医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


わが国での結核診療への再認識に役立つ

《米国胸部学会ガイドライン》
結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン
第2版

American Thoracic Society 著
泉 孝英 監訳

《評 者》田中 善紹(田中医院院長/京都市結核診査協議会委員)

 結核は昔を懐かしんで語る病気でもなく,また,現在臨床の場でめったに遭遇しない病気でもない。結核では,ごく普通の人がごく普通の病気であるカゼ症状を呈して来院してくることが多く,一般臨床家としてはたえず結核という病気を頭の中に入れて診療をしていなければならない。

 本書は呼吸器専門家だけでなく,結核についてまとまって勉強する機会が少ない一般臨床医や研修医諸兄にとっても格好のテキストである。是非,診療所の机の上に常備しておきたい。

 本書は2002年4月に刊行された「〈米国胸部学会ガイドライン〉結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン」の改訂版である。2003年6月にATSから新たな「結核治療」のガイドラインが公表されたのに伴い,2章「結核の治療」の部分を置き換えた形で加えられた。治療のガイドライン2003年版は59頁と1994年版の15頁と比べて約4倍で,内容はきわめて詳細なものとなっている。基礎疾患を有する患者への対応,治療薬の選択,肺外結核への対応などについても追加されたので,本書のみで日常の結核診療において必要かつ十分な知識を得ることができる。

 監訳の泉名誉教授も冒頭で述べておられる通り,現在の米国における結核対策はHIV感染者や外国からの移民が中心である。わが国においても同様な傾向が今後出てくる可能性が高く,また,路上生活者など医療や保健の監視のとどかないところでの結核発生が最近目に付くようになってきている。

 おりしも,結核予防法の一部を改正する法案が2005年4月1日から施行される。改正の主な点は,(1)結核の予防・早期発見のための対策の充実強化,(2)直接服薬確認療法(DOTS)の推進などであり,まさにタイムリーな本の発行と言えよう。

B5・頁208 定価4,410円(税5%込)医学書院


歯科医学生の教育課程に必要な口腔外科学を網羅

標準口腔外科学
第3版

野間 弘康,瀬戸 皖一 編
内山 健志,近藤 壽郎 編集協力

《評 者》内田 安信(東京医大名誉教授/日本口腔外科学会元理事長)

 『標準口腔外科学第3版』が,この度,内容装丁も新たに医学書院から刊行された。もとより本書は,歯科医学生の教育課程に必要な口腔外科学のすべてを網羅し,しかも精選された内容を誇っている教科書であり,卒後教育においても必須の充実した内容の図書である。

 通読一覧するに,第1章の「口腔外科診断法」からはじまり,第14章の「口腔・顎顔面疾患の機能障害とリハビリテーション」に終わる中身は,先天異常・発育異常,損傷,炎症,嚢胞,腫瘍および類似疾患,顎関節疾患,唾液腺疾患,口腔粘膜疾患,口腔に発症する血液疾患および出血性素因,さらに,他領域関連疾患,神経疾患および心因性病態,そして本書の中心課題である口腔・顎顔面疾患の手術・治療について,無痛法や再建外科,顎顔面補綴を含め,さらには最近の理学療法にいたるまで記述されている。そして,それら口腔に関連するすべてのリハビリテーションについても最後の章に詳細に盛られていて,全520頁ほどから成っている。

 その上,節のはじめごとに「学習のポイント」として,その節で修得すべき要点が色刷りの枠囲みにて箇条書きにまとめられており,大変理解に便利でわかりやすい。また症例の口腔・顔面写真,病理組織が適切に配置されており,随所に図式・図解とともに明示されていて,懇切丁寧で大変読みやすく,理解・納得が得やすいように記述・編集されている。本書は勿論,歯学教授要項に準拠しており,項目すべてを満たしている。

 本書の表題からは,歯科・口腔外科全領域を網羅する外科系の教科書のように受けとられる節もないではないが,一度本書をひもとけば,前述のように診断をはじめ口腔内科的な総括歯科医学も当然包含しており,歯科臨床に即座に役立つこと請け合いである。ちなみに現代医療において何よりも大切なテーマである,安全・安心な歯科医療,インフォームドコンセント等についても,十分懇切に解説がなされていて,若き歯科医学生を通じて近未来の歯科医学・医療の全体の質の向上が期待できそうである。

 膨大な歯科医学におけるすべての学術を,完璧に習得することはなかなか容易ではない。一朝一夕にはマスターできないほどの困難さもあるが,勉学や臨床の実際に当たり,随時本書をひもとき,また参照すれば,たちどころに診断や治療の方針が確定しようというものである。

