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看護学のための多変量解析入門

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研究手法の中でも難解で敬遠されがちな多変量解析を、数学記号をできる限り使わずにわかりやすく解説した入門書。随所に、統計学の基礎と多変量解析の土台となる重回帰分析とのつながり、重回帰分析と発展的な手法のつながりが提示されており、多変量解析の全体像が把握できる。自然な流れで多変量解析の結果の解釈や留意する点の考え方が身につき、論文読解や研究実施に役立つ1冊。
中山 和弘
発行 2018年01月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-03427-2
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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 本書は,看護学で幅広く使われている多変量解析の方法を網羅して,それらをどのように使い分けるのか,そこで何が行われていて,何が言えるのかを,ありのままわかりやすく紹介することを目的としています.では,なぜこのような本が必要なのでしょうか.

多変量解析では,何が行われていて,何が言えるのか
 すでに,SPSS,SAS,R,STATA,JMP,Amosなどの統計ソフトを,統計が得意でなくてもすぐに使えるテキストが多数出版されています.しかし,統計解析を始める以前には研究計画があり,先行研究のレビューが不可欠です.文献レビューのために論文を読むときには,その“生命”とも言える図表を見て,そこで何が行われているのかを理解する必要があります.
 なぜなら,研究テーマにピッタリと合った解析方法が選ばれていないと,誤った結論が導かれるリスクがあるからです.さらに,解析方法が適切に選ばれていたとしても,そこで何が行われているのか,何か言えるのかが理解されていないために,誤った結論が述べられる可能性があります.そうなるとせっかく研究に協力してくれた多くの方々に申し訳ない限りです.

“言いたいこと”を“見える化”する
 私は看護学や保健学の領域で,統計学の授業と研究の相談や支援を続けて30年ほどになります.こうした領域では,人間の生活や健康といった不確実で複雑な現象を捉えるために,生物的・心理的・社会的・文化的な側面から多様なアプローチが求められます.
 そうしたなかで,ずっと学生とともに学んできたことは,研究テーマの中心(コア)にある人々の“姿や声”を,そのまま多変量解析の形に表して“見える化”することの大切さです.その作業を通して,初めて“言いたいこと”について説得力をもって伝えることができます.

本書の7つのポイント
 そこで,多変量解析をわかりやすくするために,本書で力を注いだ点は次の7つのポイントです.
(1)ベン図を使っていること
 多変量解析の中心(コア)にあるものを“見える化”するために,円の重なりで表したベン図を使っていることです.それによって,変数間の関連のどの部分を見ようとしているかがわかります.私自身,海外のテキストで使われていたベン図による説明を知り,なるほどその部分を見ていたのかと「目からうろこ」でした.その後,講義や講演でベン図を使うと「何度聞いてもわからなかったことが初めて理解できました」「統計がとても楽しくなりました」という声が聞かれました.それが,本書を書こうと思った動機でもあります.
(2)すべての共通点としての重回帰分析に注目していること
 多変量解析が結局何をしているのかを理解するために,どの分析にも通じる共通点に注目しています.スタートは,1人ひとりのばらつきで,それは看護学が重視する個別性にも通じるものです.ばらつきが何によって起こるのか,変数間の関連がまったくない状態からのずれを考えます.
 そして多変量解析では,大きく2つの目的があるとしながら,どれも基本は重回帰分析であることに注目しています.それは1つの目的変数(従属変数)を,2つ以上の説明変数(独立変数)で文字どおり説明しようとするものです.重回帰分析をよく理解することが多変量解析ならではの考えかたを身につける早道です.「重回帰分析ぐらいはわかる」と思うかもしれませんが,かなり奥が深いもので,特に説明変数間の関連が結果に及ぼす影響はとてもダイナミックなものです.
(3)データを用いてSPSS の出力で説明していること
 広く使われているSPSS での計算の例を用いて,図表の見るべきポイントを説明しています.なぜなら,文献が読めるということは,“図表が読める”ということを意味するからです.そのためには,基本となっている多変量解析の考えかたが,図表のどこに表現されているかを知る必要があります.なお,本書で用いているデータは実際の研究で用いられたものではありません.
(4)説明変数の種類と役割を明確にしていること
 ものごとの因果の流れを表すための説明変数の種類や役割を明確にしています.説明変数は多様で,見せかけの関連である交絡や,直接効果と間接効果などを明らかにできます.それらの働きに合わせて,媒介変数,調整変数,抑制変数,制御変数を区別して紹介しています.特に抑制変数では,2つの変数では関連がなくても多変量解析にすると関連が見られたり,係数のプラスマイナスの符号が入れ変わったりする理由を説明しています.
(5)説明変数の選びかたを大切にしていること
 説明変数の特徴を押さえたうえで,説明変数の選びかたに注目しています.1つひとつの変数を大切にすることは,そもそもの“言いたいこと”へのこだわりです.患者や家族などから得た貴重な変数や概念があるのに,見す見す削除する“悲劇”とも言える状況を回避するためです.
 従来は,目的変数と各説明変数の2つの変数だけでの関連から,有意なものを選んで多変量解析を行うことが多かったと思います.しかし,抑制変数のように2つの変数では有意でなくても,多変量解析では有意になることがあります.また,説明変数が多くて選べないときに自動的に変数を選んでくれるステップワイズという方法には,実に多くのリスクがあることを詳しく解説しています.
 尺度をつくるときに欠かせない因子分析での変数の選びかたでも,マニュアルどおりにではなく,変数の背景にある概念の存在の重要性を強調しています.何よりも理論や仮説,先行研究の検討なくして多変量解析は難しいことを繰り返し述べています.
(6)統計用語に英語を付けていること
 あらゆる学問がそうだと思いますが,統計学を学ぶというのは,新しく1つの外国語を学ぶようなことだと思います.英語の論文を読むときはなおさらで,統計について質問を受けると,英語が読めていないだけのことがよくあります.そのため,統計関連用語については極力英語を付けて,欧文索引にも日本語訳を併記するなど英語論文で困らないようにしています.
(7)大学院生とのやりとりをもとにしたQ&Aがあること
 これまでの大学院生とのやりとりをもとに,Q&Aのコーナーをつくっていることです.1人でテキストを書くのは孤独な作業ですが,実に多くの院生に意見をもらったことで本書はできています.テキストを出す予定だと言うたびに「絶対買います」「いつ出ますか」という言葉が励みになりました.

