腹腔鏡下胃切除術 第2版
一目でわかる術野展開とテクニック

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いまや胃癌の標準手術となった腹腔鏡下胃切除術、その究極のテクニックを図版のみで解説するビジュアルテキスト。郭清と再建における術野展開と、術者と助手の右手・左手の役割をメインに解説。近接像(術中写真)と遠景(イラスト)のデュアルな画像構成で手術の全工程を立体的に提示。写真、イラストを全面的にリニューアルした、ベストテクニックを極めるための改訂第2版。
編著 関東腹腔鏡下胃切除研究会
発行 2010年04月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-00998-0
定価 9,900円 (本体9,000円+税)

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推薦の言葉~改訂第2版刊行を祝して~(山川 達郎)/巻頭言(山口 俊晴)

推薦の言葉~改訂第2版刊行を祝して~
 腹腔鏡下手術が日本に導入されて以来,瞬く間に20年が経過しました.限られた器具を用いて手技法の確立に暗中模索していた初期の頃のことを振り返ると,最近の機器あるいは手技の進歩には,まさに隔世の感があります.

 当初は,触知感覚に乏しい鉗子を用いて行うこの内視鏡下手術は,リンパ節郭清を伴う癌の手術には用いるべきではないという考え方が一般的でありました.しかし,この鉗子の触知感の欠如の問題も,開腹術の経験から得た触知した時の感覚や臓器の変形などから得る視覚で,自ずと想定可能であることを学び,最近は,あまり意識されなくなってきました.また,最も問題視されていた斜め方向からの近接した内視鏡像下に行う鉗子操作が,開腹術では困難な部位のリンパ節郭清術をも容易とし,さらに良好な治療成績の報告もあって内視鏡外科手術は,悪性疾患に対する手術手技の一つとして,一定の評価が得られるまでに成長してきました.今や,消化器外科を志す医師の全てが,習得しなければならない手技であると考えられるに至ったと言っても過言ではありません.
 2002年に発足した関東腹腔鏡下胃切除研究会には,毎回出席させていただいて,会員各位のホットな討議を拝聴しながら,その着実な発展をつぶさに見守って参りました.本研究会発会当初は,自分自身の手術を提示して意見を述べ合い研鑽する場であると同時に,開腹術で培われたコンセンサスにどこまで迫れるかが,議論の中心でありました.しかし最近は,それを十分に凌駕して余りあるレベルに達し,議論は,如何に精緻な手術をするかに集中してきています.私は,この4年間,世界内視鏡外科学会連盟の理事を勤めてきた関係で,各国のレベルを色々と知る機会に恵まれていますが,内視鏡下胃切除術の日本の評価が高いのも,この研究会会員の活動にあることを,海外学会で幾度となく,身をもって体験しました.

 本書のもともとの特徴は,手技の過程を順を追って詳述しているところにあります.このたび,初版から4年ぶりの刊行となる改訂版では,それを追従しながらも,これまでの研究会での討論で,より洗練され,かつ定型化した手技について,より多くの鮮明な術野の写真に適切なイラストを対応させて,的確かつ端的に解説されておりますので,より理解しやすくなりました.特に,リンパ節郭清手技が,部位別に順を追って要領よく記載されていますので,術前,確認しておきたい手技を短時間に簡単にシミュレイトするにも役だちます.また各章に付されたコラムも適切で,内視鏡下胃切除術に必要なエッセンスが凝縮されています.さらに機器についても,注目されている最新の機器に限定して,その特徴や使い勝手などが重点的に紹介されていますので,さらに読者にとって読みやすく,かつ便利になったように思います.
 これからも内視鏡外科手術は進展していくことは明白です.本書は,十分な内視鏡外科の経験のない外科医には必見の教材であるばかりではなく,内視鏡下胃切除を施行している内視鏡外科医にとっても,日頃感じている問題や疑問を解く何らかの示唆を与えてくれるに違いありません.

 最後に,本書の刊行にあたり,ご尽力くださいました執筆者の方々に感謝申し上げると同時に,関東内視鏡下胃切除術研究会のますますのご発展を心より祈念申し上げます.

