医学界新聞

 

【座談会】

ポートフォリオ評価を臨床研修に活かす
自己評価能力を育み,成長し続けるために

田中 克之氏
(聖マリアンナ医科大学臨床 研修センター副センター長)
鈴木 敏恵氏
(千葉大学教育学部特命教授 島根県立看護短期大学客員教授)
朔 義亮氏=司会
(聖マリア病院 健康科学センター診療部長)
藤沼 康樹氏
(日本生活協同組合連合会医療部会 家庭医療学開発センター長)


 医師臨床研修において「評価」が関心事となるにつれ,医師として重要なコミュニケーション能力や問題解決能力,あるいは「人格の涵養」などは,従来の手法では評価が難しいことが指摘されるようになった。そこで注目されるのが,学校教育や海外の医学教育で活用されている「ポートフォリオ」だ。本座談会では,医療現場での実践を踏まえ,臨床研修におけるポートフォリオ評価の意義を検証する。

ポートフォリオ(portfolio)
 紙ばさみ,書類鞄の意味から転じ,建築家やジャーナリストが持つ代表作品歴の意味。情報を一元化することによってテストなどで数値化できない成長を評価できるとして,現在教育界や医学界で広がっている。医師卒後研修においては例えば,教育目標や学習計画を定め,学びや達成度を証明する資料(文書,写真など)を研修医自身が収集し,クリアファイルに保存。学んだことに関する省察・ふりかえりを研修医-指導医間で行う。


 医師臨床研修が必修化され,修了一期生が今春誕生しました。いまは指導医側が専門医集団なので,なかなか消化しきれていない部分もあります。しかしいずれは,修了生が本当に臨床研修制度の謳う目標を達成した医師なのかどうか,質が問われる時代になると思います。そこで,「評価」のあり方やそのフィードバックが次の焦点となってきます。

 今回は,「ポートフォリオ」を用いた教育・評価法を推進されている鈴木先生,それから実際に医療現場でポートフォリオ評価を導入されている藤沼先生と田中先生にお話をお聞きしたいと思います。

情報を一元化すると価値が生まれる

 学校教育ではポートフォリオはすでに浸透しているそうですが,医療現場では知らない人もまだ多いですね。

鈴木 ポートフォリオとは,端的にいえば,情報の一元化です。「情報を一元化し俯瞰すると,そこに“価値”ある何かが見えてくる」,これに尽きると思います。

 2002年度から,学校教育の場で「総合的な学習の時間」がスタートしました。国語や算数,理科といった教科だけじゃなく,これからはコンピテンシー(competency),知を生かす力,応用力が必要だとなったわけです。知識のみを評価するのならば,従来のテストで十分かもしれません。でも,その知識を行動に変える能力を総合評価したいときにはそれでは限界があって,ポートフォリオが活きてきます。医学もやはり細分化されていますが,「総合的な能力がこれからは重要である」という点では,同じ認識だと思います。

 歴史を見る,アルバムのような感じでポートフォリオを捉えていいですか?

鈴木 似ていますが,少し違います。アルバムとポートフォリオの決定的な違いは,それを未来に活かす意図があるかどうかです。例えば日々の仕事をやりっ放しにせず,客観視しながら遂行するといった,「自分や事態を俯瞰する力」をポートフォリオは引き出します。もちろん「1年目のときには,こんなに“患者”“患者”って書いていたのに,4年目になったら,ひと言も出てこない」など,医師として人間としての原点に立ち戻らせてくれる効果もあります。だからこそ,初期研修1年目からポートフォリオを使い始めることを私は提唱しているのです。

 私なりに考えてみますと,ポートフォリオをつくって周囲からフィードバックを受ける。そこから自分の動機づけを強化して,次のステップに生かす。それがポートフォリオ評価ということですね。

鈴木 はい。ポートフォリオは成長するための自己評価,他者評価をふっくらと立体的に叶えます。だから,教育や医学などの分野の人間育成に非常に効果的なのです。

研修医の“つまずき”をフォロー

 藤沼先生は,臨床研修でポートフォリオ評価をされていますね。

藤沼 4年前に始めましたが,特にポートフォリオが有効だと感じるのは,医者になりたての段階です。というのも,学生からプロフェッショナルになるときにつまずく研修医がすごく多いのですね。その間,1日,あるいは1か月を振り返る時間を保障して,みんなでディスカッションしながら,最終的には凝縮ポートフォリオ(元ポートフォリオから重要なことを抽出し再構築したもの)を発表してもらいました。そのプロセスが,研修医にとってすごくよかったようです。研修医でメンタル・プロブレムを抱える人は多くて,それをかなり避けられたという印象があります。

鈴木 そんなにいるのですか?

