BRAIN and NERVE Vol.75 No.3
2023年 03月号

ISSN 1881-6096
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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痛みは患者のQOLやADLに大きく関わり,各科の医師が診療にあたる機会は多い。しかし,漫然と鎮痛薬の投与などが継続され,必ずしも適切な治療がなされていないことも多いのではないか。そのような問題意識のもとに企画した本特集では,内科治療やペインクリニックでの診療の実際,近年病態が解明されつつある筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と痛みとの関連など,臨床家による解説から,疼痛の病態生理,心理的な機序など基礎分野の話題まで幅広く取り上げた。国内には2000万人を超える慢性疼痛患者が存在するとされる。慢性疼痛対策を喫緊の課題として受け止め,明日からの臨床・研究につなげてほしい。

イントロダクション—痛みの理解を深めるために  野口光一
痛みは多くの疾患に伴い時には疾患と関係なしに現れ,多くの臨床家が日常的に対処しているにもかかわらず,種々の慢性化した疼痛はその病態が多くは不明で,画一的な対処法では対応は難しい。痛みを理解することはその対処への第一歩であり,長年にわたり基礎研究,臨床研究により多くの知見が積み重ねられてきた。今後とも,「痛み」をよく知るための努力を継続することで,医療の原点である「痛みからの解放」を目指していきたい。

慢性疼痛とそれをとりまく痛みの歴史や概念・定義  牛田享宏
慢性疼痛を考える際には痛みとは何かを理解する必要がある。われわれがしばしば経験する痛みについて,国際疼痛学会(IASP)では痛みが個人的な経験であり,生物学的,心理的,社会的要因によってさまざまな程度で影響を受けることや必ずしも適応的な役割を果たさず,身体的・社会的・心理的な健康に悪影響を及ぼすことに言及している。このような複雑な要因によって発症・維持されている慢性疼痛を分類するためにIASPでは,ICD-11の中で器質的な要因が明確な慢性二次性疼痛と器質的な面だけからは説明が困難な慢性一次性疼痛を中心としたコーディングシステムを作成した。また,慢性疼痛を含めた痛みの治療を考えるにあたっては侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛に加えて神経系の感作から痛みを強く感じる痛覚変調性疼痛という3つの痛みのメカニズムなどが病態にあることを考えながら進める必要がある。

慢性疼痛とシナプス再編—グリア細胞制御による治療法を目指して  鍋倉淳一 , 竹田育子
慢性疼痛は,痛覚過敏など体性感覚ばかりでなく,不安など多くの脳機能の異常を伴う。その病態メカニズムとして関連する脳部位の神経回路の長期変化が挙げられる。本論では,痛覚過敏を引き起こす病的回路構築へのグリア細胞の関与,および,異常感覚に関連する回路の可塑性を操作し,病的回路の修復と異常痛覚の除去の試みと臨床応用への期待について解説する。

慢性疼痛と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群  佐藤和貴郎
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)は全身倦怠感や睡眠障害,認知機能障害,起立不耐を中核症状とする後天性疾患で,感染症などを契機に発症する。頭痛や筋痛・関節痛などの慢性疼痛は頻度の高い症状であり線維筋痛症と重複する症状も多い。しかしME/CFSは身体的・認知的・感情的な労作ののちに極端かつ遷延する症状の悪化すなわち「労作後の消耗」に留意した治療アプローチが必要で,線維筋痛症とは区別が必要である。本論では疾患概念や診断,最近の研究成果について紹介する。

慢性疼痛の内科治療  野寺裕之
神経障害性慢性疼痛に対して国内10学会が協力した『慢性疼痛診療ガイドライン』が2021年に発表された。Ca2+チャネルα2δリガンド(プレガバリン・ガバペンチン・ミロガバリン)とデュロキセチンが使用を強く推奨される。三環系抗うつ薬を加えた3薬剤クラスは有痛性糖尿病性神経障害で鎮痛効果が同等であり,併用でさらに強い効果が期待できる。副作用や患者個別の状況を理解したうえでの治療戦略が重要である。

慢性疼痛診療におけるペインクリニックの役割  北原雅樹
ペインクリニックとは痛み治療の高次専門医療機関であり,神経ブロック療法だけを行っているのではない。ペインクリニックでは,痛みの生物心理社会モデルに基づいて痛みの原因を診断し,治療のゴールを設定し,そのゴール達成のために適切な治療法を選択し実施する。治療の目的は鎮痛ではなく,患者のADL/QOLを向上させることが第一目標であり,そのためにも集学的なアプローチが必要となる。

心理的な痛みの機序  梅田 聡
本論では,まず主観的感覚である心理的痛みを測定する方法について述べ,その神経メカニズムについて概説する。特に,島皮質および帯状皮質から構成されるセイリエンスネットワークを中心とした神経基盤の関与について,内受容感覚との関連性に着目しながら述べる。次に,心理的痛みを病態として捉える疾患概念に焦点を当て,身体症状症などに関する研究成果を概観し,心理的痛みの緩和および今後の研究の方向性について考察する。

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特集 慢性疼痛

イントロダクション──痛みの理解を深めるために
野口光一

慢性疼痛とそれをとりまく痛みの歴史や概念・定義
牛田享宏

慢性疼痛とシナプス再編──グリア細胞制御による治療法を目指して
鍋倉淳一,竹田育子

慢性疼痛と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
佐藤和貴郎

慢性疼痛の内科治療
野寺裕之

慢性疼痛診療におけるペインクリニックの役割
北原雅樹

心理的な痛みの機序
梅田 聡


■Review
Allesthesia
Mitsuru Kawamura

■総説
社会的孤立・孤独と親和性社会行動の神経基盤
福光甘斎,黒田公美

■症例報告
延髄梗塞を合併した帯状疱疹性脊髄炎の1例
星野 俊,他


●医師国家試験から語る精神・神経疾患
第3回 依存症とは何か──身体依存と精神依存
松本俊彦

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