理学療法ジャーナル Vol.57 No.5
2023年 05月号

ISSN 0915-0552
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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特集 関節間トレードオフ

 臨床実習では関節可動域を評価した後,可動域制限をミクロに分解して,器質的要素を探すことが多いが,臨床ではその論理展開では少しすると限界を感じてくる.しかし何年経っても同じように考えている理学療法士もいる.そのアイデアの枠組み(frame of reference)が狭いために起こる因果律の限界である.関節に協調性のようなものがあることは,臨床を行うと気づく.その協調性をどう臨床に活かすことができれば疾患に太刀打ちできるのであろうか.運動器疾患,中枢性疾患を問わず人の動きの協調性について論議していただく.

Uncontrolled manifold(UCM)概論 浅賀忠義
 冗長とは,制御したい変数の数よりも直接制御できる変数または自由度の数のほうが多い状態のことを意味する.Uncontrolled manifold(UCM)の概念は,冗長性のある制御システムにおいて直接制御する要素変数間の協調性を定量化する方法論である.協調性の定量化は,要素変数の値の組み合わせにおいて,目標を達成するうえで影響を及ぼさない成分の分散とその直行成分の分散との相対差によって算出される.

動作における運動協調性 阿南雅也,他
 身体運動における自由度とは,動作達成のために独立して動くことができ,制御されなければならない変数の数である.運動協調とは,リーチ動作や歩行動作などの意図した動作を行うために必要な複数の身体部位の協調的な運動のことである.課題とする動作において,動作達成のために各要素が独立しているのではなく関連し,さらに関連する要素は,機能的要求を満たすように相互に作用することで協調していると解釈できる.

シナジー解析と関節間協調性 舩戸徹郎
 運動中の関節の角度変化には,運動中に一定の割合が保たれる協調が見られることがある.関節の角度データを各角度が軸となる座標系上で描画したとき,協調関係は座標系内でデータが常に平面上に乗るような性質として現れる.シナジー解析は,計測データから最小二乗法を繰り返すことで平面の座標系を推定する処理に相当する.実際のシナジー解析では,主成分分析によって最小二乗法の繰り返し推定と等価な解析が行われる.

上肢リーチ動作の運動等価性を支える関節間協調性とシナジー ──脳卒中患者における「回復」と「代償」とは 冨田洋介
 ヒトの豊富な身体自由度によって,同じ運動課題もさまざまな関節角度の組み合わせで遂行できる.この特徴は運動等価性と呼ばれる.脳卒中患者で生じる代償運動は,動かしづらい身体自由度の運動を比較的動かしやすい自由度の運動に依拠した運動等価性の結果と言える.脳卒中患者の理学療法では,焦点とする運動課題の達成度の回復を,どの程度代償によって達成するのか,運動戦略を想定したうえで評価・治療が展開される必要がある.

しゃがみ動作の関節間トレードオフ 滝澤恵美
 「可動域制限があるから動作に問題が現れる」という推論は,「可動域が十分になれば動作を改善できる」という思考に至りやすい.この考えは,動作が多数の関節運動から構成されることと,関節間には協調関係がありその構築には時間を要することを見落としている.本稿では,しゃがみ動作を例に関節間協調性と肢位の違いがもたらす関節運動のトレードオフを取り上げ,動作障害に対する臨床的な思考や治療上のヒントについて述べる.

ランニング中の後足部・下腿間の協調性パターン 高林知也
 ランニング障害の発生機序を考えるうえで,「協調性の観点」から,症状がある関節/セグメントだけに着眼するだけでなく,ほかの部位にも障害発生の原因があるかを考える必要がある.後足部は遠位関節(足部関節)および近位関節(膝や股関節)と連結しているため,後足部のアライメントはさまざまな部位に影響を及ぼす.本稿では,ランニング中の後足部と下腿間の協調性パターンについて筆者の研究を紹介し,ランニング障害における筆者のアイデアを述べる.

