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看護者のための

倫理的合意形成の考え方・進め方


著:吉武 久美子

  • 判型 B5
  • 頁 132
  • 発行 2017年07月
  • 定価 2,592円 (本体2,400円+税8%)
  • ISBN978-4-260-03129-5
倫理的合意形成に基づく意思決定支援を始めよう!
「患者と家族の意見が異なる」「患者の意思が尊重されていない」「医療者と患者の治療後の見通しにズレがある」など、意思決定支援の場面でみられるさまざまな倫理リスク。患者の意思や自律を尊重するという倫理原則は理解しているし、このままの状況では倫理的問題が起きそうなことにも気づいている。でも、実際にどのように対応すればよいかはわからないというあなたへ。本書は倫理リスクへの対応力を高められる1冊。
序 文
はじめに

 患者の治療法やケア方法をいかに決めるかという意思決定のあり方は,インフォームド・コンセントの概念が1980年代後半以降,米国から日本に輸入されたことを契機に現場では重要な課題になっています。尊厳死,脳死臓器移植,代理母などに代表される倫理的問題を含む場合の決め方はいう...
はじめに

 患者の治療法やケア方法をいかに決めるかという意思決定のあり方は,インフォームド・コンセントの概念が1980年代後半以降,米国から日本に輸入されたことを契機に現場では重要な課題になっています。尊厳死,脳死臓器移植,代理母などに代表される倫理的問題を含む場合の決め方はいうまでもなく,日常の看護行為の中にも倫理的問題は潜んでいます。現場の看護者にとって,いかに決めるかは今なお模索が続く課題といえるでしょう。
 私は,インフォームド・コンセントの概念が医療現場に導入され始めた頃,1990年代に助産師,看護師として臨床経験を積んできました。看護者として,いかに決定することが,患者(対象者)にとって最善になるのだろうかと悩んでいました。その解を見つけるべく,治療法やケア方法などの意思決定について学問的に研究したいと考えて,2006年東京工業大学大学院で博士論文「医療現場における意思決定と合意形成に関する研究」をまとめました。これが私の研究人生のスタートになりました。
 現在,「看護倫理,助産倫理」,「合意形成学」,「母性看護学」を3本柱として,教育ならびに研究活動を行っています。なかでも,病院に勤務する看護者の方々に2005年から院内研修の一環として,「合意形成」を取り入れた倫理教育を実施しています。倫理研修は,私にとって,現場の看護者が悩み,苦しみ,迷う現状を知る貴重な機会になりました。それと同時に,倫理的な意思決定の課題を解決する理論や方法論をつくりだすためのたくさんの知恵と勇気をいただきました。
 倫理研修の受講生の多くは,その動機として「倫理は難しくて,答えがないから,どうしたらよいかわからない。けれど,大事だから知識を身につけたい」と答えてくれます。受講生のこの言葉に,現場の看護者の実態を垣間見ることができます。看護者は,倫理的問題が起きているのかどうかよくわからないこともあるけれど,「これでよいのかな」と悩む状況に直面しているのです。もしかしたら,何もせずに状況が進めば,患者の自律尊重に反したり,人間の尊厳を守れないなど,倫理的問題が発生するかもしれません。誤解や齟齬によって不信感を招くことになるかもしれません。そのような状況であったとしても,看護者は,どのように行動してよいのかなかなかわからないのです。
 現場の看護者が,免許を取得してからも倫理を学び続けることはとても重要です。それは,基礎教育時の学習とは異なり,複雑な状況の中で倫理的問題に気づいて,その問題解決が求められるからです。しかし,この倫理的問題に気づいて,問題解決を適切に行うということは,1~2日の講義を受けたからといってすぐにできるようになるわけではありません。日常業務で遭遇するケースを通して,いかにふるまうべきかを討議することが倫理的問題解決能力を高めていくことにつながります。
 さらに大事なことは,倫理的問題の発生時に対応するだけでなく,問題が起きないように普段からマネジメントすることです。多くの人は,身体に何かの兆候がみられたら,早期発見・治療できるように,病院を受診して検査を受けることでしょう。それと同じように,看護者も「これでよいのかな」と何らかのサインに気づいたら,倫理的問題が発生しないように,対応することが求められるのです。

