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医療職のための症状聞き方ガイド
“すぐに対応すべき患者”の見極め方

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外来、病棟、薬局、在宅、介護施設など、どんな場面でも誰もが使える患者の症状聞き方ガイド。医師がその場におらず、「様子見で大丈夫?」「すぐ医師に連絡すべき?」「受診を勧める?」と悩んだ時、患者に何を聞き、どう判断すればよいのか。患者の危険な症状を見逃さないための的確な質問、緊急/安心の判断、医師への情報提供のポイントを徹底解説。研修医や医学生が基本的な「問診の型」を身に付けるのにも最適。
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編集 前野 哲博
発行 2019年04月判型:B5頁:154
ISBN 978-4-260-03695-5
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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まえがき

 医療・介護・福祉の現場で働いている方々には,患者に「〇〇でつらいんですけど」と言われたけれど,どう対応してよいかわからなかった,結局よくわからないまま「ドクターに相談してみましょう」と言って終わりにしてしまった,そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか.何でも「医師に聞いてみましょう」と言えば簡単ですが,いつでもすぐに医師に連絡が取れるとは限りませんし,かといって「もう少し様子をみましょう」と答えて,「重大な疾患を見逃していたらどうしよう」と心配になることもあるでしょう.また,「これは大変だ」と思って医師に相談したら,「そんなことでいちいち電話してこなくてもよい」と言われたり,逆に「何でもっと早く報告しなかったんだ」と怒られたことなどもあるのではないでしょうか.
 ではいったい医師は,診療にあたってどのように情報を集めて,どのように判断しているのでしょうか.その基盤となる考え方が「臨床推論」です.ただ,臨床推論はなかなか奥が深いので,一から勉強して実際に使えるようになるのはとても大変です.
 そこで本書は,ゴールを「最終的な診断をつけて治療方針を決める」ところではなく,「すぐに受診を勧めるべきか,『様子見』でよいかを判断する」ことに絞りました.その代わり,その判断に至るまでの情報収集・解釈のプロセスを徹底的に細分化・定型化することで可視化し,医師以外の職種の方が現場で実践できるものになるよう努めました.具体的には,1・2章で本書の構成と基本原則について説明した後,3章では,医療機関はもちろんのこと,薬局や在宅,介護施設など医師が常駐していないセッティングでも,迷うことなく効率的に情報を集められるように,よく遭遇する症候について,質問と選択肢をチェックリスト方式で提示してあります.読者が,このリストに書かれているとおりに患者に質問をしていけば,自然に一通りの情報収集ができるように構成しています.また,緊急性の判断も,このチェックリストにある各質問項目と選択肢に紐づける形で代表的なパターンを明示していますので,当てはまる場合はすぐに適切な行動を起こすことができます.チェックリストの各質問項目の意味や回答の解釈についても,項目別に解説を加えました.これを現場で反復して用いることで,いわゆる問診の「型」が身につくと同時に,臨床推論の全体像も次第に理解できるようになることを意図しています.
 4章では,具体的な実践例を紹介しているので,情報収集から医師への報告に至るまでの一連の流れについて,イメージをつかんでいただくのに役立つでしょう.さらに5章では,得られた情報と解釈を医師などに報告する場合の伝え方についてまとめました.情報伝達はチーム医療の重要なスキルであり,迅速かつ適確な対応をとるためにも,ぜひ身につけてほしいと思います.巻末の6章には,普段から持ち歩けるように,チェックリストだけを抜粋したページを付けました.チェックリストはダウンロードできるようにもしているので,あわせて活用していただければと思います.

 超高齢社会を迎え,医療を巡る環境が厳しさを増すなかで,既存の職種の枠組みを超えたチーム医療の充実は重要なテーマであり,タスク・シフティング(業務の移管)やタスク・シェアリング(業務の共同化)という言葉があちこちで使われるようになっています.今後,医療・介護・福祉に関わるあらゆる職種において,患者の症状アセスメント能力の向上が求められることは確実です.本書を活用していただくことで,いままでなんとなく行っていた情報収集や判断が,網羅的で意味のあるものになり,ひいてはチーム医療の充実やケアの向上につながっていくことを,心から願っています.