足部可動性への介入により膝関節前額面モーメントを制御する 佐藤俊彦
 ヒトの足部は,関節間の相互の可動性により,歩行時の衝撃吸収,荷重伝達,推進機能に貢献している.臨床場面では,足部可動性に対して理学療法介入を行い,歩行時の下肢の動きや負荷が変化することを経験する.筆者らは,足部可動性の詳細と歩行時外的膝関節内転モーメント積分値の関係を検証した.この結果から考える足部可動性への理学療法介入とその歩行観察,中間評価のポイントとその前後変化について紹介する.

歩行時の下肢の協調性 山縣桃子
 患者の動作パターンが健常とは異なる場合,この健常から逸脱した動作パターンをすべて悪いと解釈し,健常な動作パターンに誘導するような介入は恐らく適切とは言えない.動作パターン内のどの要素を修正すべきか,運動制御における科学的知見に基づいて解釈することで,正常な運動制御や障害発生メカニズムの理解につながると考える.本稿では,これまで得られた科学的知見について例を挙げながら紹介し,今後これらの知見をいかに臨床に適応すべきか,その一案を提示する.

脳性麻痺児の足関節と股関節の関係 石原みさ子
 「脳性麻痺だから仕方がない」そんな諦めを口にしたことはないだろうか.圧倒的な荷重経験の不足を補い,足関節を強化できれば,股関節の痛みも歩行機能の退化も予防できる可能性がある.重力との戦いに勝ち,発達を味方につけて,協調した動きを修得するために,足関節と股関節の関係性について整理する.

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特集 関節間トレードオフ

エディトリアル 協調性とトレードオフ
福井 勉

Uncontrolled manifold(UCM)概論
浅賀忠義

動作における運動協調性
阿南雅也,他

シナジー解析と関節間協調性
舩戸徹郎

上肢リーチ動作の運動等価性を支える関節間協調性とシナジー ──脳卒中患者における「回復」と「代償」とは
冨田洋介

しゃがみ動作の関節間トレードオフ
滝澤恵美

ランニング中の後足部・下腿間の協調性パターン
高林知也

足部可動性への介入により膝関節前額面モーメントを制御する
佐藤俊彦

歩行時の下肢の協調性
山縣桃子

脳性麻痺児の足関節と股関節の関係
石原みさ子


■Close-up Long COVID
Long COVIDとは何か?
大平雅之,他

Long COVIDに対する回復期理学療法の実際
松尾知洋,他

Long COVIDと世界の理学療法
永田健太郎,他


●とびら
ぼくらが旅に出る理由
美﨑定也

●単純X線写真読影達人への第一歩 2
間質性肺疾患
竹内里奈,他

●「経営者」の視線 5
豊かな施設生活のために
野尻晋一

●臨床研究のススメ──エビデンスを創ろう 5
無作為化比較試験
牧野圭太郎,他

●臨床に役立つアプリケーション活用術 5
解剖学とアプリケーション利用
町田志樹

●臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう 2
評価① 関節可動域検査
伊藤雄矢

●症例報告
人工膝関節全置換術後に脆弱性踵骨骨折を呈した1例
濵 澪,他

●課題指向型アプローチによりロッカー機能を再獲得した人工距骨置換術後の1例
加藤俊宏,他

●紹介
進行期パーキンソン病のリハビリテーションプログラムの紹介
渡邉志保,他

●学会印象記
第9回日本地域理学療法学術大会──地域理学療法学の過去,現在,未来を学ぶ
石塚大悟

第11回日本支援工学理学療法学会学術大会──知識×技術×情熱=社会課題解決
小川秀幸

●私のターニングポイント
本気になると,毎日の臨床はもっと面白く,難しく,奥深い
長坂脩平

●My Current Favorite 14
慢性疼痛患者に対するリハビリテーション──「いきいきリハビリノート」を用いた認知行動療法に基づく運動促進法
岩﨑 円

●臨床のコツ・私の裏ワザ
回旋運動を引き出すコツ──内腹斜筋に着目したエクササイズ
飯田 開

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