組織病理カラーアトラス[Web付録付] 第3版
厳選した組織病理写真でシンプルに疾患の全体像を把握
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医学生・研修医に必要な組織病理写真を1冊に凝縮した好評書。第3版では大きくレイアウトしたカラー写真を生かしつつ、最新の組織分類(WHO、各学会など)に基づき内容をアップデート。疾患概念、写真解説はポイントを絞った箇条書を主体としている。特に悪性腫瘍では遺伝子異常に応じた分子標的治療にいかす免疫染色の記述、写真を取り入れた。中堅・ベテランの医師にとっても生涯学習に役立つ1冊となっている。
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序文
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第3版 序
本書は,医学を志す学生に対し,病理学を円滑に,かつ包括的に学ぶうえでの有用な指針を提供することを目指している.
病変の全体像を本書では総論・各論に2分して解説しており,総論は,代謝障害・循環障害・炎症・腫瘍・先天異常の5つのカテゴリーに分けられている.この方針は第1版以来のもので,類書に比べると総論としては最も少ない章立てであり,なるべく簡素化した枠組みのほうが全体像をつかみやすいであろうとの著者らの思いが込められている.
医学部のカリキュラムは,臨床実習の比重の増大とともに,病理学に割り振られる授業時間は他科と同様に減少傾向にあるため,効率のよい授業展開が求められている.この動向のなかで,病理学実習は従来の顕微鏡とスケッチから,画面上の病理所見供覧と,それに対する教員の解説へと移行している.COVID-19感染拡大によるオンライン授業が常態化している昨今の授業スタイルは,すでに病理学実習が先取りしていたようにも見える.
第3版ではこれまでの版のカラー写真を生かしつつ,各項の解説をアップデートした.同じ病理所見でも,その意味づけや解釈は時代とともに変わってゆき,生涯にわたる学習が欠かせぬ所以である.近年,特に腫瘍では遺伝子変化の内容が疾患名に組み込まれる事例が増加しつつある.当初は比較的稀な疾患が対象であったが,2020年に改訂された婦人科領域のWHO腫瘍組織分類では,子宮内膜癌で遺伝子解析を行っていない症例は細分類にたどりつけないこととなった.これに対するわが国の対応は未定であるが,そのほかの領域でもこのような試みが進行中である.
本書が前版と同様,医学生・研修医の病理学学習の良き伴侶として,中堅・ベテランの医師にとっては生涯学習の一助としてお使いいただければ幸いである.
本書の刊行にあたっては医学書院編集部・大野智志氏,制作部・田邊祐子氏,柴崎巌氏に特段のご助力をいただいた.末筆ながら執筆者一同,こころより謝意を表する次第である.
2021年4月
執筆者を代表して 坂本穆彦
目次
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Web付録の使い方
総論
病理学と病理診断
代謝障害
循環障害
炎症
腫瘍
先天異常
各論
循環器
血液・造血器・リンパ節
呼吸器
消化管
肝・胆・膵
腎・泌尿器
男性生殖器
女性生殖器
乳腺
内分泌
脳・神経
皮膚
骨・軟部
索引
書評
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初学者が整理して理解しやすいようにまとまった教科書
書評者:藤井 誠志(横浜市大教授・分子病理学)
『組織病理カラーアトラス』は,病理学を学ぶ上で必要なことを初学者が整理して極めて理解しやすいようにまとまった教科書であり,著者らの長年のご経験と病理学に対する深い造詣が本書のような教科書のご執筆を可能にしたと感銘を受けている。医学を学ぶ学生にとって,興味を持てる内容であること,理解しやすい内容であること,学ぶべき内容量が多すぎないこと,といった要素は賛否両論あると思うが,将来どの専門領域に進む医学生も診療面,研究面における病理学の重要性を学ぶ必要があることに鑑みると,重視されなければならないと感じる。
本書は総論と各論に分けて構成されることと合わせて,豊富な索引用語が巻末に用意され,総論と各論を行き来しながら読み返して内容を理解できるように配慮されている。病理診断学は分類学の一つであり,形態像を表現する病理学的用語の定義を正しく理解することは病理学を学ぶ上での出発点である。
例えば,肥大や萎縮といった総論で学ぶべき用語は,病因を意識したメカニズムによって分けられる用語であるものの,それらの形態像をひもづけて理解しなければ,知識と形態像が分離したままになり,病理学を学ぶ意義は薄れてしまい,最終的には馴染めない,ただの暗記が求められる学問として認識されてしまうことになる。本書はそれを避けるための十分な配慮がなされており,必要な言葉と簡潔でまとまった文章で解説がなされている。