 なお本書は,総合診療医(前野)と,薬剤師(松下,佐藤,畔原)の共同作業で開発した,医師以外の職種向けの臨床推論教育プログラムをベースに執筆したものです.忙しさにかまけて,企画から発行まで3年以上を費やしてしまいましたが,いつも辛抱強く,温かいご支援をいただきました医学書院の安部直子さんに,この場を借りてお礼申し上げます.

 2019年3月
 著者を代表して
 筑波大学医学医療系地域医療教育学 教授
 前野哲博

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まえがき

1章 医療福祉職に求められる症状アセスメント能力

2章 症状アセスメントの基本原則

3章 症状聞き方ガイド
 風邪症状(発熱・寒気・咽頭痛・咳・鼻汁)
 頭痛
 呼吸困難
 動悸
 胸痛
 しびれ
 腹痛
 嘔気・嘔吐
 食欲不振・体重減少
 下痢
 便秘
 めまい
 不眠
 物忘れ
 腰痛
 関節痛
 浮腫(むくみ)
 排尿障害
 うつ症状

4章 症状アセスメントの実践例

5章 医師への情報提供の仕方

6章 症状聞き方ガイド一覧
 風邪症状(発熱・寒気・咽頭痛・咳・鼻汁)
 頭痛
 呼吸困難
 動悸
 胸痛
 しびれ
 腹痛
 嘔気・嘔吐
 食欲不振・体重減少
 下痢
 便秘
 めまい
 不眠
 物忘れ
 腰痛
 関節痛
 浮腫(むくみ)
 排尿障害
 うつ症状

索引

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最短距離で自信を持って状況判断するために
書評者: 佐々木 淳 (医療法人社団悠翔会理事長)
 「どうしてすぐに連絡しないんだ!」
 「どうしてこんなことで連絡してくるんだ!」
 ケアの現場を混乱させる医師の捨てゼリフ,トップ2。
 予期せぬ体調変化を起こしたその人を前に,コメディカルや介護専門職,そしてご家族は,主治医への遠慮と不安とのはざまで苦悩する。主治医はコールの条件を具体的に設定し,事前に指導しているのか? というと実はそういうわけでもない。その時々の状況判断が必要という理由で「とりあえず連絡を」という漠然とした指示しか出していないことが多い。しかし,医師の「その時々の状況判断」は,実は大部分がある種のプロトコールに基づいて行われている。そのプロトコール,すなわち臨床推論(診断のための医師の思考プロセス)を,チェックリストとフローでシンプルに可視化したのが,本書だ。

 もちろん診断に至る全てのプロセスを定型化することはできない。しかし,「とりあえず経過をみていてよいのか」「急いで医師に相談すべきなのか」までの判断であれば,実は十分に汎用化が可能なのだ,ということをあらためて気付かされた。そして本書は,医師以外の医療介護専門職が,最短距離で,かつ自信を持って状況判断ができるようさまざまな工夫が加えられている。

 ピックアップされたのは,風邪症状や頭痛,腹痛,めまい,むくみなど,ケアの現場で判断に悩むことの多い19の症状。それぞれ病歴の聞き方やチェックすべきポイントが明確に記されている。転倒・服薬ミス・皮膚症状など,個別の状況判断がより強く求められるものを除けば,この19症状で現場の悩みは95%以上カバーされるのではないだろうか。

 特に秀逸だと思ったのが「緊急度判断チェックリスト」。見逃してはいけない危険サインのみならず,「これは安心!」という安全サインも網羅され,なぜそれが危険なのか,あるいは安全と判断できるのか,その根拠もわかりやすく説明されている。さらに医療機関を受診しない場合の対応や,その時に患者さんに説明すべき内容まで網羅されている。

 高齢者や認知症の人は,自分の症状をきちんと説明できないこともある。どのように患者さんから情報を引き出せばいいのか,そして,何をどのように医師に伝えればいいのか。この2つの点についても,豊富な実践事例とともに,具体的にアドバイスしてくれる。

 本書は,「文句を言わずにいつでも相談に乗ってくれる医師がいつでもそばにいる」ような安心感を,ケアの現場にもたらしてくれるのではないだろうか。これからは医師に電話するときも,ドキドキする必要はもはやない。必要なタイミングでピンポイントに問題点を伝えてくれるあなたを,医師は有能なチームメンバーとして認識することになるはずだ。それは対等な多職種連携を構築していくためのきっかけになるかもしれない。