図表を読む習慣を身に付けるための辞書代わりに
 本書を通して,少なくとも多変量解析を利用した論文の図表を批判的に読めるように支援できればと願っています.EBM(evidence-based medicine),EBN(evidence-based nursing)の時代には,常に論文を批判的に読む力が欠かせません.
 外国語は使わないと忘れてしまうように,統計学という言わば“研究語(language of research)”でも,それは同じことです.そうならないためには使い続けることが肝心で,論文を読むときには必ず図表をチェックする習慣を身に付けたいものです.それを継続的に続けるために,本書を辞書代わりの1冊として加えてもらえたら幸いです.
 こうして出版できたとは言え,さらによりよいものにするために,批判的に読んでいただいて,ご意見をnakayamasoulアットマークgmail.comまでいただければと思います.

 2017年12月
 中山和弘

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第1章 統計学とデータ
 A 統計学の役割とは
 B データの種類を確認する
 C 量的データの分布を確認する
 D 質的データの分布を確認する

第2章 2つのデータの関連の組み合わせ
 A 3種類の組み合わせの概要
 B サンプルでたまたま起こったことかを検定する
 C [量的データと量的データの関連]相関図,回帰直線,相関係数
 D [量的データと質的データの関連]量と質の関連はグループ同士の平均値(分布)の比較
 E 量と質の関連で3グループ以上での平均値の比較
 F [質的データと質的データの関連]質と質の関連はクロス表

第3章 3つ以上のデータの関連を見る多変量解析の基本
 A なぜ多変量解析が必要なのか
 B 多変量を測定する理由1:多くの説明変数を用いて目的変数の予測精度を上げる
 C 多変量を測定する理由2:尺度の信頼性と妥当性を高めるため
 D 多変量解析の種類

第4章 1つの量的データを複数の量的データで予測する重回帰分析:多変量解析の基本
 A 多変量解析の基本は重回帰分析
 B 多変量解析ならではの説明変数間の関連と組み合わせ
 C 説明変数を選んだり順番に入れたりする
 D 問題のあるデータをチェックする

第5章 量的データを目的変数として複数の説明変数がある分散分析
 A 基本的には一元配置分散分析に説明変数を追加するだけ
 B 説明変数の組み合わせの効果である交互作用
 C 主効果と交互作用の効果が重複している場合
 D 説明変数に量的データを含んだ共分散分析
 E 目的変数が複数ある多変量分散分析

