身体診察 免許皆伝
目的別フィジカルの取り方 伝授します

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全国でベッドサイド教育を展開する編者らによる身体診察の決定版! 外来・病棟・在宅で、ある疾患を疑ったら次に何をすべきなのか。臨床ですぐに使える次の一手を、こだわりの写真とともに伝授。常に便利な検査機器が身近にあるとは限らない。視て、聴いて、触って、嗅いで、rule in/rule outできる徒手空拳の技を身につけよう。“最強の一番弟子”にならないか?
*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。
●動画配信中! 編者3名による本書おすすめポイント!必見です!
シリーズ ジェネラリストBOOKS
編集 平島 修 / 志水 太郎 / 和足 孝之
発行 2017年04月判型:A5頁:248
ISBN 978-4-260-03029-8
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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本書を手にしたあなたへ

あなたの周りに,「身体診察に自信を持って実践しています」という先生はいますか?
 「内視鏡検査に自信をもって実践,教育しています」という消化器内科の先生はどの病院にもよくいらっしゃると思いますが,身体診察に自信満々の先生を見つけるのは難しくありませんか.その違いは専門医システムの違いにあると思います.日本には内視鏡専門医はあっても身体診察専門医はありません.では,内視鏡専門医は患者の診察は不要なのでしょうか.もちろんその答えは「No」であって,すべての臨床医が身体診察専門医であるべきなのです.しかし残念ながら,身体診察に自信を持って教育まで行っている先生方は非常に少ないのが現状です.臨床現場に出た医学生・研修医はその理想と現実に悩まされ,専門家として臨床を積んだ先生方は身体診察の重要性と奥の深さに気付かされることがあるのではないでしょうか.

身体診察ってどの教科書で勉強したらよいですか?
 私たち編集者は全国で身体診察の教育活動を行うなかで,参加者から「どの教科書で勉強したらよいですか?」とたびたび質問を受けるのですが,この本が一番勉強しやすいと共通して言える本がなかなか見つかりませんでした.
 私たち3人は,尊敬するWilliam Osler先生の「病院は大学である」という教えを重んじ,ベッドサイドでの教育を第一と考え,これまで様々な施設でベッドサイド回診を通して身体診察の指導を行ってきましたが,そこで大変面白いことに気が付きました.ある病院では当たり前の診察手技が他の病院では誰も知らない診察手技であったり,あまり教科書に書かれていないマイナーな診察手技が,ある病院では常識のように扱われていることもありました.また,どの教科書にも書かれている診察手技のなかには,教育活動で訪れたすべての病院で全く使われておらず理解もされていないという現実もありました.既存の身体診察の教科書に足りないもの,それが「現場感覚」であることに私たちは気が付いたのです.

サイエンスという鎧とアートという剣
 ある疾患を疑った時に,どのように身体診察を通してrule in/rule outしたらよいのか.日常診療では診断までの過程でこのような問題に日々遭遇し,検査を追加するべきかわれわれの頭を悩ませます.先人の研究による感度・特異度を頼りに診断することもあります.しかし,目の前の患者を100%研究対象者に合致させることは不可能ですし,感度・特異度で診断を誤られた患者を「しょうがない」で片づける訳にはいきません.われわれに必要なのはサイエンス(エビデンス)という鎧とアートという剣です.アートとは先人達が残した身体診察へのこだわりであり,思いなのです.先人達が残した貴重な剣を錆びつかさせるのではなく磨くことが,われわれに必要なのではないでしょうか.