 前野哲博先生は,尊敬する大学の先輩であり,そして総合診療のパイオニアの一人だ。現場のニーズを知り尽くしたプライマリケア医ならではの内容であると感じるとともに,本書の存在そのものが,ケアコミュニティに対する究極のプライマリケアだと思った。また,研修医はもちろん,高齢者医療や在宅医療を通じてプライマリケア全般に対応することが求められるようになった地域の開業医や勤務医にとっても,日々の診療の助けになるはずだ。

 地域医療を担う医師の不足,そして多職種連携の難しさが指摘される中で,本書が果たす役割は非常に大きい。介護事業所や薬局には必備の一冊だと思うし,介護家族にもお勧めできる。施設からの頻回のコールに悩まされている在宅医の先生方は,施設に一冊プレゼントして,症状アセスメントについて一緒に勉強会をしてみてはいかがだろうか。
「治療に係る医療職」の診る力の養成に生かせる!
書評者: 村上 礼子 (自治医大看護師特定行為研修センター教授・成人看護学)
 さまざまな医療現場で,多種多様な症状を訴える患者・利用者,家族は増えています。これらの現場で最初に患者・利用者,家族の訴えを耳にするのは,看護師であり,医療福祉職でしょう。多種多様な訴えから,その緊急性や重症度を適切に判断し,タイムリーな治療につなげるには,ある程度の訓練が求められます。多種多様な訴えに対して,思い付きでの情報収集や,経験に頼った場当たり的な情報収集では,適切でタイムリーな治療につなげるための情報を的確に得ることは難しいでしょう。

 2015年度から開始されている看護師の特定行為に係る研修制度では,これらの訓練も含め研修を行っています。研修を修了した看護師が,医師が不在な状況もあるさまざまな医療現場において,症状アセスメントを的確に行うことで,多くの患者・利用者,家族が,病気を抱えていても,重症化を予防しながら,地域で安心して生活できるようになると期待されています。

 本書の中で「各職種の養成課程において,患者の訴える症状に対して論理的・体系的に病歴情報を集めて,臨床推論に基づいて判断を下すトレーニングは,十分に行われているとはいえないように思います」と指摘されているように,これまでの看護職の養成課程では,症状アセスメントの訓練は十分ではありませんでした。本書は,典型的な19症状に対して,情報収集を4段階に細分化し,「全症候に共通する情報」「症候ごとに共通する情報」「個別に収集すべき情報で定型化できるもの」を抽出してマニュアル化し,医療職が確実に得るべき情報をチェックリストとして提示しています。また,得た情報をどのように医師に伝え,連携して対応していくことが望ましいか,実践例も示しています。症状アセスメントの実践的なトレーニングにとても有効な内容です。

 言語化される症状はもちろん,言語化できない訴えにも気付くことが求められる「治療に係る医療職」として,診る力を養わなければいけない皆さんには,ぜひ一度手に取ってほしい書籍です。そして,「否応なく症状への対応を迫られる現場において,患者の問題を素早く的確に評価し,円滑なチーム医療のもとで適切なマネジメントにつなげること」を共にめざしていきましょう。
患者が最初に会う医療職に必携のテキスト
書評者: 坂口 眞弓 (みどり薬局 管理薬剤師)
 評者は薬局で生まれ育ち,いま薬剤師として72年続くその薬局の店頭に立っています。調剤業務が主ですが,健康サポート薬局の届出をしているので,OTC販売,健康相談,健康教室なども定期的に行っています。

 処方箋調剤だけを見ると,薬局薬剤師はラストアクセスの医療人であり,医薬品を適正に使用するために,個々の生活スタイルに合わせた服薬指導,薬を渡した後のフォローを行っています。薬剤師の業務が対物から対人へシフトしたこともあり,薬学的な知識や技能をもとに,患者さんそれぞれに適した薬物治療の責任を担う業務はますます重要になるでしょう。

