第2402号 2000年9月4日


[連載] 質的研究入門 第11回

医療の研究における質的面接法(1)


“Qualitative Research in Health Care”第4章より
:NICKY BRITTEN (c)BMJ Publishing Group 1996

大滝純司(北大医学部附属病院綜合診療部):訳,
藤崎和彦(奈良医大衛生学):用語翻訳指導


 質的研究の多くは面接をもとに行なわれているが,本章では,この質的面接の技法と,医療の研究におけるその利用について,概略を紹介する。ここでは技法の原理を説明するとともに,それらの技法をどのように用いれば量的な研究とは違ったたぐいの研究課題(research question)を検討できるのかを示す。また,さまざまな質的面接の方式を紹介しながら,それらが診療としての医療面接と異なる点を明らかにし,実施するための手引きを示す。


質的面接の諸方式

 診療に従事している臨床医は,日常業務の中で患者に面接しているために,ただ単に人と話をすることがまともな研究手法になるのだろうかと疑問に思うかもしれない。しかし,社会学やその関連領域では,面接は研究手法として十分に確立されている。主な方式には,構造化面接1),半構造化面接2),深い面接,の3通りがある()。
 構造化面接では,構造化された質問紙を使用し,面接者は構造化されたやり方で質問(その多くは選択肢があらかじめ設定されている)するように訓練を受けている。例えば,「あなたの健康状態は?」という質問には,「(1)とてもよい,(2)よい,(3)まあまあ,(4)よくない」の中から選んで被面接者に答えてもらう。質的研究の面接は,このように形が決められている量的研究の面接と対比させて,「構造化されていない」かのように言われることが多い。しかし,構造がまったくない面接はあり得ないので「非構造化」という呼び方は誤解を招きやすい。構造がまったくなくなれば,面接はいきあたりばったりになり,その研究課題を検討するのに適したデータを集められなくなってしまうだろう。
 半構造化面接の枠組みは構造化面接に比べて緩やかである。少なくとも面接の始まりの段階では調べる領域を限定し,その話題について開かれた質問(自由質問法)をして,そこから何かをさらに詳しく探りながらさまざまな方向に進めていく。前述の例で言えば,「よい健康状態とはどのようなものだとお考えですか」「ご自分の健康についてどのようにお考えですか」といった質問から始める。
 深い面接の構造はさらに緩やかで,わずか1つか2つの事柄について,しかしきわめて詳細に話題にする。そのような面接は,例えば「この研究は人々が自分の健康についてどのように考えているかを調べるものです。あなた自身の健康に関する経験や,ご自身の健康についてどのようなお考えをお持ちか話していただけますか」という質問から始まる。その後の面接者からの質問は被面接者の答えによって決まってくるが,その大半は話の内容を明確にしたり,詳しく探りを入れるものになる。
 質的研究での面接は,診療における面接とは目的が大きく異なる。医師は,患者の視点から問題点を検討したいと思っているが,実際の診療では,患者の問題を病名や症候群などの医学的カテゴリーにあてはめて診療を進めていく。どんなに開かれた質問で開始されたとしても,多くの場合,診療では医師は限られた時間で結論を出さねばならない。一方,質的研究における面接では,被面接者自身の意見の枠組みを見出すことが目的であり,研究者の枠組みや仮説を押しつけることをできるだけ避けながら進めるのが特徴である。たとえ,その面接から得られる概念や変化が当初予想されたものとは大きく異なるものであっても,それを受け入れられるような心構えが研究者には必要である。
 質的面接では,量的研究が探求するものとは違った種類の研究課題について調査する。例えば,新生児突然死症候群について量的な疫学研究をする場合は,全国や地域別の発生率について統計学的な解析を行なうことになるだろう。
 Gantleyらは,小さな子どもを持つさまざまな民族の母親たちに面接し,その育児方法を理解するという質的研究手法を用いて,「アジア系の住民に新生児の突然死が少ない」のはなぜかを説明する手がかりを見つけ出した。
 個人開業の一般医に関する量的研究では,処方率や紹介率,時間外報酬,登録患者数,予防接種率,子宮頸部細胞診率を,グループで開業している一般医と比較したりする。一方,個人開業の一般医の考えを半構造化面接を用いて調査した最近の質的研究からは,彼らが抱えている問題が明らかになっている。質的研究では,例えば病院の専門医の患者に対するとらえ方,一般医が気が進まないながらも処方する理由など,量的研究とは異なる研究領域を開拓することも可能である。

〔訳者注〕
1)構造化面接:質問項目を構造的に並べた質問紙に基づいて順番に質問していく形の面接
2)半構造化面接:質問項目の大枠は用意するが,被面接者の応答により,ある程度の自由度を持って進める形の面接

表 面接の方式
構造化面接通常は構造化された質問紙を用いる
半構造化面接開かれた質問(自由質問法)を用いる
深い面接1つか2つの事柄についてきわめて詳細に聞く。被面接者が何を話すかによってその後の質問が変わってくる