救急整形外傷学

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救急科専門医と整形外科専門医のダブルボードを持つ著者による「救急整形外傷学」の成書。研修医・若手医師から絶大な支持を集めている『救急整形外傷レジデントマニュアル』の内容をより詳細に記載し、エビデンスも豊富に提示した。「初療を担当する救急医は整形外科の根治手術までも見据えて評価・治療を行っていくべき」との著者の考えに基づき、そのための最低限の治療方針や考え方、思考回路を解説した。

田島 康介
発行 2022年05月判型:B5頁:336
ISBN 978-4-260-04802-6
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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    2022.06.08

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 このたび,『救急整形外傷学』を刊行し,皆様にお届けすることができることを大変嬉しく思います.
 筆者は2001年より整形外科医としてのキャリアをスタートさせ,2011年より救急医としてのキャリアもスタートさせた,整形外科専門医と救急専門医を有する救急整形外科医です.2011年に整形外科の戸山芳昭教授(当時)から慶應義塾大学病院ERでの整形外傷班の立ち上げの任を受け,単身で慶應義塾大学病院の救急科に出向し,整形外科“以外”を専門とする救急医・内科医と診療をともに行う機会を得ました.そしてERでの診療に携わるなかで,救急科の堀進悟教授(当時)に「一般医が整形外傷を診る際に『何を悩むか』を整形外科医はわからない.したがって一般医が既刊の整形外科教科書を読んでもわかりにくく,ピンとこない.ピンとこないので面白くなくなり,嫌になり,勉強しない.患者を診なくなる.これは悪循環である.だからわかりやすい副読本を書いて下さい」という依頼を受け,2013年に医学書院より『救急整形外傷レジデントマニュアル』(以下,マニュアル)を刊行する機会を得ました.
 このマニュアルは,救急外来で非整形外科医が知るべき知識と行うべきスキルを選別し,救急外来で役に立つことを優先してコンサイスにまとめたものであり,救急外来や当直者が使用することを目的とした「整形外科医“以外”のための整形外科の本」です.例えばこのマニュアルでは,整形外科の慢性疾患についてはほとんど記載がなく,骨折型の分類に関しても一般医でも知っておくべきものしか記載しておらず,整形外科医が行う専門処置についても,一般医が施行できないと考えられるものは記載していませんでした.
 そのため,マニュアルの内容をすでにマスターしていた読者たちには物足りないものとなり,さらに一歩踏み込んだ内容を含めた書籍の要望が多かったことから,このマニュアルをベースとしつつも内容を大幅に拡充した本書を執筆することとなりました.筆者が整形外科医ならびに救急医として指導を行ってきた慶應義塾大学病院ERと藤田医科大学病院救命救急センターでは,専属の整形外科医は極めて少人数であり,ほとんど救急内科医,救急外科医あるいは総合内科医とともに診療を行ってきました.そのため「非整形外科医が整形外科診療の何を怖がっていて処置に躊躇するのか」「非整形外科医が何を知りたがっているのか」「非整形外科医が整形外科医に何を期待しているのか」あるいは逆に「非整形外科医は整形外科医に何を知っていてほしいのか」ということが大変よくわかりました.筆者が整形外科医と(内科系疾患も外科系疾患も幅広く対応する)救急医としての二足の草鞋を履く立場から,両者の間に存在する思考の壁がよく理解でき,この壁を極力取り払うことが筆者の存在意義であり使命であると感じました.本書は整形外科を専門としない医師,整形外科後期研修医,初期研修医,救急医療に携わるコメディカルに最適な内容になっています.
 時間外診療における外科系診療の多くは外傷であり,打撲,骨折,挫創,交通事故などの整形外科関連が最多です.救急外来や当直業務で整形外科関連の疾患に対応しなくてはならない場合,専門医でない場合は常に不安を抱えながらの診療となるでしょう.もちろん,骨折の症例が来院したら,整形外科医による整復操作とそのあとのシーネ固定を行うことが最も望ましいでしょうが,時間外に整形外科医が対応できない施設のほうが圧倒的に多いのがわが国の現状だと思われます.この現状を踏まえ,「救急外来で骨折を見逃さない」「シーネを上手に巻く」「どこまでは自分で治療してよいのか」「どこからは専門医を呼んだほうがよいのか」といった救急診療での不安・疑問に少しでも応えられるよう,そして日本全国の救急現場における診療の質を少しでも高められるよう,本書がお役に立てれば幸いです.