 一方,「薬局は処方箋がないと入りにくい」「薬局の薬剤師に相談していいの?」などの声も聞かれ,薬局薬剤師が地域住民へ健康を支援する役割は,まだ広まってはいません。しかし薬剤師は,患者さんが最初に会う,ファーストアクセスの医療人でもあります。患者さんの訴えから正確な情報を聞き取り,解釈,判断をして,しかるべき対応を取ることが,大変重要な役割です。

 薬剤師向けの「臨床判断」「臨床推論」の書籍は種々発売されており,健康サポート薬局取得に必要な研修にも「薬剤師の臨床判断」が組み込まれていますが,論理的,体系的に情報を集めて判断を下すトレーニングは,まだ十分に行われているとはいえません。本書は「症状アセスメント能力を身につけることは,否応なく症状への対応を迫られる現場において,患者の問題を素早く的確に評価し,円滑なチーム医療のもとで適切なマネジメントにつなげることに役立」つと,まとめられたものです。

 本書では,症状アセスメントを「情報収集」「解釈」「決断」の3つのステップに分けています。「ステップ1:情報収集」には,「(1)全症候に共通する情報」「(2)症候ごとに共通する情報」「(3)個別に収集すべき情報で定型化できるもの」「(4)個別に収集すべき情報で定型化できないもの」の4段階があります。医療職は(3)までを確実にカバーすることが必須であり,本書はそれができるようにまとめられています。また3章では,主要な19症状について,部位,性状,程度,経過,状況,増悪・寛解因子,随伴症状を尋ねる,より具体的なチェックリストを示しています。このリストはアプリも開発され,PCなどの端末から利用可能となっています。「ステップ2:解釈」では,「部位+病因で考える」「スピードとトレンド」「寛解・増悪因子」「『合わないところはないか』考える」ことがポイントになります。そして「ステップ3:決断」として,「すぐに受診」「数日中に受診」「ひとまず様子をみてよいが,しばらくしてもよくならなければ受診」「現段階では受診しなくてよい」のランクを示しています。また各症状の「緊急度判断チェックリスト」には,「見逃すな!」「これは安心!」の症状が記載され,その根拠もわかりやすく示されているので,相談者に回答する時に便利です。その他,症状アセスメントの実践例,医師への情報提供の方法が示されており,現場ですぐに応用できます。

 気軽に相談できる,地域住民の健康を支援する薬局の薬剤師をめざす者にとって,そして患者さんと接する全ての医療職にとって,本書は最適なテキストです。
在宅療養支援の現場の不安と行き詰まりを解消できる良書
書評者: 狭間 研至 (ファルメディコ株式会社代表取締役社長/医療法人嘉健会思温病院理事長)
 介護施設や在宅で,身体の不調や症状を訴えられる患者さんに一人で対応せざるを得ない状況になり,困った方は少なくないのではないだろうか。「とにかく,そんな時にはすぐにドクターコールです!」でも,もちろん間違いではないし,そのために訪問診療医やかかりつけ医,施設の連携医がいるわけだが,その対応の中でよくみられる2つのパターンがある。

 1つは,医師に「まぁ,いいけど,こんなことで電話してこなくてもよいのじゃない?」と言われてしまうことである。患者さんの苦痛を取り除いてあげたい一心で,かけにくい電話をかけているのだが,想定範囲内のよくある症状と判断された時には,日常業務を中断して対応した医師からすれば「そんなに慌てて電話かけてこなくても,今度の診察の時でよかったのでは?」と,チクリと言いたくなるのもわかる気がする。

 もう1つは,いろいろと報告した際に「なんかよくわからないなぁ。結局のところ,いったい何が問題なの? 僕はどうすればよいの?」と困惑させてしまうことだ。患者さんから聞いたことを,なるべくわかりやすい言葉で,時系列で話したつもりが,何か伝わらない。「まぁ,とりあえず行くよ」と医師が診察してくれても,そんな時に限って患者さんの症状は嘘みたいに落ち着いていて,「結局,私が騒いだだけ!?」というような経験は,誰しもあるのではないだろうか。

