第2604号 2004年10月11日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


産科医療に従事するすべての医療者が著者の経験を共有できる

《Ladies Medicine Today》
産科臨床ベストプラクティス
誰もが迷う93例の診療指針

岡井 崇 編

《書 評》佐世正勝(山口大助教授・周産母子センター)

治療をうまく進めるための“こつ”

 これまで,若い研修医は先輩医師と昼食や酒席をともにするなかで,先輩の武勇伝を聞き,困ったときや緊急時の対応を耳学問してきた。しかし最近では,EBM(evidence based medicine)という言葉に象徴されるように,個人の経験よりも多くの症例から導き出された結果にしたがって医療を行うことが主流となっている。確かに方向性は間違ってはいないかもしれないが,実際の臨床事象におけるさまざまな細かな事柄は削ぎ落とされており,直接,結果を臨床に応用することには無理がある。この削ぎ落とされたもののなかに治療をうまく進めていくためのちょっとした“こつ”が含まれているように思う。一般化することは難しいかもしれないが,個々の症例に具体的に対応していく際に必要になる。

 本書は,診療を行っていくときに出会ってしまった「困った事柄」について,ベテランの先輩から“こつ”を聞くような本である。したがって,教科書のようにすべてが網羅されているわけではないが,診療をしながら困ったときに先輩に意見を求めるようなつもりで本書を開いたり,ちょっと時間が空いたときにお茶でも飲みながら拾い読みするのもよいかもしれない。

臨床現場ですぐに役立つ

 本書は,副題にあるように93の症例から構成され,妊娠中のプロブレムと分娩・産褥期のプロブレムの2つに大きく分けられている。

 「I.妊娠中のプロブレム」では,61症例が,初期の超音波所見,初期の異常妊娠,感染症の管理,切迫早産・破水,偶発徴候・合併症,胎児の異常所見,胎盤・臍帯・羊水の異常所見,妊娠管理の方針に大きく分類されている。また,「II.分娩・産褥期のプロブレム」には,残りの32症例が,分娩経過の異常,胎児心拍数の異常,分娩時の出血・裂傷,分娩方針の決定,帝王切開,産褥経過の異常,治療におけるトラブルに分けられている。このように,見出しから必要な項目を探すことができるだけでなく,巻末には豊富な索引が設けられており,キーワードからも求める箇所に到達できるように配慮されている。教科書にも負けないような充実した構成となっている。

 また,症例の記載形式は,「診療の概要」「治療方針」「対処の実際」「ここがポイント」といった具合に,必要に応じて拾い読みができるようになっていて,「とりあえず」あるいは「すぐに」知りたい場合にも役立つようになっている。

 具体的に説明すると,本書には日常臨床で出会いそうな症例やトラブルが重点的に採用されている。今,話題となっているHCVや風疹が最も新しい情報をもとに,直ちに臨床に応用できる形式で記載されている。また,産科診療のなかで最もやっかいな病態である切迫早産・破水についても臨床に即した適切な記載がなされており,すぐにでも臨床応用可能である。しかし,「破水の診断」「絨毛膜羊膜炎」「頸管長計測」のわずか3稿しかなく,preterm PROMの管理についての記載も欲しいところである。「II.分娩・産褥期のプロブレム」は,いずれの項目も臨床に直結しており,内容も充実している。特に,胎児心拍数の異常に対する対応は,臨床的に最も悩む判断の1つである。日母ME委員会の報告にしたがうことが基本であると考えるが,必ずしもいつも臨床的に正しいとはいえない。胎児心拍数の異常の稿では,さまざまな報告と著者の経験から,現実的な対応が導き出されている。

 ほとんどの症例で,実際に著者が行った経験などをふまえた“こつ”が呈示されている。解説には視覚的に理解しやすい写真や図表が用いてあり,読者への配慮がなされている。また,ポイントを押さえた適切な文献の引用は,読者がさらに詳しく知りたい場合の手がかりとなっている。本書は,産科診療に従事するすべての医療者に著者と同様の経験を共有させてくれる良書である。

B5・頁352 定価8,190円(税5%込)医学書院


よりよいこころのケアをめざして

臨床にいかす心理療法
白井幸子 著

《書 評》加賀城惠一(瀬戸内海病院小児科)

臨床現場で求められているのは病む人々のこころへの配慮

 国語辞典によれば,臨床という言葉は,1)病人の床のそばにゆくこと,2)実際に病人を診察・治療することという2つの意味が記されている。本書のタイトルの場合は広義の前者の意味に理解される。したがって,この心理療法の生かされる場は実に多岐にわたるものであり,病人とのかかわりを持つすべての人々を意識してのものであろう。

 その臨床の場において今求められているもの,それは病む人々のこころに対する配慮であるということを痛感させられるようになって久しい。しかし現実には全人医療といった言葉も虚しく響き,こころの問題は蔑ろにされる状況が続いている。そうした時,このようにコンパクトで平易に書かれたテキストが出版されたことは誠に喜ばしいことである。

マニュアルとしても有効

 これまでに出版されてきた著者の「看護にいかすカウンセリング」をはじめとする3著作が,文字通り看護職を主な対象としたものであり,交流分析,ゲシュタルト療法を中心としたコミュニケーションを柱としていたのに対し,今回は解決志向型短期療法,神経言語プログラミングにもページが割かれ,さらには牧会カウンセリングの紹介までなされてさらに広がりが見られるようになった。日ごろ臨床牧会に携わっている者にとっては誠に力を得た感がある。臨床の場においては,医師・看護師といった医療職と臨床心理士,さらにはスピリチュアル・ケアにあたるチャプレインなどのコラボレーションによってなされることが,全人医療のめざすところである。だが,実際にそれは手の届かない理想ということが多く,1人のクライアントを前にした時には,医療職が自分の力量をわきまえたうえで誠実な対応をなすことが求められる。ガイドラインあるいはマニュアルとして本書は有用で,行間にはカウンセリング・マインドもちりばめられている。

 複雑化する医療の中にあって医療従事者のこころの問題にも目が向けられなければならない。その思いをかかえた同労者間で相互の癒しが図られるためにも日頃の学びが必要となる。あるいはキリスト教会における牧会者,さらには問題をかかえた人々との学び,地域の母親学級におけるテキストとして利用され得る機会も枚挙にいとまがない。より多くの人々に用いられ,よりよいこころのケアに結びつくことが期待される。

B5・頁200 定価2,310円(税5%込)医学書院