 「初期研修医の約4割が抑うつ状態」という調査結果(筑波大・前野哲博氏による文科省科研費研究「卒後初期研修における研修医のストレス」)もあります。

藤沼 ポートフォリオ構築の最初の段階で「どんな医者になりたいか」を書かせてみると,これが実に面白いんですよね。あとで本人が読むと「こんなこと思ってたんだ」という意外な驚きがあったり。

 いまの臨床研修はコマ切れのローテーションですから,技術的には,昔のストレート研修に近いスタイルのほうがよかったという話もよく耳にします。だけど,この2年間,臨床研修にポートフォリオを用いてきて,プロフェッショナリズムや自分を振り返る力などは以前より明らかによくなっています。医学教育の究極の目標が「生涯学習者を育てる」であるということを考えると,手技的な達成度よりもそっちのほうが大事ではないかと,僕は思っています。

ポートフォリオ評価で修了判定

 田中先生はポートフォリオの導入や効果に関していかがでしたか。

田中 研修制度が必修化されて,当初は到達目標ができたことを単純に喜びました。このゴールを達成するにはどうするかということで,やはりEPOC(Evaluation system of Postgraduate Clinical training),つまりチェックリスト的なものを考えました。ところが,臨床研修の基本理念として「医師としての人格の涵養」があって,こういったことはチェックリストでは評価が難しいんですね。

 医学生に「将来どんな医者になりたいか」と聞いても,「いい医者になりたい」「患者さんに優しい医者になりたい」という表現が多い。それに対して,指導医はどんな評価,フィードバックができているか,という課題に気がついたわけです。そこから鈴木先生の本を読んでポートフォリオのことを勉強し始めて,藤沼先生にもご相談しながら試行錯誤を続けてきました。

 現在は,研修修了判定にポートフォリオを用いていて,募集要項にもそのことを明記しています。研修医は最初にキャリアデザインを描き,彼らが自分で研修スケジュールを立てます。60人いたら,60通りの研修スケジュールがあります。それから各科をまわり,達成できていない目標は次に繰り越されますから,後半の研修診療科も当然変わります。2年で不十分ならば,研修期間を延長します。「研修修了は医師の品質保証」ですから,修了判定は厳しくして,実は3人落としました。評価者と落とした研修医で集まって,なぜ落としたかも説明しました。

鈴木 とても価値あるポートフォリオの導入ですね。あと,落とした説明をすることも大事ですよね。

田中 逆に,褒めることもしようと思ったので,「ベスト・オブ・ポートフォリオ」も表彰しました。今年の新入生がそれを見て感心していましたし,やってきた方向性は正しかったと思います。

形成的評価
学習者中心の評価のために

 評価にも,総括的評価と形成的評価の2つがありますね。総括的評価というのは,合格か不合格か,判定や進級を目的とした評価で「この人はこれを達成していないので不合格」というふうに評価します。形成的評価は,そのつどフィードバックして,「君はここができていないから,次はこうしよう」と指導を加えることによって,研修内容の改善を促すことを目的にしています。

 私が非常に大事だと思うのは形成的評価で,ポートフォリオはその形成的評価の有力な手段ではなかろうかと思います。日本には,初等教育の段階からずっと総括的評価しかないんですね。

鈴木 これまでは,決められた問いかけに対し暗記したもので正解を答える。過去に済んだことの評価と言えます。でも「未来にどれだけ成長できるか」に評価を活かすほうがずっと大切ですね。

 お互いにフィードバックを受けあって,「自分はどうあるべきか」と考えるような意識が教育現場にない。そういう世界で育ってきた人間が医師になるわけで,特に医学部はその傾向が顕著です。

鈴木 これまでの学校の教育やテストは,正解を答えられる人だけがよいとされ合格できました。「結果」から「マイナス」を探すとも言えます。でも世の中に出たら正解のないことだらけで,最終的にはギリギリの判断でベターな決断をしなければならない。そのプロセスから逃げず真剣に対座する意志こそ何より大事でしょう。判断しようとするWill=前向きな力,そこに価値を持たせ評価すべきです。