 本書は,このようなパターンに陥りがちで困っている方に,ぜひお薦めしたい一冊である。

 症状の裏にはいったいどういうことが隠れているのか,そして緊急性があるのかないのかは,医師も毎日の診療活動の中で考えていることだ。その背景には,もちろん医学的専門知識が必要であるが,その前提としてあるのは,患者さんの話を的確に聞く病歴聴取,いわゆる問診である。聴診や触診などの手技と異なり,問診は医師にしかできないわけではない。また,医学的専門知識は確実に存在するが,多くの医療・介護職が共通に持っている疾患や症状に関する一般的知識も当然ある。となると,問診の技法を学び,それぞれの職種が持つ知識と掛け合わせていくと,症状を訴える患者さんに,どのような対応が必要になるのかがおのずと見えてくる。そして,この医療職共通の「症状の聞き方」を身につければ,的確な時期にわかりやすく患者の異変を医師に伝え,迅速な治療につなげられるはずだ。

 本書には,問診の基本的な知識のみならず,風邪症状,頭痛,呼吸困難,動悸,胸痛など,日常現場でよく遭遇する症状に対する具体的な質問の内容や方法などを,個別のチェックリストや緊急性の判断も含めて具体的に記載されている。本書の内容をもとに,日々の業務をバージョンアップしていけば,医師は「なるほど。そういうことか! すぐ診に行こう!」と決断でき,患者さんは「症状を言ったら,すぐに的確に対応してくれた!」となる。結果的に,その端緒を開いたあなたは,医師からも患者さんからも感謝されることになるだろう。

 いまの日常業務に不安と行き詰まりを感じている方には,ぜひお薦めしたい一冊である。
医師の思考はこうなっていた! 病歴聴取の道案内
書評者: 木澤 晃代 (日大病院看護部長)
 編著者の前野哲博先生が研修医の頃,一緒に働いており,患者さんの診察にとても情熱を持った先生だなあと思っていました。まだ「チーム医療」といわれていなかった時代に,医師も看護師も関係なく,多職種で患者さんのことを診て(看て)いたことを思い出します。その時から前野先生の説明はわかりやすく,診察することや教えることを楽しんでいるようにみえました。本書は,そんな前野先生の病歴聴取の技を医療職向けに伝授してもらえる虎の巻です。

 1,2章では,これからの医療職に求められる症状アセスメントを概念化し,段階的に読み進められるようになっています。患者の持っているぼんやりした情報をいかに効率的に絞り込んでいくか,コミュニケーションや聞き方の方略,ちょっとしたコツが書かれています。「『グラフを描けるように』情報を集める」「『合わないところはないか』考える」といった独自の切り口で病歴聴取を深めていきます。

 3章は「症状聞き方ガイド」として,病歴の聞き方の道案内が示され,各質問の意図と,患者の答えの解釈が丁寧に説明されています。さらに「医療機関を受診しない場合の対応」として,どの程度様子を見てもいいのか,患者目線での心配事についての配慮が書かれており,いまは受診しなくても大丈夫そうと判断した医療職へのアドバイスとなっています。また,医療職は患者の症状が軽減していると思っていても,患者自身が「ちっともよくならない」と感じることがあるため,「1日でも早く症状から解放されたい」患者の想いをよく聴くことの重要性も書かれています。

 4章は対話形式で,「症状聞き方ガイド」に沿って症例をアセスメントしています。さらに,医師が確認したい情報をそろえた伝え方,その後の医療機関での経過が簡単に述べられています。判断に続く検査・治療がどのようになっているかは,貴重な情報です。5章では,患者の症状を医学用語に変換し,医師にどう伝えるかが書かれています。医療職の質問は時として専門的になりがちで,患者には通じない場合があります。また,患者がうまく伝えられない症状を,医学的に変換する作業も必要です。これらは,看護師にもトレーニングが必要な作業です。6章の「症状聞き方ガイド一覧」では,症状に沿った聞き方と「緊急度判断チェックリスト」が網羅されており,PDFがダウンロードできるようになっているので,聞き方の練習にもフル活用できるでしょう。

 この本には,患者さんから質のいい情報を能動的にとった上で,論理的な考え方,平たく言うと,つじつまが合う考え方を,患者さんの状態を見ながら行っていく,有機的でダイナミックな方略が書かれています。全ての医療従事者および医療職をめざす方に,ぜひとも読んでいただきたい名著です。

 答えは患者さんが持っています。それをいかに効率的にあぶりだすか,意図的な質問と考える道案内で,デキる医療職をめざしましょう!

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