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実習指導を通して伝える看護

看護師を育てる人たちへ

著:吉田 みつ子

  • 判型 A5
  • 頁 176
  • 発行 2018年05月
  • 定価 2,484円 (本体2,300円+税8%)
  • ISBN978-4-260-03529-3
実習は、ドラマだ!
患者さんの苦痛を直視できない、「情報収集」で手一杯、報告のときに緊張しすぎる…、実習中の学生の気持ちは右へ左へと揺さぶられます。カンファレンスでの沈黙、臨床経験の少ない分野での実習指導…、教員や指導者も悩みます。でもそれは、机の上では学べない看護の価値や意味を学生に伝えるチャンスです!リアルな実習場面から「実習指導とは何をすることなのか」に考えを巡らせる、“ナラティブな”実習指導の本。
序 文
はじめに

 私が教員になって初めて担当した実習の最終日のことでした。2年生の学生Zの受け持ち患者,桜谷さんに挨拶に伺ったときのことです。「本当にZさんには世話になったよ。毎日,毎日ね,一緒にリハビリしてくれて…」と70歳代の男性が号泣しました。
 涙で言葉にならない桜谷さんに代...
はじめに

 私が教員になって初めて担当した実習の最終日のことでした。2年生の学生Zの受け持ち患者,桜谷さんに挨拶に伺ったときのことです。「本当にZさんには世話になったよ。毎日,毎日ね,一緒にリハビリしてくれて…」と70歳代の男性が号泣しました。
 涙で言葉にならない桜谷さんに代わり,臨床指導者は「そうだよね,動けなくなって落ち込んでいたときにZさんが来てくれて…。桜谷さんも来週末に退院できるのよね。Zさんと一緒に卒業だね」と言いました。桜谷さんはますます涙が止まらない様子で,「先生にもね…ほんとに毎日,一緒にリハビリについてきてもらって,お世話になりました」と教員の私にまで感謝され,患者,学生,指導者,皆で泣き笑いしました。
 新人教員だった私は,数名の学生を担当し,それぞれの受け持ち患者の名前を覚え,病状の変化やケアを確認するだけで必死の毎日でした。学生の実習記録にどのように,何をコメントしてよいかもわからず,学生が行うケアを手伝うだけの日々でしたが,学生たちの達成感は高く,実習が無事に終わったことが不思議でした。教員として,何がよかったのか,次の実習ではどうしたらいいのかはわからないままでした。
 その後,追われるように実習指導が続く中で,「そもそも実習指導とはいったい何をすることなのだろうか」と考え始めるようになりました。明文化された実習目標や目的を学生が達成できるように指導するのは言うまでもないことです。しかし,学生一人ひとり,そして受け持ち患者,臨床指導者,教員が体験していることは,実習目標や目的には収まりきりません。桜谷さんの涙は,何を意味していたのでしょうか。一人ひとりの固有の体験の中にこそ,学生と患者,指導者が互いに育くむ学びがあるのではないかと考えるようになりました。

 あれから20年弱,幾度となく実習指導を担当してきましたが,患者,学生,指導者,実習場のどれをとっても同じ組み合わせはありません。実習前はいつもドキドキするような気持ちです。
 本書では,そんな“予測のつかないドラマ”を通して,そこから「実習指導とは何をすることなのか」と一緒に思いを巡らせ,問うていただけたらと願っております。

 2018年1月
 吉田みつ子
書 評
  • 「こんなふうで良いの?」不安になったら読んでほしい本
    書評者:宮子 あずさ(看護師)

     看護師であれば皆臨地実習は経験し,それが学生指導にも反映されます。どんなに「昔と今は違う」「自分がされたように厳しくしてはならぬ」と自戒しても,経験が映り込む事実は動きません。この限界を超えるためには,まず今を知る必要があります。今の学生がどのようなまなざしで実習の現場を見て,何に困り,何を伝えれ...
    「こんなふうで良いの?」不安になったら読んでほしい本
    書評者:宮子 あずさ(看護師)

     看護師であれば皆臨地実習は経験し,それが学生指導にも反映されます。どんなに「昔と今は違う」「自分がされたように厳しくしてはならぬ」と自戒しても,経験が映り込む事実は動きません。この限界を超えるためには,まず今を知る必要があります。今の学生がどのようなまなざしで実習の現場を見て,何に困り,何を伝えれば一山越えられるのか。それが知りたいなら,この本にしっかり書いてありますよ。