身体診察という無形文化財を継承しよう
 この書籍を編集するにあたり,私たちは身体診察にこだわりのある先生方を全国から探し,まずはこの書籍の企画に対する思いをぶつけました.ご賛同くださった先生方には,解剖を意識しつつ,診察所見へのこだわりを中心に記述していただいています.特に写真においては手の添え方までこだわって撮影しています.読者の先生方に明日の臨床にすぐに役立てていただくことを何よりも重視しています.また,各項の冒頭にはそれぞれの診察のポイントを表にまとめています.知識は使わなければ忘れてしまいます.現場ではこの表を活用していただき,診察の反復によってアートを磨いていただければと思います.
 執筆者の先生方にご自分の診察のこだわりを中心に書いていただくのは当初予想していた以上に大変な作業であり,大幅に変更や補足をお願いすることもあり,企画から出版まで2年もの時間を要しました.執筆してくださった先生方へこの場を借りてお礼を申し上げます.また,編集者と執筆者の間に挟まれ心身ともに苦労をおかけした医学書院の安部直子さんに深くお礼を申し上げます.
 この書籍により,1人でも多くの患者さんの笑顔が見られることを心から祈ります.


 2017年2月
 平島 修・志水太郎・和足孝之

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本書を手にしたあなたへ
編者紹介
身体診察スクリーニングマップ

第1章 まず診察の型を作りましょう 身体診察スクリーニング

第2章 目的別フィジカルの取り方
 全身状態
  ショックを疑った時の身体診察
  リンパ節腫脹がある時の身体診察
 神経系
  しびれがある時の身体診察
  意識障害がある時の身体診察
  髄膜炎を疑った時の身体診察
 循環器系
  心不全を疑った時の身体診察
  肺塞栓を疑った時の身体診察
  感染性心内膜炎を疑った時の身体診察
 呼吸器系
  肺炎を疑った時の身体診察
  閉塞性肺疾患(喘息・COPD)を疑った時の身体診察
 消化器系
  消化管出血を疑った時の身体診察
  虫垂炎を疑った時の身体診察
  腸閉塞を疑った時の身体診察
  肝硬変を疑った時の身体診察
 代謝・内分泌系
  甲状腺疾患を疑った時の身体診察
 四肢・体幹・皮膚
  膠原病を疑った時の身体診察
  皮膚・軟部組織感染症を疑った時の身体診察

第3章 あるジェネラリストの身体診察 発熱患者をみる時

索引

COLUMN
(1)Z score を用いたリンパ節生検の判断
(2)困った時は大泥棒の言葉を-Suttonの法則
(3)身体所見の流行り廃り
(4)身体診察の標準装備
(5)呼吸器疾患における視診と触診
(6)当直サバイバルで学んだこと
(7)歴代の指導医たちから学んだpearl
(8)壊死性筋膜炎の診断と治療
(9)手の診察
(10)医師の資質とは

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ベッドサイドで教え合い,知識と技術の定着を!
書評者: 藤本 卓司 (耳原総合病院救急総合診療科部長)
 新進気鋭の若い医師たちによる身体診察の本が発刊された。毎年,新年度が始まると感じることだが,新卒の初期研修医たちはほぼ例外なく将来志望する専門領域にかかわらず身体診察の基本を正しく習得しておきたい,という気持ちを強く持っている。『身体診察 免許皆伝』は総合医,家庭医,救急医など,ジェネラルな方向に進む人たちのみならず,専門領域に進む若手医師たちにもぜひ手にとってほしい本である。本書の特徴は以下のとおりである。

 第一に,カラーの写真や図が多く使われていて視覚的にたいへんわかりやすい。身体診察は自分の身体を動かして覚えるものであるから,基本形が沢山の画像で示されていることは読者にとってはありがたい。

 二つ目として,バイタルサイン,視診,聴診,触診,打診の項目が順序立てて明確に分けて記載してある。例えば呼吸器疾患は聴診というように疾患によってつい診察の方法が偏りがちになるが,視診から打診まで全て漏らさず述べられている。

 三つ目に,診察手技のちょっとしたコツや工夫が丁寧に書いてある。実際にベッドサイドで所見をとる際には,実際のコツや工夫をキーワード的な短い言葉を添えて教えてもらうことにより,急に視界が開けたような気持ちになることがある。これらのキーワードは本文中よりもむしろ写真や図の下にやや小さな文字として書かれている場合が多いので,読者はぜひ小さな文字を読み飛ばさないようにしていただきたいと思う。

