ケアするまちのデザイン
対話で探る超長寿時代のまちづくり

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医療・介護・福祉が連携し、支援が必要な人々を地域で支える「地域包括ケア」。そこに住民の主体的な支え合いを加えた「地域共生社会」が提唱されている。しかしその実現は各地域に委ねられているのが現状だ。本書では、地域課題を住民たちが解決する手助けをする「コミュニティデザイン」の第一人者が地域包括ケアの先進地域を訪ね、「地域共生社会をつくるもの」を探る。答えは、ケアとデザインを組み込んだまちづくりにあった!

正しさと楽しさの協働が「ケアするまち」を生む(山崎亮氏)

【週刊医学界新聞 第3315号 〔インタビュー〕「ケアするまち」をつくる
山崎 亮
発行 2019年04月判型:A5頁:202
ISBN 978-4-260-03600-9
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 住宅や庭園を設計する場合、依頼者の意見をじっくり聞きながらデザインを決めていく。なぜなら、依頼者が利用者であることがほとんどだからだ。ところが公共施設や公園を設計することになると、依頼者が利用者とは限らなくなる。自治体の公園緑地課長だけが公園を利用するわけではないからだ。
 では、どうやって不特定多数の利用者から意見を聞き出せばいいのだろうか。そもそも、まだ完成していない空間の利用者をどうやって集めればいいのか。仮に集められたとして、たくさんの利用者の意見をどうやって集約すればいいのか。それがわからない。だから結果的に、利用者の意見を聞かずに設計を進めてしまうことになる。
 これがどうも気持ち悪かった。利用者の意見を聞かずに、自分が想定する利用方法から空間の設計を進める。これをどう乗り越えればいいのか考えていた。そんなとき、住民参加型のワークショップに出合った。多くの参加者の意見を対話のなかで集約し、お互いが学び合いながらつながりを醸成していく。この方法なら将来の利用者の意見を設計に反映させられるのではないか。そんな発見があった。
 その後、この手法は空間を設計する場面だけでなく、広くまちづくりの現場でも使えることがわかってきた。まちの計画をつくったり、市民活動を生み出したり、お互いが学び合う場をつくったり、生活を支え合うしくみをつくったりする際にも使えることがわかった。建築よりもむしろそのようなものをデザインしていきたいと思った。そこで、自分たちの仕事を「コミュニティデザイン」と呼び、空間の設計以外の事業にも携わることにした。
 その結果、辿り着いたのが医療や福祉の世界である。この世界では「地域包括ケア」がキーワードになっていた。少し難しい言葉で、最初は何を意味しているのか理解できなかった。調べてみると、医療や福祉が地域を対象とするようになり、まちづくりへと近づいてきたというような印象を受けた。とはいえ現場が想像できない。地域包括ケアの現場はどうなっていて、どんな試行錯誤がなされていて、何が課題になっているのだろうか。そこで、私がイメージする地域包括ケアに近い取り組みをしている4つの地域を訪れて、詳しい話を聞いてみることにした。新潟県長岡市、滋賀県東近江市、埼玉県幸手市、石川県金沢市の4地域である。
 話を聞く相手は医療や福祉の専門家ということになる。しかし、そこにもうひとり、デザインやまちづくりに携わる人に同席してほしいとお願いした。門外漢なので医療や福祉の専門家と対談できる気がしなかったというのが正直なところだ。デザインやまちづくりに関わる人も含めて鼎談ということであれば、どこかに話のきっかけを見つけ出すこともできるだろうと考えたのである。
 案の定、鼎談を開始してしばらくは何も語ることがない。医療や福祉の現場に関する話や、地域で進めている活動の話を聞いているだけで精一杯である。話の随所に感心する内容が含まれており、感動する発見がある。しかし、さらに詳しく話を聞くうちに、コミュニティデザインの現場でも思い当たる節があることに気づく。地域包括ケアとまちづくりに共通する部分が見えてくる。「そういえば僕らの分野でも」と口を挟みたくなる。だからどの鼎談も、中盤になると私が語りすぎている箇所がある。これは興奮している証拠である。
 4つの地域で鼎談させてもらい、コミュニティデザインに関するアイデアをいただいた。まちづくりとの共通点を発見した。理性と感性、正しさと楽しさの関係について考えた。19世紀後半のイギリスや20世紀前半のアメリカで試行錯誤されたケアとデザインの協働を思い出した。生活における貨幣と信頼のバランスについて検討することになった。鼎談を通して気づいたこれらの点については、第5章にまとめてある。ケアとデザインの関係を考えるきっかけとなれば幸いである。