 本書では,倫理的問題が起きるかもしれない状況を「倫理リスク」という概念を用いて説明し,その対応として,「倫理的合意形成」の考え方とその進め方についてまとめました。合意形成という言葉は,「合意を形成すること」と読者の方はシンプルに捉えるかもしれませんが,私は「関係者間で最善策を探し続けるプロセス」と捉えた上で,合意形成はすべての支援の根幹にあると位置づけました。これでよいのかなという「倫理リスク」に気づいたときに,いつ,どこで,誰を招いて,どのようなコミュニケーション技術を用いて,どのような目標を設定して話し合いを運営するのか-これが,倫理的問題の発生となるか,あるいは予防できるかの分かれ道になるのです。
 本書は,これまで10年以上にわたって各地で行ってきた看護者を対象にした「合意形成を組み込んだ倫理研修」を土台に,倫理的問題の発生予防,もしくは倫理的問題発生時の解決のための理論と方法論について述べています。
 第1章「倫理的合意形成とは何かを知る」では,倫理の捉え方,倫理的合意形成の考え方を解説しています。第2章「倫理的合意形成の進め方を知る」では,話し合いの運営やファシリテータに必要な技術について述べています。第3章「倫理的合意形成を臨床現場で活用する」では,倫理的合意形成の考え方を現場に取り入れるために,ケースを通して解説しています。第4章「ケースを通して倫理リスクに対応する力を高める」と付章「研修で倫理的合意形成の体験を促進する」では,この考え方と方法論をいかに学ぶかという視点でまとめています。第4章では,ケースを使っての学習方法とモデルケースについて,付章では,倫理研修を想定して,グループワークや討議の方法,ケースの活用方法,臨床倫理4分割法の使い方などを解説しています。
 本書は,興味をお持ちのところから読んでいただけるように,1章ごとに完結しています。倫理を学ぶ初学者の方にも,できるだけわかりやすく倫理の捉え方や倫理的合意形成の考え方を図表なども入れながら解説しています。また,コミュニケーションやファシリテーションの方法論も,ケースを挙げながら解説しました。

 本書が倫理を学ぶ初学者,現場の看護者,管理者,教育担当者など,医療現場の倫理に携わる方々に,広く活用していただければ幸甚です。

 2017年5月
 吉武 久美子
目 次
はじめに

第1章 倫理的合意形成とは何かを知る
 1 医療における倫理の捉え方
  1 医療者の行為と倫理
  2 多様な価値観と意思決定
  3 倫理理論と倫理綱領
   (1)倫理理論・原則論
   (2)現代の倫理
   (3)生命倫理の主要概念
   (4)倫理綱領とガイドライン
  4 倫理は「抽象的な概念」と「具体的な問題」を含む
 2 医療における合意形成とは何か
  1 合意形成はすべての支援の根幹にかかわる
  2 空間(Space)・時間(Time)・マネジメント(Management):
    STMの3方向で構成される合意形成の多様性
   (1)空間(Space)
   (2)時間(Time)
   (3)マネジメント(Management)
  3 病み,迷い,悩むという人間観
  4 関係者(ステークホルダー),関心・懸念(インタレスト),
    ファシリテーション
   (1)関係者(ステークホルダー)
   (2)関心・懸念(インタレスト)
   (3)ファシリテーション
  5 合意形成で期待されること・難しいこと
  6 合意形成は理論と方法論を含む
  7 医療における合意形成
   (1)関係者の特徴
   (2)多様な意見の存在を見えづらくする
   (3)患者の意思の尊重
   (4)「意見の理由」の共有と創造的な話し合い
   (5)ファシリテーションと看護者
 3 医療における意思決定支援と合意形成
  1 パターナリズムはなぜいけないか
  2 インフォームド・コンセントで大事にされること
  3 シェアードモデル(共同意思決定)とは
  4 意思決定支援の根幹となる合意形成プロセス
   (1)合意形成モデル
   (2)空間・時間・マネジメントと合意形成
   (3)合意形成に基づくよりよい意思決定支援
 4 倫理的合意形成とは何か
  1 倫理的問題と倫理リスク
   (1)因幡の白兎の神話を例にとって
   (2)倫理原則に反する行為
   (3)倫理的ジレンマ
   (4)人と人との間で起きる倫理的問題
  2 「レトロスペクション(振り返り)の見方」:
    「理由の来歴」の共有
   (1)「意見の理由」から「理由の来歴」の共有へ
   (2)「レトロスペクション(振り返り)の見方」から現在を深く知る
  3 「プロスペクション(先の見通し)の見方」:
    倫理リスクの提示と共有
  4 過去と未来を見据えた上で,現在すべきことを考える
  5 倫理リスクに対処する倫理的合意形成
   (1)倫理的問題発生の予防と問題発生時の解決のために
   (2)倫理リスクに気づいたら