 それは本書が,現代口腔外科の第一線で活躍中の口腔外科医によって,毎日の臨床における貴重な経験症例を基として執筆された,珠玉の精華だからである。全頁を通じそれらが順序よく整理されて記述されている。それだけに本書の体裁,構成,内容,症例数や配置などは,読者の勉学,知識の積み重ねに便利であり,格好な仕様となっている。本書を座右に置いて,適時適切,有効に活用されるならば,これほど学習効果を上げることのできる図書は滅多にないと考える。

 是非とも広く,歯科医学生,研修医,さらに臨床歯科医の先生方に,研鑽を積むためにも本書をお薦めしたい。

B5・頁548 定価13,125円(税5%込)医学書院


21世紀の小児医療の方向性を示す改訂版

今日の小児診断指針
第4版

五十嵐 隆,大薗 惠一,高橋 孝雄 編集

《評 者》松尾 宣武(国立成育医療センター名誉総長)

 医学書院の「今日の小児治療指針」の姉妹書,「今日の小児診断指針」は,東京慈恵会医科大学小児科,前川喜平教授を中心に,白木和夫,土屋裕両教授の企画・編集により,1988年2月,第1版が刊行された。爾来十数年,広く人口に膾炙し実地医家の標準的テキストとしての評価を確立したことは欣快に堪えない。

 このたび,わが国の小児科学会の新しいリーダーである,五十嵐隆教授,大薗惠一教授,高橋孝雄教授を企画・編集者として,「今日の小児診断指針 第4版」が刊行の運びとなったことは,小児医療の国際化・標準化が強く求められる現在,まことに時宜に適うものであり,関係者の労に敬意を表したい。

 一読して,本書は,新しい企画・編者の意図や計画が相当程度生かされた意欲的なテキストであると思う。第一に,小児医療の新しい問題,いわゆるsocial morbidityやco-morbidities,carry-overを含む,小児精神保健に関連する問題がより強調されている。この視点は症候編,検査編,診断基準のすべての章にわたる。第二に,検査編において,臨床検査の構成が見直され,血液検査以外の分野がより強調された。このため,一層実用性の高い情報源となったと思われる。第三に,各種疾患の診断基準について,広汎な情報が集約されている。この情報の包括性は,general pediatricsの診療に従事する一般小児科医にとっても,また種々の専門分野の診療に従事するサブスぺシャリストにとっても有用である。本書の個性・魅力の主要部分と思われる。

 最後に,本書改訂版を一層informativeにするため,2,3提案したい。第一に,基準値について日本人の基準値を可能な限り採用することをめざしていただきたいと思う。日本人小児の基準値が存在しない項目が決して少なくないことは,われわれ小児医療に従事する関係者全員の責任であるが,本書が問題解決の起爆剤となることを期待したい。第二に,臨床検査の基準値にかかわる,検査方法,検査施設を併記することが望ましいと思う。いうまでもなく,臨床検査の基準値は,採用した検査方法,実施検査施設により,大きく異なる。各執筆者が記述する基準値が何を意味しているか,明確にする必要がある。原則的に,施設の基準値が確立した医療機関に所属する医師を執筆者とすることを考慮すべきかもしれない。第三に,本書の中核読者層を明確にすることが望ましいかもしれない。中核読者層を,小児科専門医とするのか,小児医療に従事する内科・小児科医を含む家庭医とするのか,本書の進化・発展に期待したい。

 本書は,21世紀のわが国小児医療をリードする三教授による,極めて意欲的な小児の診断指針に関するテキストである。わが国の小児医療の方向性を示す好著として,ここに,広く推薦したい。

B5・頁716 定価16,275円(税5%込)医学書院


小腸疾患の百科事典

小腸疾患の臨床
八尾 恒良,飯田 三雄 編

《評 者》多田 正大(多田消化器クリニック院長)

 八尾恒良教授,飯田三雄教授が率いる九州学派がわが国の消化管診断学をリードするようになってから久しい。両氏は雑誌『胃と腸』の元・現編集委員長であるが,頑固なまでの信念をもって消化管画像診断学を啓発している。内視鏡偏重の時代にあっても,X線診断の必要性を実践し,マクロとミクロの対比を重要視する姿勢を貫いており,わが国の消化管診断学を真摯に指導している。

 その両教授が編纂し,九州学派の俊英たちが執筆した『小腸疾患の臨床』が医学書院から出版された。分厚い書籍を手にして,小腸診断に情熱を燃やしてきた私にも感慨深いものがある。国内外を問わず,食道や胃,大腸,肝胆膵に関する書籍は山ほどあるが,小腸を取り上げた書籍は極めて少ない。その理由は,小腸には疾患が少ないこと,診断手順が複雑で時間がかかることなどから敬遠されてきたからであろう。小腸で書籍を作れるのは八尾グループ以外では不可能であると信じてきただけに,立派な書籍を手にできて嬉しい限りである。