 2022年3月
 東京女子医科大学附属足立医療センター 整形外科
 田島康介

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1章 四肢外傷治療に必要な解剖
  1. 骨の解剖
  2. 上肢の解剖
  3. 下肢の解剖

2章 外傷の初期対応から全身管理
  1. 外傷患者の初期評価
  2. 外傷患者・骨折患者の合併症
  3. 骨折治療の考え方
  4. ダメージコントロールオルソペディックス

3章 創傷処置
  1. 創傷の処置を行う前に
  2. 縫合
  3. 処置後のケア

4章 外固定,整復
 A. 外固定
  1. 総論
  2. 用語
  3. 外固定の原則
  4. 良肢位
  5. ソフトシーネ
  6. アルフェンス®シーネ
  7. シーネの巻き方
  8. 特殊な固定
  9. 小児の骨折
  10. 外固定の合併症
 B. 整復
  1. 長管骨の骨幹部での徒手整復
  2. 長管骨の骨端での徒手整復

5章 牽引
  1. 牽引処置
  2. 介達牽引(スピードトラック®牽引)
  3. 直達牽引
  4. 小児の牽引

6章 その他の基本手技
  1. 関節穿刺・関節注射
  2. 爪下血腫の除去
  3. トリガーポイント注射

7章 軟部組織損傷
  1. 打撲
  2. 靱帯損傷,捻挫
  3. 筋・腱損傷
  4. 神経損傷
  5. 血管損傷
  6. その他の特殊な損傷

8章 脱臼
  1. 脱臼の診断
  2. 脱臼整復時の麻酔
  3. 主な脱臼と整復法
  4. そのほかの脱臼

9章 骨折総論
  1. 骨折とは
  2. 骨折の治癒過程
  3. 骨折の診断 
  4. 骨折の分類
  5. 骨折の合併症
  6. 開放骨折の初期治療

10章 上肢の骨折
  1. 手指周囲の骨折
  2. 手の骨折
  3. 手関節周囲の骨折
  4. 前腕部の骨折
  5. 肘関節周囲の骨折
  6. 上腕部の骨折
  7. 肩関節周囲の骨折

11章 下肢の骨折
  1. 足趾周囲の骨折
  2. 足部の骨折
  3. 足関節周囲の骨折
  4. 下腿部の骨折
  5. 膝関節周囲の骨折
  6. 大腿部の骨折
  7. 股関節周囲の骨折

12章 骨盤の骨折
  1. まず患者受け入れが可能か判断する
  2. 患者が搬入されたらまず行うべきこと
  3. 骨盤の解剖
  4. 骨盤単純X線における骨折の評価と分類
  5. CTの撮影
  6. 治療
  7. 根治手術

13章 脊椎の骨折
  1. 高エネルギーでない外傷
  2. 高エネルギー外傷

14章 小児関連
  1. 総論
  2. 各論

15章 高齢者関連
  1. 総論
  2. 各論

16章 関節・軟部組織感染症,非外傷性疾患
  1. 関節の感染症
  2. 軟部組織感染症
  3. 一般医が知っておくべき非外傷性整形外科疾患
  4. 整形外科的愁訴の他科疾患

17章 救急整形外科で使用する薬剤
  1. 疼痛対策
  2. 抗菌薬
  3. せん妄対策

18章 診断書の書き方
  1. 病院書式診断書
  2. 記載のポイント
  3. 保険会社の診断書(通院証明)の書き方
  4. 労災関連書類の書き方

19章 医療費・保険診療の基礎知識
  1. 保険の種類
  2. 保険証を用いないケース
  3. 時間外の診療
  4. 選定療養費
  5. 医業類似行為

索引

コラム
 アレン・テストAllen’s test
 ISS,AIS
 救急外来でできる駆血法
 指尖部損傷におけるwet dressing
 縫合後の被覆
 固定するテープ
 FDSテスト,FDPテスト
 Zero position(ゼロポジション)
 役立つ指の解剖
 爪根の脱臼は戻す? 戻さない?
 末節骨と中節骨の癒合
 Maisonneuve骨折(メゾヌーブ骨折)
 ファベラ
 Barsony(バルソニー)
 NASCISプロトコール
 NSAIDsは骨癒合を阻害する?
 労災関連書類作成時の注意点

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救急整形外傷をファーストタッチする若手医師へ
書評者:稲垣 克記(昭和大主任教授・整形外科学)

 救急医学分野の進歩は著しい。本書は救急外来における運動器・整形外科診療のエッセンスをまとめた待望の書である。

 現在,東京女子医大附属足立医療センター整形外科に勤務する田島康介氏は,2001年から整形外科医としてのキャリアを,2011年からは慶大病院ERで救急医としてのキャリアもスタートさせた。本書は序文にも書かれているように,整形外科医「以外」の医師・スタッフに向けてポイントを簡潔にまとめた『救急整形外傷レジデントマニュアル』(初版は2013年,第2版は2018年)を大幅に拡充した一冊である。

