精神科初回面接

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精神科診療の「初回面接」をテーマに、その基本的な心構えから実践的なテクニックまでを幅広くまとめた決定版。良好な患者-医師関係を築くためのポイントや現病歴・生活歴の聴取の仕方、面接の終わり方、告知の方法など、実際の面接の流れに沿って展開。具体的な声掛け・会話の例を随所に織り交ぜながら解説する。
原著 James Morrison
監訳 高橋 祥友
高橋 晶 / 今村 芳博 / 鈴木 吏良
発行 2015年06月判型:A5頁:544
ISBN 978-4-260-02212-5
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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原書の序

 客観的な研究結果と最良の臨床にできる限り基づいて,精神科患者を面接するためのマニュアルをまとめたいと私は願い,本書が生まれた.もちろん,それは20年以上前に本書の初版を世に問うた時も難しかったし,そして,今回の第4版でも大変に難しい目標であった.精神科患者を評価する過程についての面接法の手本となるような対照研究は現在も十分にはない.したがって,私が入手したすべての新しい情報をもとにこの新版に改訂し,患者を面接するうえでの科学と臨床の技から得られた最上の技法を統合して,本書をまとめ上げた.
 出版されたいかなる本も実際には多くの人々の仕事の結果をもとに成り立っているので,長年にわたって私を助けてきてくれたすべての人々に感謝を申し上げたい.しかし,あまりにもそのような人々が多くて,全員の名をここで挙げることは不可能である.とはいえ,特別な,そして今でも引き続き恩義に感じているいくつかの方々がいる.
 マット・ブラゼウィック博士,ソーシャルワーカーのレベッカ・ドミニー,ニコラス・ローゼンリヒト医学博士,キャサリーン・トムズ正看護師,そして,本書の第1版に寄稿してくださったすべての人々に感謝する.ジェイムズ・ベーンライン医学博士は草稿に目を通して,第3版に貴重な意見を述べてくださった.デイヴ・キンジー医学博士は,第4版に貴重な情報を提供してくださった.妻メリー・モリソンは原稿を準備するさまざまな段階で洞察に富んだ適切な意見を述べてくれた.私はギルフォード出版社の関係者に対しても永遠に感謝申し上げる.とくに私の長年の友であり編集者であるキティ・ムーアは私に対して一貫した支持と激励を与えてきてくださった.マリー・スプレイベリィはおそらく世界でもっとも有能な原稿整理編集者であり,詳細な点にまで注意を払い,本書の体裁を完璧に整え,読みやすいものにしてくださった.そして,アンナ・ブラッケットは本書の出版企画責任者であり,著者のあまりにも多くの変更依頼にもめげずに,その技能と忍耐心を発揮してくださった.

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はじめに:面接とは何か?
    包括的な情報の必要性/臨床の重要性

第1章 面接の開始と目的の説明
    時間の要素/面接の場面/関係の始まり/記録を取る/面接開始の見本

第2章 主訴と自由な話
    指示的および非指示的な質問/最初の質問/主訴/自由な話/
    臨床的に興味深い領域/どの程度の時間を使うか?/面接を進めていく

第3章 ラポールを築く
    ラポールの基礎/面接者自身の感情を評価する/
    自分の話し方について考える/患者が理解できる言葉で話す/
    境界を維持する/専門性を示す

第4章 面接を方向づける
    非言語的な激励/言語的な激励/あらためて保証を与える

第5章 現病歴
    現在のエピソード/症状を描写する/自律神経症状/病気の影響/
    症状の始まりとその結果/ストレッサー/これまでの病状/以前に受けた治療

第6章 現在の病気に関する事実をとらえる
    面接の目標を明確にしておく/注意が散漫になっていないか気をつける/
    自由回答型の質問をする/患者の言葉で話す/
    詳しく探るための適切な質問を選ぶ/直面化

第7章 感情について面接する
    否定的感情と肯定的感情/感情を引き出す/その他の技法/
    詳細についてさらに探っていく/防衛機制/過度に感情的な患者に対処する

第8章 個人および対人関係についての病歴
    小児期と思春期/成人期/身体医学的病歴/症状を検討する/家族歴/
    パーソナリティ傾向と障害

第9章 デリケートな話題
    自殺行動/暴力とその予防/物質の誤用/性生活/性的虐待

第10章 面接の後半の方向性を定める
    主導権を握る/選択回答型の質問/感受性を養う/移行

第11章 精神機能評価Ⅰ:行動の側面
    精神機能評価とは何か?/一般的な様子と行動/気分/思路

第12章 精神機能評価Ⅱ:認知の側面
    正式な精神機能評価をすべきか?/思考の内容/認識/意識と認知/
    洞察と判断/正式な精神機能評価を省略できるのはどのような場合か?

