第2500号 2002年9月2日


連載
第11回

再生医学・医療のフロントライン

  

膵臓の再生

小島 至   群馬大学生体調節研究所教授・細胞調節分野


β細胞再生による糖尿病治療

 膵臓はその95%以上を外分泌細胞が占め,インスリンを分泌するβ細胞などの内分泌細胞はわずか数%を占めるに過ぎない。しかし,糖代謝調節で中心的な役割を果たすβ細胞は臨床的にきわめて重要で,現在「β細胞の再生による糖尿病の治療法」を確立しよういう研究が活発に行なわれている。
 糖尿病は,インスリンを注射しないと生命が維持できない1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)と,2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に分類され,日本の糖尿病患者の95%以上は2型糖尿病である。欧米では1型糖尿病が多く,近年,膵臓移植や膵島移植が行なわれるようになり,その成績も向上してきた。しかし,糖尿病患者は数が多く,移植医療を推進するにはドナー不足の問題が大きい。それを打破すべく異種の膵島移植を行おうという試み,そのための免疫隔離用のカプセル型膵島の開発などがなされてきた。異種膵島にはレトロウイルスの感染などの問題も指摘されていることから,ドナー膵のβ細胞をin vitroで増幅して細胞移植しようという試みもなされてきたが,インスリン分泌能を維持することが困難であった。そこで再生医学的なアプローチにより新たに細胞を分化させ,細胞移植を行なうことが考えられた。つまり何らかの方法により新たにβ細胞を分化させ,それを細胞移植するという1型糖尿病に対する治療ストラテジーである。
 どのような細胞ソースからβ細胞を得るかという点では,に示すようにさまざまな細胞が考えられている。大別して,体性幹細胞(組織幹細胞)システムを利用するものと,胚性幹細胞(ES細胞)を用いる方法がある。

2型糖尿病に対する再生医療

 これに対して,2型糖尿病に対する再生医学的アプローチは異なるものとなろう。もちろん2型糖尿病においても,病状が進めばインスリン欠乏状態がひどくなるので,その場合は1型糖尿病と同じアプローチが必要となる。軽-中等度のインスリン不足を伴う患者や,発症前の患者に対しては,内因性(自前)の幹細胞システムを賦活化して,新たにβ細胞を分化させるというアプローチが考えられる。これが可能になれば,患者をdisease-freeな状態にできると考えられるからである。2型糖尿病の場合には,細胞の機能がもともと低下している可能性もあるので,そのような場合にも「質の低下を量で補えるか」などを検討していく必要がある。

今後の課題

 筆者らは2型糖尿病に対する再生医療の実現を目標として研究を行なっている。β細胞を人為的に新生させ,素因を持つ,あるいはすでに耐糖能異常が出て発症の可能性がある2型糖尿病の発症を予防したり,すでに発症した2型糖尿病をもとに戻したりすることができないかと考えている。
 その実現には,まずβ細胞新生の調節機構を明らかにする必要がある。特にβ細胞の新生,あるいは分化を促進する因子を同定し,それを応用して自前の幹細胞を賦活化してβ細胞新生を促進する方法を確立しなければならない。筆者らは,膵前駆細胞に作用してそれをβ細胞へと分化させる因子の研究を行ない,アクチビン,ベータセルリンなどがその作用を持つことを見出し,それらを持ちいてβ細胞再生を促進させることが可能であることを動物実験で示すことができた。特にアクチビンは膵前駆細胞に直接作用して,それを分化させることから注目される。さらに最近,慶大の梅澤教授らとの共同研究で,アクチビン作用を発揮する新たな因子も見出している。新規の分化誘導因子をも用いて,2型糖尿病に対する再生医療を実現させたいと考えている。

《第1回 心臓細胞再生の現状と展望(福田恵一)》
《第2回 皮膚の再生(朝比奈泉)》
《第3回 角膜の再生(中村隆宏,木下茂)》
《第4回 血管の再生(日比野成俊,新岡俊治)》
《第5回 末梢血管の再生(森下竜一)》
《第6回 骨の再生(大串 始)》
《第7回 軟骨の再生(開 祐司)》
《第8回 中枢神経系再生の研究戦略(岡野栄之)》
《第9回 脳内成体神経幹細胞を標的とした再生医療(桜田一洋)》
《第10回 肝臓の再生(杉本真一,三高俊広)》