第6章 量的データを目的変数として時間という説明変数がある分散分析
 A 同じ人に対して時間を追って測定する反復測定
 B 個人間と個人内でそれぞれ検定する

第7章 質的データを目的変数とするロジスティック回帰分析
 A 質的データを量的データ,質的データで予測する
 B 最尤法で回帰係数を求める
 C 回帰係数とオッズ比
 D 説明変数とモデル全体の検定と適合度
 E ケースの予測ができる
 F カテゴリ内の人数に注意
 G 目的変数が3カテゴリ以上の場合
 H 目的変数が潜在的に正規分布する場合はプロビット分析もある
 I 判別分析との違いからロジスティック回帰分析の特徴を見る
 J ロジスティック回帰分析に似ている対数線形モデル

第8章 時間という目的変数をもつ生存時間分析
 A 何かが起こるまでの時間を問題にする
 B いつどの程度起こったのかを比較するカプラン-マイヤー法
 C 起こる速さの要因を探る重回帰モデル

第9章 個人レベルとグループレベルの説明変数があるマルチレベル分析
 A サンプルが本当にランダムに選ばれているか
 B 分析の単位を何にするか
 C マルチレベル分析が階層線形モデル(HLM)や線形混合モデルとも呼ばれる理由
 D 切片や傾きがランダムに変動するのをマルチレベル分析ではどのように計算するのか
 E マルチレベル分析を行った結果を見てみる
 F マルチレベル分析は懐が深い

第10章 潜在変数を測定するための因子分析
 A いくつもの相関が高い観測変数の背景によるもの
 B 因子分析の段階的な計算手順の概要
 C 因子の固有値と因子数
 D 観測変数の因子負荷量と共通性
 E 因子の特徴を探る
 F 主成分分析と因子分析の違い

第11章 因子分析と重回帰分析を統合した構造方程式モデリング
 A 理論や仮説を図で描いて確認できる
 B 主な適合度の指標
 C SEMの主な利用法
 D 仮説のモデルの適合度が低いときは

参考図書
あとがき
索引

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臨床統計学に携わる全ての臨床家にとってのバイブル
書評者: 和座 雅浩 (各務原リハビリテーション病院副院長・神経内科)
 「統計」と聞くだけで,ささっと後ずさりする病院スタッフの閾値を下げるために,何か良い教材がないかと探していた時に,本書と巡り会った。臨床においてデータ解析を行う意義や面白さは,経験がないとイメージしづらいものであるが,本書は看護研究を例に,わかりやすい図を提示しながら展開している。読者の理解を深めるための「見える化」が,至れり尽くせりのレベルで随所にちりばめられ,著者の臨床統計学を世に広めたいとの熱意を感じる。私自身の経験であるが,どの統計解析アプリケーションを扱うにも,わかりやすくイメージしながら進めていくことは必要不可欠であり,そうでないとデータを解析するやりがいや面白みを感じないし,たいていは長続きしない。特に統計学のような取っつきにくい学問を学び実践していくプロセスにおいては,「見える化」が大切であることをあらためて知った。

 第1,2章では,統計学を理解して正しい解析を行う上で必須の基礎事項と用語が,過不足なく網羅されており,時間がある読者はここから熟読されることをお勧めしたい。

 第3,4章は本書のメインパートであるが,「多変量解析の基本は重回帰分析」の節タイトル通り,重回帰分析を基礎からしっかりと学び,正しく扱えるようになることが,さまざまな多変量解析の理解を深める早道であることが力説されていて,序文の“重回帰分析は,ダイナミックで奥深いものである”の真の意味がよく理解できる。私自身,重回帰分析をそれなりに理解したつもりで頻用していたが,実は不十分であることに,大いに反省させられた。個人的には,説明変数の一つとして抑制変数の重要性,ステップワイズ法の結果をそのままうのみにしてはならない理由,また交互作用について,理解を深めることができた。臨床研究においては常に問題となる欠損値の扱い方についても,イメージをしやすい事例でわかりやすくまとめられていて非常に参考になった。欠損値は,モヤモヤしている方も多いと思うので,その理解にはこの書をお勧めしたい。