 2010年 早春
 帝京大学医学部名誉教授・客員教授
 世界内視鏡外科学会連盟理事
 山川 達郎


巻頭言
 日本内視鏡外科学会による第9回全国調査の結果によると,アンケート調査で集められた2007年の胃癌症例24,060例のうち,ESDなどの内視鏡治療が4,932例20%,腹腔鏡手術が4,765例20%を占め,この時点で開腹手術は14,363例60%に過ぎない.調査対象が日本内視鏡外科学会参加施設であることから,解釈には注意を要する.しかし,集積症例数からみてもほぼ全国の状況を示しているものといえよう.おそらく現時点では,ますます開腹手術の割合は減っていると予想される.
 このような状況をみると,近い将来胃癌の腹腔鏡手術はさらに広く行われるようになり,『胃癌治療ガイドライン』でも日常診療として認識される時がまもなく来ることは明らかである.そして,胃癌を取り扱う病院には,胃癌内視鏡治療(ESD),胃癌腹腔鏡手術,胃癌開腹手術,胃癌化学療法のすべてを実践できるチーム医療体制の整備が必須のものとなろう.消化器癌を取り扱う外科医には,開腹手術だけではなく腹腔鏡手術もできることが求められる時代がすぐそこに来ているのである.
 『胃癌治療ガイドライン』第2版では,胃癌の腹腔鏡手術は日常診療として認められていないことは周知の通りである.また,2010年3月の日本胃癌学会総会のコンセンサスミーティングにおける討論の中でも,『ガイドライン』第3版における位置づけは変わらなかった.もちろん,腹腔鏡手術を早期胃癌治療における日常診療としてよいという意見の割合は年々増加しており,『ガイドライン』が書き換えられる時も近いと思われる.『ガイドライン』で日常診療と位置づけられていないからといって,ただちに胃癌の腹腔鏡手術が違法になるわけではない.早期胃癌に対して,さらにそのQOLを上げるべく,胃癌腹腔鏡手術の十分な経験のある外科医の指導を受け十分な準備を整えた上で,きちんとした説明の元に行うことはなんら差し支えない.
 ただし,進行胃癌に対してむやみに適応を広げることは,厳密な臨床試験以外には慎むべきであろう.腹腔鏡手術はコストも時間もかかるし,今のところ術者に対する負担も大きいのである.QOLにおける優越性を示すことで,早期胃癌に応用されることは容認されようが,進行胃癌に対しては少なくとも遠隔成績において開腹手術に対する非劣勢,可能であれば優越性が証明されるような試験が組まれることが望ましい.そのためには,腹腔鏡手術の技術がさらに向上するとともに,一部の術者ではなく多くの外科医に広く普及することが必要であり,そのような基盤が整って初めてきちんとした臨床試験が可能になる.
 2006年2月に発刊された本書第1版の巻頭言に,「おそらく2年後には発刊される第2版が,今から待ち望まれるところである」と書いたが,4年が経過してようやく第2版が発行された.本来であれば読者の皆様に2年遅れたことをお詫びする言葉で,巻頭言を書き起こそうかと考えたが,本書の内容を見て考えを変えた.4年待った甲斐のある,充実した内容だったからである.
 改訂というと,新たにページを加えることと誤解している向きもある.確かにそれも重要だが,不要になった部分を削除することもそれに劣らず重要である.本書では,実際に不要になった部分を大胆に削除している.また,初版では章ごとにやや写真の画質に差があったが,本書では全体に画質の向上が達成され,執筆者ごとの差もなくなっている.写真は全体に枚数が増えた結果,イラストがより理解しやすくなった.イラストにも改変が加えられ,より正確でわかりやすくなっている.
 ブタの解剖の章を見て,前版からさらにわかりやすく内容が変わっており,安心した.最も変わらないと思われる部分にも目が行き届いており,本書に手抜きがないことを再確認したからである.本書の分担執筆者はいずれも,日常診療,学会,研究,指導にと,多忙を極めている外科医である.その貴重な時間を本書に十分に割いていることからも,彼らの本書に対する思い入れの強さ,情熱が感じられるではないか.本書は胃癌腹腔鏡手術の発展期(もうすでに勃興期ではない)における,最高の腹腔鏡手術の指導書であり,胃癌の腹腔鏡手術に携わる,あるいはこれから携わろうとするすべての方に,自信を持ってお勧めできる.
 最後になったが,本書の執筆者はじめ,その完成に力と情熱を注いでいただいたすべての方々に,こころからの謝意と深い敬意を表する.

 財団法人癌研究会有明病院 副院長
 消化器外科部長
 山口 俊晴

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推薦の言葉改訂~第2版刊行を祝して~
初版 推薦の言葉
巻頭言

I 郭清手技
 1.腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)
 2.神経温存幽門側胃切除
 3.腹腔鏡下幽門保存胃切除術(LAPPG)
 4.腹腔鏡下噴門側胃切除術
 5.腹腔鏡補助下胃全摘術(LATG)

II 再建手技
 1.Billroth I 法
  a.Hemi-double stapling technique
  b.デルタ吻合
 2.Roux-en Y 再建法
 3.噴門側胃切除術後再建法
  a.食道胃管側々吻合法
  b.食道残胃吻合,噴門形成術
 4.胃全摘術後再建法
  a.経口アンビル挿入法
  b.食道空腸側々吻合法(機能的端々吻合法)

III トレーニング法
 1.ステップ別術野展開法で修得する腹腔鏡下胃切除術の手技
 2.ブタの解剖とトレーニング法

索引

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多様な引き出しを持つ外科医をめざす,ベテランにこそ読んで欲しい改訂版
書評者: 笹子 三津留 (兵庫医大教授・上部消化管外科)
 腹腔鏡下の胃癌手術は早期胃癌に対するRCTが実施されている一方で,エビデンスもないまま,まさに“流行り”となっている。その反面,見よう見まねでやった手術で死の危機に瀕する合併症を生じたケースや早期に再発する症例など,担当医への不信から胃癌を専門として長年やってきた私のところにセカンドオピニオンを求めてやって来る患者・家族に時々遭遇するようになった。誰にとっても「初めての術式」の経験はあるわけで,どうすれば患者さんに迷惑をかけることなく新しい技量を身につけていけるかを考えることは今後ますます重要な課題といえる。

