臨床整形外科 Vol.57 No.9
2022年 09月号

ISSN 0557-0433
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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特集 わかる! 骨盤骨折(骨盤輪損傷) 診断+治療+エビデンスのUpdate

骨盤解剖とバイオメカニクス 依光正則
骨盤外傷の治療に必要な解剖学的な知識とバイオメカニクスについて説明する.骨盤は,仙骨と2つの寛骨で構成される輪状構造で,仙腸関節と恥骨結合で連結される.仙腸関節の靱帯は,強靱でありほとんど動きがないが,動的な安定化機構は二足歩行特有の骨盤形状の維持に大きな役割があるとともに,外力が生じた際に衝撃を吸収する作用がある.小骨盤腔内には重要な神経血管が多く存在しており,損傷されると生命に関わる出血や大きな機能障害の原因となる.これらの解剖を理解することは,適切な治療を行ううえで必須である.

骨盤骨折における分類と画像評価 吉田昌弘
すべての骨折治療において共通することであるが,正しく画像評価を行い,それを適切な骨折型に分類することは適切な治療方針を決定するために必要不可欠である.画像評価においては現在,3D-CT撮影が比較的容易に施行可能なため,これに頼る傾向にある.しかし,実際骨盤骨折手術加療を行う際はイメージ透視画像を頼りに行うため,単純X線画像の詳細な理解は非常に重要である.また骨盤骨折における分類としては特に高エネルギー外傷においてはAO/OTA分類とYoung-Burgess分類が重要であるが,近年麻酔下でのストレス検査による評価が重要視されてきており,これも治療法に直結するため十分に理解する必要がある.さらには近年の高齢化に伴い症例が増加している脆弱性骨盤骨折の分類(Rommens分類)についてはこれまでの高エネルギー外傷に対する骨盤骨折分類(AO/OTA分類,Young-Burgess分類)とは全く異なるものであり,これも症例の増加も相まって十分に理解する必要がある.

骨盤輪損傷の初期治療,初期固定 上田泰久
骨盤輪損傷は骨折治療のみならず,ときに集学的治療を必要とする.特に出血性ショックを伴う場合,プロトコルに沿った外傷蘇生と止血操作を行う必要がある.止血のための治療介入には,経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)やpelvic packing,創外固定などが挙げられるが,優劣ではなく相補的に行う必要がある.確定的内固定のタイミングは議論の余地があるが,近年ではearly appropriate careの概念に沿って早期内固定を行うようになってきている.初期治療から内固定まで,施設の人的,物的資源に大きく左右されるため,各施設で適した治療戦略を練る必要がある.

治療方針—手術治療の適応,前方固定の要否 鈴木 卓
骨盤輪骨折の安定性の判断はCT画像を用いても容易ではないことがある.Dynamicな評価法である損傷骨盤に力学的ストレスを加えて骨盤前方部が動揺するかをみるテスト(EUA)は有用であり,それに基づいた手術適応基準がいくつか報告されている.しかし,前方と後方のどちらの固定を優先させるのか,あるいは前後両方の固定の必要性について,統一された基準はいまだ確立されていない.

前方要素の固定法 前川尚宜
骨盤輪損傷の内固定を行う際には,前方要素と後方要素の固定について考え症例に応じて適宜選択する必要がある.後方要素から固定を行う際には後方要素の固定終了後にEUAを施行し,前方要素の不安定性の評価を行い不安定性のあるものは内固定する.一方で前方要素の固定を先行するという報告もあり,各骨折に応じて戦略を立てる.前方要素の固定方法としては,プレートによる固定や低侵襲な手技(経皮スクリュー固定法:ASIF),創外固定法などが挙げられる.その適応は各手術方法の手術手技に精通したうえで決定する.

骨盤骨折に対する経皮的スクリュー固定術の適応と手術法
—ハイブリッド手術室の活用法 高江洲美香,他

骨盤輪・寛骨臼骨折98例に対してハイブリッド手術室のリアルタイム3Dフルオロスコピックナビゲーションを用いた経皮的骨盤スクリュー挿入(PPSP)を計279本実施した.平均手術時間98分,出血量8.2mLで,挿入精度は99.3%であった.ハイブリッド手術室のリアルタイム3Dフルオロナビは,腸骨稜へのトラッカー設置や煩雑なレジストレーションが不要で,術中の透視画像を見ながら術前計画の軌跡に沿ってガイドワイヤーを挿入するため,安全で正確にPPSPが可能であった.