 重回帰分析,ロジスティック回帰分析,Cox比例ハザード分析などの頻用される多変量解析の利用経験はあるも,そのモデルが本当に正しいかの判断に苦慮している臨床家は多いのが実状であろう。本書をじっくり読みながら進めることで,こうした多変量解析モデルの精度・妥当性の検証を正確に行うことができ,自信を持って結果を提示できるようになると思う。また著者の豊富な教育経験に基づき,解析結果の解釈で特に初心者が陥りやすいピットフォールも詳細に説明されており,大学院生とのやり取りを文章化したQ&Aは,学ぶ側と教える側双方にとって非常に参考になる。

 先日,当院のリハビリテーション臨床研究を,ある米国ジャーナルに採用してもらうことができた1)。メインとなった多変量解析およびモデルの検証には,本書を大いに活用させていただいた。当初は統計学の面白さを院内に広めるために手に取った本書であったが,何より私自身が多変量解析をより深く勉強することができた。より高度な多変量解析が必要になった時も,本書を活用させていただきたいと思う。

 本書の内容を,最初から全て理解するには相当なレベルを求められると思われるが,常に本書を手元に置き,自身がこれから行いたい研究と照らし合わせることで,研究の幅が広がり,何段階も質の高い統計解析が正しくできるはずである。看護師のみならず,臨床研究・医療統計学に携わる医師や他の職種にとっても実践的な臨床統計のバイブルになると確信している。特に臨床統計に興味がありながらも,良き指導者や教育機会にめぐまれず,そのチャンスを逸してきた方にはぜひとも一読をお勧めしたい。

●参考文献
1)Waza M, et al;Comprehensive Tool to Assess Oral Feeding Support for Functional Recovery in Post-acute Rehabilitation. J Am Med Dir Assoc. 2018[PMID:30528795]
まるで講義を受けているような奥深さ(雑誌『看護管理』より)
書評者: 武村 雪絵 (東京大学大学院医学系研究科 准教授)
 統計解析の解説本・指南本はこれまでにたくさん購入してきました。自分が研究をする際に,理解不足のまま多変量解析をして見当はずれな結論を導くのは怖いと思っていましたし,論文を読む際も,図表を読み取れず書かれていることを鵜呑みにするのは避けたいと思っていたからです。
 多くの書籍を購入してきましたが,書店で本書を見つけてパラパラとページをめくった瞬間に購入を決意しました。感想を一言で言えば,「買ってよかった!」「読んでよかった!」。本書は,変数の種類と組み合わせで機械的に正しい解析方法を選ぶといった,従来の入門書とは全く違います。著者の講義を受けるかのように,丁寧により深く,しかも面白く多変量解析を学ぶことができます。

◆看護学へのエール

 何より感じるのは,本書は「看護学のため」に書かれているということです。著者は,看護専門学校や看護系大学・大学院で長く統計の教育や指導に関わってきた中山和弘先生です。看護学生や看護師の統計学に対するレディネスや,どのように説明すれば理解できるかを熟知しています。
 人々の健康や幸せを追求する「看護」の領域では,多様で複雑に絡み合う概念を扱わざるを得ません。このような状況でも,関心のある事象を可視化して人々の健康や幸せに寄与する要因を見つけるのが「看護学」です。この学問を発展させる研究を,著者が応援してくれているのが伝わってきます。
 変数間にどのような関係が想定され,どのような解析が必要となるか,決定係数や相関係数の目安はどの程度が妥当かなど研究に必要な知識を網羅している上,看護職向けのコメントが随所に見られます。入門書であっても,マルチレベル分析や欠損値への対処など,これからの看護学研究に不可欠な分析手法や倫理的態度までカバーしているのも,看護学へのエールであり期待の表れだと思います。

◆「手順通り」が招く悲劇

 そして,著者は,研究者が理論や先行文献を参照して仮説を立てて研究に臨むことや,研究者自身が考え判断することの重要性を繰り返し強調しています。
 読者の皆さんも,一見するとケチをつけるところがないけれど,「有意な関連があった」あるいは「いくつかの因子に分かれた」だけで,どのような目的で何を明らかにしようとしたのかが分からない研究論文を読んだことがありませんか。解説書や先行文献で紹介された手順通りに解析を進めた結果,研究の肝である大切な変数を落としてしまうことを,著者は「因子分析の悲劇」「ステップワイズの悲劇」と名付けて警鐘を鳴らしています。多変量解析はあくまでも道具であり,研究者が目的のために適切に利用できることが大切なのだと再確認させられます。