第2章 倫理的合意形成の進め方を知る
 1 よい話し合いの運営方法を知る
  1 話し合いの設定
   (1)時間・場所・参加者の招集
   (2)目標の設定
   (3)進め方の共有
  2 「よい話し合い」とは
  3 話し合いの基本:話し合いの心得10か条を守る
   (1)相手を否定しない・受け入れる態度を示す
   (2)正しい答えではなく,互いの考え方を共有する
   (3)頭をやわらかくして異なる立場でイメージする
   (4)全員の意見を大切にする
   (5)解決策として「よりよい答え」を探し続ける
  4 円滑な運営のための環境への配慮
 2 ファシリテーションの実際
  1 ファシリテータとコミュニケーション技術
   (1)コミュニケーションA:タテ軸からヨコ軸への情報共有
   (2)コミュニケーションB:「理由の来歴」と未来のリスクの提示
   (3)コミュニケーションC:怒り・批判・不満を表現する人への対応
  2 空間・時間・マネジメント(STM)の視点から
    みた話し合いの運営とファシリテータの役割
  3 ファシリテータによる話し合いの運営
   (1)司会と兼任する
   (2)司会の補佐役としてファシリテータがつく
   (3)チームで行う
  4 ファシリテータに求められる能力:調整力・対話力・創造力

第3章 倫理的合意形成を臨床現場で活用する
 [case 1]患者・家族・医療者の治療への変化する思い
   倫理的合意形成プロセスの可視化
   関係者の変化に応じたカンファレンスの設定
   予測イメージの可視化
   段階を踏んだ目標設定
 [case 2]在宅で患者の意思が尊重された看取り
   倫理リスクを察知したときの対処
   倫理的合意形成は意思決定支援の根幹である
   倫理的問題の発生を防ぐ備えとして
 [case 3]容体が変化する新生児の最期
   予後のイメージの変化と倫理リスク
   タイムリーな話し合いの設定

第4章 ケースを通して倫理リスクに対応する力を高める
 1 臨床現場でのケースを使った看護倫理の学習
 [case 1]病名告知
   考えてみましょう
   学習ポイント
 [case 2]身体拘束
   考えてみましょう
   学習ポイント
 [case 3]重症障害児の人工呼吸器取り外し
   考えてみましょう
   学習ポイント
 [case 4]在宅介護が困難な状況の中,家族が在宅療養を望む
   考えてみましょう
   学習ポイント

付章 研修で倫理的合意形成の体験を促進する
 1 倫理的合意形成を学ぶ意義
 2 講義型と討議・実践型を組み合わせる
 3 多様な価値の共有を大切にする
 4 モデルケースと実際のケースを使い分ける
 5 倫理的問題の把握だけでなく,問題解決に向けた話し合いを行う
 6 倫理リスクに対する話し合いのファシリテータを体験する
 7 倫理研修のスケジュールを立てる
 8 研修企画者と関係者が協働する
 9 研修を実践にいかす

おわりに
索引