業に変化が生じた事例
 ●多系統萎縮症を呈した事例と大切な作業の実現に向けて協働した訪問作業療法
 ●こだわりのある入浴動作の再獲得を支援した訪問リハビリテーションの事例
 ●日常を大切な作業で彩る
  〜 老健入所者に作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いた事例 〜

Column
 ●作業療法士はなぜ患者をクライエントと呼ぶのか
 ●作業に焦点を当てた実践とは
  〜 作業に焦点を当てた実践は作業療法の「あたりまえ」の形 〜
 ●クライエントが作業を語ってくれない面接は失敗なのか
  〜 「失敗」ではなく「評価結果」と捉えれば支援内容が見えてくる 〜

あとがき
索引

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クライエントの人生を「作業」で豊かにするために
書評者:中村 春基(一般社団法人日本作業療法士協会会長)

 好評を博した『作業で語る事例報告―作業療法のレジメの書きかた・考えかた』の改訂第2版が,齋藤佑樹氏の編集,また友利幸之介,上江洲聖,澤田辰徳,竹林崇の各氏の編集協力により上梓された。

 本書の帯には「あの人も事例報告を書くことからはじめた」とある。「あの人も」は誰を指すのか? よくよく考えると先に挙げた方々であることは間違いないだろう。彼らの業績についてはここで紹介するまでもないが,臨床,研究,教育において,わが国の作業療法領域のトップランナーである。その彼らの思いを凝縮したのが本書である。その思いの真意は「第2版 序」および「あとがき」に記されている。いずれも含蓄があり,作業療法への愛がつづられている。

 さて,本書は全6章で構成され,タイトルにある「事例報告」は6章の中で31事例が紹介されている。多領域,多疾患,さまざまな作業(活動)について,31人の作業療法士とそのクライエントや家族による取り組みは,多くの作業療法士の参考となるだろう。読者は自分の経験を通して,そこに表現されていない行間に思いをはせることと思う。本書の目的は,その行間を具体的に自分の事例報告として表現する必要性を問うていることだと思う。事例のまとめがぜひとも普通の取り組みになればと願う。

 事例報告を除く1章から5章までを一言で述べると,作業療法の原点回帰のための知識のまとめといえる。1章は作業の活用,2章は対象,目的,プロセス,3章は実践のポイント,4章は学問,理論,評価,手段,そして5章は効果について述べている。いずれも「作業およびクライエント」に焦点を当てて書かれている。4章の学問,理論については成書で学ぶことをお勧めするが,全体の概要を理解するには素晴らしい内容だと思った。その意味で「作業療法概論」と呼んでもよいだろう。

 私は,序,あとがき,そして第1章から順に読み進めたが,臨床家はまず悩んでいる事例に近い内容の報告を読むことと思う。しかしながら,読み手の事例と同じ事例はこの世の中に存在するはずはなく,得たい「解」がそこにはないと思うかもしれない。しかし,31人の作業療法士の取り組みの報告は,必ずどこかにその「解」があると信じる。作業療法士が諦めたら,クライエントの明日はないということと等しい。諦めないで「解」を求め続けてほしい。実は1章から5章はその「解」を導くための章であり,得られた「解」がどのような背景,理論で成り立っているのかを考察してもらえると,知識が「知恵」となり,読者の作業療法の彩を鮮やかにし,結果として多くのクライエントの人生を「作業」で豊かにすると思う。

 本書の作成に携わった全ての方々に感謝し,一人でも多くの作業療法士が本書に興味を持ち,座右の書としていただけたら幸いである。

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