◆多変量解析が視覚的に分かる

 事例,図表をふんだんに用いた解説も本書の特長です。特に「ベン図」を使った重回帰分析の解説は鮮やかです。目的変数や各説明変数の関係(例えば,説明変数間に相関がないとき,媒介変数が存在するとき,多重共線性が存在するときなど)が,なんとベン図で図示できるのです。決定係数の変化量やステップワイズ法もベン図で視覚的に理解できます。
 多変量解析の初心者はもちろん,中級者以上や研究指導者まで「多変量解析がよく分かった!」と感じるに違いない1冊です。

(『看護管理』2018年5月号掲載)
研究の道しるべに心からお薦めできる良書(雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 川崎 涼子 (大分県立看護科学大学広域看護学講座地域看護学准教授)
 本書を読めば多変量解析の手法だけではなく,統計学としてデータを扱う際の基礎的な考え方や,データの扱いといったプロセスをよく理解できる。近年,多くの看護学研究において多変量解析が用いられているが,その基本的な考え方や手法が非常に明快に記載されている。

 まず,第1章では,変数となるデータの種類を踏まえてデータの分布,代表値について丁寧に述べられており,初学者には特に貴重である。

 第2章では,2変量の関連を見る方法が「量と量,量と質,質と質の3つしかない」と述べて読者を導いたのち,それぞれの関連の分析方法,図表の描き方,検定の意味について順を追って説明している。説明変数と目的変数を明示したデータ例やグラフ例が常に示されており,難解さを感じることなく読み進められる。ここまでで統計解析の基本を押さえられるように説明がなされており,次の多変量解析の章へとスムーズに読み進めることができる。

 第3章からの多変量解析の解説についても,手法の説明から始めるのではなく,まずは「なぜ多変量解析が必要なのか」を身近なテーマのデータ例を示しながら述べている。変数(データ)をきちんと理解することの重要性を丁寧に述べることにより,先の多変量解析の理解が得やすくなるよう工夫されている。

 その後の章では,目的変数が量的データか質的データか,説明変数が質的データか量的データかによって変わる多変量解析の手法を,一つ一つ手順を追って説明している。

 多変量解析の基本が重回帰分析であることが説明されているので,重回帰分析から読み進めてもよいが,自分の研究テーマで扱うデータの種類によって,共分散分析やロジスティック回帰分析,一般化線形混合モデルといった章に読み進めることができる。さらに因子分析についても説明されている。

 特筆すべきは,例として挙げられる研究テーマとその変数(データ)が,看護学生や大学院生,看護学研究者にとって非常に身近で分かりやすいものとなっていることである。また,著者が看護学研究分野における教育経験で培った初学者の陥りやすい過ちにも触れている。こうした著者の経験をもとにした説明により,変数の性質や,結果の解釈における落とし穴などへの理解が容易となるだろう。

 看護研究に用いる統計学に関する書籍のうち,基本を押さえ,順序正しく多変量解析を学びたいという初学者から中堅の方々,臨床看護師や大学院生,看護系教員,研究者には貴重な道しるべとなる。分かりやすさとマニアックさがよい具合に混ざり合っており,大学院生への説明にも役立つだろう。心からお薦めできる良書である。

(『保健師ジャーナル』2018年5月号掲載)
多変量解析の魅力に引き込まれる随一のテキスト(雑誌『看護研究』より)
書評者: 小松 浩子 (慶應義塾大学看護医療学部・大学院健康マネジメント研究科教授/看護医療学部長)
 本書の発刊を知り,すぐに頭に浮かんだ言葉は,「待っていました!」です。すでに,研究室の本棚には多変量解析に関するテキストブックが複数並んでいますが,どれもきれいなままで,複雑な数式やピンと来ない例題にギブアップした形跡があります。本書は看護研究を学ぶものにとって,かゆいところに手の届く格好のテキストブックといえます。私のお気に入りの点を挙げながら,特徴を紹介します。

 第1は,看護研究のもどかしさを紐解く統計手法を,わかりやすく解説している点です。統計学のイロハといえるデータ,変数,仮説,分布といった統計学の基本的知識を,看護研究の観点からわかりやすく積み上げ式で学べます。長年,看護学生や看護研究者に統計学を教えている著者だからこその解説,例示が満載です。難しい統計学が「わかった!」となっていくので,どんどん読み進めることができます。