実際の病理組織像を一人で学習する際には,どの組織像を認識すれば良いのかという問題にしばしば直面する。そういったことが想定される場合には,適宜イラストが併用され,医学生が直面しがちな問題の解消を担っている。病理学は病気の理(ことわり)を,形態学を武器にして探求する学問であることを首尾一貫して伝えており,常に病理形態像をイメージしながら,病理学の本質の理解を意識した構成と内容になっている。まさに“組織病理カラーアトラス”という名にふさわしい良質な教科書である。
各論については,各臓器についての疾患の紹介の前に,基本構造のチェックという項目が用意されており,正常とは異なる形態像の理解と病態の理解が円滑に理解できるように配慮されている。またどの臓器についても,極めてまれな疾患を含む分類上存在する疾患の全てをいきなり学ぼうとすると,病態の体系的な理解がおろそかになりがちになるが,それに対する配慮もなされており,まずは学ばなければならない必須の疾患が過不足なく選抜されて紹介されている。
ゲノム医療が推進される状況下では,病理医に求められることは増え,また病理学の位置づけも変わっていき,それに対応すべく病理学は日々発展,進化していかなければならない。病理学は形態診断学を武器とする学問であるが,それに加えて遺伝子異常が種々の程度で診断学にも組み入れられている。また分子病理診断の要素も求められ,治療病理学の側面も重視されてきている。本書はその基盤となる,変わることのない根本的な病理学全般の理解を十分に助け,読者を病理学の基礎から応用,発展へと導いてくれることが期待される。以上の理由から本書を推薦させていただく所存である。
実習に来た学生,初期研修医に自信を持ってお薦めできる
書評者:若狹 朋子(近畿大奈良病院教授・病理診断科診療部長)
『組織病理カラーアトラス』が改訂されました。その内容は「さすが」の一言に尽きます。美しい写真とポイントをつかんだ文章が載っています。実習に来た医学生,初期研修医にも自信を持ってお薦めできる一冊です。
多くのアトラスは写真が9割,そこに文章が少し,だと思いますが,『組織病理カラーアトラス』は文章だけを読んでも十分に読み応えがあります。最先端の知見が厳選されてまとめられています。そして,それぞれの写真が手札サイズと大きいのです。手札サイズ(11×7.5 cm,銀塩フイルムの時代の印画紙のサイズ)という言葉も使わなくなりましたが,写真が大きくて見やすいのがうれしい限りです。
医学生が一番読んでいる本といえば,(悔しいことではありますが)国家試験対策本ではないでしょうか。でも国家試験対策本の病理写真は小さくて見えづらいものが多いのです。これは印刷された国家試験の問題からコピーして作っているため画素が荒くなってしまい,拡大できないためだと思いますが,とにかく小さくて,キーになる部分がわかりにくいのです。病理診断に必要な病変のアウトラインや顆粒を説明するためには,ある程度大きな写真が必要です。このアトラスは写真が十分に大きいので,授業,あるいは自習において非常に使いやすい本だと思います。
おまけに,冊子体だけでもすごく使いやすい上に,全ての組織病理写真がWeb付録で閲覧できるのです。どの写真も十分なデータ量があり,画面上で大きく引き伸ばしても全く問題ありません。若い方々はスマートフォンで見るのかもしれませんが,この写真はぜひとも大型画面で見ていただきたいと思います。本当にきれいです。ぜひお手元にお持ちになって,25インチ以上の大型画面で画像を堪能していただきたいと思います。
もう一つの特徴として,各章の初めには「基本構造のチェック」として正常解剖のわかりやすい模式図,スケッチと,解説が載っています。特に機能と絡めた構造の模式が秀逸です。この模式図,スケッチはどなたが書いたにせよ,解剖学のみならず,生理学,病理学を十分に勉強した方が書かれたに違いありません。私の学生時代に“この本があれば”,“このスケッチがあれば”,どんなに知識の理解が進んだか,と思います。
学生時代,どのような教科書を選ぶべきか,と相談した時,私の恩師は「定期的に版を重ねている本がいい本だ」と教えてくださいました。まさにこのアトラスは改訂を重ねた素晴らしい本です。『組織病理カラーアトラス』は医学生から,初期研修医,病理専門医をめざす方にも対応できるアトラスです。また全ての分野において,最新の知見がふんだんに入っていますので,ベテラン病理医の先生方もお薦めです。ぜひ,お手元に置かれてはいかがでしょうか? それだけの価値のある本です。
ロングセラー,『組織病理カラーアトラス』の第3版が出来(しゅったい)!