 九州は小腸疾患への関心が深い地方である。両教授の先輩である岡部治弥先生が『消化管X線読影講座』の「第7巻小腸」を担当され(1969年),その後,中村裕一先生が小腸二重造影法の開発を受け継いだ歴史があるように,九州学派は小腸診断の黎明期から常に最先端を歩んできた経緯がある。コツコツと症例を集積して,貴重な論文を多数発表してきたことは周知のとおりである。

 前述したように,両教授は消化管画像診断の分野で孤高を守る『胃と腸』誌に深く関与しており,質の高い誌面を育てるのに多大な貢献をしている。早期胃癌研究会においても拙い画像を叱責し,撮影手技と読影の基本を繰り返し啓発している。したがって本書に掲載された画像もX線,内視鏡,切除標本,組織像はどれをとっても一級品である。単に画像がきれいなだけでなく,その所見の読み方が正鵠を射ている。編者が相当綿密に査読して文章を推敲したのであろう,綻びのない文章と構成は非の打ちどころがない。

 病理部門は岩下明徳先生,八尾隆史先生の厳しい査読を通過したのであろう,要領よく隙のない記述である。

 八尾恒良教授は先に『胃と腸アトラス』上下2巻(2001年,医学書院)を編纂されたが,この書籍では全国各地から素晴らしい画質の症例を集積して読者を圧倒した。本書でも『胃と腸アトラス』に勝るとも劣らない素晴らしい画像が集められ,『胃と腸』譲りの診断理論が展開されており,感動させられる。

 検査法に関する項ではX線撮影手技だけでなく,トピックスであるカプセル内視鏡からダブルバルーン内視鏡までも含めて記述されており驚かされる。各論に掲載されている小腸疾患は先天性奇形から炎症,血管病変,免疫不全,systemic diseaseとしての小腸病変,腫瘍など,ありとあらゆる疾患が網羅されている。私たちが経験したことがないような稀な疾患も含まれており,教えられるところが多い。各疾患別に病因,病態,画像所見と診断,鑑別診断,治療と予後を系統的に記述されており,まさに小腸の百科事典を見るようである。できれば早急に英語版も完成させ,わが国の誇る小腸診断学を海外へ発信して欲しい。

 羨ましいほど素晴らしい出来映えの書籍であり,消化器病医の誰もが座右に置いて必読して欲しい書籍である。そして本書が引き金になって,小腸診断学がさらに活性化されることが期待される。

B5・頁440 定価18,900円(税5%込)医学書院


てんかん診療の最新情報を簡潔にまとめた1冊

てんかんハンドブック 第2版
Handbook of Epilepsy, 3rd Edition

Thomas R. Browne,Gregory L. Holmes 著
松浦 雅人 訳

《評 者》大久保 善朗(日医大教授・精神医学)

 てんかんの診断と治療に関する最新の情報を臨床に役立つよう簡潔にまとめた本が出版された。Thomas R. BrowneとGregory L. Holmesの「Handbook of Epilepsy」の翻訳である本書は,てんかんに関する最新の情報の中から,臨床家がてんかんの診療を行う際に重要と思われるものを,著者らが注意深く選択し可能な限り簡潔に記載したハンドブックである。

 基本的な内容は,2001年のてんかん症候群の国際分類に準拠して,各てんかんについて,症状,脳波所見,診断,治療に関する最新情報が簡潔に記載されている。今回は原著の改訂に伴う出版で,翻訳書としては第2版にあたるが,原書の第3版を翻訳したものである。

 最も大きく改訂された内容の1つは,てんかんの遺伝に関する記述である。本書には,これまでに遺伝子が同定されたてんかん症候群の一覧が掲載されており,大変便利である。また近年,遺伝子が同定された常染色体優性前頭葉夜間てんかん,聴覚症状を伴う常染色体優性部分てんかんなどについても詳しく記述されている。現在,てんかんの遺伝研究については急速に所見が集積されつつあり,それに対応して,てんかん症候群の診断分類も改訂を迫られつつあるが,現時点での最新情報が簡潔に記述されているため,現状を理解するうえで大いに役立つ。

 また,本書では治療に関する記述についても新たな改訂が行われている。特に新しい抗てんかん薬については,gabapentin,lamotorigine,levetiracetam,oxcarbazepine,tiagabine,topiramateなどに関する詳細な記述がつけ加えられた。残念ながら,これらの新薬のいずれもわが国ではまだ認可が下りていないものの,いくつかの薬剤については申請中である。近い将来,わが国の臨床家がこれら新しい抗てんかん薬を使用する時にも本書は大変役立つであろう。

 今回の改訂で,てんかん外科治療については,軟膜下皮質多切術や迷走神経刺激に関しても説明がある。進歩が著しいてんかんに関する最新の情報が掲載されているにもかかわらず,臨床に直結する情報を可能な限り簡潔に記載するというコンセプトでまとめられた本書は,まさにてんかん診療にかかわるすべての読者に薦められる1冊になっている。

A5変・頁324 定価4,620円(税5%込)MEDSi