骨盤輪後方要素の前方からの新しい内固定法:Anterior Sacroiliac Stabilization(ASIS) 二村謙太郎
仙腸関節脱臼とCrescent骨折に対して,前方から強力に整復し強固に内固定できる新しい術式(Anterior sacroiliac stabilization:ASIS,エーシス)を考案した.ASISは仙骨部に粉砕を有する症例や骨粗鬆症症例に対しても十分な固定力を発揮できる新しい内固定法であり,高エネルギー外傷や高齢者の低エネルギー外傷の両方の場面で汎用性が高い手術方法である.

後方要素後方固定 神田倫秀
骨盤輪骨折に対する固定方法は複数あり,どの固定方法を選択するかはcontroversyである.後方要素の固定にはスクリュー単独,脊椎インストゥルメント,プレート固定などがあり,これらを使い分ける必要がある.固定方法を選択するうえで,骨盤輪骨折の後方不安定性と骨折型だけでなく局所の軟部組織の状態,他部位損傷も考慮する必要がある.これらの患者の状態とインプラントから得られる固定性を加味して固定方法を選択する.本稿では固定方法のうち後方アプローチで後方要素の固定を行うプレート固定を中心に述べる.  

重度骨盤輪損傷に対する脊椎インストゥルメンテーション手術の実際 伊藤康夫,他
高エネルギー外傷による骨盤輪損傷は,体幹支持性の喪失のみならず,骨盤内臓器・大血管・神経損傷を合併する.救命処置を優先されることがある重傷外傷である.整形外科医として,重篤な合併症の防止と体幹支持性の獲得のために骨盤輪の再建は重要である.本稿では,脊椎インストゥルメンテーション手術手技を用いた高エネルギー外傷による骨盤輪損傷に対するわれわれの行っている再建手術を紹介する.

骨盤輪骨折の周術期合併症とリハビリテーション 小久保安朗
骨盤輪骨折は,搬送直後に迅速な救命救急処置を進める技術と,手術治療を行う際には高度な技術が要求される.このため,これらの技術向上に目が向けられがちであるが,致死的合併症が発生すると救命が成功したにもかかわらず再び患者を危険にさらしてしまう.周術期合併症はある程度予測が可能であり,十分な備えが必要となる.また,リハビリテーションがうまく進められないと,社会復帰が遅れ手術治療の利点が損なわれることになるため,患者が社会復帰するまで注意深くリハビリテーションを管理していくことが重要である.

脆弱性骨盤輪骨折 普久原朝海
骨盤輪骨折は高齢者になるほど発生率が急増する骨折である.特に近年転倒などの低エネルギーで生じる脆弱性骨盤輪骨折の増加が著しい.またADL障害や生命予後は大腿骨近位部骨折と同等の経過をたどり,健康寿命の低下につながる.仙骨骨折は初療時に見逃されやすく,適切な治療を受けるチャンスが失われやすい.初療時に骨折線がなくとも時間経過とともに骨折線がはっきりすることもあり,注意深い経過観察が必要である.早期離床を目的として低侵襲手技による手術も選択される.診断のポイントと手術適応および手術のコツについて述べる.

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特集 わかる!骨盤骨折(骨盤輪損傷)──診断+治療+エビデンスのUpdate

緒言
野田知之

骨盤解剖とバイオメカニクス
依光正則

骨盤骨折における分類と画像評価
吉田昌弘

骨盤輪損傷の初期治療,初期固定
上田泰久

治療方針──手術治療の適応,前方固定の要否
鈴木 卓

前方要素の固定法
前川尚宜

骨盤骨折に対する経皮的スクリュー固定術の適応と手術法──ハイブリッド手術室の活用法
高江洲美香・他

骨盤輪後方要素の前方からの新しい内固定法:Anterior Sacroiliac Stabilization(ASIS)
二村謙太郎

後方要素後方固定
神田倫秀

重度骨盤輪損傷に対する脊椎インストゥルメンテーション手術の実際
伊藤康夫・他

骨盤輪骨折の周術期合併症とリハビリテーション
小久保安朗

脆弱性骨盤輪骨折
普久原朝海


●論述
大腿骨転子部骨折の術前下肢深部静脈血栓症発生に骨折不安定性の有無が与える影響
内山照也・他

内側半月板後根断裂の臨床的特徴
設楽航平・他

●境界領域/知っておきたい
形成外科からみた創処置に関する基本と禁忌
髙木誠司

●症例報告
変形性膝関節症として紹介を受けた巨大膝窩囊腫による選択的腓骨神経麻痺の1例
福島啓太・他

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