医学界新聞

 

「エピジェネティクスと発癌」

第58回日本癌学会シンポジウムより


 第58回日本癌学会(関連記事)の第2日目に行なわれたシンポジウム5「エピジェネティクスと発癌」(司会=鳥取大 押村光雄氏,国立がんセンター研 牛島俊和氏)では,当学会のシンポジウムのテーマとしては初めて“エピジェネティクス(遺伝子修飾)”が取り上げられ,発生過程での遺伝子発現時に起きるこの現象が発癌に与える影響について,今後の研究の基礎となる発表が行なわれた。

ゲノムインプリンティング

 まず,エピジェネティクスの1つである“ゲノムインプリンティング(すり込み現象;GI)”について,押村氏が「父母由来の対立遺伝子が識別され,発言レベルが異なる現象」と解説。GIの消失やマークづけに関する最近の知見を述べ,解析の難しさを指摘するとともに,癌とGIの関わりも考察した。また,続く向井常博氏(佐賀医大)は,「GIの異常によって発症する遺伝病“Beckwith-Wiedemann症候群”の原因遺伝子を特定した」と発表。Wilms腫瘍の原因遺伝子であるWT2が腫瘍の増殖を抑制している可能性にも言及した。

ゲノムのメチル化

 一方,中尾光義氏(熊本大)は“ゲノムのメチル化”,“メチル化CpG結合蛋白質”,を紹介。さらに(1)メチル化依存性遺伝子の再発,(2)クロマチンの構造,(3)発癌機構,に関する考察を報告した。また,田嶋正二氏(阪大)は,DNAメチル化がどうして起きるか,脊椎動物のDNAメチル化がどういった機能と相関しているか,などを発表し,メチル化,脱メチル化のいずれも癌化の可能性があることを示した。佐々木裕之氏(国立遺伝研)は,まず染色体ドメインレベルのGI制御について報告。「マウスとのシークエンシー比較が制御配列を同定するのに効果的」とし,その結果同定された複数のGI制御配列を紹介した。そして,特定の癌で異常な発現を示す新しいDNAメチルトランスフェラーゼが同定されたことも発表した。  そして,最後に口演を行なった司会の牛島氏は,「1993年に開発されたMS-RDA(methylation-sensitive-representational difference analysis)法を独自に改変して使用することによって,人間の乳癌および肺癌で異常なメチル化を受ける遺伝子群を同定した」と発表。さらに,メチル化の維持機構や,aberrantなメチル化についても言及した。