 本書は,どうすれば開腹胃癌手術に一定水準以上の技量と経験を持つ人が鏡視下の胃切除を安全かつ有効に実施できるようになるか,を念頭に書かれた書物と筆者は考えたい。胃癌手術の初心者は本書よりも,むしろ同じ医学書院の『イラストレイテッド外科手術(第3版)』を読むべきである。本書は開腹に限っていた胃癌手術を鏡視下手術に広げたい人向けである。いや,それ以上に自分のやり方では何とかそれなりの鏡視下手術を実施できる実力をつけられた先生にぜひ読んでいただきたい。

 本書は同じタイトルの初版から4年を経て出版されている。この間に著者の先生方が手術においてどれだけの工夫をして,さまざまな体験をして新たな境地に達しているかを窺い知ることができる。キーワードは多様性である。胃癌に対する胃切除は全体の流れとともに郭清の場面場面の手技・技量・こつといったポイントが一つに繋がって初めて達成される。本書は複数の筆者が執筆を担当することの利点を最大限に生かし,さまざまな工夫を読むことができ,自分にあったやり方や考え方を取り入れることができる内容となっている。引き出しを多く持つ外科医はあらゆる局面に強くなれる。手術の各ポイントでは,初版に比べて鮮明度が向上した写真を4枚並べて各手技の連続的な流れを示し読者の理解を助けるなど,随所に改善された本書は専門医試験を受けるレベルに達しようとする外科医にも必須の書と思われる。
細かな解剖や手技だけでなく,助手の右手・左手の役割まで具体的に示した実戦的手術書
書評者: 寺島 雅典 (静岡県立静岡がんセンター胃外科部長)
 腹腔鏡下胃切除術が平成14年に保険収載されて以来,症例数は年々増加傾向にある。先日実施された日本胃癌学会のガイドラインに関するコンセンサスミーティングのアンケートでは,胃癌手術を実施している施設の実に90%以上が腹腔鏡下胃切除術を既に実施しているか,近い将来に導入予定であるという結果であった。現在わが国で年間10,000例以上が腹腔鏡下胃切除術を受けていると推定されている。

 また,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では腹腔鏡下胃切除術の安全性を検証する臨床第II相試験を実施し,安全性に問題がないことが確認されたため臨床第III相試験に移行している。このように腹腔鏡下胃切除術は実地臨床としても臨床試験としても急速な発展を遂げている。しかし,実際に腹腔鏡下手術で多数の症例をこなしている施設はまだ少なく,多くの施設ではいまだ本格的な導入には至っていない。

 その大きな理由としては,上腹部の解剖の複雑性に起因する手技の繁雑さや,切除後の再建術式の多様性などにより,腹腔鏡下胃切除術では比較的高度な手術手技が必要とされることが挙げられる。腹腔鏡下胃切除を円滑に導入するためには,上腹部の解剖を熟知することと同時に,腹腔鏡下手術ならではのポイント,すなわちスコープを通して得られる術野の見え方,助手の効果的な術野の見せ方などについて習熟する必要がある。これまで,いくつかの腹腔鏡下胃切除術に関する手術書が存在したが,実際の術野の見え方や見せ方について記述したものはほとんど存在しない。これは学会のビデオなどを見ていても同様であり,実際に腹腔鏡下胃切除を導入しようとする際に大きな壁に突き当たることが多い。

 今回4年ぶりに大幅に改訂された本書は,手術の展開に応じた場面ごとに,近接した写真と遠景のイラストが提示されており,細かな解剖や手技を学ぶだけでなく,助手の右手,左手が具体的にどういった役割を果たさなければならないのかについても一元的に知ることができる極めて実戦的な手術書である。執筆陣はわが国(もちろん世界)の腹腔鏡下胃切除術の第一人者たちであり,これから腹腔鏡下胃切除を始めようと考えている医師ばかりでなく,ある程度手術に習熟した医師にとっても非常に有用である。構成は郭清手技と再建手技,トレーニング法に分かれており,それぞれの術式ごとに記載されているので,自分の知りたい手技を確認する際にも容易に参照することが可能である。まさに,現時点での腹腔鏡下胃切除術の標準手術手技集といえる内容である。

 また,本文とは別にコラムとして各著者の経験談やこだわり,豆知識なども掲載されており,普段学会などでもあまり聞くことができない情報を収集できて大変興味深い。

 ともすればこういった先進的手術の分野では個人の技術の競合に陥りがちであるが,このような標準的手術手技の啓蒙に大きな貢献を果たしている関東腹腔鏡下胃切除研究会に敬意を表したい。

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