 ポートフォリオ評価は結果ではなく「プロセス」から「プラス」を探します。そしてまずは自己評価です。そのうえで指導医などのプロ評価。それが成長するために最も有効だからです。

藤沼 そもそも,いままで指導医は研修医をきちんと評価していない(笑)。「君,明日から1人で当直してみたら?」というのが評価で,親方集団の許可を得て弟子入りする文化です。逆に言うと,自分で自分のことを評価する力がついていない。だから,そういう点で,自己評価能力と,そこから敷衍して生涯学習のつながりができたらいいなと思っています。

 僕が鈴木先生の本を読んでいちばん感じるのは,「学習者中心」なんですよ。教師や指導医はあくまでも援助者。学習者中心は教育の大きな展開の1つですし,ポートフォリオはその象徴みたいなものだと思っています。

ポートフォリオ提出が卒業条件のダンディ大学

 藤沼先生はダンディ大学大学院(英国)で医学教育を学ばれていますが,海外におけるポートフォリオの現状はどうでしょうか。

藤沼 ヨーロッパの医学部は定員が多くて,1学年あたり200人はざらです。いま,ポートフォリオ評価で有名なのは,英国のダンディ大学とオランダのマーストリヒト大学ですが,どちらも日本とは違って学生の数が多くて,たくさんの医学生を適切に評価するためにはどうするかということで,評価に関しての検討がかなり進んでいます。

 簡単にその特徴を言えば,自習をかなり重視しています。講義で知識を詰め込むよりも,PBL(Problem Based Learning:問題基盤型学習)やチュートリアル(Tutorial)という手法を使ったグループ学習,自己学習が中心です。自分で自分の課題を把握して学び,教官はそれを援助する。そして,学びの成果を証明しないと,評価されない。ダンディ大学では,その学びの集積をファイルして,ポートフォリオとして提出することが卒業の条件になっているようです。

生涯学習者が最高の目標
コミュニケーション能力重視

鈴木 卒業できるかどうかは,どうやって決まるんですか?

藤沼 日本では,医学部の卒業が何を保証するのかが明確ではないですよね。医師国家試験に合格しないと医師ではないですから。それに対して英国などでは大学ごとに卒業時に獲得できるコンピテンシーの一覧があって,学生は自らがそこに到達していることを証明しなければいけないんです。

鈴木 最後に学習者が学びのアウトカムをポートフォリオで提出する?

藤沼 そうです。学生は学びの結果として,目標に到達したことを自分で証明するために,試験の成績もポートフォリオに入れます。特に重視されるのは,現時点での課題を自分で表現することです。何が自分に欠けているか,医師になったあとでその点をどういう計画で補っていくかを示さないと卒業できない。

鈴木 面白いですね。「自分は完璧にできた」なんてあり得ない,という厳粛な事実を認めることは,生涯の謙虚な心につながります。

藤沼 Lifelong Learner,生涯学習者になることが最高の目標なのです。そして,そのためにポートフォリオは有効だという話になってくる。教わるというよりも,自分で学ばなければいけないので,教育のコンセプト自体が違うんですね。

鈴木 評価の観点からも,ポートフォリオにコンピテンシーを入れることが大事だと私は思っています。医師の場合,どういうコンピテンシーが挙がるのですか?

藤沼 コミュニケーション能力がかなり重視されています。これは世界中の大学の卒業目標に入っていますね。

鈴木 それは,「目を見てきちんと話せるか」とかいう表層的なスキルにとどまりませんね?

藤沼 違います。医療者としてのコミュニケーション能力であって,倫理的なものや,プロフェッショナリズムが入ります。それをもとにカリキュラムがつくられている感じです。

 卒後研修ではどうでしょうか?

藤沼 いまいちばん変化しているのはたぶん英国だと思いますが,今年8月から英国も2年間の卒後研修を必修化しました。これはもう全面的にポートフォリオ評価が導入されています。やはり修了時のコンピテンシーがあって,それに対応していろいろな領域の研修を入れていくというスタイルです。それから米国は,専門医養成(レジデンシープログラム)の段階でポートフォリオが注目されていますが,実際に使い始めたのはここ2-3年だと思います。

対話とポートフォリオは不可分

 評価者の質も関係してきますが,そのトレーニングはどうですか?

