小児緩和ケアガイド

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「緩和=ターミナル」と思われがちだが、痛みや苦しさを取り除き、快適な療養生活をもたらす姿勢こそが本書の原点。小児専門病院の医師・看護師・薬剤師・臨床心理士・MSW・ホスピタルプレイ士が職種の壁を超えて執筆した本書は、小児の日常診療にいかせるエッセンスが満載。小児にかかわるすべての医療者におすすめの1冊。「フェイススケール/オピオイドの力価換算表」のポケットカード(下図)付。 図(付録ポケットカード)
「モコニャン」は大阪府立母子保健総合医療センターの公式キャラクターです。
編集 大阪府立母子保健総合医療センター QOLサポートチーム
発行 2015年12月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-02449-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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発刊にあたって(福澤正洋)/はじめに(井上雅美)

発刊にあたって
 このたび,大阪府立母子保健総合医療センターQOLサポートチーム作成による「小児緩和ケアガイド」が医学書院より刊行される運びとなりました.
 わが国の「がん対策推進基本計画」(2012年6月閣議決定)では,小児がんが重点的に取り組むべき課題として掲げられました.そして小児がん患者とその家族が安心して適切な医療や支援を受けられるよう「小児がん拠点病院」として2013年2月に全国で15機関が選定され,当センターもその拠点病院の一つに認定されました.
 「がん対策推進基本計画」では,「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」が重点的に取り組むべき課題の一つに位置づけられ,さらに,「小児の緩和ケアチームを整備し,当該緩和ケアチームを組織上明確に位置づけるとともに,小児がん患者に対し適切な緩和ケアを提供すること」が,小児がん拠点病院指定要件になりました.
 緩和ケアの対象は,がんや治療に伴う痛みや苦しさなど身体的な苦痛だけでなく,精神・心理的な苦痛,経済的な問題や家庭内の問題のような「社会的苦痛」も含まれます.したがって,がんと診断されたときからの緩和ケアが大切になります.当センターでは,2012年に小児がん診療にかかわる医師,看護師,薬剤師,臨床心理士,ホスピタル・プレイ士などにより,緩和ケアチームであるQOLサポートチーム(QST)が組織され,活動を開始しました.成人に対する緩和ケアは既に一定程度普及しつつありますが,小児の緩和ケアはこれから拓かれようという分野であります.また,書籍に関しても,成人を対象とした成書は多数あるものの,小児緩和ケアに関する成書は国内ではまだみあたらず,英語圏といえども数少ないのが現状です.そのような状況を鑑みて,当センターのQSTメンバーが3年前より小児緩和ケアマニュアルの作成を開始し,本書が完成いたしました.本書は,緩和ケアの最も基本であるコミュニケーションの章からスタートして,小児に特有なプレパレーション,家族のケア,疼痛の緩和,身体症状・精神症状の緩和,子どものこころのケア,さらに医療者のメンタルヘルスについてもとりあげています.一施設の院内マニュアルが元になっているため,標準化されたものではありませんが,小児緩和医療黎明期にある今のわが国で,その普及の礎の一つとなる書籍となるものと確信しています.また,日ごろ緩和ケアとは縁のない小児診療に携わる医療者(医師,看護師,薬剤師,臨床心理士など)にも生かしていただける内容でもあります.
 本書を通して小児緩和ケアを知り,この本をきっかけとして,一人でも多くの医療者に小児緩和ケアを理解,実践いただくことを期待してやみません.

