第2672号 2006年2月27日


古(いにしえ)の身体技法をヒントに新しい介護技術を提案する

古武術介護入門
kobujutsukaigo-nyumon

【第9回】
古武術介護Q&A

岡田慎一郎(介護福祉士・介護支援専門員)


前回よりつづく

 前回でひとまず技術の原理は終了となりました。「古武術介護入門」というタイトルからして型破りな企画でしたが,思わぬ反響もいただくことができました。今回は皆さんから寄せられた,ご質問,ご意見について,一緒に考えていきたいと思います。

Q 「古武術介護」は古武術,またはスポーツの経験がないと修得するのは難しいですか?

岡田 私自身,ちゃんとした古武術ができるわけではありません。連載の中でご紹介した「武術遊び」のように,私は「タネ」を知っていればすぐにできるレベルのものしかできません。また,小中高通して体育の成績は2か3,マラソン大会で学年ビリになるくらいの運動神経です。

 結論から言いますと,古武術やスポーツが得意な人のほうが,上達が早いということはあるかもしれません。運動神経というより,身体を日常的に動かしている人は身体感覚が優れている方が多いと思われるからです。

 しかし一方で,技術によってはスポーツが得意な方よりも,あまり運動に自信がない方のほうがうまくいくケースも少なくありません。これはおそらく,スポーツが得意な方は筋力を主体にした身体の動かし方がしっかりと身に付いているためにそこから脱却しにくいのに対し,運動が得意でない方は筋力がない分,筋力に頼らない技術を修得しやすいということがあるのでしょう。

 技術を練習する過程でも,利き手でない手を使うとうまくいくことがあります。利き手でないほうの手は,うまく筋力を使いこなせないため,かえって無駄な力が入らず,結果として技術がうまくいくということが起きるのだと思います。

Q どのくらいの期間練習すればできるようになりますか?

岡田 「できる」というのがどういう状態を指すのかが問題ですね。例えば私は,自分では「できる」と感じることはあまりありません。もちろん,武術的な身体の動かし方と出会ったばかりの,2年前の自分と比べたら進歩はあると思います。しかし,何をもって「できる」と考えるのかという基準が変わるので,その都度「もう少し上手くなりたいな」と思っているというのが正直なところなのです。

 おそらく,質問された方は技術的な変化を実感できるのにどれくらいの時間が必要なのかということを聞きたいのだと思いますが,これには大きな個人差があります。センスがある方なら講習会に参加しただけでもかなりできてしまいますし,何度繰り返しても,なかなか進歩がないという方もいらっしゃいます。

 私は断然後者の部類だと思いますが,それでも約半年くらいで身体の感覚,技術が変わってきたことを実感しました。親鳥が卵を温めるように古武術介護のことをいつも考えていたら,ある日ひな鳥が殻を破っていた。「少しできたかな」と思えた時はそんな気持ちでした。

 具体的な時間はそれぞれですが,苦節何年ということはないかと思います。また,この連載を参考にしていただければ,少なくとも私よりはスムーズに取り組むことができるのではないかな,と思います。技術により難易度に差がありますが,比較的簡単なものであればこの連載を見ていただいただけでも可能かと思います。

 いずれにしても,取り組みを始めると「できる」「できるようになる」の意味そのものが,皆さんの中で変化してきます。古武術介護の一番の楽しさは,そのように考え方や捉え方が変わってくることですので,まずは身体を動かして,体験していただくことをお勧めします。あまり「できる・できない」にこだわった上昇志向でなく,楽しみながら取り組んでいただければと思います。

Q 「古武術介護」は介護者の力の出し方に重点が置かれ,被介護者の動きに合わせるという視点が不足しているように思えます。

岡田 片麻痺に代表される,ある程度動ける方に対する一部介助については,多くの先生がさまざまな方法を研究・発表されており,被介護者の残存機能を活かした介護技術も豊富です。しかし,被介護者からの動きがほとんど期待できない,全介護状態の方に対する介護技術はあまり見あたりません。このため利用者の重症化が進んだ介護の現場では,全介護状態の方に一部介助の方法をそのまま使用し,結果として介護者が体を痛めるといったケースが少なくないと感じています。

 「古武術介護」はこういった問題意識から取り組んだという経緯があるため,「被介護者の動きに合わせる」という視点は,他の介護技術の解説に比べて少なかったかもしれません。ただ,根本的な「身体の使い方」を考えていますので,介護者の身体の使い方といっても,そこには被介護者の身体との関係も含まれていると考えています。

 また,「古武術介護」は,既存の技術と対立したり,替わろうとするものではなく,共生する技術と考えています。これまでの技術にプラスしていただくことで,介護者・被介護者双方によりよい介護技術の創造につながればと思います。

Q 感覚を大事にしろとのことですが,それではスタッフ全員が統一した方法をとることができず,利用者さんにも不安を与えてしまうのではないでしょうか?

