臨床整形外科 Vol.57 No.12
2022年 12月号

ISSN 0557-0433
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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特集 大腿骨近位部骨折—最新トレンドとエキスパートの治療法

大腿骨近位部骨折治療における多職種連携とレジストリの重要性 重本顕史
高齢化が著しい大腿骨近位部骨折診療において,早期手術,既存疾患や高齢者特有の周術期合併症に注意した全身管理,さらには二次骨折予防など,機能予後や生命予後の改善には多岐にわたる包括的治療が必要である.これらを実践するには診療科,さらには職種の垣根を越え,各分野が専門性を発揮できる連携した取り組みが必要である.診療報酬改定後の大腿骨近位部骨折診療の医療の質の向上,患者QOLの改善,医療経済効果を適切に評価することが重要であり,レジストリによるデータベースの構築が不可欠である.

大腿骨頚部骨折における分類と整復の重要性—骨接合術後の再手術を回避するために 脇 貴洋
大腿骨頚部骨折はGarden分類に基づいて非転位型と転位型に分け,高齢者においては非転位型では骨接合術を,転位型では人工物置換が一般的に行われている.しかし,非転位型頚部骨折の成績は必ずしも良好ではなく,近年,非転位型における後捻や外反変形に関する新しいエビデンスが報告されている.非転位型で骨接合を行う際には,①正しく分類を行い,②後捻および外反変形の整復をし,③強固なインプラントを用いる,そして④早期に手術を行うことで,再手術を回避してよりよい治療成績を収めることが可能となり得る.

骨接合術—整復法とインプラントの選択 依光正則
近年,多くのインプラントが内固定に使用可能であるが,使い分けに関しては統一的見解がない.安定した骨折ではスクリュー固定のみで十分であるが,不安定性が強くなれば,より回旋や剪断力に対する固定性の高いインプラントの使用が望ましい.また高齢者では転位が残存したとしても早期に荷重可能な治療方法の選択が必要であり,一方,若年者では可能な限り解剖学的整復とそれを維持し得るインプラントの選択が必要である.インプラントが進歩した反面で,挿入手技はやや煩雑となっているため,確実な固定を行うために手技に習熟する必要がある.

大腿骨頚部骨折に対する早期機能回復を目的とした人工物置換の機種選択と進入法 馬場智規,他
大腿骨頚部骨折に人工物置換を行う場合,早期に機能回復することが“forgotten joint”を達成する近道である.ステムは術中骨折の発生頻度が低いセメントステムを第一選択とし,bone cement implantation syndromeの複数リスク因子を有する症例は,セメントレスステムであるハイドロキシアパタイトコーティングステムを使用している.進入法は脱臼率が低く,軟部組織温存が可能な前方進入を選択している.本骨折は原則受傷前に疼痛はないので,人工物置換術後の完全なる除痛は必須である.人工骨頭置換よりdual mobility cupを用いた人工股関節全置換術はその効果を十分に発揮する.

大腿骨頚部骨折に対する人工物置換術の適応―BHAかTHA,セメントレスステムかセメントステムの選択 井上尚美
大腿骨頚部骨折に対して人工物置換術を行う場合,人工骨頭置換術(BHA)と人工股関節全置換術(THA)の選択,セメントレスステムとセメントステムの選択について述べる.1.BHAかTHAの選択:日常生活で外出など屋外活動が多い,あるいは就労中の症例では,THAを選択する.しかしTHAの経験が少ない施設・術者では安易に選択するべきではない.2.セメントレスステムとセメントステムの選択:術者の経験,画像から評価した骨質の判断で選択する.Dorr分類とCFIがその指標として有用であると考えられた.Dorr Type BまたはC,CFI 3.2以下の症例では,術者の手術手技に習得レベルに応じて選択を慎重に行うべきである.

大腿骨転子部骨折 術前分類法と術後分類法の意義—どの分類法が有用か 林 豪毅,他
大腿骨転子部骨折の分類について,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版,南江堂)に沿って述べる.まず術前分類として,単純X線による分類は,AO分類,生田分類,そして宇都宮分類を,3D-CTによる分類は,中野分類と正田分類を取り上げた.次に,術後分類としてAP3×ML3分類を紹介した.「有用な分類」とは,治療方針や術後の予後予測に役立つものであり,①整復が容易か? ②術後の力学的安定性が得られているか?の判断材料となり得る分類が有用である.術前分類により骨折型を評価し,前方皮質骨がbone to boneで接触するよう「骨性コンタクト」をいかに得るか術前計画を立て,「安定した整復位」を得ることが大事である.術後整復位分類で翌日から全荷重の可否を含む予後を予測し,整復に不安がある場合は術後3D-CT撮影を行い評価する.

良好な骨性コンタクトを得ることを目指して—整復位得られていますか 塩田直史
大腿骨転子部骨折の治療においては,整復操作を行い良好な骨性コンタクトを獲得できるか否かが,最も大切なポイントである.3次元的に転位した主骨片同士を,さまざまな術中手段を用いて目標とする整復位・アライメントが得られるよう整復する.良好な骨性コンタクトは,完全な解剖学的整復・前方シフト整復・回旋整復によって得られる.本稿では,良好な整復位すなわち良好な骨性コンタクトを獲得するための整復操作における3つの要件(主骨片同士の骨性コンタクトの獲得・全体のアライメントの回復・骨頭骨片の回旋に対する固定性の獲得),そして術中テクニックについて述べる.

