日常診療で活用してほしい一冊
書評者:藤田 力也(昭和大名誉教授・三喜会顧問)
大腸癌の罹患患者数が胃癌を超える勢いで増加している。特に男性・女性の総計では癌死亡率のトップになって久しいが,大腸癌診療に当たっては整理しなければならない,あるいは知っておくべき問題点は多い。
大腸癌の効率的な検診はどうすべきか,受けたくない大腸内視鏡検査は本当に楽にできるのだろうか,手術...
日常診療で活用してほしい一冊
書評者:藤田 力也(昭和大名誉教授・三喜会顧問)
大腸癌の罹患患者数が胃癌を超える勢いで増加している。特に男性・女性の総計では癌死亡率のトップになって久しいが,大腸癌診療に当たっては整理しなければならない,あるいは知っておくべき問題点は多い。
大腸癌の効率的な検診はどうすべきか,受けたくない大腸内視鏡検査は本当に楽にできるのだろうか,手術は開腹が良いのか,腹腔鏡手術が良いのか,手術前に化学療法を受けるほうが良いと聞いたがそうだろうかなどなど,患者からの質問も多いこの頃である。また,血便,腹痛などの自覚症状に頼る診療では手遅れになることもしばしばである。特に右側結腸(上行結腸)では手遅れになりがちで,左側(下行結腸・S字状結腸・直腸)では症状も出やすいので,予後が良いとも言われている。
こういった疑問や質問に答えるだけでなく,例えば症例検討会カンファレンスでチョット見て知識を得るにはポケットガイドは便利である。大きい雑誌や本は持ち歩けない。これがタブレットで見ることができればさらにうれしい。
この診療ガイドは都立駒込病院の大腸診療班内科・外科の総力を挙げて,医師やナース,ケアワーカーが執筆に当たっているので,カバーする範囲が幅広いのはありがたい。ポケットガイドでこれほど守備範囲が広いのは驚異的である。特にストーマケアの写真は具体的で説得力が感じられる。
目次を見ると,解剖の基本から始まり,最後の章では社会ニーズに応えて,介護のあり方,緩和医療からチーム医療としてキャンサーボードのあり方まで記述されている。高橋・小泉両部長の高い見識がうかがえる項目立てである。
駒込病院で行われている診療が中心となっているため,病院によっては使用する薬剤や,前処置の方法,化学療法などに個性が出ているのかもしれない。
大腸検査の前処置も病院によっては異なる工夫もあるかもしれないので,ここに記載されていることが全てではないと思う。病期の記載も最近のガイドラインを取り入れて,あるいは,それを訂正して使用することが大切であろう。また,何かと最近,話題が多い術前・術後の化学療法も日進月歩の状態であり,記載漏れの薬剤もありうると思うので,最新の情報は補給・補助をしていけばよかろうと思う。評価が一定していない新しい試みは採用していないので,かえって安心してお薦めができると思う。
必要事項を要領よくまとめてあるので,ひと昔前の試験勉強を思い出した。
このポケットガイドを小生の関連病院消化器センターの内科・外科の医師・ナースメンバーに回覧したところ,ベッドサイド・症例検討会・外来・キャンサーボード,その他に新人研修にも有用と要望があった。知識の再整理にも,もちろん有用であった。
「山椒は小粒でもピリリと辛い」のたとえ通りの小冊子である。日常の診療の場で活用してほしい小冊子であると推奨したい。