藤沼 かなりやっています。例えば,ダンディではポートフォリオ評価の時期になると,教育担当者は他の仕事をほとんどしない。大きなバッグにポートフォリオをたくさん持ち歩いているようです(笑)。

 そして,評価者は1人ではなく,triangulationと言って,必ず3人ぐらいで読みます。そこで,評価者同士がディスカッションする。まずはそれぞれが評価して,「なぜ僕はA+なのに,君はB-なんだ?」とつき合わせていくんです。そうやって評価者間で一定の基準をつくっていきます。あと,評価の際は面接を重視します。卒業面接では,総括ポートフォリオをもとに,複数の面接官が30分-1時間ぐらい面接するんです。

 そこで何を聞くんですか?

藤沼 主として,「あなたの課題は何か」ということと,「ここ数年であなたが自分で感じている課題を,どういう計画で解決しますか」という話を,まあ未来志向でやるようです。

鈴木 やはり,対話とポートフォリオは不可分ですね。

藤沼 提出して点数が返ってきて終わるものじゃないんですね。

ポートフォリオはウソをつかない

田中 研修医にアンケートを取ると,7割はポートフォリオが嫌だと答えました。ただ,アンケートにはそう答えるんですけど,卒後3年目の彼らの実力を見ると,やっぱり違います。

鈴木 どう違います?

田中 例えば,以前は,夜間急患の場所で挨拶する研修医は少なかったんですね。いまは「今日お世話になる○○です。よろしくお願いします」と,患者さんにもコメディカルにも挨拶して,自分で伝票を出しに行くことが自然とできる。

鈴木 それがさっきの,“医師としての人格”の伸びであり表れなんですね。

藤沼 実際,聖マリアンナ出身の研修医はすごく評判がいいし,外部からも関心を持たれていますよ。

 カルテなどの文章を書いたり,資料を集めたりするときの几帳面さが養われていない医者がとても多いですね。この点に関しても,ポートフォリオは教育的効果があるんじゃないかと思います。

鈴木 特に,インターネットのコピー&ペーストがこれだけ簡単だと……。

田中 初期研修で落とした3人は,ポートフォリオの中身がコピー&ペーストであとは「サマリー参照」と書いてきたので落としました。

鈴木 私も,千葉大の学生をポートフォリオで評価していますが,すぐわかります。ポートフォリオは嘘をつけないんですよ(笑)。

藤沼 つけない。あれはカッコつけられないんですよ,不思議と(笑)。

 それから,指導医講習会などで,いろいろな病院長に「どういう医者を採りたいですか?」と聞くんですが,皆さん恐ろしいほどに同じことを言います。まず,人柄。次に,「チームの皆とうまくやっていける人」。それと,「何かあったらとりあえず対処できる力」。自分がわからないことでも,とにかく何らかの対処ができる。それからあとは,基本的なコミュニケーション能力。この4つです。

鈴木 すぐ使えるスキルは関係ない?

藤沼 関係ない。あとは,向上心です。向上心があれば,いまの時点で手技が下手でも採ると言うんです。それは本音で,本当に採りたいのは,そういう医者なんですね。逆に,どんなに即戦力として有能でも,チームとうまくいかないとか,独りよがりで向上心がない人は採らないと言いますよ。これはポートフォリオっぽい考え方かなと。

 ポートフォリオというのは,知識や手技だけでなく,態度や行動も見えると?

藤沼 両方が一緒に,スパイラルでついてくる感じです。

鈴木 自ら知を獲得する意志を持ち,成長し続けることができるかどうかですね。

藤沼 それで,「向上心があるというのは,どうやったら先生たちは判断できますか」と聞くと,勉強の成果とか,カンファレンスで作った資料とかがあればわかると言います。それはまさしくポートフォリオです。要するに,採用試験のときに何を持ってこさせると助かるかというと,それはポートフォリオでしょ,という話になるんです。

鈴木 向上心のある人のポートフォリオは,メモなどが資料に追記されています。また実際ポートフォリオが厚いですね。

聖マリアンナ医大のポートフォリオ
 その日学んだこと,失敗したこと,疑問点,自己評価,課題などを書き込み,指導医がサインする。評価の概要は臨床研修センターのHPに詳しい。
 URL=http://www.marianna-u.ac.jp/rinsho-kenshu/index.html

ドロップアウトする研修医を立ちなおらせるもの

 うつ状態や適応障害でドロップアウトする研修医が出てくると,指導医はもとの道に戻すのにかなり腐心します。どう対応されていますか。

田中 抑うつ的になってドロップアウトしてしまう研修医は,だいぶ減ったと思います。メンタルヘルスケアのシステムがあって,そうした研修医は事前に把握できるようになりました。

鈴木 事前にどうやって把握するのですか?