 2015年11月
 大阪府立母子保健総合医療センター 総長
 福澤正洋


はじめに
 筆者が小児医療の世界に足を踏み入れた約30年前,子どもたちに痛みや苦しみを我慢させることは日常の診療風景でした.泣き叫ぶ子どもを押さえつけて行っていた処置の様子や,母親の心配そうな表情を思い出すことは,心の痛みを伴います.
 その後,治癒を目指す積極的治療の進歩とともに,がんと闘う子どもたちを全人的に支えるトータルケアの必要性が広く理解されるようになりました.緩和ケアとターミナルケアが同義語のように用いられた時期がありますが,現在では,緩和ケアは「診断時から子どもの痛みや苦しみを和らげる取り組み」と位置づけられています.
 とはいえ,子どもを対象とした緩和ケアの教科書,実践的なガイドライン,マニュアルは,わが国では整備されていないのが現状です.そこで大阪府立母子保健総合医療センターでは,子どもたちの緩和ケアに取り組んでいるQOLサポートチーム(QST)が日々の診療に役立てるべく,多職種からなるQSTの智恵を結集して,緩和ケアマニュアルを作成いたしました.当初,現場で活用するための簡便な院内用マニュアルの作成が目標でしたが,完成した「小児緩和ケアマニュアル」は教科書レベルの充実した内容となりました(2014年8月に院内配布).
 喜ばしいことに,他施設から私たちの「小児緩和ケアマニュアル」についての問い合わせ,供与希望が多く寄せられました.一施設のマニュアルにとどめるにはもったいないという有り難い評価も耳に届くようになりました.このような状況を踏まえて書籍として上梓しようという気運が高まり,内容をアップデート,ブラッシュアップし,さらに在宅ケアの章を加えて,「小児緩和ケアガイド」としてこのたび出版することになりました.
 緩和ケアは,その語感から疼痛などの症状コントロールのみと捉えられがちな傾向や看護師のみが行う医療技術と受けとめられるおそれを否めませんが,さまざまな職種が協力して患者と家族を全人的に支える取り組みこそが緩和ケアであると理解しております.本書はこの理念に基づき構成し,充実した内容になったと自負しております.
 本書が,患者・家族・スタッフがともに苦しみ悩む闘病のさまざまな局面において,「笑顔」になるための手引き書としてお役に立てれば幸甚です.

 2015年11月
 大阪府立母子保健総合医療センター 血液・腫瘍科
 井上雅美

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第1章 コミュニケーション
 I 子どもとのコミュニケーション-子どもの思いや理解力を尊重した説明
  1.子どもに対して説明をする意義
  2.子どもの思いを尊重したコミュニケーション
  3.子どもの認知発達・理解度に応じた説明
  4.子どもに説明をするまでの準備
  5.説明の実際
 II 治療が困難な状況などでのコミュニケーション
  1.再発時の説明
  2.子どもと“死”について話し合う
  3.End-of-Lifeの時期
 III 医療者のコミュニケーション・スキルと留意点
  1.質問するスキル
  2.応答するスキル
  3.傾聴するスキル
  4.より効果的なコミュニケーションを行うために

第2章 家族へのケア
 I 家族を理解する
  1.家族の身体・精神状態を理解する
  2.家族の社会的状況を理解する
  3.家族と医療者との関係を理解する
 II 子どもの発達段階別にみた家族ケアのポイント
  1.乳児期の子どもの家族ケア
  2.幼児期・学童期の子どもの家族ケア
  3.思春期・青年期の子どもの家族ケア
 III 看取り期の家族ケア
 IV 子どもを亡くした家族への配慮
 V 小児緩和ケアにおけるきょうだい支援

第3章 疼痛の緩和
 I 痛みのアセスメント
  1.子どもの痛みを評価するうえで配慮すべきこと
  2.痛みに対して,子どもと一緒にできること
  3.痛みに対して,家族と一緒にできること
  4.新生児の痛みのアセスメント
 II 痛みのマネジメント-薬物療法を中心に
  1.はじめに
  2.痛みの分類
  3.痛みの治療

第4章 疼痛以外の身体症状の緩和
 I 嘔気・嘔吐(nausea and vomiting)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬剤選択の指針
  6.薬物療法
 II 下痢(diarrhea)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬剤選択の指針
  6.薬物療法
 III 便秘(constipation)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬剤選択の指針
  6.薬物療法
 IV 倦怠感・虚弱(fatigue and weakness)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
 V 食欲不振・体重減少(anorexia and weight loss)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬物療法
 VI 呼吸困難・息切れ(dyspnea・breathlessness)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬剤選択の指針
  6.薬物療法
 VII 死前喘鳴(death rattle)・気管分泌物過多(excess respiratory tract secretions)
  1.定義
  2.マネジメント
  3.看護ケア