 第2は,多変量解析に挑むために2変数の関連の分析をきちんと学べる章が設けてあり,足場が固められる点です。看護研究では複雑な現象を紐解いていくので,基本となるデータの組み合わせ(量と量,量と質,質と質)をどのように分析するかという基本を身につけておかなければなりません。すぐに富士山には登れないということです。

 第3は,随所にわかりやすく多変量解析を理解できるような工夫がある点です。変数間の関連について,円の重なりで表わすベン図や関連図が示されており,変数間のどの部分を見ようとしているかが一目瞭然です。また,何を核として現象を解明しようとしているかを明らかにできます。

 そして,全体を通して多変量解析の意義について繰り返し強調していることが,本書の最大の特徴といえます。やみくもに統計手法を使えるようになるのではなく,「本当に見たいこと,見なくてはならないこと」を考える重要性を説いています。例えば,高齢者の転倒リスクを推定するために,レビュー文献からリスク要因を検討し,多変量解析で分析すればよいというものではない,ということです。高齢者の転倒といってもさまざまな変数が絡み合っているので,見せかけの関連である交絡や媒介,抑制したりする変数の特徴を理解した上で,適切な目的や仮説を組むことの重要性が折々に示されています。

 本書の魅力は,多変量解析についてたっぷり学べるお値打ち感だけでなく,著者の看護研究に対する熱意と指導の実績に裏打ちされた,引き込まれるような説得性のある解説にあります。読者が理解できるようにぐいぐいと力強く説明されているので,本書を読了することで,きっとあなたも多変量解析をものにできると思います。

(『看護研究』2018年4月号掲載)
研究課題に合った分析手法を選ぶために
書評者: 窪田 和巳 (横浜市立大学助教・臨床統計学)
 多変量解析は複数の値から成るデータ(多変量データ)を扱う統計手法であり,看護研究においても活用される場面が年々増えてきています。これまで,統計手法をわかりやすく解説する書籍は多数出版されてきましたが,本書は看護学分野の教育研究者として長年従事してきた著者が,統計への苦手意識を持つ看護職や大学院生を指導してきた経験も踏まえ,読者の視点に立ったさまざまな配慮のもと書き上げられている印象を受けます。

 本書においてまず特徴的なのは,著者も「序」で述べていますが「すべての共通点としての重回帰分析に注目している」点だと考えられます。重回帰分析は,看護分野のみならず,保健医療分野で最も使用される統計手法の一つですが,各項において重回帰分析の要素を盛り込んだ具体的な事例の数々は,著者の言葉を借りれば「重回帰分析の奥深さ,ダイナミックさを感じ取る」ことができる内容になっており,読み応えがあります。

 また統計解析の実例場面では,統計解析ソフトSPSSの出力場面を用いて説明している点も特徴的と言えます。近年では,SAS,JMP,STATA,Rなどさまざまな統計解析ソフトが流通するようになりましたが,現在私自身がさまざまな統計相談(コンサルテーション)を受けている経験上からも,特に看護職からのコンサルテーションではSPSSが最も活用されている印象を受けます。統計解析結果により得られる図表や,その解説が含まれている点は,読者が実際にSPSSを使用した際に,画面上のどの部分に注目すればよいか確認が容易になることからも有益と考えられます。

 その他,(1)ベン図(集合の関係を図式化)をはじめとした図式の積極的な活用により,視覚的に理解しやすい配慮がなされている,(2)計算式を最小限にとどめ,かつそのほとんどが四則演算(足し算,引き算,掛け算,割り算)程度に留めている,(3)著者がこれまで経験した大学院生とのQ&Aのコーナーを適宜設け,統計学の初学者が疑問を持ちやすい点についてその場で解決できる内容としているなど,これまで統計に対して苦手意識を持っていた読者層にとっても読みやすい配慮がなされています。

 本書はこれから看護研究に取り組む臨床看護職や看護学分野の研究者をはじめ,医師や薬剤師,理学療法士,作業療法士など,保健医療にかかわるさまざまな分野の方々にも必要とされる知識を習得することができる優れた著書だと言えます。特に,重回帰分析,分散分析,ロジスティック回帰,生存時間分析をはじめ,マルチレベル分析や構造方程式モデリングなど発展的な内容まで紹介されているため,本書を通じて,研究課題に合わせて適切な分析手法の選択ができる医療者が増えていくことを期待します。

  • 更新情報はありません。
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