田中 面接です。ポートフォリオ作成で集まる際にやっています。注意信号としては,「自分は医者に向いていない」というようなキーワードが出るようになったら,報告するシステムにしました。そうやってピックアップするようになったので,ここ3年ほどは早めに対応できています。

 僕のところでは,研修を始めて1週間ぐらいで「医者をやめたい」と言い出した研修医がいて,病院に来るとパニックになるんですね。端で見ていると,できるんですよ。ところが,ちょっとしたことができないと非常に気になって,仕事が手につかない。学生時代からエリートだったので,そのギャップで落ち込むんですね。

藤沼 なるほど。

 結局1か月休ませましたが,復帰したらまた駄目だった。病棟でスタッフに怒られるのが恐いと。そこで,インターネット上のブログで日記をつけさせました。僕もブログを始めて,毎日更新して,お互いに書き込みするようになったんです。学生の頃の話が書いてあれば,「すごいね。そのときどうしたの?」と僕がコメントを書き込む。それから,「IVHで失敗して気を落とした」とあれば,「俺はそれを何回やったことか」と(笑)。すると面白いもので,他の病院の研修医までもが書き込むんです。

鈴木 その研修医は嬉しくて何回も読み返したと思います。

 そうやって気持ちが少しずつ楽になったみたいで,いまは完全復帰しました。「自分ひとりじゃない」という感覚を味わうのと,自分の歴史をちゃんと見てくれているという,そういう感覚を得たと思うんですね。これも一種のポートフォリオなのかなと。

鈴木 見ていてくれるって愛ですよね! 「人は愛するモノを見る」とともに,「見るモノを愛する」という逆の真実もあります。ポートフォリオを見ることで自分を大切にしたくなります。自分を大切にできない人に人を大切にすることはできません。他の人からも眼差しを注がれたらもう1回自分を肯定することができ,自尊感情が湧きます。それは意志を持って生きることにもつながります。

 ポートフォリオが医師育成に活きるかどうかは評価観にかかっています。評価とは査定でなく“価値を見いだすこと”,もっとよくなるための“励ましのエナジー”なんです。忙しい臨床現場に翻弄され“やりっぱなし”の研修になっては,そこにある価値ある“知”が見えません。ぜひポートフォリオで俯瞰しつつ,人間として成長する臨床研修をスタートしてほしいと願っています。

 本日はありがとうございました。

Useful Sites
 鈴木敏恵氏の「未来教育」HP
 URL=http://www02.so-net.ne.jp/~s-toshie
 その他,弊紙2544号2563号に関連記事。


藤沼康樹氏
1983年新潟大卒。93年より生協浮間診療所所長。2005年より現職。現在英国ダンディー大Centre for Medical Educationにおいて,遠隔教育プログラムのStudy Fellowとして学んでいる。日本医学教育学会評議員,日本家庭医療学会理事。日本の卒後研修におけるポートフォリオ評価導入の先駆者。著書に『決定版!スグに使える臨床研修指南の21原則』(医学書院)など。

田中克之氏
1988年聖マリアンナ医大卒。同大にて脳神経外科医として勤務。2003年4月より臨床研修センター指導医を兼務。現在プログラム責任者。学内外の臨床指導医ワークショップでタスクフォースとして指導医を養成。大学において早くからポートフォリオを評価に採用。

朔義亮氏
1983年九大卒。99年より研修プログラム作成に携わる。臨床研修義務化に伴い「プログラム責任者」として企画管理。現場での研修医の直接指導のかたわら,指導医研修会や厚労省研究班で指導医ガイドライン作成に携わる。国立保健医療科学院客員研究員を兼任。

鈴木敏恵氏
21世紀の「意志ある学び/未来教育プロジェクト学習」やポートフォリオ評価を構想し,自らも実践する。ここ数年は学校関係ばかりでなく,医師の臨床研修アドバイザー・コーチング,看護師人材育成や目標管理の指導などの活動を全国で展開。著書に『未来教育パーソナルポートフォリオ』(学研),『ポートフォリオ評価とコーチング手法――臨床研修・臨床実習の成功戦略!』(医学書院)など。