第5章 精神症状の緩和
 I 不安(anxiety)
  1.定義
  2.原因
  3.マネジメント
  4.看護ケア
  5.薬剤選択の指針
  6.ベンゾジアゼピン系薬剤過量投与時の対処
  7.薬物療法
 II せん妄と興奮状態(delirium and agitation)
  1.定義
  2.診断
  3.原因
  4.マネジメント
  5.看護ケア
  6.薬剤選択の指針
  7.薬物療法
 III うつ症状(depression)
  1.定義
  2.診断
  3.原因
  4.マネジメント
  5.看護ケア
  6.薬剤選択の指針
  7.薬物療法
 IV 薬物誘発性運動障害(medication-induced movement disorders)
  1.症状と原因
  2.診断と治療

第6章 子どものこころのケア
 I 病気の子どもに対する精神的ケア
  1.信頼関係を構築する
  2.発達を促進させる
  3.子ども同士の交流を支援する
  4.学習の機会を保証する
  5.ボディイメージの変化に配慮する
 II 年齢による精神的問題の現れかたとその対応
  1.幼児期
  2.学童期
  3.思春期・青年期
 III プレパレーション
  1.(狭義の)プレパレーション
  2.ディストラクション
  3.事後のかかわり(postprocedural play)

第7章 在宅ケア
 I はじめに
 II 在宅ケアに対する支援制度
 III 在宅ケアへの移行・退院支援の具体的な流れ
  1.在宅ケアの情報提供・移行までの概略
  2.在宅ケアへの移行
  3.訪問診療・訪問看護ステーションの選択と決定
  4.退院後のフォロー・情報共有

第8章 医療者のメンタルヘルス
 I 医療者にみられるストレス反応
  1.重篤な患者とかかわることによるストレス
  2.患者・家族に対する陰性感情
  3.バーンアウト
  4.精神症状
 II ストレスへの対処
  1.セルフマネジメント
  2.サポートシステムの構築

第9章 死が近づいたときにできること
 I はじめに
 II チェックリスト
  1.身体の安楽
  2.生活援助
  3.治療・処置の再考
  4.子どもらしい生活の見直しと援助
  5.家族,面会者への対応
  6.家族にとっての環境
  7.臨死期に向けて準備

付録
 資料1 疼痛評価スケール 各種
 資料2 自己申告による痛み評価ツール(1) VAS(visual analog scale)
 資料3 自己申告による痛み評価ツール(2) フェイススケール
 資料4 客観的な痛み評価ツール(1) FLACCスケール
 資料5 客観的な痛み評価ツール(2) 当センター新生児棟で使用している疼痛評価ツール
 資料6 労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト
 ポケットカード モコニャンのフェイススケール/オピオイドの力価換算表

索引

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病気の子どもたちに「痛くなく苦しくない日常」を贈るための実践的ガイド
書評者: 細谷 亮太 (聖路加国際病院特別顧問・小児科)
 緩和ケアは小児がん治療と深くかかわっています。小児がんの治療のきっかけを見出したのは,ボストン小児病院のFarber教授でした。成人のがんのほとんどが上皮性の悪性腫瘍(癌腫)であり,早期に診断して外科処置をすれば古くから治し得たのに対し,小児にみられる悪性腫瘍は間質性の悪性腫瘍(肉腫)であり,多くの場合,診断時,既に体内のあちこちに微小転移が存在してしまっていて,局所的な治療は治癒をもたらすことができませんでした。そのような中,全身的化学療法の導入で新しい時代の扉を開けたのがFarberだったのです。それでも,1947年から始められた彼らの試みが結実し,治癒が実現されるまでに30年近い月日を要しました。その途上で,Farberはトータルケアの概念を創り上げていきました。がん,そして治療に伴う痛みや苦しみなどの身体的な苦痛だけではなく,精神・心理的な苦痛,経済的な問題や家庭内の問題のような社会的な苦痛についても,医療チームがはじめから一丸となってその子をケアすることの重要性を説いたのです。そして結果としての治癒の時代が来たのです。