書評者:泉 美貴(昭和大教授・医学教育学)
第3版を出来するとは
今日のような,本が売れない,教科書が売れない時代にあって,『組織病理カラーアトラス』が第3版を出来するに至ったことは,大変な慶賀である。評者自身は15年前に上梓した著書の第2版を最近ようやく出来したばかりであり,これがどれほど凄いことかを実感するとともに,羨望と尊敬の念が交錯するのである。
著者は東京医歯大の精鋭3病理医
同書は,名門の東京医歯大の病理学教室を同門とする3名の稀代の病理医によって上梓された。
初版出版の2008年当時,兄弟子の坂本穆彦先生が両者に声を掛け,同書の刊行を試みられたのはまさしく慧眼で,坂本先生は後に日本病理学会の副理事長を務められ,北川昌伸先生は現在同学会の理事長として八面六臂のご活躍である。一方,菅野純先生は日本毒性学会理事長および,国際毒性学連盟(IUTOX)でアジア初の会長(President-Elect)として世界を股に掛けて活動されている。
病気の理(病理学)の王道
本書は,総論として,炎症性疾患,腫瘍性疾患,代謝障害,循環障害および先天異常についてまとめられていることがまず嬉しい。医学における膨大な疾患も実は,わずかこの5疾患群に分類でき,実診療においては診断がこの範疇をまたがないことが何より重要であることが自然と理解できる。最近の病理学は分子生物学が隆盛で,診断も遺伝子異常や染色体異常に頼る傾向がある。病理医による形態診断では,HE標本は深く観察せずにすぐに多数の免疫染色に頼る傾向が強い中,病理学の基本を大事にされていることがわかる。疾患の概念や分類は,全てアップデートされている。
医学は歴史的に顕微鏡観察による形態学に端を発し,特定の組織模様を疾患として定義してきた学問である。本書では,各項目の文頭に「疾患概念」が端的に示してある。「病理診断のポイント」は箇条書きでコンパクトに見事にまとめられている。病理像は,1ページに2,3枚の大きな写真が読者に語りかける。図は全て医学書院のWebサイトから閲覧することができ,パソコンのモニターに広げて見る図は迫力があり美しさに惚れ惚れする。
診る前に読め(見る前に飛べ)
医療系の学生,研修医,若い病理医および忙しい専門医らにとって,病理学を修得することはまるで,「琵琶湖の水を飲むよう」に困難であると感じるかもしれない。しかし,本書であれば1ページごとに完結しているので身構えて時間を作らずとも,パラパラと気軽に読み進められるため,気がついたら,琵琶湖の水も飲み干せると感じさせてくれる。
学修者には,本書を片手にWebサイトの画像を観察して,実習スライドや診断スライドと見比べて繰り返し学んで欲しい。本書により,見えなかった所見が,「見えた!」,「解った!」という,学問の最高の喜びを味わっていただけると期待している。