「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって(中井俊樹)/
はじめに(中井俊樹・小林忠資)
「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって
看護教員を対象とした研修を担当すると,参加者の教育に対する情熱に圧倒されることがあります。学生が就職してからも困らないように,教室の内外においてさまざまな試行錯誤をしていることがわかります。教育に対する思いや情熱は最も重要なのかもしれません。しかし,思いや情熱だけでは効果的に教育することはできません。
「看護教育実践シリーズ」は,看護教育に求められる知識と技能を教育学を専門とする教員が中心となって体系的に提示することで,よりよい授業をしたいと考える看護教員を総合的に支援しようとするものです。つまり,教育学という観点から,看護教員の情熱をどのように学生に注げばよいのかを具体的にまとめたものです。
読者として想定しているのは,第一に看護学生を指導する教員です。加えて,看護教員を目指す方,看護教員の研修を担当する方,病院で看護学生を指導する方にも役立つと考えています。看護分野の授業文脈で内容はまとめられていますが,他分野の医療職教育などにかかわる方にとっても役立つ内容が含まれています。
看護教育のシリーズ本はこれまでにも刊行されてきました。医学書院で刊行された「わかる授業をつくる看護教育技法」や「看護教育講座」のように看護教育の方法を体系的にまとめたシリーズ本です。これらは,看護教員の教育実践の質を高めることに大きく寄与しました。本シリーズは,これらの貴重な成果を踏まえ,近年の教育学や看護教育学の理論と実践の進展に対応することで,新たな形にまとめたものです。
本シリーズは全5巻で構成されています。『1 看護教育の原理』『2 授業設計と教育評価』『3 授業方法の基礎』『4 アクティブラーニングの活用』『5 体験学習の展開』です。それぞれが,1冊の書籍としても読めるようになっていますが,全5巻を通して読むことによって看護教育の重要な内容を総合的に理解できます。
本シリーズを作成するにあたって,各巻の全執筆者との間で執筆の指針として共有したことが3点あります。第一に,内容が実践に役立つことです。読んだ後に授業で試してみたいと思うような具体的な内容を多数盛り込むようにしました。第二に,内容が体系的であることです。シリーズ全体において,看護教育にかかわる重要な内容を整理してまとめました。第三に,内容が読みやすいことです。広い読者層を念頭に,できるだけわかりやすく書くことを心がけました。つまり,役立つという点では良質な実用書であり,網羅するという点では良質な事典であり,読みやすいという点では良質な物語であるようなシリーズを提供したいと考えて作成しました。
本シリーズが幅広い読者に読まれ,読者のもつさまざまな課題を解決し,看護教育の質を向上させる取り組みが広がっていくことを願っています。
「看護教育実践シリーズ」編集 中井俊樹
はじめに
熱心に教えているのに,学生の理解が悪いのはどうしてだろう。このような悩みをもっている人はいませんか。もしかしたら,それは学生の努力不足が原因なのではなく,教員の授業方法に原因があるのかもしれません。
看護教育における授業方法には工夫の余地があります。とりわけ看護教育は,看護師国家試験の合格という目標があるため,学生に身につけさせたい内容が多く,詰め込み型の教育になってしまう傾向にあります。しかし,豊かな人間性と幅広い視野をもった学生を育成するために,教員には,学生が主体的に深く理解していく学習を促す工夫が求められているのです。
各回の授業をどのように構成したらよいのか。どのようにしたら学生にわかりやすく説明できるのか。学生の関心を向けるにはどのように発問したらよいのか。スライドをどのように作成したらよいのか。教材はどのように活用すればよいのか。学生が快適に学習できる環境をつくるにはどのような行動をとったらよいのか。これらは,すべて授業方法によって解決できることです。
本書は,上記の問いを抱えながら,授業方法の改善を通して自身の授業をよりよくしたいと考える教員に向けて,効果的な授業方法の指針と具体例を提供するものです。特に,1回の授業をどのように進めたら学生の学習がよりよいものになるのかという観点から内容をまとめました。また,実践に役立つように,看護分野の授業の具体例を組み込み,陥りがちな課題やその解決策について記しました。
また,授業方法に関するさまざまな工夫を提案しています。しかし,すべてを一度に授業に取り入れる必要はありません。まずは自分の授業で試してみたいと思う内容から少しずつ取り入れてください。そして,その効果を授業のなかで確認してください。このような試行錯誤をするなかで授業は改善されるものです。
本書の刊行にあたり,多くの方々からご協力をいただきました。吾郷美奈恵氏(島根県立大学),大串晃弘氏(宝塚大学),大場良子氏(埼玉県立大学),香川暁美氏(松山看護専門学校),片上貴久美氏(愛媛大学),小林直人氏(愛媛大学),近藤麻理氏(東邦大学),齋藤希望氏(愛媛大学),嶋崎和代氏(中部大学),高橋平徳氏(愛媛大学),寺尾奈歩子氏(愛媛大学),常盤文枝氏(埼玉県立大学),中島英博氏(名古屋大学),西野毅朗氏(京都橘大学),野本ひさ氏(愛媛大学),水方智子氏(松下看護専門学校),横山千津子氏(松山看護専門学校)には,本書の草稿段階において貴重なアドバイスをいただきました。また,坂口博紀氏(みんなのかかりつけ訪問看護ステーション名古屋,前愛媛大学医学部看護学科学生),宮崎裕子氏(愛媛大学医学部看護学科学生)には,資料の作成や書式の統一などにご協力いただきました。そして,医学書院の藤居尚子氏,木下和治氏,大野学氏には,本書の企画のきっかけをいただいただけでなく,何度も松山まで足を運んでいただき,多岐にわたる有益なアドバイスを伺うことができました。この場をお借りして,ご協力いただいた皆さまに御礼申し上げます。
2017年7月
編者 中井俊樹・小林忠資