第13章 臨床的に興味深い領域の兆候や症状
    精神病/気分の障害:うつ病/気分の障害:躁病/物質使用障害/
    対人的問題とパーソナリティの問題/思考の問題(認知の問題)/
    不安,回避行動,覚醒度/身体的訴え

第14章 面接の終了
    面接の終わり方/患者が予定より早く面接を止めようとする

第15章 情報提供者との面接
    最初に許可を得る/情報提供者を選ぶ/何について質問するか?/
    グループ面接/他の面接状況

第16章 抵抗に対処する
    抵抗を認識する/なぜ患者は抵抗するのだろうか?/
    どのようにして抵抗に対処するか/予防/面接者の態度

第17章 特別で,困難な患者の行動と問題
    曖昧さ/嘘/敵意/暴力の可能性/錯乱/高齢の患者/若い患者/
    その他の問題と行動/患者の質問にどのように応えるか…

第18章 診断と提案
    診断と鑑別診断/予後の評価/将来調査すべき点についての提案/紹介

第19章 面接の見立てを患者に伝える
    患者と話し合う/家族と話し合う/治療計画が拒絶されたらどうするか?

第20章 知見を他者に伝える
    書面の報告/診断を記録する/定式化/口頭による提示

第21章 面接のトラブルシューティング
    問題のある面接を認識する/何が間違っているのかをどのように見定めるか/
    何を学ぶか(そしてそれにどう対処するか)

付録A:初回面接の要約
付録B:特定の障害の特徴
付録C:面接,報告書,定式化の例
付録D:半構造化面接
付録E:面接の評価
付録F:文献と推薦図書

監訳者あとがき
索引

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精神医学研修の基本とされるべき一冊
書評者: 林 直樹 (帝京大教授・精神神経科学)
 本書を手に取ると,ついに決定版が出版されたという思いが湧き上がる。実は評者は最近,精神科研修医用の精神科面接の教科書を探していた。わが国ではすでに,創意工夫が凝らされた「精神科面接」についての書籍が多く出版されている。古典は,サリヴァン H. S. 『精神医学的面接』(1970,翻訳は1986),笠原嘉『予診・初診・初期治療』(1980,新版は2007),土居健郎『方法としての面接』(1977)あたりだろう。ごく基本的なものには,Aldrich, C. K. の『医療面接法』(1999,翻訳は2000)がある。他にも米国精神医学会の診断基準であるDSMに準拠したものがある。特に最近は,次々にわが国の精神科医による精神科面接の良書が著されている。これは,研修医教育のために有用な書籍が求められるようになっている近年の状況を反映した動きだと考えられる。

 かねてより評者は,米国精神医学から産み出される教科書のクオリティには感心していた。それには,教育スタッフの長年の努力の蓄積,そしてそのスタッフに教育に専念することを許すゆとりが感じられるのである。手元にある精神科面接のそのような例としては,Shea, S. C. の“Psychiatric interviewing, 2nd Edition”(1998), Mackinnon, R. A. らの“The psychiatric interview in clinical practice, 2nd Edition”(2006)を挙げることができる。これらは,それぞれ759ページ,661ページの大著である。この分量をそれぞれ1人,3人の著者が書いていることは驚嘆に値する。少数の著者による著作では,文体にゆらぎが少なく議論の進め方にムラがないといった利点が期待できる。しかし,これらはあまりに長大な著作であることから,評者は,それらを一種の辞典として使うのが現実的な利用法だと考えている。

 このMorrisonの『精神科初回面接』も,翻訳書で本文528ページであり,なかなかのボリュームである。しかし,Sheaの教科書やMackinnonらの教科書の半分くらいであり,一気に読めない量ではない。ただし,本書の分量は,わが国で出版されている精神科面接の書籍の倍くらいであり,しかもその記述内容は,徹底して冗長な記述が排されていて,非常に濃い。

 本書の良いところを挙げると切りがない。まず挙げられるのは,面接の基本的な事項(面接者の姿勢,面接の運び方,面接で取り上げる内容など)に十分な紙幅が割かれていることである。これは,米国の教科書の伝統を引き継ぐ特徴である。

 また,本書では,1時間の初回面接時間が設定され,その中にさまざまな要素を盛り込むという想定になっていることも重要である。そのような現実的設定が明瞭でない書籍は少なくないからである。

 さらに,多くの新知見が盛り込まれている2013年刊行の診断基準DSM-5に準拠して,診察の流れの中で診断手続きを進める方法が具体的に示されてもいる。驚かされるのは,本書の出版の時点でまだ刊行されていなかった(2015年8月刊行予定だった)DSM-5の診断面接(SCID)の内容を先取りしていることである。新しい知識に貪欲な人には堪えられない特長である。

 本書の最後のほうには,FAQ & Aの章が設けられていて,「先生は,私のことを狂っていると思いますか?」といった患者からの質問に対する回答例が示されている。このような懇切丁寧さ,学習意欲を高める工夫を盛り込むこともまた,米国の教科書の伝統である。

 本書は,精神医学の研修の基本とされるべき著作である。これを最初に読んでから他の精神科面接の本を読むことによって,効果的に学習を進めることができるだろう。評者は,教科書の選択にもう迷わない。本書に出会えたことに感謝している。

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