     取り上げられる21の場面は,どれも指導者ならばぶんぶんと首を振ってうなずきたくなるような場面ばかり。私は特に,「限られた期間の中で,類推する力,観察する力をどう伸ばしますか?」と「理想と現実の矛盾を指摘する学生にどう対応しますか?」の2編から,多くの示唆を得ました。

     まず,「限られた期間の中で……」について。冒頭で,「昨今,急性期医療を担う病院の平均在院日数は1週間程度と短く,多くの学生が実習期間に2名程度の患者さんを受け持ちます。(略)2週間以上入院している患者さんは重症度が高く,学生が受け持つのは難しいのです」と,現状が示されます。

     こうした苦労は,私が看護学生だった昭和の終わりには,まだまだまれでした。入院期間は長く,4週間の実習期間で1人の患者さんを見るのが当たり前。急な逝去や退院があれば2人目を受け持ちましたが,それはよほどの「不運」と見られたものです。

     しかし,これが当たり前になった今,筆者はその現状を受け入れ,それを生かす実習を考えます。そして,少ない断片的な情報を基に実習をするからこそ,それをつなぎ合わせ,患者像を描く“類推する力”を育てる必要がある,と説いています。

     次に,「理想と現実の矛盾を指摘する学生……」について。近年,入学してくる学生は,社会人経験のある人が増加傾向となり,「新人の大人化」と言うべき現象が進んでいます。看護師になる,と意欲的な人が多い反面,人生経験が豊富であるが故に,価値観が固定化される傾向もあります。そのため,時に非常に批判的な目で現場に向き合う人もいて,指導者が傷つく場合もあるほどです。

     そんな場面への筆者の語り口は,「学生が現場の矛盾や課題を批判したとき,現場のスタッフが,それらに対する苦悩や現実的にどのように対処したかという姿を学生に包み隠さず見せることが大事です」と実に明快。大事なのは答えではなく,問い続ける姿勢なのです。

     臨床実習の今を知り,手探りでやっている工夫を言葉にしてくれる本。「こんなふうで良いのかなあ」と不安になったときにひもとき,「まあまあ,これでよし」と自信をつけてください。
目 次
はじめに

第1章 学び方を学ぶことから始まる
 SCENE 1 「情報収集」に途方に暮れる学生にどう接していますか?
 SCENE 2 「話を聴いているだけでいいの?」…学生の不安に気付いていますか?
 SCENE 3 限られた期間の中で,類推する力,観察する力をどう伸ばしますか?

第2章 Doingから始まるKnowing
 SCENE 4 過緊張の学生にどう接していますか?
 SCENE 5 「状況をみながら行動すること」をどのように
         学生に伝えたらよいのでしょう?
 SCENE 6 受け持ち患者さんが亡くなったとき,学生にどう関わりますか?
 SCENE 7 意識レベルが低下した患者さんに語りかけ,
         ケアする意味を伝えていますか?

第3章 経験を通して「看護師」らしくなる
 SCENE 8 学生の身だしなみ,注意すれば直りますか?
 SCENE 9 ケアのやり直しは何回まで許されますか?
 SCENE 10 敬語は必ず使わなければならないのでしょうか?
 SCENE 11 学生が1人で介助する時機を,どのように判断しますか?

第4章 看護の価値・意味を発見する
 SCENE 12 患者さんの苦痛に向き合う意味を,伝えることができますか?
 SCENE 13 “ちょっとしたこと”の意味を見逃していませんか?
 SCENE 14 実習でしかできない「責任を負う経験」,大切にしていますか?
 SCENE 15 学生が「自分を知る経験」ができるよう,関わっていますか?

第5章 臨床のリアリティが問いを拓く
 SCENE 16 習ったことと違う! 基礎と応用の違いをどう伝えますか?
 SCENE 17 理想と現実の矛盾を指摘する学生にどう対応しますか?
 SCENE 18 臨床経験の少ない分野での実習指導に不安を感じていませんか?

第6章 看護を言葉で伝える
 SCENE 19 報告のときに口ごもる学生にどう対応しますか?
 SCENE 20 実習記録へのコメント,一方通行になっていませんか?
 SCENE 21 カンファレンスでの“沈黙”の理由をどう考えますか?

おわりに

COLUMN
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