 最後に,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率があまり書いていない点は,私個人としてはかえって好感を持って読むことができた。なぜなら,これらの数値は同じ疾患群を対象とした臨床研究であっても,さまざまな条件や定義の影響を受けて高くもなれば低くもなり,一概には言えない部分があるからである。疫学的な数値として知っておくことはもちろん大切であるが,実際に患者さんを目の前にしたときには,鑑別診断を頭に思い浮かべながら,この本で紹介されている重要所見をひととおり探してみる姿勢が求められると思う。

 さて,言い古された言葉かもしれないが,「教えることは学ぶこと」と言う。独りでコツコツと学ぶことももちろん大切だが,それに加えて,例えば指導医は研修医に,2年目研修医は1年目に,1年目研修医は医学生に「教えてみる」ことによって,知識と技術の理解が深まるし,効率よく自らに定着させることができる。もし本書に記されている何らかの身体診察の陽性所見に出合ったら,患者さんの同意を得た上で,ベッドサイド回診で誰かに教えてみてはどうだろうか。その際,手技を行う上でのコツや工夫について一言添えることを忘れずに試みていただきたいと思う。『身体診察 免許皆伝』はそのような互いに教え合うベッドサイド教育の契機を与えてくれる本である。
臨床の基本,アナログな身体診察のすすめ
書評者: 黒川 清 (東大名誉教授)
 誰でも健康でいたい,病気にはなりたくない。だから,患者が診察を受けに来たのには何かの理由がある。これが医師と患者とのかかわり方だ。

 患者を「診る」ことは,初診時の全身の第一印象をみて,会話し(問診),ちょっと丁寧な観察(診察)から始まる。なぜ患者が来院したのか,何が起こりつつあるのか,頭が回転し始める。外来,入院,救急などで,患者を観察し,話を聞きながら状況判断し,すぐに対応するべきことなどを検討しながら推論や仮説を設定,対応し,身体診察を行い,次の選択肢や指示を出さなくてはいけない。特に時間的制限の高い救急やインテンシブ・ケアでは,診療のプロセスが凝縮されている。これらのプロセスこそが臨床の醍醐味だ。

 身体診察は,患者との「直接」の接触の始まりだ。推論や仮説を頭に入れ,練達の医師は無意識のように順序よく,素早くポイントを押さえて身体診察を進め,「あるのか」「ないのか」を意識しながら所見をチェックする。臨床現場での優れた臨床医や指導医,患者との「実体験」は,医学生・研修医時代にとても大事な,何事にも代えられない学びだ。「座学」でいくら教科書や専門書を読んでいても学べない,臨床現場でのアナログな実体験こそが,いくらデジタル時代になっても医師には大事なプロセスなのだ。

 検査体制が整い,エコー・CT・MRなど画像検査機器の普及もあって,身体所見などの基本的な臨床の「アナログ」手技は極めておろそかになっている。ついデジタルデータ(検査)に頼りがちになるが,これは臨床現場では本末転倒なのだ。

 グローバル世界の中で,日本の医学教育の評価は必ずしも高くない。欧米などの「屋根瓦方式」「他流試合」「交ざる」臨床教育と比べ,「タテ」割りの医局講座制などは日本人の意識と組織構造の弱点である。せっかくの臨床の知的「問題解決」の楽しさを実体験として教えられていない。

 臨床研修のマッチングが導入されてから,優れた研修プログラムを提供する病院群が若者をひきつけている。臨床研修病院を「定点的回診」しながら臨床教育にかかわっている数少ない臨床教育の達人たちに聞くと,臨床医としての意欲ある若い医師たちは確実に育っている,と認識している。