岡田 方法を統一することはできても,感覚を統一することはできません。例えば「ピーマンは美味しいと感じろ」と命令されたら,苦手な人は困惑してしまいますよね(笑)。古武術介護でも,大事なのは1人ひとりが自分の感覚と向き合い,結果としてそれが技術に活かされることだと思います。その意味では,スタッフ全員で統一することは難しいかもしれません。

 逆に言えば,いかに統一された技術・方法であっても,1人ひとりは,違った感覚でその技術に取り組まれているのではないか,とも思います。ですから,施設等で取り組まれる場合には,統一された技術を1人ひとりがいかに質的に転換していくのか,そのヒントとして活用していただくのがよいかと思います。

Q 「添え立ち」(第7回)の練習中に腰を痛めてしまいました。実際の介護技術として使うのには危険ではないでしょうか?

岡田 ある小学校が林間学校でカレー作りを企画したところ,「包丁を使うのは危険だ」という指摘があったため,カット野菜が配られ,それを入れるだけのカレーを作ることになったということがあったそうです。

 この話を聞き,多くの方は違和感を持ったのではないでしょうか。包丁の持つ「危険性」という一面のみに過剰に反応した対応には,不健全な印象を受けます。確かに誤った使い方をすれば刃物は危険です。しかし,リスクコントロールをしっかり行えば,便利な道具であり,林間学校ではそうしたことこそ,学ぶべきだったのではないか,と思うのです。

 また最近,ある身体障害者の方に「介護にはプロと呼べる技術がないね」と厳しい指摘を受けたこともありました。「介護をしているうちに皆,体を壊してしまう。料理人であれば,包丁で怪我ばかりしてるようなものだ」というのです。私は返す言葉もありませんでした。

 古武術介護に限ったことではありませんが,「危険性」という一面だけに注目するのではなく,それがもたらす利益をも吟味し,コントロールの方法を十分に訓練し,実践に移していくことが,プロとして大切なのではないかと思います。

 講習会でも少ない人数ではありますが,腰を痛める方がいらっしゃいます。「自分はできるはずだ」「さっき上手くいったから」といった心理から無理をされるケースが多いようです。添え立ちであれば,「筋力に負担がかかったらすぐにやめる」ということを守れば,怪我をすることはありません。「小さなプライド」は忘れて,決して身体に無理をかけないように取り組んでいただければと思います。

 素朴な疑問,鋭いご意見,あらためて,ありがとうございました。「古武術介護」は完成された技術でなく,現在進行形で進化・変化を続けています。「いにしえの身体技法」は現代人にとっては新たな発見,発想の転換のヒントにあふれています。最終回では,介護分野を飛び越えて展開を見せつつある「古武術介護」の今後を考えていきたいと思います。

次回につづく

岡田慎一郎氏講習会情報
朝日カルチャーセンター「古武術に学ぶ介護術」

新宿教室(tel:03-3344-1945)
 2006年3月11日(土)15:30-17:30
 各1回 会員2,940円/一般3,460円

神戸教室(tel:078-321-5222)
 2006年3月18日(土)(1)13:00-15:00,(2)15:30-17:30
 各1回 会員3,150円/一般3,780円

 ※朝日カルチャーセンターの各講座への問い合わせ,お申し込みは各教室に直接お問い合わせください。


岡田慎一郎氏プロフィール
介護福祉士,介護支援専門員。古武術の身体操法を応用した介護術を研究。岡田慎一郎氏への質問・講演依頼等は岡田慎一郎氏公式サイト(http://shinichiro-okada.com/)まで。
 

本連載の内容をまとめ,新たにDVD映像(60分)を加えたDVDブック刊行!

古武術介護入門[DVD付]
古の身体技法をヒントに新しい身体介助法を提案する
岡田慎一郎

・判型B5 頁128 定価 3,150円(本体3,000円+税5%)
[ISBN4-260-00295-3]


目次

(「sample」をクリックすると動画の一部がご覧になれます)


推薦の序(甲野善紀)
第1章 古武術介護の考え方
第2章 古武術介護の6つの原理13
第3章 現場で使える古武術介護
sample:ベッド上での上体起こし~端座位まで
第4章 Q&A 古武術介護でできること,できないこと
第5章 現在は常に通過点
 


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【関連情報】
●岡田慎一郎氏の最新刊 『DVD+BOOK 古武術介護実践編』 (動画配信中!)
●岡田慎一郎氏が最新技術を紹介する「こんな方法もあるかもしれない――介護発,武術経由の身体論」は,『看護学雑誌』で2008年1月号(Vol.72 No.1)より2010年3月号(Vol.74 No.3)まで連載。電子ジャーナル「MedicalFinder」からも検索・閲覧・購入できます。
●岡田慎一郎氏の公式サイトは こちら です。