 トータルケアの中で,苦痛を緩和する領域が「緩和ケア」として発達しました。しかし,あくまで「緩和ケア」はトータルケアの概念の中で必須なものであることを忘れてはならないのです。

 小児がんのトータルケアのうち,ハードの部分は化学療法,免疫療法,放射線療法,外科的療法であり,ソフトの部分が「緩和ケア」ということになります。

 小児がんの子どもだけでなく,広く病気の子どもたちに心身ともに痛くなく苦しくない安楽な日常をプレゼントすることは,小児医療のソフト面での重要な目的と言えます。本書はその実現のための有用なガイドです。編集は大阪府立母子保健総合医療センターのQOLサポートチーム,執筆は,医師(血液・腫瘍科,こころの診療科),看護師,薬剤師,臨床心理士,医療ソーシャルワーカー,ホスピタル・プレイ士の皆さんです。特にチームの中堅・若手が書いているだけに非常に実践的であるのが嬉しい所です。

 冒頭にピンク色のページがあり,そこに2行,「子どもの苦痛は最小限に。笑顔を最大限に」と書いてあります。泣かされる一言です。

 この言葉に触れ,今から30年あまり前,私が同じ医学書院からL. S. Baker著 “You and Leukemia” の訳書『君と白血病』1) を出版したときのことを思い出しました。扉のページには「この1日を貴重な1日に」とありました。時代の流れを実感します。

 訳者の私は当時34歳。医学書院の編集者も同年代で,2人とも孤軍奮闘感のある刊行でした。当時は,家族や患児本人に病気のことを詳しく伝えることは,自分たち(医療者)の首を絞めることになるという考えが医学界の大勢を占めていました。さまざまな逆風にもかかわらず,私も編集者もよく生き残ってこれたなぁという感慨を持ちながら,本書を詳しく読んでみました。

 第1章ではコミュニケーションを取り上げ,子どもとのコミュニケーション,治療が困難な状況などでのコミュニケーション,医療者のコミュニケーション・スキルと留意点が解説されています。そこでは,子どもの思いや理解力を尊重しながら接するのが基本だということが強調してあります。伝えるための準備,実行のタイミング,実際に気を付けねばならないポイントなどが解説されています。また再発時や治らないということが明らかになったときの話の仕方についても言及されています。相手のことを知り,自分のことを知り,開かれた質問をして共感的な応答をするのが極意ということがわかるようになっています。

 第2章は家族へのケア。その後第3章・第4章では,疼痛,疼痛以外の身体症状(嘔気・嘔吐,下痢,便秘,倦怠感・虚弱,食欲不振・体重減少,呼吸困難・息切れ,死前喘鳴・気管分泌物過多)の緩和について,原因,評価法,ケアの工夫,薬物療法を丁寧に述べています。

 第5章は精神症状(不安,せん妄,うつ症状など)の緩和,第6章では子どものこころのケア,第7章は在宅ケアについて。第8章では医療者のメンタルヘルスにまで考えを進めています。

 これだけの情報が,多職種の執筆者によって一冊の本にまとめられたことに大きな意味があります。それも140ページほどのコンパクトなガイドブックであることがとてもありがたい。

 私たち小児の臨床にかかわる者が,まず心しなければならないのは,子どもたち一人ひとりを一人の人間として大切にしなければならないことと,もう一つ,人間はそれぞれがそれぞれの特性を持っていてバラエティーに富んだ存在であるということです。

 このようなマインドを持った上で,このガイドブックを手にしたなら,最強のケアギバーが誕生するはずです。
1) Baker LS. 細谷亮太(訳).君と白血病——この1日を貴重な1日に(新訂版).医学書院;1989.

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