 平島修先生,志水太郎先生,和足孝之先生編集による『身体診察 免許皆伝』は,臨床での診察の基本を学ぶのに極めて適した良著だ。身体診察の要点を,多くの図を使いながら,具体的にわかりやすく説明している。まずは,この本を手元において患者を「診る」。余裕のあるときにはさらに『ベイツ』1) に目を通すのもいいし,時には『サパイラ』2)などに目を通して,優れた臨床医の「患者の診かた」に仲間と薀蓄(うんちく)を傾けることは,多忙な診療の中にあっても楽しいひと時を共有できるだろう。

1)ベイツ診察法.第2版.MEDSi;2015
2)サパイラ 身体診察のアートとサイエンス.原著第4版.医学書院;2013
明確な目的を持つこと,そして温かな人間関係を築くこと
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
 臨床の極意は「自分が何をしようとしているか(≒鑑別診断)」を明確に意識・言語化することにあるといえる。その意味では本書の副題に「目的別」という言葉が含まれることが既に,この本の企画が優れていることを示しているといってよい。

 3人の編集者は,筆者が医学部を卒業した頃に生まれた若い方々であるが,いずれも筆者が病気をしたら主治医になって欲しい臨床医たちである。言い換えれば,臨床現場で何が問題となっており,それ故に何を考え,何を探せば良いのかが明確な医師たちである。自然,彼らは教え上手であり,既に臨床教育の世界でかなりの知名度を持っている。この3人の若手医師たちが中心となり編集したのが本書であり,基本的に「何をしようとしているか」を軸に構成されている。具体的には「リンパ節腫脹」「しびれ」といった臨床的な切り口に対して鑑別診断を挙げてから,「探しに行くべき身体所見」を教えている。
一部を紹介すると……
・ 「しびれの診察には,筋力と感覚の評価が必要である」(p.35)。しびれの章には冗談抜きで本当に“しびれ”た。同時に専門医と総合診療医の協力関係の重要性を考えさせられた。
・ 錐体路障害の所見例。Babinskiの自動回内徴候,第5指徴候,指折数え試験,下肢の外旋位(pp.41~43)。
・ 「左右差のない意識障害患者をみたら,まずはくも膜下出血を考えると意識しておくべき」(p.56)。
・ 下血と血便。「黒い固形便であれば,結腸から直腸内に停留していた時間が比較的長期であると思われるため,上下部両方を考慮しなければならない。便の中に赤い血液が練り込まれていれば,固形便が形作られる前の部位で出血しており,肛門側から距離があることが想定される」(p.139)。
・ 「回盲部は病気の宝庫!」回盲部周囲の炎症を起こす疾患は,虫垂炎のほか,回盲部憩室炎,Meckel憩室炎,回盲部炎(細菌性腸炎),腹膜垂炎,骨盤内炎症性疾患,異所性妊娠,卵巣出血(p.156)。
・ 関節の診察法における関節の熱感。「基本的には関節は血流が乏しい組織で,周囲の筋組織に比べて冷たいのが原則である」(p.200)。
・ 「必ず見える眼底診察」(p.220)。いろいろな流儀があると思うが,筆者も最初はこの方法が良いと思う。

 筆者自身は臨床教育の場で必ずしも多くの時間を身体診察に割くタイプではない。感染症コンサルタントというsubspecialtyとも関係するが,艦隊の示威行動よろしく多数の初学者を引き連れ,漫然とベッドサイドで過ごす時間に大きな教育効果や診療上の意義を感じないためである(何より病棟スタッフや患者に負担を強いる)。代わりに筆者は2~3名の研修医・学生と「この所見の有無だけ調べに行こう」と「目的」を明確にしてからベッドサイドに向かう。

 ちなみに「目的」が明確なだけでは人間模様渦巻くベッドサイドで血の通った身体診察の教育はできない。温かい人間関係を患者や研修医らと築き上げながら,ここまで歩んできた著者らの臨床医マインドが本書の根底に流れていることもぜひ感じ取っていただきたい。多くの読者を得ることを望みます。

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