BRAIN and NERVE Vol.74 No.2
2022年 02月号

ISSN 1881-6096
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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特集 温度を感じる脳と身体の科学

 温度は生命活動にとって重要な因子であり,生物はそれぞれに適した生育環境を得るために,多様な温度感知機構と温度適応性を発達させてきた。しかしながら,ヒトがどのように温度を感じ,体温を調節しているのかは長らく未解明であった。そうした中,1997年にTRPV1のクローニングが成功した(2021年ノーベル生理学・医学賞受賞)ことを契機に,温度感知・体温調節のしくみに関する研究が飛躍的に進展した。本特集では,現在までに明らかにされたTRPV1をはじめとする温度感受性受容体の働きや体温調節のしくみを詳述したうえで,環境に応じてダイナミックに体温を変動させるメカニズム,体温と睡眠・概日リズムとの連関,冬眠の機構に迫る。

温度を感じるしくみ 富永真琴,加塩麻紀子
 私たちは幅広い環境温度を感知しながら生存している。感覚神経終末では,温度刺激によってイオンチャネルが活性化して陽イオンが細胞内に流入することで脱分極が起こり,電位作動性Na+チャネルの活性化によって活動電位が発生する。この陽イオンチャネルの中心的な分子群が温度感受性TRPチャネルである。感覚神経に加えて,皮膚も環境温度を感知していると考えられている。また,視床下部では直接に脳温を感知している。

ミクログリアによる脳内温度情報の感知と神経回路再編成 小野寺純也,池谷裕二,小山隆太
 脳は温度変化に脆弱な組織と考えられており,温度が神経回路構造や機能に影響を与えることが報告されてきた。脳内の免疫細胞であるミクログリアは,動的な放射状突起で脳内環境を探索し,シナプス除去などによって神経回路の再編成を行う。本論では,ミクログリアが温度感受性受容体であるTRPチャネルを介して脳内温度情報を感知し,神経回路再編成を行う可能性について考察する。

環境ストレスに応じた体温調節の中枢神経ネットワーク 中村和弘
 人間を含めた哺乳動物の体温調節システムは単に深部体温を一定に保つだけでなく,環境中に存在する暑熱,寒冷,病原体,天敵,飢餓などのさまざまなストレッサーを受けた際には,生命を守るために必要に応じて体温を大きく変動させる。最近の研究から,こうした環境ストレスに対する体温調節反応に関わる脳の神経回路が明らかとなってきた。本論では,環境ストレスに応じた体温調節の中枢神経ネットワークに関する最新知見を紹介する。

熱産生脂肪細胞を誘導するエピゲノム酵素リン酸化スイッチの解明 酒井寿郎
 恒温動物は体温を一定に維持する機構を有し,寒冷環境では褐色・ベージュ脂肪組織が熱産生を介して体温維持に寄与する。ヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aは寒冷曝露時にリン酸化され,褐色脂肪細胞ではヒストン脱メチル化とは独立した機構で熱産生遺伝を上昇させる。寒冷慢性期には白色脂肪組織で自身のリン酸化とヒストン脱メチル化能を介する二段階機構で熱産生遺伝子の発現を誘導し,脂肪組織のベージュ化へと変化させ寒冷環境に適応する。

体温の日内リズム制御における概日時計機構の役割 三宅崇仁,土居雅夫
 恒温動物の体温は「恒」という字の純粋な意味に反して一定には保たれていない。体内時計によって適正に制御された明瞭なサーカディアンリズムがあり,睡眠覚醒や基礎代謝を制御している。概日リズムを生み出す時計遺伝子や体内時計の脳内中枢メカニズムに関する知見の蓄積,最新のサーモグラフィーを用いたビデオイメージングの進化により,これまで長らく不明であった体温の時刻依存的な制御機構の理解が急速に進みつつある。

休眠・冬眠に関わる神経回路と人工冬眠技術への展望 櫻井 武
 恒温動物である哺乳類や鳥類は,体温の維持に多くのエネルギーを消費している。体温は通常,外気温が変動しても哺乳類であれば36〜37℃付近の狭い範囲に維持される。しかし,冬季など,エネルギー源(食物)が不足する際,体温を大きく低下させることにより基礎代謝(エネルギー需要)を大幅に削減し,エネルギー不足を乗り切る戦略をとる種も存在する。冬眠あるいは休眠と呼ばれる現象である。生理機能は大きく低下するが,冬眠動物は冬眠によりなんらの障害もきたすことなく安全に回復する。この機能は生物学的に興味深いだけではなく,救急医療をはじめとする医療や,将来的には有人宇宙探査にいたるまでさまざまな応用につながる可能性を秘めている。本論では,未解明の休眠・冬眠のメカニズムに関して低体温を誘導する神経回路を中心に考察し,将来的な人工冬眠の可能性にも言及したい。

体温と睡眠 石原あすか,朴 寅成,徳山薫平
 正中視索前野,内側視索前野には環境温度が上昇すると活動が増大するニューロンがあり,これを選択的に刺激すると体温が低下し睡眠が増大する。さらに腹側外側視索前野を刺激しても,体温が低下して睡眠が増大する。また,末梢からの熱放散を促す中枢の機序が駆動するときに入眠が誘発される。これらは哺乳類や鳥類で観察される寝る前の準備行動や,高齢者の睡眠時の生理学的な特徴を説明する機序として考えられる。

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温度を感じるしくみ
富永真琴,加塩麻紀子

ミクログリアによる脳内温度情報の感知と神経回路再編成
小野寺純也,他

環境ストレスに応じた体温調節の中枢神経ネットワーク
中村和弘

熱産生脂肪細胞を誘導するエピゲノム酵素リン酸化スイッチの解明
酒井寿郎

体温の日内リズム制御における概日時計機構の役割
三宅崇仁,土居雅夫

休眠・冬眠に関わる神経回路と人工冬眠技術への展望
櫻井 武

体温と睡眠
石原あすか,他


■総説
「死ぬ権利(the right to die)」にまつわる4つの医療行為――米国における現状とその医療倫理的背景
植村健司

■症例報告
脊索腫様膠腫と鑑別を要した第三脳室限局型BRAFV600E変異陽性頭蓋咽頭腫の1例
小林尚平,他


●脳神経内科領域における医学教育の展望――Post/withコロナ時代を見据えて
第6回 Post/withコロナ時代に求められる卒前臨床実習 診療参加型実習・学生評価
荒木信之,他

●臨床神経学プロムナード――60余年を顧みて
第12回 無言野(silent area)の盛衰と神経心理学(neuropsychology)の発展
―大脳連合野における展開―
平山惠造

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