 二〇一九年二月
 山崎 亮

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著者プロフィール
はじめに
 
1 ケアとまちづくりはどこで出合うのか
   ─高齢者総合ケアセンターこぶし園のサポートセンター
 吉井靖子さん 社会福祉法人長岡福祉協会 高齢者総合ケアセンターこぶし園 総合施設長/看護師
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 高田清太郎さん 株式会社高田建築事務所 代表取締役/建築家
医療・福祉とまちづくりが近づいてきた/ケアをまちのなかへ届けるしくみをつくる/まちの一部としての「サポートセンター」/施設じゃない、家をつくるんだ/「自分が住むなら」の目線/まちでできることを広げていく/「あそこなら入ってもいい」と言われるように/できない理由を100挙げるか、できることを1つ見つけるか/まちに境界線はいらない

2 誰がまちをケアするのか─魅知普請の創寄りとチーム永源寺
 花戸貴司さん 東近江市永源寺診療所 所長/医師
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 北川憲司さん 滋賀地方自治研究センター 理事
多種多様な人材がクロスする「東近江 魅知普請曼荼羅」/人と人をつなぐことで9割くらいはうまくいく/地域包括ケアは高齢者だけのものではない/「病気だけを診るのではなくて、私の生活のすべてをみてください」/医療は、その人の生活や役割の邪魔をしてはいけない/医療・介護・福祉ができることは限られている/プロは差し控えることを知っている/「最期まで家で」を実現するのは、本人の意思/「そんな人いたっけ?」と言われるリーダーが理想/「おまえが言うなら仕方ない」力/お惣菜をもらえたら一人前/巻き込むのではなく巻き込まれにいけ

3 何がケアとまちをつなぐのか─地域包括ケア幸手モデル
 中野智紀さん
社会医療法人JMA東埼玉総合病院 地域糖尿病センター センター長
在宅医療連携拠点 菜のはな 室長/医師
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 小泉圭司さん 元気スタンド・ぷリズム合同会社 代表社員・NPO元気スタンド 代表
あなたも“コミュニティデザイナー”!/新しい信頼関係をつなぐ人たち/地域に自分の居場所がない!/来るだけで介護予防になる喫茶店/にじみ出ることでつながりが生まれる/営利と非営利のバランス感覚/楽しいことを入り口に/アウトカムは「居心地のいいまち」/ネットワークというよりクラウド/信頼と情報の共有/ケアの中心にあるのはソーシャルワーク/地域包括ケアは「わがまちモデル」で

4 ケアするまちをどうつくるのか─Share金沢、三草二木 西圓寺
 雄谷良成さん 社会福祉法人佛子園 理事長/僧侶
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 西川英治さん 株式会社五井建築研究所 代表取締役/建築家
障害者福祉からまちづくりへ/障害のある人が安全に暮らせる場をつくらなければならない/「建築なんかなくてもいい」と施主に言われて/打ち合わせはキャッチボールか殴り合い/「目利き」になれる専門家を探せ/当事者になる、当事者とやる/ときには細部から始めてみる/所有から共有へ意識を変える/他分野の仲間と、相互介入できる信頼関係をつくる

5 ケアとデザインの再会と深化
 山崎 亮
地域包括ケアは、まちづくりにケアとデザインを組み込むこと/ケアとデザインの源流は同じ/支援と意欲の喚起は両輪の関係/理性と感性、正しさと楽しさ/地域住民の参加は「楽しそう」から始まる/必要最低限の空間/場と人のつながり、人と人のつながり/地域はそこに生きる人たちの人生の集積/貨幣のやりとり、信頼のやりとり/豊かな人生への挑戦

おわりに

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「ケアを提供する」から「まちがケアする」へ(雑誌『看護教育』より)
書評者: 西村 ユミ (首都大学東京健康福祉学部看護学科教授)
 医療者にとって「地域包括ケアシステム」は耳になじんだ言葉である。厚生労働省によれば、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることをめざした、地域の包括的な支援サービス提供体制のことだ。“コミュニティデザイン”を仕事とする山崎氏はこの言葉に出会い、「医療や福祉の世界がまちづくりに近づいてきた」と思ったという。しかし、それはどのようなケアであるのか? この疑問をもって、自身がイメージする地域包括ケアに近い取り組みを行っている地域に出向き、鼎談を試みた。本書はその生の記録である。

 なぜ“鼎談”であるのか。著者がイメージしたのは、ケアとデザインとが協働する現場である。だから対談は、各地域において医療や福祉の専門家とデザインやまちづくりに携わる人、そして著者の3名で行われたのだ。

 新潟県のある地域では、郊外の大規模特別養護老人ホーム(特養)が解体され、まち全体を「ケアのある暮らしの場」としたプロジェクトについて語り合った。かつての施設長の「施設をつくるのか、家をつくるのか」という問いが生んだプロジェクトである。滋賀県のプロジェクトでは、住民たちの「魅知普請の創寄り」が下支えとなり、チーム永源寺が地域をまるごとケアする。そこでは、「人たらし」という人間力が多様な人々をつないでいく。埼玉県では、まちづくりに関わる住民を「コミュニティデザイナー」と呼び、在宅医療連携拠点「菜のはな」に支えられ「ケアする社会」をつくる。ケアを提供する側と受ける側に分けず、相互の信頼関係を築くことで、住むだけで「ケアされるまち」になった。石川県は、生活上の困難を抱えるすべての人を対象にした「三草二木 西圓寺」という多世代交流拠点をモデルに、一から「Share金沢」というまちをつくった。