骨折型と骨粗鬆症に応じたインプラント選択 中嶋隆行
不安定型骨折に対する髄内釘固定において,安定型整復位を獲得できない可能性や,後外側骨片や髄内釘のswing motion,lag screwの偏心性挿入による術後の整復位破綻の可能性は低くない.骨粗鬆症による骨梁構造の変性から強固な把持力が発揮できず破綻する可能性もある.従来型のsingle lag screwの髄内釘での対応は困難であり,回旋安定性や補助的な固定力を要するインプラントの選択や,骨頭の海綿骨とlag screwのinterfaceへの骨補填材追加も考慮する必要がある.

OLSA®による後外側骨片の整復内固定の意義―どのような症例で内固定が必要か 徳永真巳
OLSA®は,転子部後外側(PL)骨片に対する専用内固定材料として開発された,髄内釘と併用できる国内初のインプラントである.PL骨片を整復内固定することによって,1)転位PL骨片の骨癒合に有利である,2)正確な髄内釘挿入点が作成できる,3)股関節外転筋機能の再獲得の一助となる,4)sagittal swing motionの抑制に繋がる可能性をもっている.前方骨性接触を有する整復位の獲得が最優先であるが,この整復位を獲得することができて次の一手というポジションでOLSA®の使用を勧めたい.

大腿骨転子間骨折(AO分類31A3)・逆斜骨折(Reverse Obliqueタイプ)に対する治療法 最上敦彦,他
大腿骨転子間骨折(AO分類31A3)や逆斜骨折(reverse obliqueタイプ)の定義を明らかにし,二村分類をもとにインプラント選択も含めた治療戦略を提唱する.TypeⅠ(lateral wall pattern:LW)は通常の転子部骨折の治療戦略に準じる.TypeⅡ(transverse pattern:TV)は整復位獲得と保持が難しい横骨折であるが,適切なショートネイル(short femoral nail:SFN)で対応可能である.Type Ⅲ(reverse oblique pattern:RO)は真の逆斜骨折で,鉗子固定やワイヤリングにより外側壁と骨幹部を一体化させたうえでミドルネイル以上の長さの髄内釘で固定する.

転子部骨折術後合併症に対する治療―カットアウト・偽関節・感染のサルベージ 野田知之
大腿骨転子部骨折治療の代表的な術後合併症である①カットアウト,②偽関節,③感染に対する処置や救済手術について述べる.偽関節とカットアウトはそれぞれ関連しており,ラグスクリューやブレード周囲を中心とした骨頭内や大腿骨近位部の骨欠損を詳細に評価して治療計画を立案・遂行する必要がある.多くの症例で高度な人工物置換術が適応となるが,偽関節例では再骨接合が適応となる症例もあり,その手技にも精通する必要がある.感染に対しては躊躇せず検体の採取と洗浄,デブリドマン,抗菌薬局所投与(抗菌薬含有セメントビーズ留置やCLAPなど)を行い,安定したインプラントであればまず温存を試みる.
 

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特集 大腿骨近位部骨折──最新トレンドとエキスパートの治療法

緒言
白濵正博

■治療体系
大腿骨近位部骨折治療における多職種連携とレジストリの重要性
重本顕史

■頚部骨折
大腿骨頚部骨折における分類と整復の重要性──骨接合術後の再手術を回避するために
脇 貴洋

骨接合術──整復法とインプラントの選択
依光正則

大腿骨頚部骨折に対する早期機能回復を目的とした人工物置換の機種選択と進入法
馬場智規・他

大腿骨頚部骨折に対する人工物置換術の適応──BHAかTHA,セメントレスステムかセメントステムの選択
井上尚美

■転子部骨折
大腿骨転子部骨折 術前分類法と術後分類法の意義──どの分類法が有用か
林 豪毅・他

良好な骨性コンタクトを得ることを目指して──整復位得られていますか
塩田直史

骨折型と骨粗鬆症に応じたインプラント選択
中嶋隆行

OLSA®による後外側骨片の整復内固定の意義──どのような症例で内固定が必要か
徳永真巳

大腿骨転子間骨折(AO分類31A3)・逆斜骨折(Reverse Obliqueタイプ)に対する治療法
最上敦彦・他

転子部骨折術後合併症に対する治療──カットアウト・偽関節・感染のサルベージ
野田知之


●視座
ジャネーの法則
細金直文

●最新基礎科学/知っておきたい
腰痛のメカニズム──加齢に伴う骨格筋減少と腰痛
酒井義人

運動とマイオカイン──骨格筋を中心とした多臓器連関
今井祐記

●症例報告
初回手術から15年で確定診断に至った脂肪性腫瘍の1例
齋藤美希乃・他

ノカルジアの皮膚感染症から脛骨骨髄炎・化膿性膝関節炎を発症した1例
菊岡亮介・他

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