 例えば,骨折をファーストタッチした一般医がどこまでは自分で治療してよいのか,どこから整形外科専門医を呼んだほうがよいのか,といった救急医療の現場で不安になり疑問を抱きがちなテーマについて,ポイントをわかりやすく簡潔にまとめている。さらには,重症患者のダメージコントロール手術(DCS),ダメージコントロールオルソペディクス(DCO),ISS(Injury Severity Score), AIS(Abbreviated Injury Scale)などの説明から,腱損傷に対しては麻酔から縫合法まで,橈骨遠位端骨折の項では整復法と前腕シーネ固定,いわゆるSugar tongシーネ固定の方法についても取り上げている。

 本書の真骨頂は,四肢・脊柱の外傷を真正面から取り扱い,具体的な臨床的手順とその注意点を列記していることである。そして整形外科医でも陥りがちなピットフォールにも警鐘を鳴らしている。本書は救急整形外傷のみならず,機能解剖学と外傷の合併症,整復法,腱や神経まで含めた軟部組織の取り扱い方,保存療法から外科治療に至るまで,若手医師に向けてわかりやすく簡潔に述べられている。著者である田島氏は臨床と教育の双方で豊富な経験があり,本文の文章は研修医や専門医をめざす若手医師の目線に立って書かれている。

 本書がERにおいて救急整形外傷をファーストタッチする若手医師の良き指標となり,ひいては救急整形外傷患者のベネフィット向上をもたらすことを確信する。


整形外傷の的確な診断と適切な治療法の選択を丁寧にわかりやすく解説
書評者:戸山 芳昭(一般財団法人国際医学情報センター理事長/慶大名誉教授)

 このたび,医学書院から新刊『救急整形外傷学』が発刊された。外傷学の書籍は多数出版されているが,その多くは共著であり本書のように単著で書かれている書籍は少ない。

 著者は2001年より10年間,慶大整形外科学教室において,外傷患者が多い地方の関連病院に出向して臨床経験を積み,その後2011年から慶大病院救急部に異動して救急医としてのキャリアをスタートさせている。そして,整形外科専門医と救急科専門医の両者を有する数少ない救急整形外科医の一人である。その豊富な経験を基に2013年には医学書院より『救急整形外傷レジデントマニュアル』を出版している。その後,著者は整形救急医療のスペシャリストとして2016年に藤田医大病院に救急科教授として赴任し,同大救命救急センターの臨床現場で陣頭指揮を執って活躍された。2021年から東京女子医大附属足立医療センターに異動したが,現在も臨床現場の第一線で活躍中である。

 本書は,救急外傷に経験豊富な著者が整形外科を専門としない医師や整形外科後期研修医,初期研修医,救急医療に携わるコメディカルの方々を対象にわかりやすい図表を使って実践的に書かれたまさに救急整形外傷の手引き書である。本書の序文で著者自身が述べている「整形外科医と救急医としての二足の草鞋を履く立場から,両者の間に存在する思考の壁がよく理解でき,この壁を極力取り払うことが筆者の存在意義であり使命である」を忠実に守って書き上げられている。運動器を扱う整形外科において,外傷,中でも骨折・脱臼の診断と治療は基本中の基本であり,評者自身も医師3年目に勤務した外傷病院での経験がその後の臨床に大いに役立ったと認識している。どの分野の外傷も同様ではあるが,特に整形外傷における的確な診断と適切な初期治療は,その後の運動器の機能に大きな影響を及ぼす。反対に,適切な初期治療が行われないと重大な機能障害を残すことにもなる。救急外来では初期治療が患者さんの将来に大きく影響を及ぼすことを常に念頭に入れ対応することが求められる。本書は,整形外傷の的確な診断と適切な治療法の選択を丁寧にわかりやすく教えてくれる必見すべきマニュアルである(前述の『レジデントマニュアル』と比べると,大判のサイズゆえ写真が大きく配置され,イラストもフルカラーで印象に残りやすい)。

 本書は第1章の外傷治療に必要な解剖から始まり,第2章では全身管理,3章が創傷処置と続く。そして第4章では整形外傷治療の基本である外固定法と整復手技,第5章で牽引,第8章では脱臼,第9章から13章までは骨折が取り上げられている。さらには第17章で救急治療に必要な薬剤,最後の第18章と19章では診断書の書き方から医療費や保険診療の基礎知識まで記載されている。文中のイラストも簡潔にわかりやすく描かれ,索引も使いやすく整理され,著者の豊富な臨床経験から書かれた実践向きの『救急整形外傷学』である。整形外科医に限らず,救急医療に携わる医師,コメディカルの手元に置いておきたい,お薦めの書籍である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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