 いずれも時間をかけて生み出したユニークな取り組みだ。著者は、最初は聞いているだけで精一杯だったというが、次第に自分たちの取り組みとの関連に気づく。だから中盤になると、興奮して話し過ぎてしまう。それだけではない。ケアとデザインの関係、ケアとデザインが融合していた時代、生活における貨幣と信頼のバランスを考えさせられ、最後の章「ケアとデザインの再会と深化」でこれらを議論する。

 贅沢である。まちづくりにケアとデザインが組み込まれた現場において、それをつくってきた者たちと対話し、そこでの気づきが議論され深化する。本書を読むことは、この対話と議論に触れることであり、同時に問われ鍛えられるのは、自身のデザインセンスである。私は、本書から“まちがケアする”という発想を得た。もはや地域包括ケアに「提供」という文字はいらない。看護の枠組みもひっくり返す必要がありそうだ。

(『看護教育』2019年11月号掲載)
地域包括ケア――地域共生社会へ変換するケアの真髄(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 沼崎 美津子 (一般財団法人脳神経疾患研究所/看護小規模多機能型居宅介護事業所 在宅看護センター結の学校/南東北福島訪問看護ステーション結・所長)
 もともと地域看護が好きであった身として病院看護管理から在宅看護を追究しようとした時期に、国は「地域包括ケアシステム」の構築に向けて進み出した。そして、筆者は現在、看護小規模多機能型居宅介護事業(看多機)を設立し4年目となる。このタイミングで本書『ケアするまちのデザイン』に出会い、著者である山崎亮氏のまちづくりに対する斬新な取り組みと発想に驚嘆した。

◆生ききることができる地域づくり

 地域で安心して生ききることは、保健・医療・介護だけのケアでは成立しない。本書の著者である山崎氏は、まちづくりの分野で人と人がつながる仕事として「コミュニティデザイン」に尽力されている。そして、自ら地域包括ケアを超えて地域共生社会づくりに取り組んでいる地域を訪ね、ケアとデザインを融合させるエッセンスを関係者らから引き出した。その地域の習慣や風習を生かしながら、誰がどのタイミングで地域社会を活性化させているのかについて、それぞれの地域を牽引する方々との鼎談から、読み手としては、それぞれに納得させられた。

 「できないことを100挙げるのは簡単。その100を考える余裕があるなら、できることを1つ考えろ」。看護師である新潟県長岡市の「こぶし園」総合施設長は、今は亡き前・総合施設長の言葉をふり返る。滋賀県東近江市永源寺診療所所長の医師は、「生まれ育った場所で役割をもって活躍することを支援するためには、医療は必要最低限であればいい」と言う。埼玉県幸手市では“信頼関係のクラウド”が機能していて、地域で活動するグループ同士がつながり、皆がそこに情報を上げ、逆に情報が必要なときはそこから引き出しているという。その情報のやりとりを続けるだけで、より広い範囲で情報や関係性が共有される。石川県金沢市の佛子園僧侶は「歴史を改革するのは、実は認知症や障がいのある人など、社会的排除を受けやすい人たちかもしれない」と述べる。

 著者は、それぞれの地域を訪ねた結果、施設はどうあるべきか、地域の活動団体とどうつながるべきかを考える必要があると述べ、「この機会を利用してケアとデザインとが融合するまちづくりを各地で進めることもできるだろうし、生活や人生が充実していると感じる人を増やすこともできるだろう。(中略)豊かな人生を実現させるために、ケアするまちをデザインするのである」と締め括っている。

◆鼎談だからこそ掴んだ真髄

 地域包括ケアシステムは誰のためにあるのだろう、誰が中心になって構築すればよいのであろう。本書を読み終えたとき、そのもやもや感が払拭された。私は、看護師の立場で地域貢献すべく、看多機の機能に障がい者・児の預かりや健康増進活動も行なっているが、あたらめて考えると、地域住民の方々もそれぞれの専門分野や役割を持って生活している。そして、「ケアするまち」を意識したまちづくりは、どの分野からでも始めることができ、その力は枚挙にいとまがない。

 著者は、一人語りや対談では得られない「鼎談」から、それぞれの地域共生社会の真髄を掴んでいる。ぜひ、ケアの機能をもつ地域づくりを構築するために、ケアに関わるさまざまな領域の人々に一読していただきたいと願う。

(『訪問看護と介護』2019年11月号掲載)

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