多角的な視点で学べる発達障害のバイブル
書評者:本田 真美(みくりキッズくりにっく院長)
20年前,発達障害の概念がここまでの広がりをみせるとは誰が想像したであろうか。診察室や教室で「ちょっと気になる」子どもたちは,「障害」という括りの中でクローズアップされ,その診断,治療,対応,制度の改正などについてさまざまな専門家たちが議論を重ねてきた。
普通学級に通う子どもたちの約7%が発達障害のスペクトラムを持つ,という文部科学省の衝撃的な発表は話題となったが,発達障害という概念自体がスペクトラムであり,正常か異常かの境界線は曖昧なものである。その境に「社会適応」というキーワードは重要であり,実際に社会で「適応」している発達障害のスペクトラムをもつ児(者)の数は想像をはるかに超え,その中には異彩を放ち大活躍している方々が大勢いると推測される。
average(平均)=normal(正常)と考えがちなのは日本人の習性なのかもしれないが,特性の偏りを持つ発達障害児(者)が集団の中でabnormalな存在ではなく,個のcharacterとして受容し,受容されながら社会の一員として安定して生活を送れるようにすることが発達障害医療の目標でありゴールといえよう。
本書を編集した宮尾益知氏(どんぐり発達クリニック院長)は私の20年来の恩師であるが,小児神経科医として常に第一線で活躍し続け,その先見の明と抜群の診療センスは他に類をみない医師として定評がある。彼の後を追い続け小児神経科医として同じ道を歩んでいるが,20年たった今でも会うたびに新しい情報を教示してくださり,私にとってはいつまでたっても追い越すことができない大きな存在である。
同じく編集者の橋本圭司氏は私の大学時代の同級生であり,成人の高次脳機能障害における第一人者である。彼は小児の発達障害という概念にリハビリテーション医療からの新しい切り口として,多職種連携や成人までの連続した児者一貫支援,社会とのつながりについて強調している。
この二人が編集した本書が,これまで出版されてきた多くの発達障害に関する書籍とは全く別次元のものであることは言うまでもない。手に取ったものの「どこから読み進めるか」ということから悩んでしまうほど,執筆されている先生方は著名な方ばかり,多種多様な視点から書かれた内容はどれも知りたかったものばかりである。本書に,今日からすぐに診療で使える内容が満載なのは,臨床医として長年多くの患児,家族を診てこられたお二人だからこそなしえたのであり,さすがの一言である。
本書は医師だけでなく,発達障害児(者),家族の幸せを願う全ての職種の方々のまさにバイブルといえよう。